間話 警備兵隊24時
2016.6.28に、加筆・修正いたしました。
俺の名前はサム。
人間だ。
生まれも育ちもここ【イーム村】。
おやじ達は、代々小麦を作っている。
三男坊に生まれた俺は、受け継ぐだけの農地が無い為、通例に洩れず兵士になった。
同僚達も俺と同じように次男坊や三男坊が多い。
兵士の給料は――ぶっちゃけものすごく安い。
まぁ、どこぞで知らんヤツの"雇われ農家"になるくらいなら兵士の方が全然マシだ。
実は、最近こんな噂を聞いた。
元剣聖で鍛冶師のヴァルカンが、年端もいかない黒髪の美少女を侍らせているらしい。
あいつとは酒場で会ったことがあるが、美人なエルフのくせにおやじみたいな話し方をする変なヤツだという印象しかない。
だいたい、大股開きで高笑いするヤツなんか恐くて近づけねぇよ。
あのアル隊長が良い例だ。
なんだよあの訓練方法。
全身鉄鎧で50キロマラソンとか、頭オカシイだろ!!
自分は馬に乗って「ガハハ」笑いしてるくせによ!!
まぁいい、俺は例の噂が本当なのか調べなきゃいけない。
なぜって?
賭けてるんだよ。
ヴァルカンがその美少女にメロメロなのかどうかを、な。
勝てば1週間、兵舎の掃除が免除されるんだぜ?
男だらけでむさくるしいあの場所の掃除なんてごめんだ。
トイレとか、ヤ バ ス ギ ル...
隊長は「あのヴァルカン殿に限ってそんなことはない!」なんて言ってやがったがありえねぇだろ。
既に、村長から裏は取ってある。
今日は農具の納品日らしい。
俺は村の入り口に向かうと、ちょうど人影が...
ビンゴッ!!
ヴァルカンとフードを被った子供だ!
気付かれないようにそっと後をつける。
どうやら、まっすぐ村長の下へ行くみたいだな。
しっかしなんだ? あのヴァルカンの顔は...
いつも酒飲んでおっさんくせぇくせしやがって、今日は手なんか繋いでまさに"姉"って感じじゃねぇか。
そんな優しい顔できるなら、いつもそうしてろってなぁ。
まぁ...そんなことはどうでもいい。
俺は、メロメロかどうかを調べなきゃなんねぇんだ。
2人は村長の下へ向かい農具を届けると、その足で料理屋へ入る。
見付からないように細心の注意を払う。
腐っても元剣聖。
訓練途中の兵士程度じゃ、簡単に見付かっちまうからな。
中を覗くとそこには――
ヴァルカンが子供にお菓子を買い与えていた。
子供はフードの隙間から天使の笑みを浮かべ、店主の方へ向いてなにやら話している。
その横でヴァルカンは『まるで幼児性犯罪者の様なデレッデレな顔』をして子供を見ていた。
その瞬間を俺は見逃さなかった。
慌ててその場を離れ、近くの民家の裏へ隠れる。
「う...見てはいけない物を見た気がした.....」
アレはヤバイ。
犯罪者の顔だ。
昔、王都から流れてきた盗賊と同じ目をしていた。
どうしたらいい...隊長になんて言おう....
その場に座りこみ、頭を抱える。
が――解決策は思いつかない。
「よし、見なかったことにしよう」
掃除免除は魅力的だが、「こればっかりはやばすぎてどうしようもないな...」とサムは思った。
ちなみに、カオルが食べていたのは
『フラップジャック』
材料は、小麦とバターと砂糖。あとは、糖蜜で作るお菓子です。




