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第十二話 砂糖はどこだ!?

砂糖の値段が高騰し、カオルは自力調達を目指します。

甘い物の恨み、怖いですよね....


2016.6.29に、加筆・修正いたしました。

 

 雲が突き抜ける青天。

 まさに買い物日和と言える。

 そしてもちろん――カオルは【イーム村】へ調味料を買いに来ていた。

 村はそこそこ豊かであり、今の季節は二期作(にきさく)を終えて小麦を売ったお金がある為、王都や隣国【エルヴィント帝国】から行商がよく来る。

 簡単な葉野菜や根野菜程度は、家の裏で畑を造り賄える。

 だが、調味料はやはり村で手に入れなければならない。

 まぁ、他にも必要な食材もあるので、たびたび村へ買い出しに来る必要があった。

 ヴァルカンがお酒を減らしてくれたおかげで、生活費にも余裕ができた。

 そこで、カオルは最近大好きなお菓子作りをしている。

 お酒が飲めないからか、カオルの作ったお菓子を紅茶と一緒に出すと、ヴァルカンはすごく嬉しそうな顔をするのだ。


「美味しいな」


 お菓子を食べて、笑みを見せるヴァルカン。

 その姿を見ただけで、カオルの胸はじんわりと熱くなる。

 今日の目的は、砂糖が切れてしまったので、他の調味料と一緒に買いに来たのだが...


 行商が出している、荷馬車兼お店を覗く。

 ピールという歯ブラシ代わりの木の枝や、お世辞にも良質と言えない、どす黒く泡立ちの悪い洗剤。

 何に使うのかわからない、穴だらけの銅製鍋。

 店主であろう犬人族の女性(おばさん)に会釈をしつつ、お目当ての調味料の中から砂糖を見つける。

 そこには、とんでもない値段が書いてあった。

 約1キロで銅貨50枚。

 大きめの黒パンが銅貨1枚という貨幣価値から考えるに、現代日本で5000円といったところだろうか。


(高すぎるよぉ....)


 いつもの何十倍もする値段。

 とてもじゃないが手が出ない。


「すみません。砂糖って値上がりしたんですか?」

「あら、おじょうちゃんいらっしゃい。砂糖は値上がりしちゃってねぇ、ある分しかないのよ」


 申し訳なさそうな店主(おばさん)

 他の買い物客から想像するに、確かに高いがそんなものなのかという印象を受ける。


(う~ん。これはなんとかしないと....)


 大事な紅茶タイムが無くなる危機。

 ということは、師匠であるヴァルカンの嬉しそうな顔を見ることができなくなる。

 それはカオルにとって死活問題。

 カオルが危機を覚えたのは言うまでも無い。


「そうなんですか...それじゃ、この胡椒(こしょう)とお塩をください」


 必要な物だけを購入し、家へ帰る。

 足取りは重く、気分は沈んでいた。


(う~ん砂糖かぁ....師匠に相談してみよう)


 数時間後、ようやく家に着く。

 ヴァルカンはいつものようにソファで寝そべっていた。


「ただいま戻りました。師匠、ちょっと相談が....」


 さっそく相談しようとヴァルカンに話し掛ける。

 ヴァルカンは「おかえり~」と返事をするも、どうやらうたた寝をしていた様子。

 神妙なカオルの態度にただならぬ気配を感じ、どうにか目を擦りながら身体を起こして座り直した。


「実は...」


 カオルは話し始めた。

 砂糖が高くて買えないと。

 このままではお菓子作りが出来ないと。


「砂糖か....もう冬だしな。【エルヴィント帝国】でもそれほど量は取れないはずだ。まぁ、毎年この時期は値上がりするからな」


 カオルの予想通りの答えが、ヴァルカンから告げられた。

 季節は真冬。

 背高い山は雪に埋もれ、白く姿を変えている。


(むぅ、そうなのか....)

「普段出回っているのは、【エルヴィント帝国】で栽培されたサトウキビで作られている。暖かい時期じゃないと出回らないんだ」


 そう付け加えたヴァルカンは、眠そうに目を擦っていた。

 カオルは悩んだ。

 どうにかして砂糖を手に入れられないものかと。


(サトウキビかー、サトウキビねぇ...)

「あれか? ハチミツじゃいけないのか?」


 料理がまったく出来ないヴァルカン。

 作れる料理は唯一の『なんでも焼けば食える』という代物。

 出会った頃から女子力の高さはカオルに負け続け、とうの昔に放棄している。


(これだから普段料理をしない人は!)


 カオルの逆鱗に、ヴァルカンは触れてしまった。


「師匠? 味も香りも糖度も使用目的も、砂糖とハチミツは何もかも違うんですよ?」


 カオルはちょっと殺意を混めてキッと睨む。

 小動物(コアラ)を彷彿とさせる瞳。

 あまり怖くは感じないが、ヴァルカンは驚き慌て始め、即座に謝罪した。


「す、すまんな...何もそんなに怒らなくても...(殺されるかと思ったぞ)」


 おそらく、料理を作ってくれなくなると思ったのだろう。

 もしくは、普段温厚なカオルが怒ったので慌てた。


(お菓子を馬鹿にするとそうなるんですよ? 師匠)


 カオルには、譲れない願いがある。

 それはもちろん――ヴァルカンの笑顔を見る事。


「いいですよ。何か代わりになる物探してきます」


 手荷物を置き、いつもの修練装備を着込む。

 普段買い物へ行く時は、短剣(バゼラード)と外套。

 服は普段着で行くようにしている。

 そこで、腰に曲剣(ファルシオン)を差し、その後ろ背に短剣(バゼラード)を装備して、布製のチュニックの上から革の胸当てなどを付けて外套を着込む。


「行ってきます」


 準備を終えたカオルがそう告げる。

 ヴァルカンも「いってらっしゃい」と送り出す。

 いつもの修練に行く時の光景が、そこにはあった。


(やっぱりいいな。こういう家族が居るのって)


 カオルは微笑みながら扉を開き家を出る。

 目指すは深雪の世界(もり)

 砂糖に代わる調味料を探しに。





















 粉雪が舞う中、カオルは森を歩いていた。

 踏み締められた雪が、小さな子供の靴跡を残す。

 そんな中、カオルは思案を巡らせる。


(それにしても砂糖かぁ....ん? サトウキビは暖かい気候の場所で育って、ハチミツは蜂君達が.....他に何かあったような...テンサイだ! テンサイを使えばいいのか!

 えーっと、たしか家で読んだ『世界植物大全』に載ってたようなぁ....テンサイの根を千切りにし、温水に浸して糖分を溶け出させて、その糖液を煮詰め、濾過するんだっけ?

 う~ん....今の季節は、大地が雪に覆われてて、根野菜なんて見つけられないよね....あとは...メープルシュガーとか?

 落葉樹のサトウカエデでも見つければいいのかな? あれの樹液で作れるはず。とりあえず、空から探してみよう)


 《飛翔術(ウォラーレ)》をイメージし発動させる。

 外套を着込んでいるが、さすがにこの季節は肌寒い。


(マフラーとかほしいなぁ...毛糸とかあるのかな? むしろ羊を探せばいいのかな?)


 カオルはのんびり地表を見詰めながら、ボーっと考え事をしていた。


 山頂から山間付近は雪で埋もれ、かろうじて谷間は緑が多い。

 カオルが今飛行している場所は山間部であり、雪景色を独り占めしているような状態。


 意識を森に向けていると、後方から何かが近づいてくる気配を感じる。

 自然な動作で後ろを振り向く。

 半人半鳥の魔物――女面鳥身(ハーピー)――が3匹ほど、カオルを追いかけていた。


「もう! めんどくさいなー!」


 口から衝いて出た愚痴を漏らしつつ、バランスに注意しながら曲剣(ファルシオン)を抜剣。

 そのまま反転し、ハーピーに向かって一気に跳躍すと、迎撃態勢を取ったハーピーは本能的な動作――鉤爪(りょうあし)で掴み掛かる――で、その鉤爪を伸ばす。

 しかし、《飛翔術(ウォラーレ)》で空を自由自在に飛べるカオルは、ハーピーよりも速度が段違い。

 半身を捻り鉤爪を避け、追い抜き様に曲剣(ファルシオン)で水平に薙ぐ。

 結果、見事に両足を切り落とす事に成功した。


 だが、カオルの連撃は止まらない。


 勢いそのままにハーピーへ近づき、すれ違い様に左逆手で短剣(バゼラード)を抜き放つ。

 真っ赤な血飛沫が舞い、ハーピーの胴体が2つに裂かれ、地表へ落下した。


(まず1つ....)


 残る2体。

 一瞬の内に仲間を仕留めれたハーピーは、急加速を止め、距離を取りカオルを囲む。


(空中戦で囲まれると厄介だよね)


 ヴァルカンより戦術を習い、そう考えたカオルは、対峙した状態でゆっくりと地面へ降りる。

 思惑通りハーピー達も距離を保ち着いて来た。

 ドサリと雪が木の枝から落ちるのを横目で見やり、周囲に敵がいない事を確認し、改めてハーピー2体に意識を集中。

 カオルを挟むように間合いを取ったハーピーは、ジッと対峙したまま、中々距離を詰めて来なかった。


(2対1かぁ....)


 カオルは、同時攻撃を危惧する。

 そこで、先制攻撃を決断し、正面のハーピーへ一気に加速して近づく。


 カオルとヴァルカンの絶対的な違い。

 それは、魔力量や戦闘技術(スキルアーツ)の差だけでなく、忍耐の一言。

 後の先――相手が動いてから動作を始める――ヴァルカンに対し、カオルは先の先――相手が動く前に動作を始める――を行く事である。


 カオルの眼前に迫るハーピー。

 先ほどと同じように、威嚇してきた鉤爪へ向けて曲剣(ファルシオン)を横へ薙ぐ。

 しかし、ハーピーも同じ轍を踏むほど愚かではない。

 カオルの攻撃を予測し、両翼()を羽ばたき鉤爪を引っ込める。

 曲剣(ファルシオン)が描く白銀線は、大きく弧を描き空を切った。

 だが、そんなことなどカオルには織り込み済みである。

 曲剣(ファルシオン)の遠心力を利用し、短剣(バゼラード)を左逆手のまま振り抜く。

 しかし、短剣(バゼラード)で切り付けた傷は浅く、ハーピーの足を僅かに掠めただけである。


(浅い!!)


 致命傷を与えられなかった。

 ハーピーは好機と捉え、両翼()を羽ばたかせて浮き上がり、再度、鉤爪で攻撃してきた。

 肉薄する1人と1体。

 カオルは逆手に持った短剣(バゼラード)を順手に持ち換え、二剣一対並べて袈裟斬りにした。


 迫る鉤爪。


 両者の刃が拮抗(きっこう)するかに思えた一瞬。

 僅かにカオルの方が速かった。

 鉤爪を掻い潜ったカオルが放った一対の刃は、ハーピーの肩口に吸い込まれる様に放たれたる。

 2度目の盛大な血飛沫が吹き上げられ、その身体は斬り裂かれた。


「ギィィィィィィィィ!!!!」


 壮絶な断末魔が周囲に響き渡る。

 金切り声とも呼べるその叫びを聞きながら、カオルは後方に居るであろうハーピーへ向き直った。


 憎々しげにカオルを見抜く最後(ハー)の1(ピー)

 両翼を羽ばたき、周りの木々と同じ高さで滞空している。

 カオルとの距離は約10m。

 事切れた同胞を一瞬見やり、一気に上空から急降下を始めた。


 カオルは即座に迎撃する。

 無詠唱で《(ヴィント)(ヴェロス)》を3本イメージし、対象に向けて放つ。

 風切り音すら発生しない緑色の矢が、急加速するハーピーの翼・胸・頭を貫き、落下させた。


 地面を這いずる瀕死の獲物。


 苦痛に顔を歪ませ、手足をバタバタと振り回し、赤い血液を撒き散らす。

 カオルはゆっくりと慎重に近づいてハーピーを見下ろしながら、心の中で(どうか安らかに)と祈り、曲剣(ファルシオン)で首を落とした。


 絶命。


 周囲をもう1度索敵し、魔物がいない事を確認する。

 両剣の血を拭いながら、溜息を吐いた。


「はぁ....」


 緊張と高ぶった感情を落ち着かせる様に、両肩から力を抜く。

 両目を閉じて、たった今繰り広げられた戦闘を思い出し、至らぬ点を戒める。

 

(最初は良かった。奇襲されても、即座に先手を取った判断も正しかったと思う。でも、2体目で失敗した。

 最初の攻撃が上手くいけば、魔法を使わなくても良かったはずだ)


 じっくりと反省。

 師匠であるヴァルカンならば、もっとスマートかつ、もっとスピーディに事を運べただろう。

 所詮11歳。

 魔法が使えるからといっても、カオルはまだまだ未熟だ。


(それにしても、武器が変わったらどうなることかと思ったけど、全然いけそうだ)


 右手に握った曲剣(ファルシオン)

 白銀(ミスリル)の刃が淡く煌き、惹き込まれる様な錯覚を覚える。


(うん、すごいしっくりくる。長さは片手剣(ショートソード)とそれほど変わらないし、重さがあるから振り幅が延びた感じがする。

 それに、初めて二剣を同時に使ってみたけど、そんなに難しく無いかな? まぁ、左手の短剣(バゼラード)は牽制に使う感じだけど)


 二剣を鞘へ戻し、辺りを見回す。

 息絶えたハーピーの骸。

 降り積もる白い雪が、徐々に赤い池を消し去り始めていた。

 カオルはあえてそれを無視した。

 見ていて気持ちの良い物ではない。

 襲い掛かってきたから、反撃したまでの事。

 カオルは、好戦的な性格ではないはずだから。











 しばらくして、森の中に木々の切れ間を見付ける。

 警戒しながら近づき、その光景に好奇心が疼いた。

 絶壁に近い崖。

 かなり深そう。

 長さは1キロくらいだろうか?

 幅はそれほど広くなく、せいぜい200mくらい。

 興味が沸いたカオルは、《飛翔術(ウォラーレ)》で風を纏い、慎重に崖から降り始める。

 底が見えない程、かなり暗い。

 緩やかに降空しながら、背中の背嚢(バックパック)を開き、カンテラを取り出す。

 火属性の魔法――《種火(ヴール)》――を並行発動させ、器用に火を付けた。


 照らし出される崖中。

 ゴツゴツとした岩肌が続き、生命の息吹はまったく感じられない。


 やがて――崖の底へ辿り着く。


 慎重に着地し周囲を照らして探索を始め、凡その全体像を把握した。

 崖の中は一本道になっており、暗さからか、反対側はまったく見えない。

 上空を見上げれば、100mくらいの高さ。

 降りて来た場所から、とても遠く感じる。

 再び周囲の索敵を始めてみるが、どうやら生き物はいないようだ。


 警戒しながら左手伝いに歩き始める。

 延々と続くかと思われる無機質な岩肌ではあったが、やがて10mほど先の壁に人工物を見付けた。

 恐る恐る近づくカオルの前に、見覚えのある物体が....

 壁が抉るように削られ、その部分にすっぽりと填まった石柱。


(これってあの時の...)


 思い出される情景。

 それは、カオルが初めてこの世界へやってきた時の事。

 なんの手掛かりも無かったカオルは、あの薄暗い地下迷宮(ダンジョン)でまったく同じ石柱を発見し、触れた。

 そして――風竜と出会った。


 カンテラの明かりを向ける。

 石柱に刻まれた彫刻(レリーフ)は、風化してしまい掠れていて文字を読み解く事はできない。

 しかし、中央部分には、やはり小さな手形がくっきりと掘られている。


(もしかしたら....また逢える....の?)


 突然現れ姿を消した風竜。

 約2年もの歳月を過ごして来たものの、カオルと風竜の再会は未だ為されていない。

 あの時感じた親近感。

 そして"運命"。

 風竜は「力を貸す」と言った。

 実際、カオルは風竜の恩恵――風と雷の魔法――を得ていた。


 『恩には報いなければならない』


 カオルは、そう両親から教えられて育った。


 ならば、カオルが取る手段はひとつ。

 周囲を見回して深呼吸。

 カオルの身長も少しは伸びた。

 だから、ちょっとだけ背伸びして石柱の上部へ手をかざす。

 すると――外套の下。

 胸当ての下にある『音素文字(ルーン)』が、じんわりと熱を持った。


 ガコンッ!!


 谷間に音が木霊する。

 それと同時に周囲に異変が起きる。 

 ただの崖かと思われた壁の一部が2つに分裂し、まるで扉の様に開き出した。


「すごい....」


 思わず感嘆の声が漏れ出る。

 開き切った扉は、大人1人がなんとかつかえずに歩ける大きさ。

 奥へと続く通路は、大口を開けたような印象を受ける。


(『音素文字(ルーン)』が反応したってことは、やっぱりこの先に...)


 伝説と謳われる、最上級竜種(かぜりゅう)との契約者の証。

 それが指し示す先にはいったい何が。


 不気味な通路をカオルは訝しげに見詰める。


(入ってみよう....)


 意を決して通路へ足を踏み入れる。

 土埃が舞い、どことなくかび臭い洞窟。

 周囲を警戒し、左手に持ったカンテラで明かりを前に向けながら、ゆっくりと奥へ進んで行く。












 どれくらい進んだだろうか。

 時間にして10分ほど。

 次第に通路は広がりをみせ、大きな部屋に辿り着いた。

 一言で言えば、壮観。

 巨大な円形闘技場(コロセウム)を彷彿とさせる、円形状のホール。

 あまりの大きさに感動し、無邪気にカオルがホールの中ほどまで進むと、突然衝撃音が鳴り響いた。

 

 ガガンッ!!


 たった今通ってきた通路が突然閉まったのだ。

 退路を絶たれたカオル。

 慌てて他の出入り口は無いかと周囲へカンテラの明かりを向けるが、今度はカンテラの火が突然消えた。


 暗転。


 何も見えない漆黒の闇。

 恐怖に怯え、《光球(ライト)》を唱えようとした丁度その時、天井が突如として輝き、光が溢れた。


 とても眩しい輝き。


 まるで、朝日のごとくホール中を照らし出し、ややあって明かりが落ち着き否応なく視認させる。

 ホールを取り囲む、過度な装飾に造形の細かい何本もの柱が天高く(そび)え立つ。

 天井は螺旋状(らせんじょう)に亀裂が入り、そこから明かりが漏れ出ていた。


 カンテラを背嚢(バックパック)へ仕舞い、ホールを見回す。

 胸の『音素文字(ルーン)』が再び熱を持つ。


(何か...とても嫌な気配がする...)


 カオルが感じたそれは、一種の予感であった。

 そして――最悪の結果として、今まさに降りかかる。


 ドドンッ!!


 盛大に重厚な音を立て、天井から5つの巨石がカオルの周囲に降り注いだ。

 土煙を巻き上げた巨石。

 着地と同時に巨石は人型のゴーレムへと変化し、有無も言わさずカオルへ殴りかかってきた。


 突如として戦いの火蓋は切って落とされた。


 カオルは、腰から曲剣(ファルシオン)短剣(バゼラード)を引き抜きながら、ゴーレムの拳を左へ受け流す。


「あっぶな!?」


 思わず声が漏れる。

 ゴーレム達はそれを皮切りに、次々と殴りかかってくる。

 腰溜めからの岩の砲弾(こぶし)

 カオルは、小さな身体を右へ左へ動かしながら攻撃を避ける。

 掠るだけでものすごい風圧がカオルの身体を押し潰す。

 間違い無く、1発でも直撃すれば、即死するであろう。


「んっしょ!!」


 拳を空振り地面を砕いたゴーレムめがけ、カオルは一足飛びにその腕に飛び乗って、そのまま頭の部分に向かって走り出す。

 走りながら周囲のゴーレムへ向けて魔法を唱える。


「振り下ろされしは金色(こんじき)の刃! (うな)れ!」


 短文呪文。

 紡がれる言葉は魔力とマナへの回路。


「《雷鳴刃(イカヅチ)》」


 叫ばれるは魔法名。

 3体のゴーレムの頭部分を狙い、3本の雷光が轟音を撒き散らしながら落雷する。

 焼け焦げ崩れ落ちるゴーレムの頭部。

 だが、動きは止まらない。


(むぅ....)


 腕を伝って走り抜けたカオルは、曲剣(ファルシオン)でゴーレムの頭目掛け居合いのごとく抜き放つ。

 見事に斬り落とす事に成功するが、こちらも動きを止めるまでには至らなかった。


 予想と違う戦果にカオルは歯噛みする。


 魔物であれば、頭部を失い絶命したはず。

 カオルはヴァルカンの教えを守り、今の今までそうして戦い続けてきた。

 そのはずなのに、この魔物は死なない。

 一抹の不安が頭を過ぎる。

 もしかしたら――この魔物は"不死"なのではないだろうか?


 カオルの熟考を置き去りに、行動を再開したゴーレム達。


 カオルが飛び乗った仲間(ゴーレム)ごと、殴りかかってきた。

 慌てて地面へ飛び降り場所を移したカオルは、曲剣(ファルシオン)を掲げてゴーレムと対峙する。

 すると、踏み台にしていたゴーレムが、仲間のゴーレムに殴られ崩れ落ちた。


(ん?)


 状況を分析する暇も無く、別のゴーレムが左右から拳を振り下ろす。

 咄嗟に壁へ向かって走り出し、攻撃を避わす。

 すると、またも左右から殴りかかってきたゴーレムがお互いに衝突して砕けた。


(....なるほど。ボクが攻撃するんじゃなくて、相打ちにさせればいいのか)


 攻略法を理解したカオル。

 残った2体のゴーレムを見据え、その中間に降り立つ。

 自らをエサに見立て2体のゴーレムをおびき寄せると、知能が無いのか、左右からゴーレムが突進してきた。

 カオルは、同時に振りかぶった2体の拳を見やりながら、振り下ろされる寸前に横へひらりと避わし、ゴーレム2体を衝突させた。


 大小様々な大きさの土塊(つちくれ)へと化したゴーレム。


 動く事も出来ずに崩れ去ったその様子から、無事に倒す事が出来たようだ。


「ふぅ...あぶなかった」


 安堵の溜息が漏れる。

 最後の手段――魔法――の効果がなかった事に、焦りは感じた。

 それでもなんとか攻略する事ができたのだから良しとしよう。

 これも、日頃から修練を欠かさず続けてくれた、師匠であるヴァルカンのおかげだろう。



 だが、悪夢は終わらない。



 カオルの油断が生死を左右する。

 三度『音素文字(ルーン)』が熱を持ち、予感が確信に変わる。

 

 カンッ!!


 乾いた金属音。

 再び天井から落ちてきた丸い塊は、巨石と同じように徐々に姿を変え、大人1人分――約170cm――の大きさへ変化した。

 右手に鉄製の片手剣(ブロードソード)

 左手に鉄製の円盾(バックラー)

 顔の無いその姿は、まるで鉄人形。


(連戦.....)


 カオルの頭に予感めいたモノが次々と浮かんだ。


(巨石に続いて鉄球。これだけで終わるはず....ないよね....)


 カオルは、曲剣(ファルシオン)短剣(バゼラード)の柄を強く握り締め、鉄人形に向かって走り出す。

 眼前に迫る鉄人形に表情――顔の部品(パーツ)――は無い。

 円盾(バックラー)を掲げ、カオルが放った曲剣(ファルシオン)の斬撃を防ぎきり、追撃の短剣(バゼラード)片手剣(ブロードソード)で弾く。

 体重の軽いカオルが弾かれた短剣(バゼラード)にバランスを崩され、重心が移動したところを円盾(バックラー)で殴られた。


 ものすごい衝撃がカオルの身体を襲う。


 カオルの小さな身体は後方へ吹き飛び、数回、転がってようやく止まった。

 かろうじて二剣を離さなかったものの、ダメージは大きい。


(すっごく痛い!)


 捲れた外套から見える擦り傷の数々。

 口内を切り、溢れ出た血が口角から垂れた。

 流れ出る赤い血液。

 キュッと唇を噛み締め、苦悶の表情から一転。

 カオルは我慢した。


(男の子だし!)


 再起を誓い、鉄人形を睨み付ける。


 殺らなきゃ殺られる。


 今までだって、修羅場は何度も潜り抜けた。

 防具も装備せず、短剣(ナイフ)1本で魔獣――大猪とか毒蛇とか――と近接格闘だってやらされた。

 ヴァルカンと一緒に、魔物の醜悪鬼――ゴブリンやコボルト――の集団戦も経験してる。

 もちろん、猪頭鬼と呼ばれるオークも...いや、『オークキング』すらも退けた。


(だから――やれるっ!!)


 カオルの周囲を風が凪ぐ。

 それは優しく包む母の様で、猛々しく怒る父の様でもある。

 やがて風はカオルの手に。

 右手に掲げた愛曲剣(ファルシオン)へ集まり注がれた。


「いっけぇぇぇぇえええ!!」


 己が意思を携えカオルは走る。

 確かな力を知覚して、手傷を負わせた鉄人形(ヤツ)を屠る為。

 その手に持つるは《(ヴィント)魔法剣(マジックソード)》。

 偉大なる風竜から贈られた魔法と、敬愛するヴァルカンから教えられた技。

 ただの鉄人形ごときに遅れをとらぬ、今のカオルが放てる最強の力。


 そして――都合2度目の交戦の勝者は....


 ガシャン!


 構えた円盾(バックラー)ごと斬り裂かれた鉄人形が、ぐずりと崩れ高らかに金属音を立てる。

 カオルは曲剣(ファルシオン)を振り抜いた格好で立ち止まり、しばらくして「ふぅ」と、息を吐き出した。


(はぁ...連戦はキツイよ。攻撃食らっちゃったし...あとで師匠に診て貰わないと....)


 流れた血を左腕の袖で拭い取り、カオルは安堵する。

 曲剣(ファルシオン)の剣身。

 美しい白銀(ミスリル)の曲剣は、刃も欠ける事なく芸術的なラインを描いている。

 《(ヴィント)魔法剣(マジックソード)》を発動させた時に仕舞っていた短剣(バゼラード)も抜き、剣身を確認していると、周囲から再び嫌な気配がした。


 カンッ! カンッ! カンッカンカン....


 無数に降り落ちる鉄球音。

 発熱した胸の『音素文字(ルーン)』が教えてくれる。

 これはカオルの試練。

 まだまだ終わる事はない。


 だが――悲観する必要も無い。


 なぜなら...声が聞こえた気がしたから。


(くじけるな!!)


 彼の者の....風竜の声が、カオルの耳朶を叩く。

 だから、カオルは顔を上げた。


(攻撃される前に行くしかないよね!!)


 既に、最初に降ってきた塊は鉄人形の姿へ変化を始めている。

 絶望の淵に立たされた状態。


 それでもカオルは聞こえた激励(ことば)を信じ、突き進んだ。

 右手の曲剣(ファルシオン)へ魔力を送り《(ヴィント)魔法剣(マジックソード)》を発動させて縦横無尽に疾駆する。

 カオルが駆け抜けた後には、淡い緑の残滓が残り、為す術も無く事切れた鉄人形が無残に転がった。


 それでも――限界はある。


 カオルの魔力量は、それほど多くない。

 魔法剣士のヴァルカンに比べれば多いとは思うが、そう何度も《(ヴィント)魔法剣(マジックソード)》を使用する事は出来ない。

 そもそもここへ来る途中で《(ヴィント)(ヴェロス)》と、何度も《飛翔術(ウォラーレ)》を使っている。

 さらに《雷鳴刃(イカヅチ)》と、二度にわたる《(ヴィント)魔法剣(マジックソード)》の行使により、残存する魔力は僅かであろう。


 戦斧(バトルアクス)を持った鉄人形へ、曲剣(ファルシオン)を矢の様に構え、そのまま刺突を繰り出す。

 心臓部分に突き刺さる曲剣(ファルシオン)

 鉄人形が、ガクリと首を(もた)げると、両足で蹴り飛ばして姿勢制御。

 そこへすかさず左から突槍(パルチザン)が突き入れられ、それを短剣(バゼラード)で受け流し、右足を前に出す勢いで曲剣(ファルシオン)を右から左に薙ぐ。

 突槍(パルチザン)を持つ鉄人形が真っ二つに切り裂かれるのを確認し、次の相手を探していた丁度その時――たった今倒した鉄人形の背後から、片手剣(ブロードソード)が一直線に突き出された。


 左肩を掠った片手剣(ブロードソード)

 カオルの赤い血が舞い散る。

 

「ギリッ!!」


 奥歯を噛み締めて痛みを我慢し、左足を下から上に蹴り上げる。

 片手剣(ブロードソード)で突き刺した鉄人形が後ろに吹き飛んだ。


(だめだ...止まったら殺られる....)


 《(ヴィント)魔法剣(マジックソード)》の維持もそろそろ限界。

 残り僅かな魔力で敵の残存戦力を効率的に倒すには、どうしたらいいのか。

 避けて転んで体当たりを喰らいながら、それでもカオルは思考を巡らす。

 諦める訳にはいかない。

 カオルには、帰る場所があるのだから。


 そして、妙案を思い付く。


(あと、10体くらい...かな....だったら!!)


 地面に転がる鉄屑を蹴り上げ、動く鉄人形を牽制する。

 ズキリと痛む身体に鞭を打ち、ホールの隅へ自身を囮に起死回生の魔法を紡いだ。


「振り下ろされしは金色(こんじき)の刃!! (うな)れ!! 《雷鳴刃(イカヅチ)》」


 短文呪文を一息に唱え、十数本の雷が落ちた。

 紛れもなく全力の一撃。

 その証拠に、雷に打たれた鉄人形はプスプスと黒煙を吹き上げ、物理法則など無視して焼け溶けて沈んでいる。


 勝者のカオルはというと――ゴッソリと体内の何かが減っていた。

 そして、案の定頭がフラつく。

 

(うぅっ...魔力を使い過ぎ....頭がフラフラする....)


 脳裏に浮かんだ魔力減少(マジックダウン)という言葉。

 枯渇した魔力により、行動不能が近づいている。


 カオルは、唇を噛み痛みで誤魔化した。

 どちらにしても、魔力が尽きて倒れれば...


 そんな極限状態の綱渡りを前に、カオルは大切な事を失念していた。


「ガッ!?」


 背中を奔る激痛。

 振り向けばそこに――戦斧(バトルアクス)を持ち半身を溶かされた鉄人形が、死力(さいご)の一撃をカオルに放ち倒れていた。


(グ、ゥ....そう...だっ...た..)


 思い出されたヴァルカンの言葉。


 『狩人は、獲物を狩った瞬間に慢心する。だから油断するな』


 カオルが犯した過ちは、油断。

 出会った事のない大軍勢(きょうてき)を前に、カオルは勝利してみせた。

 だが、己の慢心が招いたこの怪我(けっか)は、色々な意味で相当根深い。


(いっ..たい...) 


 斬り裂かれた創傷から血が止め処なく溢れる。

 白銀(ミスリル)の糸を仕込んでいるにも関わらず、外套諸共革の胸当ては背面部が裂けて、とうとう留め具が破れ落ちた。


 訪れる静寂。


 立っている事もできなくなり、カオルは血溜まりに倒れる。

 息が出来ず、呼吸も苦しい。

 流れ出た血液が徐々に体温を外へ押し出す。

 カオルが感じた予感は、最悪の状況を示唆(しさ)するものであった。


「.....」


 言葉が出ない。

 不用意に危険へ飛び込んだ自分の浅はかさに、嫌気が差した。

 それでも、自信はあった。

 2年以上もの間、【カムーン王国】でもっとも誉れ高き"剣聖"の座に着いていたあのヴァルカンに手解きを受けていたから。

 お墨付きだって貰っている。

 「壁をひとつ越えたな」と、師が褒めるくらいの強さを。


 それに...今まで挫折した事なんてカオルは無い。


 生まれ持った才能は、何人たりとも他の追随を許さぬ力であった。

 カオルや父親にとって忌み嫌われたソレも、母親はたった一言で受け入れる器の大きさを示した。

 だからこそ、カオルは今日まで生きてこれたのだし、恨み言を言ったのもたった1度だけ。


『なんでこうなるってわかってて、ボクを産んだの!?』


 同級生(クラスメイト)から無視される様になった頃、その理由を語った両親にカオルは激怒した。

 当然、父親にもカオルの気持ちがよくわかる。

 かつての自分がそうであったのだから。

 それでも....母親が教えてくれた言葉が、2人の心を救った。


『その力はね? 神様(ギフ)からの贈物(テッド)なのよ♪』


 そう言の葉を紡いだ彼女に、カオルは何も言えず、ただ泣いて抱き付いた。

 云わば、両親がカオルの命を繋いだ。


 だからカオルは自殺の道を選ばなかった。


 それなのに――


(ボク、死ぬんだ....)


 カオルは悟る。

 一度大きく息を吐き、立ち上がろうとしたが立つ事も出来ない。

 血を流しすぎたのが原因。

 身体がまったく動かない。

 だが、やけに頭は冴えている。


 そこへ....


 カンッ! カンッ! カンッカンカン....


 何の冗談だ。

 やっとの思いで倒した鉄人形達(あいつら)が、また降って来た。

 カオルに動ける力は残されていない。

 むしろ、すぐそこに死神が近づいている。

 なのに――なんで――なんで――なんで――



















 武器を手にした鉄人形が、カオルの周囲を取り囲む。

 最高神に慈悲など存在しないのか。

 たった11歳の子供に対し、なんと惨い仕打ちを....


「...ハハ」


 指先ひとつ動かせず、カオルはただ嗤った。

 己が未熟に気が付いて。

 これほど滑稽な事があるものかと。


「アハハ」


 もう、何もできない。

 羽織っていた外套はカオルの血を吸いおぞましい色へ変貌している。

 自分の体内(どこ)にこれほどの血量があったのか。


 本当にわからない。


 なぜ、今、脳裏に使った事のない魔法が浮かび上がっているのかも。

 魔力もほとんど残っておらず、慢心創痍の状態。

 でも、これを使えと誰かが囁く。

 そんな気がする。


 自分を中心に風をイメージ。

 何故かはわからない。

 ただそうしろと、誰かが言う。

 寝そべり動かない右手を必死に持ち上げ、天井へ向けて魔法を唱える。


「巻き起こりしは風の渦....舞い上がりしは竜巻....」


 カオルは知らない呪文を口にした。

 血反吐を吐き、必死に言葉を紡いだ。


「《風竜嵐(シュトゥルム)》」


 すると、おかしなことに魔力がほとんど残っていないはずのカオルから、魔法が発動した。

 自身中心を範囲とした、巨大な竜巻が吹き荒れる。

 鉄人形達は風に巻き込まれ、ある者は人形同士で、ある者は壁にぶち当たり身体をくしゃげる。


(ボクは知らない....これは...なに?)


 心臓の音がやけに大きく聞こえる。

 こんな魔法を、カオルは知らない。

 魔力も残っていない。

 では、いったいなぜこれほどまでに強力な魔法が使えたのか。


(わからない....ボクは、何も知らない....)


 淡い明かりを振り撒く天井。

 冷たくなる身体がさらに重く感じる。

 瞼が下がり、このまま眠れば大好きな両親の下へ行ける気がする。

 そこへ、ゴーレムの巨石よりも一回り大きな白銀の塊が、ゆっくりと落ちて来た。


 混沌。


 身体を動かす事が出来なければ、このまま蹂躙されるだろう。


(...ハハ....おっきい...な)


 ガチャリと音を立てて地面に落ちた白銀の塊。

 今までの物より、ひときわ大きな塊は、徐々に形を変えて巨大なドラゴンゴーレムへと姿を変える。

 鉄人形とは違う、もっと白銀に近い色。

 間違い無く曲剣(ファルシオン)と同じ白銀(ミスリル)


 『蒼い目』をしたその怪物(ドラゴンゴーレム)は、静かにカオルを見下ろしていた。











 意識が遠のく....

 ああ、もうおしまいなのかな....

 もっと色々やってみたかったよ....

 結局フルコース完食できなかったし....

 あれ...

 ボク、なんでここに来たんだっけ....

 ハーピーに襲われて....

 亀裂を見つけて....

 台座が....

 『音素文字(ルーン)』が熱くなって....

 もしかしたら風竜に逢えるんじゃないかって....

 違うもっと前だ...

 ああ、砂糖だ....

 砂糖を探しにきたんだっけ...

 美味しいお菓子を作ると...

 師匠が笑顔になって....

 それがすごく可愛くて.....






 やだよ....


 ししょう....


 ボクは...


 もっと一緒に....


 ずっと一緒に....












「そばにいてよ!!」











 突然、ホールを緑色の光が照らし出した。

 カオルの胸の『音素文字(ルーン)』が眩いばかりに光出し、次の瞬間、カオルは立っていた。

 右手には曲剣(ファルシオン)を持ち、破れた外套を纏った全身ボロボロの姿で。

 姿形はカオルのソレだが、怪しく光る爬虫類を彷彿とさせる黄金色の瞳をしていた。


 あの、風竜と同じ黄色い瞳。


 ドラゴンゴーレムは、カオルを見下ろしている。

 カオルが歩き出すと『蒼い目』が揺れて、ドラゴンゴーレムの攻撃が開始された。

 口からは灼熱のブレスを吐き、反動で空中へ飛び上がる。

 カオルは正面からそれを受けブレスの中へ。


 攻撃は届いていなかった。


 自身の周りに《(ヴィント)障壁(オーヴィス)》を張り、ブレスを防いでいたのだ。

 口惜しくカオルを見詰めるドラゴンゴーレム。

 灼熱のブレスを諦めて、攻撃手段を即座に変えた。

 上空から巨体を活かした体当たり。

 しかしドラゴンゴーレムが目指すその場に、カオルの姿は消えていた。

 代わりに雷光の残滓がひとつ。

 周囲を見渡しやっと気付く。

 いつの間にかドラゴンゴーレムの真上へ移動していたカオルに。


 掲げられた黄金色に輝く曲剣(ファルシオン)


 カオルが横薙ぎに曲剣(ファルシオン)を振るえば、ドラゴンゴーレムの両翼が切り裂かれ、地面へ巨体が落下した。

 何が起きたか解らず、慌てた様子。

 カオルを噛み殺そうと頭を(もた)げて近づくが、次の瞬間――幾重にも編まれた残光が奔り、巨体は地面へ転がった。


 まさに、一瞬の出来事。


 そして、理解できない出来事。


 ドラゴンゴーレムは盛大な音を立てて巨体を横たえ、『蒼い瞳』を残して飴細工のように粉々に砕け散った。


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