間話 精霊さん
2016.6.27に、加筆・修正いたしました。
実は、カオルはヴァルカンに内緒にしていることがある。
あれは、この家に来てすぐの事だった。
その日はとても空気が澄んでいた。
元々、山の中腹にあるこの家は、【イーム村】にくらべて空気が澄んでいるのだけれど、その日はとても空気が澄んでいた。
夜空に広がる星々が、間近にあるような錯覚を覚えるほどの魅惑的な光景。
手を伸ばせば届くのかと思えた。
「綺麗....」
あまりにも美しい星々。
ヴァルカンの家の周囲には、光源が一切無い。
街灯の多い場所で育ったカオル。
心弾ませて庭へ踊り出ると、楽しそうにクルクルと回った。
すると....
カオルの周りに赤・青・黄色の塊が、カオルに集まり出した。
突然の出来事。
しかし、カオルは慌てなかった。
なぜなら、見た事がある光景。
以前、ヴァルカンが工房で槌を振っていた時に、同じ塊を見たことがある。
ヴァルカンは"精霊"と呼んでいた。
(あはは♪)
朗らかに笑い、精霊を迎える。
精霊達も顔に笑みを浮かべていた。
そこで、ふとカオルの周りを楽しそうにクルクル回っていた緑色の精霊が、目の前で止まった。
まるで話したそうにジッと固まる。
何気なくカオルが両手を差し出すと、その上に乗った。
「どうしたの?」
話しかけてみるが答えは返ってこない。
嬉しそうに笑みを浮かべ、ただただカオルを見上げる。
(話せない....よね?)
カオルがうんうん唸っていると、精霊は顔を縦や横に振り始めた。
(これは、ジェスチャーゲーム?)
「えっと、話せないけど頷くことはできる?」
カオルの問い掛けに、精霊はまるで花が咲いたように、パァっと笑顔で頷いた。
(おお!これはすごい!)
「じゃぁ、質問。精霊さんはどこから来たの?」
意思疎通が可能と解り、探究心からカオルは話し掛ける。
精霊はカオルの質問に、空を指差し、次に大地、そしてカオルを指差してきた。
「う~ん、空と大地と....ボク?」
こくこくと頷く。
ちょっとカワイイ。
「ボクというか人間ってこと?」
またもコクコクと頷く。
「ん~、難しい話だ....」
難解な答えに、カオルは言葉を導き出せない。
精霊とは、この世界の原初より存在し、『精霊に愛された種族』と共に生きてきた。
この世界にやってきたばかりのカオルが、その答えに辿り着く事は出来なかった。
精霊はニコニコ笑う。
小さな身体でクルクル回り、周囲の精霊達に笑い掛ける。
他の精霊達もそれを見ると、同じ様にクルクル回り出す。
(可愛いな....みんなで踊っているみたいだ)
カオルは精霊達と楽しい時間を過ごす。
笑い、踊り、満点の星空を見上げる。
しばらくすると、精霊達の姿が徐々に薄れてきた。
これも、カオルは見た事がある。
精霊達はそのまま消えてしまうのだ。
「もう行っちゃうの?」
話しかける。
精霊は頷いて肯定した。
「また会える?」
寂しそうなカオルの表情。
精霊は安心させるように再び笑みを浮かべると、消えそうになりながら、コクっと頷いて答えた。
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