フィル・レム・マリベルト
「その声は……アリスティールお嬢様でおられますか…」
「ん?誰?って爺やじゃない。久しぶりね」
奏が振り向くと、そこには掃除道具を持って肩を震わせる老年の男性だった。
「よくぞ…ッ!よくぞ御無事で…ッ!」
「あぁ…爺やとは革命運動以来になるわよね。元気にしてた?」
「爺やは元気でございます…!お嬢様がいつの日かこの城へ帰ってくることを願ってここの清掃員になったのでございます」
この者は奏が小さい頃身の回りの世話をしていた者だ。
庭の遊びを教えてくれたのもこの爺やであり、革命運動の時逃げ道を教えてくれた命の恩人でもある。
「よく殺されなかったわね。やっぱり元凶はお父様だったからかしら?」
「そうでございます。私たち下々たちは雇われていたという身分でしたから、そこまで重い刑を受けることはありませんでした」
「爺や、わたくしの今の名前は奏って言うの。ここでお嬢様とかアリスで呼ばれると色々面倒になるから、これからは奏って呼びなさい」
「かしこまりました……私は奏様が良いお人に拾われることを祈っておりました。この国にいては奏様のお命がいくらあっても足りませんから…」
「でしょうね。正直あの頃のわたくしは大人になったら絶対この国を出るつもりでいましたし、雅文さんに拾われたのは幸運でしたわ」
「奏様が幸せそうで爺やはなりよりでございます」
「あなた達には本当に心配をかけたわね。それで爺や、わたくしがここに来た理由は恐らくお母様の遺品にあると思うのよ」
「フィル様の遺品でございますか?」
奏は立ち入り禁止と書かれた母の部屋を漁り始めた。
「あぁ、いけませんぞ奏様…!もし壊れてしまったなどありましたら爺やは罪に問われます」
「大丈夫大丈夫。ねぇ爺や、お母様が死んだあの時のままよね?この部屋は」
「ええ、あの頃のままでございます」
「ふぅん……お母様から何か聞いてなかったかしら?」
「はて………フィル様から私にですか……………む!奏様!ベッドを退かしましょうぞ!」
「何かあるのね!いいわ!退かしましょう!」
爺やと共に奏は重いベッドを退かしにかかる。
ベッドを退かすと、爺やは何やら壁をペタペタと触り始めた。
「確かこの辺りだと聞いていたのですが……」
「隠し扉か何かなの?」
「いえ、フィル様のネックレスでございます」
「ネックレス?」
「あ、ここですな!」
爺やは白く何もない壁を押すと、正方形に白い壁が取れる。
壁の一部を取ると、そこには小さな小物入れがあった。
「これでございます」
奏は爺やから小物入れを受け取り、中を開けてみた。
中には純白の輝きを放つダイヤモンドのネックレスが一つだけあり、その下には小さなメッセージらしき紙が置いてあった。
「え~と……」
紙にはこう書かれていた。
『アリス。これを読んでいるという事は爺やがお前を立派な大人と認めた事なのだろう。恐らくだが、私はもうこの世にいないと思われる。魔物退治などやっている身だ。早死にするのが世の常である。我がマリベルト城はどうなっている?まぁあいつはダメな王だ。私がいなくなったら急に国は衰退するだろう。さて、長く書くのも私の性に合わんから手短に済ませるぞ』
「え?お母様まさか…」
『アリス、お前に我が秘術を伝授しようと思う。私が生涯隠し続けた最大の魔術だ。その名は固有結界。さぁ、一緒に入れておいたネックレスにエーテルを流し込むといい。私がお前を鍛え上げてみせる』
「爺や、この部屋借りていいかしら?あと軽いご飯を持ってきてくれると嬉しいわ。これ、お母様がわたくしに残した魔術よ。習得するまでかなりの時間がかかると思うの。だから、お願いね」
「わ、分かりましたぞ!ここの通路を進入禁止にしてきます!」
爺やは慌ただしく出て行った。
奏は深呼吸をするとネックレスへエーテルを込めた。
目を開けるとそこは要塞だった。
闘技場のような円の外には岩と鉄で組まれた壁。その壁には機銃やら、大砲やら兵器がゴロゴロと備わっていた。
「来たか、アリス」
「お母様……」
「これは私の固有結界『アイアンフォートレス』だ」
「これが固有結界……魔法の一つなの…?」
歩いて来たのは美しい女性だった。
甲冑に身を包み、長く美しい銀髪は風に乗ってなびく。
奏が大人になればこんな姿になるのかな、と思わせるような女性だった。
「国を守りたい気持ちが具現化したものだ。アリスにはこの構造を知ってもらう。覚悟はいいな?」
「もちろんですわ!お兄様のためにも!未来のためにもお母様の力をわたくしの物にしてみせる!」
「良い目だ。泣き虫だったアリスはもういないようだな」
奏はヘルキャットを出して剣を構えたフィルと対峙した。
外伝は少しずつ投稿していく形にしました。
真面目な話だったり、なんだこれって思うような本編にはないキャラたちを描いていけたらな、と思いますのでこれからもよろしくお願いします!




