表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍の血を引く者  作者: また太び
9章 未来のメッセージ
97/162

アリスティール・レム・マリベルト

7月4日。紅哉たちの学校は夏休みに入った。

テストも終わり、これから彼らは炎道家の別荘へ向かう予定だ。



「紅くーーん!夏休みだね!最高だね!」


「おい…俺達は遊びに行くんじゃないんだぞ…」



女の子のバックを車に詰めている男子の一人である紅哉が、後ろで騒いでいる瑠璃に呆れた視線を向ける。


気温は30度。まだ7月入ったばかりだと言うのに、既に7月下旬の温度である。

ただでさえ、女の子の荷物は多いと言うのに、この気温の中での作業は来るものがある。



「うわぁ…先輩熱いっす…」


「お、俺だって熱いんだ……」


「熱血男らしくないセリフだぞ……エレメント持ってるくせに熱操作も出来ないのか…」


「お前Cランクなめんなよ……」



ちなみに女の子たちは紅哉の家の縁側でスイカを食べている。

舞香と奏の姿はここにはない。

既に舞香は皆の目標が定まった次の日にケルベロスと共にカケルという人を探す旅に出てしまった。

奏は『帰りたくないですけれど、一度故郷に帰りますわ』と言って今はドイツにいるそうだ。

彼女の固有結界のヒントになるものは彼女の城にあるそうだ。



「ど、どうしてこんなに女子は荷物が多いんすかぁ……」


「無駄口叩いてないでさっさと詰めろ……じゃないと俺達のスイカがなくなるぞ」


「そ、それは嫌っす!うおおお!」


「うお!?直人が覚醒した!?」


紅哉の『スイカがなくなる』という言葉を聞いた直人の瞳には炎が宿っていた。

それは命を燃やす炎なのか、それとも紅哉と俊介が余りの暑さにやられて見えてしまった幻覚なのか、それは分からない。




一方その頃奏は古の城に来ていた。

もう今では奏の家ではなくなってしまったが、ここは一般公開されている観光名所となっていた。

今日は平日ということもあり、人盛りは少なく奏はすいすいと自分の家であった場所を歩いて行く。



「こんなところ、二度と来たくはありませんでしたわ……」


「にゃぁ……」


「ヘルキャットもそう思いますわよね」



主の肩に乗るヘルキャットは、悲しそうな声を出す。

奏がここに来た理由は固有結界のヒントになると未来の自分に言われたからである。

未来の自分はバハムート襲撃の時までに固有結界を完成されることは出来なかったそうだ。幼いころから魔術理論を叩き込まれた奏だから分かる。固有結界を習得するには人生一つ分かけても身につけることは出来ないと。


だが、未来の自分は習得したという。これは凄いことだ。未来の自分を褒め称えたいと心から思った。


普通の魔術師であればきっと辿りつく事は出来ない極地だ。しかし、未来の奏はそこに辿りついた。

つまり、時間の問題であり、遅からず自分は魔法使いになることが出来るという逆の証明でもある。



「ふふっ…」



思わず笑ってしまった。

良い事があるとつい口に出して笑ってしまうのは自分の悪い癖だ。しかし、笑わずにはいられない。



『わたくしが魔法使い……お兄様もわたくしをもっと頼るように…あぁ、なんて素晴らしいのでしょう……思い浮かびますわ、お兄様がわたくしを頼る場面が…』


「奏…お前が必要なんだ……俺に力を貸してくれるか?」


「はい…!この炎道奏、お兄様の刃となりましょう…」


「それと奏……俺の義妹じゃなくて、俺の妻になってくれるか」


「はい…!」



※言わなくとも分かっていると思うが、これは奏の酷い妄想である。



「きゃー!お兄様ったら3股ですの!?でも、そんなお兄様も素敵…」


「お母さんあの人何しているの?」


「いいから見ちゃいけません!」


「……………ごほん。さて、指定された場所はもう少し先のようですわね」



観光客からの冷たい視線を感じた奏は、一つ咳払いをすると、その場所から逃げるように早歩きで去って行った。



「あら…?道を間違えたかしら?」



未来の自分から指定された場所は元はと言えば奏のホントの母親の部屋だった。

母の名はフィル・レム・マリベルト。偉大な魔術師だった。奏は母親のような偉大な魔術師になりたくて腕を磨いていた時期もあった。

しかし、母親の死は呆気なかった。いつも通り国の周りを徘徊する魔物を討伐する任務の時に、索敵に引っかからないステルス性を備えた魔物に不意打ちにあい、その時に首から食われたという。


その時奏は理解した。どんなに偉大で強い人でも死に際は呆気ないものなんだと。

そこから父はフィルが死んだことにより、酒癖が悪くなり、国はどんどん錆びれていった。

奏―――いや、アリスティールはいつも父の怒りに触れることのないように庭園の中で動物たちと触れ合っていた。


アリスティールはそこでヘルキャットと出会った。

魔界のゲートを通ってやってきたヘルキャットは酷く衰弱しており、今にもエーテルが尽きかけていた。そこへやってきたアリスティールは、何とか回復の術式を組み上げようとするが、幼い彼女ではハイレベルな回復の術式を組み上げる事は出来なかった。


どうすればいいか悩んだ彼女が選んだ選択は、この子を自分のパートナーにするというものだった。

魔界の魔物をパートナーにするというものは世間から見れば異例なことだ。

そもそも魔界の魔物と人間が共存できるという理屈からしておかしな話だし、それをましてやパートナーにして従えるというのは到底普通の人間には出来ぬことだったのだ。


しかし、ヘルキャットは自分を必死に助けようとする彼女に気を許し、人間という生命の認識を改めた。

何度も回復の術式を組み上げようとしては、失敗し、その反動で腕がボロボロになっていく彼女に心を打たれたヘルキャットは彼女の剣になることを誓った。



それから間もなくのことだ。

ヘルキャットをパートナーにした彼女を待っていたのは革命運動だった。

王の政権に反感を持った市民と兵が立ち上がり、瞬く間に父は捕まり、そして公開処刑となった。

幸いアリスティールはいつもの如く庭園にいたため、革命運動から逃げることに成功したのだったが、彼女は悪い賊に捕まってしまった。

いわゆる人狩りである。


彼らはなかなかな上玉のアリスティールを高値で売りさばこうとしていた。

幼い彼女は恐怖で毎日震え、精神的に安定してないため、ろくにエーテルを保つことも出来なく、頼みの綱であるヘルキャットに助けを呼ぶ事も出来なかったのだ。

それから馬車に揺られて数日の事、ある裏社会の路地で彼女は虚ろな瞳で自分の人生を呪っていた時だった。



「へ?こいつですかい?ええ、いくらかと?30万でどうですかいな?へへ、毎度毎度!」


『あぁ……わたしの人生もここで終わりかなぁ…』



こんなアンダーグラウンドにやってくるような奴はろくな人間はいない。どうせ幼い子供を趣味とする変態か、それとも子供を苛める事でストレスを解消する外道くらいだろうと思っていた。

そんな諦めかけていた時に彼はやってきた。



「大丈夫かい?」


「あ……」


「酷くエーテルが消耗しているようだね……なんて酷い仕打ちを受けたんだ…」



炎道雅文だった。

彼は城に籠っていたアリスティールに色々なことを見せてくれた。

お洒落な服、おいしいご飯、美しい景色、もう上げたらきりがないほどとても新鮮で、なにより楽しかった。


そして彼女は新しい名前を彼から貰った。



「アリス。僕の娘にならないか?」


「え…?わたしが、雅文の娘…?」


「そうだ。これから君は当たり前の日常というものがやってくる。僕は君にそれを体験し、そして普通の日常がこんなにも楽しかったんだ、という感動を得て欲しいんだ。そのためにもってわけじゃないが、本気で僕は心の底から君の父親になりたいと思っているんだ。どうかな?」



アリスティールは前に雅文から話して貰った学校というものを想像した。

何でもそれは皆同じ椅子に座って先生が黒板に書く字をノートという紙にメモを取っていくものだそうだ。

皆と競い合ったり、友達と帰り道ではソフトクリームなるものを買い食いしたりと楽しい場所だと聞いた。



「わぁ!なる!わたし!雅文の娘になる!」



雅文は笑顔を浮かべると、こう言った。



「アリス。君の名前は、気品と美しさを奏でる音色。炎道奏だ!」


「奏……かなで…うん!わたし奏!炎道奏!」



自分に言い聞かせるように奏は雅文の顔を見上げながら叫んだ。


奏の回でしたが、いかがだったでしょうか。

もう少しで龍者も100回目を迎えるわけですが、1万人以上の方に見て貰っていると思うと恐縮の身でございます……これからもこんな話ですが、頑張って投稿し続けたいと思います。

例のごとく前書きはありませんね、ええ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ