それぞれの目標
「皆来ているようだな~。あたしから昨日の事故についてざっくりと説明する。こんな長ったらしい文を読む気にならねぇから簡単にまとめたぞ」
場所は翡翠。
紅哉たち翡翠メンバーはVR空間であった故障事故についての説明を受けている所だった。
「あそこの競技場にあるVR空間制御装置はもう動かんらしい。ホントはそのまま要塞崩しをやる予定だったんだが、要塞崩しは日にちがずれて行われる」
「うおっしゃー!」「やっぱりあるんだ!」「今年こそ白銀を潰そうぜ!」「豊姫さん!応援しているよ!」
「うるっせぇええ!」
『……………』
「で、だ。場所は大阪になった。白銀の本拠地で行われるわけだが、詳しい事は後に説明する。今はとりあえず師弟タッグペアレースは完全に中止になったものと思ってくれて構わない」
佐鳥の言葉にクラスから不満げな声が上がる。
「あたしだって納得しているわけじゃないが、これは上が決めた事だ。仕方ないで片づけておけよ。それにまだ終わりじゃない。これから要塞崩しがあるんだ。選抜メンバーはだらけていないでしっかりトレーニングしておけよ。さて、明後日までこの祭りは続く。今日も休日なわけだし、もう帰っていいぞ」
佐鳥は紙を持って教室を出て行く。
豊姫は形だけでも、と佐鳥が出る前に『起立!礼!』と言って〆た。
「舞香、帰るぞ~」
豊姫、俊介、遊佐を連れた紅哉は、終わっているであろう2組の舞香の教室にやってきた。
「あれ?舞香さんならもう帰ったよ?」
「おっと、そうか。ありがとう」
掃除をしている女子生徒からそう言われて、紅哉は舞香にメールを打った。
『もう帰っているなら先に言っておけ』と。
実はこの後未来のメッセージについて、各々見た感想とこれからの方針を話し合おうという事で、紅哉の家に集まる予定だったのだ。
3年生の瑠璃は、終わる時間帯が分からないため、終わり次第紅哉の家に来る予定。1年生組は癒理が連れてくるという事で紅哉は2年生組を集めていたわけである。
「あれ舞香さんじゃね?」
俊介が指差した先には、職員室で佐鳥と会話している舞香の姿があった。
「何を話しているんだ?」
「ここからじゃ聞こえないな……」
「なにやら世間話ではなさそうですね。紅哉さん、私たちは先に帰るべきでは?」
「そうだな。舞香の話しならいつでも聞けるし、今は帰るか」
紅哉達が帰っていくなか、舞香は唯一未来の出来事を知っている佐鳥に今後の行動について説明していた。
「で、お前はあたしに何をさせたいんだ?」
「カケルを探せって言われた……」
「誰に?」
「未来の私……」
なるほど、と言って佐鳥は煙草の吸殻をゴミ箱へ捨てる。
「つまりお前が言いたいのは、あたしから長期依頼を渡されたって事で学校を休みたいんだな?」
「そう、話が早くて助かる……」
「わーったよ。そのカケルって奴がいないと紅哉が動けないんだろ?なら、シャーナイな」
「許可証……明日には用意して貰えると嬉しい……」
「明日出るのか?紅哉達にはちゃんと言ったのか?」
「まだ……帰ったら言う…」
「………明日の放課後取りに来い。それまでに用意しておいてやる」
「ありがとう……」
佐鳥は話は終わりだ、と言って書類の片づけに戻った。
舞香も言うべきことは言ったので、さっさと家に帰る事にした。
紅哉たちは未来からのメッセージについて話し合っていた。
「俺は特に何も言われていなかったな。瑠璃と豊姫のは分かったんだが、そっちはどうだ?」
紅哉は俊介と遊佐に尋ねた。
「俺はそうだな~パートナーの出力を上げるためにイフリートからとにかく炎を受け続けろって言われたぜ」
「私はアイリさんの研究を手伝えと言われました」
「俊介の火力を底上げする訓練か……もしそれが可能なら俺達を超えるかもしれないな…」
「遊佐さんはどうしてアイリさんの研究を?」
「私もよく分からないのですが、私の演算能力はアイリさんを超えていると言われまして、その力でアイリさんがこれから開発する機械の開発に協力して欲しいと」
「パートナーの力を合わせればアイリを超える事は出来るだろうな。恐らくそれの事を言っているんだろう」
遊佐のパートナーは電子機械操作の専門家と言われるほど、その系統に扱いに慣れている。
それを使ってアイリを助けて欲しいということなのだろう。
「なるほどな。んじゃ、1年生組は?」
「まずは私から。瑠璃先輩の従姉である玲奈さんに協力してもらい、エヴォルトに至れと」
「俺も癒理ちゃんと同じっす」
「私も同じです」
「1年生組は全員エヴォルトか……」
「そんなほいほいエヴォルトに至れるものなの?紅くん割と早かったけど」
「俺のは特例だ。元からエヴォルトには至っていたし、後はなっていられる持続時間を延ばしただけだしな。一からとなると、相当厳しい修練になると思う」
「覚悟は出来ているよ。それでも私たちはエヴォルトを手に入れないといけない」
豊姫から揺るがぬ決意を感じた。
やはり昨日のDVDの映像が彼女に何かを与えたのだろうか。
「ふふ、わたくし達もやらねばならないのですわ!」
「奏?彰も?お前ら帰ったんじゃないのか?」
「やぁ兄さん。僕らも兄さんたちに未来からのメッセージで言われた事を言っておこうと思ってね」
奏はリビングに入って来ると、何食わぬ顔で紅哉の隣に座る。
それを見た豊姫と瑠璃はもう苦笑いしかない。
「わたくしは固有結界を習得しろと言われましたわ。あの小娘は感情が戻っても生意気ですのね…!」
「お前の映像に何があったんだ………」
拳を握りしめている奏から歯ぎしりが聞こえてきた。
「未来の舞香姉さんに相当弄られたみたいでね、奏は昨日から機嫌が悪いんだ」
「あぁ……舞香と奏は仲が悪いからな…」
「感情が戻った姉さんは、奏と喧嘩してばっかりみたいだよ。僕の方には奏の悪口まで入っていたしね」
「もっと仲良くしよ―――」
「無理ですわ!少し生まれたのが早いからってわたくしをコケにする理由がありませんもの!何なのですかあの女は!」
「ダメみたいだな……」
「頭が冷えるまで少し時間がかかりそうだよ。さて、僕の方はオーディンの力をもっと使いこなせるようにしろって事だったよ。何でも、バハムートとの決戦の時には数えるのが嫌になるほどの龍が来るそうだよ。だから、オーディンの力で何とかしようってことらしい」
「出来るのか?お前のオーディンに」
「うん。オーディンにはヴァルハラの門っていう技があってね。ラグナロクに参加した英雄たちを一定の時間この現世に呼び出すことが可能なんだ」
彰の言葉に全員が『おおお……』と声を上げる。
「ただその分僕のエーテル消費が凄まじいことになりそうだけど、そこはオーディンと協力して代わりながらエーテルを温存していくよ」
「お前が一番最初に修練が終わりそうだな」
「どうだろうねぇ……オーディンみたく使いこなせるかどうか怪しいから、結構な時間がかかると思うよ」
「それじゃ皆未定のようだな………それで休み時間DVDを見ていたんだが、俺の映像にはまだ続きがあってだな、俺の修行内容はまずカケルっていう人が見つかるまでお預けらしい」
「あ、朱音さんもそんな人の名前言っていたような気がする」
「瑠璃知っているのか?」
紅哉の言葉に瑠璃が反応した。
思い出すかのように指を顎に当てて『う~ん』と唸っている。
「えっと、詳しい事は朱音さんが知っているんじゃないかな?私は名前だけしか知らない…」
「分かった。後で朱音さんに話を聞いてみる」
「ただいま……」
そこで舞香が鞄をぶら下げて帰って来た。
「奏……いたんだ…」
「わ、わたくしには言って彰には何を言わないんですの!?」
「………うるさい…」
「こ、この女はぁ…!」
「か、奏落ち着いて。ね、姉さん、僕らがここにいることくらいは分かっていたよね?」
「うん……未来のメッセージについてでしょ…?」
今にも殴りかかりそうな奏を抑えつけながら彰は話を変える作戦に出る。
「そうだ、舞香。お前はどんなメッセージだったんだ?」
メイドさんに鞄を預けた舞香は、当たり前のように瑠璃の膝に座る。
舞香は小学生くらいの体重しかないため、瑠璃はそれほど重くは感じていないようだ。
「私はカケルっていう人を探しに行けって言われた……お兄様のためにも探しに行ってくる……」
「お前が探しに行くのか」
「うん……あと、朱音のためにも何としてでも探し出さないといけない……」
「朱音さんのエーテルについては瑠璃先輩から聞いたよ。早く見つけないとだよね…」
「だから……お兄様、明日の夜私ちょっと長期依頼って事で家をしばらくあける……」
「仕方ないよな。あぁ、だから佐鳥先生と話していたのか」
「うん…事情も知っている先生だから余裕だった……」
何故かブイサインをする舞香に紅哉たちは苦笑いをする。
「これで皆の目標が分かったな。決戦は8月1日だ。それまでに鍛えて鍛えまくるぞ。本番は夏休み。炎道家の別荘を使って強化合宿を行う。皆絶対にバハムートに勝つぞ」
『オーッ!!』
それから紅哉たちの特訓が始まった。
豊姫たちエヴォルト組は玲奈が来るまでパートナーと心を出来るだけ通わせるように、精神世界での対話を実現することに成功した。
瑠璃は事務所にこっ酷く怒られると共にしばらくの間アイドル活動を休止し、世間では大騒ぎになった。
奏と彰は――――故郷へ一度帰ることになる。
「なぁセレナ」
「なんですか、佐鳥」
少年と少女たちが未来を守るために修行を続けている真っ最中、セレナと佐鳥は飲み屋に来ていた。
「あいつもでかくなったもんだよなぁ」
「何ですか?藪から棒に」
「いや、紅哉のことだよ。ほら、あたしって一度だけ小さい頃の紅哉に会ったことあるだろ?あの時に比べたら、よく小便小僧が大きくなったもんだよなぁってさ」
「確かにそうですね。紅哉は強くなりましたよ。肉体的にも精神的にも」
「お母さんお母さん言っていた奴があんなになぁ……」
「皮肉にも旦那様と奥様の実験が紅哉を強くしましたからね」
「なんだか急に歳を食った気分だぜ」
「ふふっ。私もですよ。紅哉たちの成長にはいつも驚かされる。昨日のことが昔の事に思えますよ」
「あいつらにはまだまだ負けられないな。それにあたし達はこの身体が動くまであいつらの目標になってあげなくちゃならねぇ」
「ええ、まだまだ彼らには強くなって貰わないといけない。それまでわたしたちが上に立って導く」
「さぁてと!あたし達も動くとしますかぁ!未来のためにもな!」
「そうですね。久しぶりのコンビです。腕は鈍っていないでしょうね」
「ぬかせ。あたしはこれでも名門の教師なんだ。いつも家事をしているお前とは違うわ」
「わたしはいつも紅哉のトレーニングに付き合っているんです。身体がなまってはおりません」
「へっ、んじゃ動くとするか」
「行きましょう」
セレナと佐鳥は飲み屋を出て行った。
ここから時間の流れが早くなります。
ところどころ遊びも入れると思いますが………




