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龍の血を引く者  作者: また太び
8章 全国魔術師運動大会
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永久幻術メランコリア

「ダァアアアア!!!」



朱音の一振りで鋼鉄の扉が紙のように切れていく。その後を瑠璃が追っていく。しかし、朱音について行く事で精一杯であり、瑠璃は神龍の力を借りている形。



「瑠璃ちゃん!あともう少しだから頑張って!」


「は、はい!」



奥に進めば進むほど敵の数と強さは増していった。朱音の顔はまだ余裕があるように見えるが、敵の数が増える度に舌打ちをしている。



『ゲオルギウス聞こえる?』


『聞こえるぞ』


『敵の数が厄介だね。あなたの聖剣だけじゃ厳しいかも』


『そうだな。私の伝承に一騎当千の逸話などない。あくまで私は龍殺しの異名を持っているだけに過ぎない』


『瑠璃ちゃんいるけど使うしかないかな……』


『仕方がない』


「瑠璃ちゃん!しばらく神龍に乗っていて!それと目を瞑っていてね!」


「え?あ、はい!」


『神龍なら黙っていてくれるよね…』


『あいつがそういう奴なのはお前がよく分かっているだろう』



朱音は目を閉じた。



「みんな!来て!」



彼女の瞳が赤から青に。髪の色は紅から群青に。そして朱音の周辺をくるくると回るのは10個の輝く宝玉。



「Set!ファーヴニル!フルドライブ!」



聖剣アスカロンに変化が訪れる。

今回はオーラだけではなくファーヴニルそのものの力を借りる。

大剣は龍を模したような牙と鱗が出来上がり、刃にはファーヴニルの強く勇ましい力が宿る。



「さァ!行くよ!」



朱音は魔物大群の中に飛び込んだ。

いま彼女の細胞は完全に覚醒していた。龍の如き敵を屠る野生さと冷静さを秘めた人間の力が合体した今の彼女に敵などいない。



『あやつは一体何者なのだ……』



瑠璃を乗せた神龍は黒い霧の中で敵を蹴散らしている朱音を見ていた。



『あやつから感じるニルのオーラは………どういうことだ…』



朱音は龍の口から剣が飛び出しているかのような大剣を前方へ突きだす。その先にはもちろんまだまだ湧いてくる魔物たち。



「カオスブレス!!」



次の瞬間通路を埋める巨大な黒炎が龍の口から吐き出された。

炎の波が消えると、そこは綺麗さっぱりとした何もない道があった。



「今のうちに行くよ!」



神龍は朱音に続いて奥へと進む。

2分くらいだろうか。それくらいの短い時間を走っていると遂に奥へ着いた。

ゴウゴウ―――と機械が稼働している音が聴こえる。



「瑠璃ちゃんもういいよ」



瑠璃は神龍の背中に乗ったまま目を開けた。

そこには巨大な機械に何かが纏わりついていた。



「ひっ!あ、朱音さん!あの気持ち悪いのなんですか!?」


「あれはパラサイト。色々な物に寄生して操る魔物なの。VRシステムが暴走したのもこいつのせい」


「な、なら早く倒さないとダメですね!」



しかし、朱音は首を振った。



「こいつの倒し方はまだ分かっていないの……」


「え……?じゃあどうすればいいんですか!?このままじゃ紅くんたちが死んじゃいますよ!」


「機械ごと破壊するとパラサイトは死ぬ直前に大量の卵を生み出す。引きはがそうとしても同じ。もう少し……もう少しこの世界の技術が進めばパラサイトを触れずに、そして卵を生み出させないで倒せる方法が出来るんだけど………」



朱音は瑠璃を見た。



「だから今はあのパラサイトに幻術をかけるしかない」


「幻術……?」


「幻術をかけて自分は眠りについたと思わせるしかないの」


「朱音さん、でも私の幻術はその場を離れたら効力が消えますよ?」


「違う。私が瑠璃ちゃんにやって欲しいのは魔法」


「ッ!?まさか永久幻術ですか!?」


「うん。君なら出来る。いや、私と神龍と瑠璃ちゃんが力を合わせれば何とか成功すると思う」


「本で見たことがある程度の私が出来るはずが……」


「大丈夫、瑠璃ちゃんは絶対に成功するよ。私が保証する」



制御室が揺れ始めた。

パラサイトがまたVRを使って魔物を生み出す準備をしているようだ。



「さ、時間がないから今すぐやろうか。大丈夫、私が導くから瑠璃ちゃんはそこを通って来るだけ」


「わ、分かりました」



朱音は瑠璃の額に自分の額を合わせた。

そして朱音の足元に黄色の術式が生まれた。



「私の記憶を見て。そしてそれを受け入れて」


「はい」



瑠璃は瞳を閉じた。

すると、朱音の中から記憶が流れてくるのが分かる。


これは誰だろう。

どこか私に似ている気がした。

群青色の髪をした女性は何か喋っている。いや、私には分かる。これは幻術の術式だ。

それも相当高度な、人間で扱える限界を超えているものだ。だけど、何故だろうか。私には出来る気がする。どこか彼女の扱う術式は私がアレンジしたものと似ている。


『これは瑠璃ちゃんとよく似た女性が私に残した最後の術式。その名もメランコリア。永久幻術に分類される彼女の魔法は、生涯でも数回しか使用していない。それも全て人のために。決して人に使うようなことはしなかった』



朱音の声が瑠璃の頭に響く。

瑠璃は彼女が生み出す術式を自分のものにしようと凝視している。普通見ているだけでは理解出来ないはずの術式が、まるで自分の記憶を取り戻すかのようにすうっと入ってくる。


術式が終わると、彼女は口をパクパクとさせて何か喋っている。

読唇術がない瑠璃には何を言っているのか分からないが、そこは神龍が答えた。



『さぁ、これを使ってみんなを守って、と言っている』



髪の長い女性は笑顔で手を振ると記憶の光に呑まれて消えて行った。


瑠璃は現実世界に戻された。

大丈夫、術式は手に取るようにわかる。さぁ、後は高速で構築するだけだ。



「私は瑠璃ちゃんがメランコリアを完成させるまで魔物をあなたに近づけさせない。焦らず、確実に作るんだよ」


「はい!」



瑠璃は術式を構築する作業にかかった。

記憶の中の女性の通りに一から順に丁寧に作っていく。やってみると分かるが、これは相当難しい。いや、魔法なのだから当然だ。

まるで綱渡りをしているような錯覚に陥るほど、危ない橋を渡っている。失敗をすれば術式回路は暴走して瑠璃の神経をズタズタにするだろう。

だが、瑠璃は落ち着いていた。魔法という魔術師の限界に挑戦しているのに、どうしてここまで落ち着けるのだろうか。自分でも分からなかった。


過信しているわけではないが、この術式は私にしか出来ないと思っていた。

何せあの女性の作った術式は癖がありすぎる。もし翡翠の教授にこの術式のコピーを持っていけば赤ペンだらけで終わるだろう。客観的に見ればこんな術式欠陥だらけだと思うはずだ。

しかし、私には分かる。この術式は無駄を限界まで省いて、人間にも何とか扱える限界のラインまで削った魔法なのだと。


だから私にしかこの術式を理解する事は出来ない。



『瑠璃、もう少しだ』



すぐ傍で神龍は術式が暴走しないようにエーテルを制御してくれている。

彼ほどエーテルを上手に扱える龍はいない。



さぁ、来たぞ来たぞ。この完成した術式独特の爆発しそうなエーテルの奔流。



「朱音さん!行きます!」


「了解!せいやァアアアア!!」



朱音は一閃すると生まれた魔物ごと切り裂く。

そして一瞬にして瑠璃の位置まで戻る。それを確認した瑠璃は手を巨大なパラサイトへ向けた。



「眠って!メランコリア!」



瑠璃の手の平から白い霧状の龍の顔が生まれ、パラサイト目掛けて飛んで行く。

命中すると、雲に突入した戦闘機のような音がする。

キラキラと光るメランコリアは次第に効果を発揮し、パラサイトの動きが鈍る。



「よし!成功だよ!さァ!引き剥がすよ!」



だらりと触手が垂れて本体ごと地面に落下しそうなパラサイトの触手を朱音は切断して行く。

その下で瑠璃は豊姫ほどではないが、魔術防御壁をネットに変えて受け止めに入る。



「うんうん、上出来だよ瑠璃ちゃん。やっぱり君は天才だ」


「いえ、そんな、朱音さんがいなかったらこんな高度な術式成功しませんよ…」


「謙遜はなしだよ。さて、わた、あ、いやあたしはこのパラサイトをどこかに埋めて来るから瑠璃ちゃんは戻っていてね」


「朱音さん一人で大丈夫なんですか?」


「うん。もう完全にメランコリアが決まっているから起きることはないよ。それに瑠璃ちゃんは曲がりなりにも魔法を使った。精神は相当疲れているはずだから、今日はもう帰った方がいいよ」



朱音にそう言われた瞬間瑠璃は軽い立ちくらみに襲われた。どうやら体内のエーテルがごっそりなくなってしまっているようだ。



「ね?」


「そ、そうですね。では、先に失礼します」




パラサイトが制御室から離れた事で生み出されていた魔物を朱音は、コンピューターを強制シャットダウンさせることで消滅させた。

これで施設内からも扉を開けて紅哉達も脱出することが出来るだろう。


朱音はアスカロンを抜いた。



「Set.バハムート。フルドライブ」



黄金の宝玉が朱音の大剣に吸収されて行く。

大剣は透き通る剣となり、その剣には色々な紋様が描かれている。



「チャージ。50%……80%……100%……………120%!」



朱音は大剣を虚空に振るう。剣は空間を引き裂き、朱音の先に見えるものは何とも安定しない空間。

そこへ彼女は眠っているパラサイトを投げ入れた。



「バイバイ。スーパーノヴァ!!」



キュオオオオオオオオオン――――――!!!!!



空間内で想像を絶する爆発が起こる。

地球すら壊してしまいそうなブレスは大剣から放たれたものである。



「消滅を確認っと。ありがとね、バハムート」



大剣から黄金のオーブが抜けていくと、朱音はその場に崩れる。地面に倒れる寸前でゲオルギウスが受け止め、彼女をおぶさる。

どうやら強力なバハムートの技を使ったことにより、反動が返って来たのだろう。


今はともかく帰るべきだ、とゲオルギウスは考えた。


瑠璃が魔法使いとしての片鱗を見せた今回でしたね。

まぁ朱音編を少しだけ見ていただいた方なら、瑠璃がどんな風に成長しているのかわかるのですが、そこは置いておきましょう。

朱音も苦労人だな~と書いてて思います。いえ、話を作っているのは私なのですけれどね……。

彼女はただ〇〇を願っているだけなんですけどね………

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