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龍の血を引く者  作者: また太び
8章 全国魔術師運動大会
87/162

暗黒太陽インフェルノ

「炎のドラゴン!?」


「うお!?なんじゃごりゃ!?」



紅哉と癒理は駆けだした。

ヴリトラは大地を抉りながら進む尾を鞭のように振るって、ティアと晴樹をまとめて後方へ吹き飛ばす。

そして更に尾を叩きつけたことによって付属した炎が暴れだし、ティアと晴樹は全身から力が吸い取られていくような感覚と共に、思わず膝を地につく。



「行くぞ!」


「はい!」


「あ!待てこら!」


「ちょっと紅哉!」



力を抜いているとはいえ、ヴリトラの呪いを直接その身に受けて意識を保っていられることに紅哉は少なからず驚いていた。

ヴリトラ本人も意識を奪うつもりで放った呪いが、こうもただ弱体化させただけの結果に終わる事に眉をひそめる。



『嫌な子たちねぇ……アタシの時代にはこんな人間はいなかったのに………これでもあの時代ならば王者を気取っていたのだけれど』



ヴリトラは悪名高き邪龍の一角だ。

人々を苦しめ、英雄によって不意打ちに倒された龍。その英雄も一度はヴリトラに敗北し、不意打ちでしか勝てないと悟っためにヴリトラは敗北した。しかし、伝承ではヴリトラは雷も司ると言われている。人々を苦しめる終わらない雨。つまりは梅雨の時期にヴリトラは復活し、また再び滅ぼされて雨がやみ、そして太陽が照りつける夏が訪れるという。


数多くの邪龍がいる中でも彼女は別格の力を誇る。アジダハーカもヴリトラの行動を制限することは出来ない。力を見せてはいないが、グリンデル、ニル程度の相手ならば完全勝利とはまでは行かないにしろ、勝利を収めるほどの力を持っている。



『アタシはサポートでいいのよ。アタックはニルと紅哉に任せているのだから』



自分でも丸くなったと思う。あの時代では人の意見など無視して当然、略奪こそ全てだと思っていた。しかし、この時代で昔の友人に会ってからか、考え方が変わった。

舞香という自分よりも遥かに劣る者に呼び出され、見渡せばダハーカとグリンデルがいた。


あの暴走したときに、いつも寝てばかりのグータラ冥王龍が必死に自分へ『やめろ!』と呼びかけていた時は笑いが零れたというか、驚いたというか、何とも複雑な感情になったものだ。

それが何の因果か分からないが、今こうしてもう一人の龍使いの少年のパートナーとして第二の人生を歩んでいる。

全くもって面白い事だ。あの時代に生きた自分では到底考えることが出来ない人生だろう。


あの時代はつまらなかったが、この時代はとても面白い。人の営み、娯楽、何もかもが新鮮で、もっと見てみたい、観察してみたい、いや、触れてみたいと強く思った。


この競技というものも誰が考えたのか分からないが、いいものだ。こうして絶対に出会う事がない強敵と出会えるのだ。あの時代で王者の力を振るっていた自分が敵わないと思う敵と出会う。なんて素晴らしい世界だろう。



『バハムート。もしあなたがこの世界を自分の物にしようと考えるのなら、アタシは全力で抗うわよ。こんな楽しい世界、みんながあってこそのものなのだから!』


「サタン!!」


「タテミカヅチ!!」



ティアと晴樹は拘束を打ち破った。



『紅哉、破られたわ。もう十分仕事はしたわよね?戻るわよ』


『了解だ。十分距離は取ったと思う』



ティアのアームと晴樹の金棒が目の前まで迫った時にヴリトラは炎の粉塵となって消えた。

何か一つ言いたいところだったが、紅哉の生み出した炎の龍ということで、喋ったらおかしい。

ここはぐっと我慢してヴリトラは消えたのだった。



『フフ……ホント、この世界は楽しいわね』


『何を急に……』


『ニルも思ったことないかしら。アタシたちが人間に危害を加えないで生活していることがあり得ないけれど、この世界は楽しいからこのままでいいか、とね』


『なんだ、そんなことか。確かにそうだな。ここの世界の人間は平和ボケすぎる。魔物が街を侵略しに来たとか、食料が尽きたから人間同士で争ったりなど一度もない。だが、それがいいのだ。争いのない世界というのは面白い』


『人間の力というものは侮れないものね。アタシたちでも争いは絶えなかったのに、人間は同族の争いというものを根絶させてしまった』


『いや、この世界には俺達が見えていないところで争いが起きている。だけどな、それを世界基準で見ると愚かしいと思えるほどに人間は争いを嫌う認識が出来た』



そこへ紅哉が会話に混ざる。



『その認識が出来たのは、他でもない戦争をしている奴らのおかげだ。極端な話し、戦争も世界貢献に値するものなんだよ。戦争があるからこそ俺達はああはなりたくないっていう認識が出来る。まぁ戦争を全肯定する気はないが、これも世界に欠かせないものなんだろうな』


『人間も難しいものなのだな』


『随分と簡単に片づけたわね……』



レース中だと言うのに気楽なものだ。

後ろから着実に距離を詰めてくるティアと晴樹がいるが、紅哉はまだ余裕のようだ。



「師匠、サタンに追いつかれます」


「ゲイボルグは?」


「発動させてくれると思いません…」


「それもそうだな」



距離にして70mと言った所だが、ティアにとっては10mにも等しい距離だ。伊達に去年紅哉に勝っているわけではない。


ゲイボルグが撃てないとすると、ここはもう腹をくくるしかないようだ。ティアと晴樹と乱戦をしながらゴール直前で1位を取るしかなくなってくる。

ヴリトラがせっかく距離を広げてくれたというのに、瞬く間に追いつかれる。本当に侮れない相手ばかりで紅哉は苦笑いをする。



「ティアっち!先に行くのはなしだぜ!」


「もう!邪魔です!」



晴樹の金棒とティアの拳がぶつかり合う。

二人とも紅哉を意識しているが、それでもライバルには先を行かれたくないというプライドがあり、それが今ぶつかり合っているのだ。



「師匠、来ます!」


「んッ!」



紅哉は振り返りざまに拳を右に振るう。その瞬間、紅哉の拳と金棒が激突した。

そして癒理も槍を力のある限り振るった。


ガキンッ―――――!!!



「これはッ!」



ティアの攻撃は想像を絶するほどの威力だった。

本気で受け止めに入ったにも関わらず、ふわっと足が浮く。


空中ほど防御が難しいことを知っているティアは、そのまま癒理の腹へミドルキックを叩き込む。



「サタン!エンブレム!」



悪魔を模した紋章が癒理の身体へ刻まれる。

特に外傷はないが、嫌な予感しかしない。



「癒理!その紋様が刻まれたら気を付けろ!どこからでも攻撃が飛んでくるぞ!」



紅哉は晴樹を相手しながら癒理へ叫んだ。

癒理は師匠の言葉を一瞬で理解し、左へ飛んだ。その瞬間、全く魔術を発動させる挙動も見せずに、先ほどまで癒理がいた場所に激しい炎が逆巻く。



「なるほど、厄介な能力ですね。これはマーキングですか」



ティアの攻撃をかいくぐりながらも、どこからともなく光弾が飛んでくる。

躱す事は容易だが、ティアが絶妙な感覚で攻めてくるため、攻撃に転じられないことが癒理を苛立たせる。



「本当に厄介…」



癒理がティアの攻撃をいなせることは案外驚くべきことなのである。

ティア本人も表情には出さないもの、紅哉の弟子がここまで出来ることに驚愕していた。

サタンエンブレムを使ったのも、ここで確実に潰しておかないと後々面倒な事になると予感したからだ。



『癒理はティアの攻撃を避けるのに精一杯だな。俺が何とかしないといけないみたいだ…』



紅哉は晴樹の猛攻を避けつつ、隙を探っていた。

しかし、流石というべきか、我武者羅に武器を振るっているように見えて、隙をきっちり隠すこの男に紅哉は感心すら覚えた。



「やっぱ紅哉は強いな!もう楽しすぎてずっと続けていたいぜ!」


「俺はごめんだ!さっさとやられろよ!」



紅哉の小さく息を吐いた。

そして彼の姿は黒炎をまき散らして掻き消える。



「ッ!?」



晴樹は咄嗟に頭を下げた。

次の瞬間炎の爪による軌跡が通る。晴樹の反応速度を僅かに遅らせた紅哉の連撃は止まらない。

爪、足、角、牙、翼、尾、身体にあるありとあらゆる部位が武器と化す。

さながら嵐と言った所だろうか。



「お!おおおおおおお!!!」


「くそ!侮っていたぜ!」




紅哉の連撃に晴樹は顔をしかめる。

そしてここでヴリトラのアシストが入った。



『うふふ、足元がお留守だわ!』


「うお!?なんだこれ!?」



紅哉の攻撃によって完全に動くことが出来なくなった晴樹の足首にヴリトラが生み出した黒龍が噛みついた。



「ぐはッ!?」



突然足から力が抜け、ガクリと体勢を崩してしまった。

紅哉はその隙を逃さなかった。



「ニル!ユニゾン解除!」


「うむ!」



ニルは空中へ飛び、晴樹をドラグシールドに閉じ込めた。

紅哉はユニゾンを解除するなり晴樹へ駆け出し、拳に龍のオーラを溜める。



「おお!?これが龍の結界か!?」


「晴樹!ここでお前は退場だ!」



ニルは口に光を溜め始め、カオスブレスを放つ準備をする。

そして紅哉が晴樹に肉薄した。

空気を巻き込みながら撃ちだされる掌底が晴樹の腹部を貫こうとした―――――



「うおおおおお!!」


「ッ!?くそ!」



晴樹はその直前でドラグシールドを力ずくで破壊し、金棒で紅哉の掌底を受け止めようとしていた。

だが、今更止める事も出来ない。

紅哉は自分がリタイヤする覚悟で攻撃を放つ。


だが、そこへ目にも止まらぬ速さで槍が飛来してきた。その槍は晴樹の右肩に突き刺さる。



「え?お、おい?」



肩の関節を正確に撃ち抜かれた晴樹は、力なく肩がだらりと下がり、腹部が露出した。



「せぇぇえええい!!!」



ドオオン――――!!



「ごはっ!?」



空中へ打ち上げられた晴樹のところへ、ニルがフルチャージしたカオスブレスが放たれた。



「マジかよ……やるじゃねぇか…」



こうして晴樹はリタイヤとなった。



「あの槍は…!まさか!癒理!」



紅哉は息をつく暇もなく、背後で戦っていた癒理とティアを見た。

そこにはゲイボルグを失い、鉄の槍を地面に突き刺して荒い息を吐く癒理がいた。



「癒理!」


「し、師匠……力不足ですみません…」



身体ダメージが限界まで迎えた癒理は光に包まれてリタイヤしていった。



「ダメだったか………………ナイスファイトだったよ、癒理」


「あなたの弟子はなかなかですね。私の弟子にも見習わせたいものです」



ティアの身体にはゲイボルグで傷つけた跡があった。



『ふん、癒理もただでやられたわけじゃないようだな』


『そうね、あのサタン相手にここまでよく頑張ったものだわ』


「今ここにいるのはあなたと私だけ……存分に戦いましょう!」


「それはごめんだな!」


「え!?ちょっと紅哉!あ!待ちなさい!」



紅哉はヴリトラの黒龍を襲わせてティアの行動を封じようとしたが、流石のティアも同じ手は喰らわないようだ。



「ダメか…!」


『あの子化け物かしら?アタシの黒龍をいとも簡単に…』



「紅哉!こちらを見なさい!」



ティアは一気に加速して紅哉の隣に並ぶ。

そして見てしまった、彼女の怪しく光る邪眼を。



「しまった…!」


「ふふ、貰いましたよ!」


『世話をかけるな!』



巨大なアームが眼前に迫った瞬間にニルは紅哉の身体の所有権を奪う。

ニルは巨大な龍翼を操作してアームを防ぎにかかる。



「ぬォ…!?」


「そんな翼で防げると思いまして?」


「ガアアア!!」



一体化しているので、翼も彼女のものということであり、圧し折れそうになる翼の痛みが彼女を襲う。



『ヴリトラ!この呪いはあとどれくらいで解除できる!?』


『今アタシの呪いで対抗しているわ!あと6秒よ!』


『早くしろ!オレの翼がもう持たんぞ!6秒じゃない!3秒でやれ!』


『仕方ないわね!』



紅哉の身体からニルの黒炎とは違う紫の炎が噴き出す。

そしてきっちり3秒で邪眼を解除した。



「うおおおおお!!」


「嘘でしょう!?」



ニルは翼でアームを振り払い、ティアへ拳を叩きつけた。ティアはもちろんそれを防いだが、ここまで早く邪眼が解除されることに驚愕していた。



『今なら行ける!ヴリトラ!』


『全く龍使いが荒いわね!』


「プリズンロック!」


「サタン!」



黒龍はティアから放たれる邪悪なオーラで吹き飛ばされてしまった。



「はぁぁぁあああ!」



ティアのアームが消え、エネルギーとなって手の平に集まりだす。



「やばいやばい!あれが来るぞ!」


『紅哉逃げろ!!』


『あれね!?紅哉が負けたあの技ね!』


「逃さない!」


「やば!ニル!ユニゾン解除!ヴリトラ来い!全力防御だ!」



紅哉の声に反応したニルとヴリトラは主を庇うように前へ出た。

ニルは腕をクロスさせ、ヴリトラは長い身体を生かして蛇のようにとぐろを巻く。



「コキュートスの魔城!」



サタンとは、元はと言えば堕ちた天使だ。それも最上級クラスで神に最も近かった存在。

そんな彼が悪に落ちて住んでいたと言われる場所がコキュートス。

それは生前の彼の城を生み出す一種の固有結界。



「来るぞ!」



急激に温度が下がったかと思えば、次の瞬間強烈なブリザードが襲い掛かって来た。

舞香が本気を出したほどに強烈な氷風は龍族ですら凍てつかせる。



「ヴリトラァ!」


「ええ!ニル!」



だが、この龍族二人も何もしないでこの日を迎えたわけではない。



『インフェルノ!!』



ニルとヴリトラは同時に空中へ向けてブレスを吐いた。

紅哉を守る二人の身体は次第に凍って行く。


ブレスは交差するようにぶつかると、巨大な火球が出来上がった。

まるで太陽のように燃える火球が突如落下を始めた。


バアアアアアアアアン―――――!!!!!



とてつもない熱風が辺りを満たし、氷の魔城は溶けて行く。



「サタン!踏ん張りなさい!」



ギャッ―――!ザザザザアアアアアア―――!



「あ?」


「え?」



何かが壊れた音がした。


ニルとヴリトラによるインフェルノとコキュートスの魔城がぶつかりあった瞬間に何かが壊れた気がした。



ブウゥウウゥウウン……………――――プツン。


そして紅哉の視界は暗転した。


ええっと、久しぶりすぎてあとがきに悩んでおります。

物凄くです………後書きというのは一種のラスボスなんでしょうか。勢いがあるときは楽に突破出来るのですが、何を書こう……と悩んでいるとどこまでも泥沼化してかけずに終わります。

おお、こんな後書きについて書いているだけでここまで書ければいいんじゃないでしょうかwww

ではではw

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