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龍の血を引く者  作者: また太び
8章 全国魔術師運動大会
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北栄のエース?

北栄のエース。それは学校の中で最も強い者を示す言葉だ。彼は背中にエースという名の重りを背負っていた。



「はぁ……もう帰りたい……このまま勝ってもどうせ花梨さんと当たるし……更に更に運よくこれに勝てば、ティアさん、紅哉さん、晴樹さんに当たってどうせ負けるし……もうやだ…」



身長はこの年齢ならば平均的。平均的な身長に加えてもっさりとした髪型に、完全に瞳から光が消えている。顔立ちは幼く、年上の女性からはよく可愛がられそうだが、何せ彼自身が人を寄せ付けないオーラを出しているため、今までにそんな経験など一度もない。


彼の名は鼓桜こおう 神威かむいという男だ。

名前負けしていると言っても過言ではない臆病な性格。しかし、これでも一応は北栄のエースである。



「あの、神威先輩。そろそろ始まりますよ?」


「あぁ……そうだね。僕の事は放っておいていいよ………恋歌さん、ぼちぼち頑張ろうね…」



恋歌と呼ばれた神威の弟子はどう返事をしたらいいのか迷う。


恋歌は真面目な性格だ。きりっとした顔立ちはまさに委員長のようで、実際1年生にして生徒会長をするほど自分の考えを明確に持った女生徒。

伸ばした髪に可愛らしいクマの髪留めをする程度のオシャレをする優等生であり、自分の師匠である神威の言葉にどう返事をすれば気落ちもせず、頑張ってもらえるのか真剣に考える。


しかし、その思考を数秒で切り捨てた。何故なら、何を言っても無駄なような気がしたのだ。



「では、私もスタートラインに行きます。神威先輩。ぼちぼち頑張りましょう」



恋歌にとって神威はどうも出来の悪い弟みたいなものだ。実際学校では友達のいない神威を生徒会室に誘って生徒会役員と一緒にご飯を食べたりもする。なんだか放っておけないのだ。

彼の実力は確かであり、自分も一度だけ模擬試合を申し込んだことがあったが、見事返り討ちにあった。



「試合が始まればいつもの彼に戻ってくれるはずでしょう…」



恋歌はそう言って師匠の元を後にした。


神威は弟子がいなくなった事を確認したら、両腕の袖をまくる。

彼の皮膚は鋼の如く鍛え上げられていた。一度制服を脱ぐと、羽織るように着る。

鍛えられた身体は彼の性格からは想像が出来ないほどだった。



「やれやれ……戦いは君に任せるよ。僕はちょっと休んでいる」


『それではスタートします!よーい!ドン!!』


「ユニゾン」



神威の身体が光に包まれる。

彼のパートナーはSランク魔物ネメアの獅子である。有名な話では、ヘラクレスの十二の難行で倒された魔物だ。ただのライオンとは異なる。母には魔物の母と呼ばれるエキドナ、父はケルベロスの弟であるオルトロスを持つ。


頭には気高き獅子の顔を模した兜。爪は鋼鉄さえも簡単に引き裂く獅子の爪。身体を纏うのは金色の毛並みが目立つ革の鎧。

獅子となった神威は天まで届くであろう雄叫びを上げ、先を走って行った選手を怯ませる。



「あははははは!!!んなことでびびってんじゃねぇ!!」



地を蹴ると、先頭まで一瞬で距離を詰めて無造作に爪を振るう。

さっきまでの大人しい彼はもういない。そこにはただ暴れまくるだけの暴君がおり、神威が力を振るうたび地面が深く抉れる。



「やっぱ楽しいねぇえええ!!」



この時、紅哉、ティア、晴樹、花梨の4名は彼の人格に呆れていた。

つまり、神威は2重人格者である。戦いを嫌う臆病な神威と戦いを好む戦闘狂の神威。

花梨が『ヘタレ』と呼ぶのは臆病な神威の方で、戦いを好む神威の事を『馬鹿』と呼ぶ。

紅哉、ティア、晴樹も神威の事を下に見ている。強いは強いのだが、何せ会話が成り立たないのである。花梨が呆れて馬鹿と言うのも納得できるのだ。



『神威選手は去年同様暴れておりますね~』


『神威選手は2重人格者ですから、戦闘はこちらの彼に任せるのでしょう』


『いつもの彼とは正反対の神威選手に驚かれた方が多いのではないでしょうか』


『2重人格というか、これは思い込みなのですけどね。そうすることで、まるで自分が二人いるように思ってしまうわけです』



そんな彼、神威がレースが成り立たなくするほど暴れてレースは終了する。

恋歌は巻き込まれないように、神威の前を走るだけでレースが終わるのだから、つまらないというわけではないが、どうも歯ごたえがない。



「神威先輩、次はケセラルトのエースとですよ。頑張りましょうね」


「うん……負けそうだけど、精一杯頑張るよ……」



エースという名前を聞いて『ヘタレ』な神威の身体が震える。神威に何を言っても重荷にしかならないのだが、かける言葉がないのもどうかと思った。しかし、やっぱり話しかけてもネガティブにしか考えない。



「はぁ…では、私は先に休んでおきますね」


「うん。僕も身体を休めておく」



人目を避けるように控室に帰って行く師匠を見て、恋歌は深い溜め息をついた。


朱音編も始まり、こっち行ったりあっち行ったりと大変です。しかし、書きたかった以上は仕方がありません。

まだ数話しか出てないのですが、朱音編も絶賛執筆中なのでお楽しみにしていてください。あれ、なんだか朱音編の宣伝になってしまっているような気もしますが、いいですよね!これで!

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