聖ケセラルトのエース花梨
紅哉は1回戦で沖縄Bチームを倒したので、特に流れのない2回戦を無事準決勝へ駒を進めた。
晴樹の強さに敵う相手が3回戦にはおらず、無事彼も準決勝へ駒を進める。
そして迎えた第8戦目。
そこには黄色い歓声を受ける花梨の姿があった。
胸にはケセラルトの生徒を現す十字架。
今ここにケセラルトのエースがレースに立つ。
「花梨さん、今日も落ち着いて行きましょう」
「うむ。この歓声は耳に入らないものとして考えよう」
花梨の弟子であり、花梨の唯一の理解者。
小田桐 和磨が師匠のことを気遣って声をかけた。
花梨は先輩と呼ばれることを酷く嫌う。例え後輩でもフレンドリーに下の名で呼んで欲しいのだが、その願いはネルタの弟子と自分の弟子にしか伝わらないだろう。
だから、和磨は花梨の事を先輩と付けず、さん付けで呼ぶ。
いつも学校の事で悩んでいる彼女の力になりたいと思っているが、ネルタに相談しているので和磨が出る出番はないだろう。
それに彼の学校は男子が極端に少ない。弟子だから傍にいることを許されているが、少しでも近づけば他の女生徒が黙っていない。本当に自分も困った学校に来たものと思っている。
しかし、男子が少ないという事はモテるという意味も表すのではないか、と思うかもしれないが、別段そんなことはない。生徒の大半花梨に惚れていると言っても過言ではないため、和磨にそんな浮いた話はない。彼はそこそこの顔立ちで魔術も適正Aという高い数値を持っているエリートで、中学時代も何度も告白されたものだった。
だがしかし、ケセラルトは別だった。もちろん自分も天津花梨の事は知っていた。沖縄で天津家と言えば剣道一家として有名であり、歴代でも最高の力を持って産まれた花梨のことを知らない沖縄民などいない。
そんな彼女の弟子になれたことは幸運なことで、光栄なことだ。しかし、自分がこうも花梨の陰になってしまうとは思いもよらなかった。
「和磨。お前は私の影に隠れてしまっているが、1年生ではお前の事を高く買っている者もいる。自分の力に自信を持て。私の弟子という自信を持って今回の試合に挑め」
「……ッ!?も、もちろんです!」
「うん、ならいい。さて、そろそろ時間だ。和磨、持ち場に行け」
花梨は少しだけ微笑むと和磨を送り出した。
惚れない方がおかしいと和磨は自分の感情に苦笑いを浮かべた。
「ねぇ、私帰っていいかしら」
「だ、だめですよ!花梨さんに今日こそは応援に来て、と言われていたじゃないですか」
ネルタは左を見ると、人間の限界に挑んでいるような声を出している我が校の生徒を呆れてみていた。
そんなネルタの発言に弟子の兵藤 智明が止めに入る。
「智明、私がいなくても分からないと思わない?」
「思いますが………これ以上花梨さんのストレスが溜まるのはよくないかと…」
「いつも愚痴を聞かされるのは私だものね………和磨に吐けばいいと思うけど」
「花梨さんにその選択肢は元からないと思いますよ」
「それもそうね。和磨も残念だと思うわ。あの子、花梨の事を好きなみたいだけど」
「え!?ネルタ先輩、和磨が花梨さんのこと好きなこと分かっていたんですか!?」
大袈裟なリアクションを取る智明に対し、ネルタは冷ややかな反応だ。
驚いてネルタを見ている智明だが、ネルタはただ試合開始になるまで足を組んで頬杖して待っているだけで、特に智明の反応には興味がない。
「はぁ………あなたね、私の目を甘くみないことよ。花梨の事を見る和磨の目は明らかに違うじゃない。それくらい誰だって気付くわ」
「少なくとも花梨さんは気付いていないようですが……」
「花梨はそういう視線に鈍感だからね。敵意や殺意には鋭い反応を見せるけど、あの子……同世代の女の子の中で恐らく一番純粋よ」
「それは見てきて凄い分かります」
「エロい話にめっぽう弱い所とか、ファッションセンスがゼロだったり、好きな事は剣道とか。どんだけ純粋なんだ、って言いたいわ」
「自分のやりたい事に真っ直ぐなんですよね。そういうのいいですよね。憧れます」
「そうね。花梨の真っ直ぐな心は誰もが憧れるものよ。だから、学校でも人気があるし、エースを任されるほどの力を持っている。私の持つ強さとはまた違ったものね」
ネルタはそう言って智明にポップコーンとジュースを買って来るよう命じる。
花梨に朝早く起こされて『今日こそ絶対に応援に来るのだぞ!』と強く言われたせいか、まだ寝不足気味であり、欠伸を噛み殺す。
智明はそんな彼女の姿を見て『分かりました』と短く答えて席を立つ。
出来れば花梨と和磨の試合を見ていたがったのだが、このお姫様にはそんな願望も通じないだろう。
「智明、私の飲むジュースは分かっているのでしょうね?」
「分かっていますよ。すっきりライチジュースですよね?」
「分かっているじゃない。それがなかったら?」
「辛さ強めのジンジャーエール」
「流石ね。もうあなた卒業したら執事にでもなったらどうなのかしら?」
「それは遠慮しておきますよ。我がままを聞くのはネルタ先輩だけで十分です」
「ちょっと智明待ちなさい!今の言葉についてじっくり話し合いましょうか!」
「では、混みそうなので俺はこれで」
「待ちなさい!智明!ちょっと馬鹿弟子!!」
後ろから散々な事を言われているが、自然と智明は不快に思わなかった。
「姉ちゃんたちに比べればまだマシと言えるか………」
智明は財布をズボンの後ろポケットから取り出しながら、階段を下りた先にある売店の人の数を見てうなだれた。
『あぁ……何時間待つことになるのかな…………これ確実にネルタ先輩怒る…』
さっきの失言と待たせた事によるネルタの怒りを考えたら、智明は胃が痛くなる想いだった。
「花梨の試合か。ネットにアップされた花梨の試合は見たが、こうして生で見るのは初めてになるな」
「はい。ですが師匠。私達がケセラルトと当たるのはもう少し先の話しです。今はエリナール、白銀との試合を考えるべきです」
「そうだな。次の試合はサタン、グガランナ、タテミカヅチ、ガルムとの勝負だ。全部Sランクの魔物。下手すれば逆に狩られる試合になる」
「気を引き締めて行きましょう」
二人しかいない控室で紅哉と癒理はランニングマシンで軽い運動をしながら試合を見ていた。
僅かな緊張とそれを遥かに上回る戦いに対する高揚。自分と互角以上の戦いを繰り広げてくれるであろう親友に紅哉の気持ちは高ぶって来た。
「これに勝てば北栄との試合だ。前回はそこまで手こずることはなかったが、今回はそうは行くまい。さて、そろそろだ」
『油断はしないことね』
脳内でパートナーのジャンヌ・ダルクが氷のように美しく透き通る声で呟いた。
「もちろんだ。私はいつだって、どんな相手だろうと己の力をフルに出してきた。手を抜けば相手に失礼だ」
『あなたはそう、いつも真っ直ぐ突き進む事だけを考えなさい。面倒な事は私に任せればいいのよ』
「あぁ、頼りにしているぞ。ジャンヌ」
花梨の腰には二振りの刀が下げられている。
刀を使う者ならば一目で業物だと分かる刀は、ただじっと主に抜かれるその時を待つ。
右腰には黒と金色で装飾された鞘。刀の名は『金正』左腰には白と金で装飾された鞘。刀の名は『銀正』と呼ばれる刀がある。
これは天津家に伝わる家宝であり、幼いころから2刀流を教えられてきた花梨が中学に上がるとともに父から受け継がれたものだ。
これを受け継ぐということは、天津家時期当主と氷天流明許皆伝を意味する。
「ジャンヌ。今回もお前の力を借りるぞ」
『構わないわ。あたしはあなたが戦いやすいよう、サポートするだけ』
「助かる」
『それでは!よーい!ドン!!』
「ジャンヌ!」
スタートと同時に花梨は金正と銀正を抜いた。抜いた瞬間に二振りの刀は冷気を纏う。
花梨が今した行動はユニゾンだ。これは朱音と同じ事であり、ジャンヌの冷気を武器に纏わせる高等テクニック。
ジャンヌを纏ったことで、彼女の能力である絶対零度と氷の継承により花梨の瞳が青く染まる。
花梨は先に駆けだした生徒に対して、何もない空間を銀正で切り裂く。
すると、衝撃波が一瞬で凍り、氷の刃となって襲い掛かる。
「な、なんだこれ!?くっそおお!」
相手選手は後ろから飛んでくる斬撃を防ぐべく、障壁を生み出すが、一瞬で障壁ごと切り裂かれてリタイヤとなる。
「閃だ」
そして花梨は銀正を鞘へ収める。一度放った冷気が、また鞘を通じて銀正へ集まりだした。
花梨は金正を両手で持つと、30mほど先にいる選手を2人目で捉える。
「氷の響きを受けよ!氷河!」
キン――――!氷に弾かれたような音がした。次の瞬間切り裂かれた地面から氷の波が地を侵食しながら選手たちへ襲い掛かる。
「溶けろ!」
相手選手が炎の魔術を生む出して、氷の波へ火球をぶつける。
しかし、氷は溶けることもなく進行が止まる事はなかった。
「凍てつけ」
氷の波に呑まれた選手2名は恐怖の色で染まった顔で凍っていた。花梨は氷の波を生み出したところで金正を鞘へしまう。
そして手をかけたのは、先ほど鞘へ収めた銀正。それは冷気を帯びて、触れただけで全身が凍り付くような絶対零度。
「これが、氷響天川」
花梨は短く息を吐いて銀正を引き抜いて、横一閃して居合を魅せた。
斬撃は遥か先で止まった氷全てを一閃し、波から逃れた生徒も何が起きたのか分からずリタイヤとなった。
「氷がどこまでも響くのならばこの刃、天まで届かせて見せよう」
花梨は銀正を音も立てずそっと鞘へ収める。
そして己が切り裂き、氷の礫がキラキラと光る氷道を歩き出した。
堂々と歩く彼女の道を阻む者などいない。
時は少しだけ遡り、和磨はやる気に満ちていた。
スタート開始に和磨は己のパートナーを召喚する。
「ゴリアテ!!」
一言で言うのならばゴーレムだ。
3m近い体躯に黒いレンガで作られたような身体。
両肩は煙突のように黒い煙が常時吹き出す。
「オオオオオオオオオ――――!!」
ゴリアテは雄叫びを上げると、身体が光に包まれる。
その光はゴリアテに新たな装備をもたらした。
脆そうな身体を覆う銀の鎧。鋭い角が二本生えた兜を装着されると碧く目が光り、白い煙と共にマスクから白い蒸気が排出される。
膝、肘の関節部にはオレンジ色の肘当てと膝当てが生み出され、ゴリアテは両拳をガチンガチンと身体の具合を確かめる。
「名付けて!コロッサスゴリアテだ!!行け!!」
「オオオオオオオ!!!」
ゴリアテは大地を揺らしながら突き進む。
「ブースト!!」
和磨の言葉にゴリアテが反応した。ゴリアテの両足に装着された巨大ターボブースターが青い炎をまき散らしてゴリアテを加速させる。
「なんじゃありゃああああ!?」
「ォォォォオオオオオオオ!!!!」
ゴリアテは標的を発見すると、右腕を高く振り上げた。
右肩の煙突が火を吹き、一撃を底上げする。
「ストライクスマッシュ!!」
ゴリアテは風を引き裂きながら拳を選手へ振り下ろす。
「甘い!!」
それが分かっていた選手はゴリアテの拳を魔術障壁を生み出して防ぐ。
その時、和磨は心の中で笑った。
「さぁ!見せてやれ!お前の力を!」
「ゴオオオオオオオ!!」
ドッコン―――――――!!!!
「あ?」
ゴリアテの手の甲に付いているバンカーが障壁に叩き込まれた。
パキイイイイン――――――!!!!!そして障壁が破られた。
ゴリアテの拳は見事障壁を破壊して選手を殴り飛ばす。もう、リタイヤを確認するまでもなかった。
『これはゴリアテのパイルバンカーですね。魔術師殺しの異名を持つゴリアテの必殺技。ゴリアテはBランクの魔物ですが、なんと言っても障壁破壊の能力を持つパイルバンカーはまさに魔術師の天敵と言える存在です』
『ゴリアテという魔物はありふれているものですよね』
『はい。ゴリアテの触媒となるものは、大切なおもちゃです。私は女なのでよく分かりませんが、男の子はロボットに憧れるもので、ゴリアテはそれを具現化したものですね。ゴリアテの鎧のイメージはマスターとなる魔術師の思い描くものがダイレクトに反映されます』
『ここに資料がありますね。おお……これは男性の皆様をそそるようなカッコいいゴリアテの写真がありますね』
『ゴリアテはありふれている魔物ですが、人気が最も高い魔物として注目されています。Bランクということもあり、心強いパートナーです』
森山は様々なゴリアテの写真を紹介して行く。どれも男性が一度は憧れたことがある、リアルロボットがそこには実現しており、観客席からは『おおお………』という声があがる。
『ゴリアテは主となる魔術師の適正値が高ければ高いほど、高度な動きを可能とします。和磨選手が操るゴリアテは相当な強さを秘めていると思われます』
『そうですね!和磨選手のゴリアテもかっこいいですねぇ!』
『森山さん、落ち着いてください……』
鼻息を荒くする森山を玲奈は苦笑いを浮かべながら落ち着かせる。
そして場所は変わりVR空間。
花梨は和磨と共にゴリアテの肩に乗っていた。
和磨は後方から飛んでくる魔術を障壁で防ぎ、花梨は銀正で『閃』を飛ばす。
ゴリアテはターボブースターで着実にゴールへと進んでいた。
「ふむ。銀正の冷気を使いすぎたか」
『なら、フルチャージした金正を使いなさい』
「言われなくともそのつもりだ」
素早く銀正を鞘へ、そして金正を抜き出し、勢いよく突きだした。
「氷の礫……!」
金正を覆う冷気が空気に反応して、刀の周りに氷の礫を生み出す。礫は後方の地面へ霰のように降り注ぎ、接触した地面をじわじわと凍らせ始める。
当たった選手はその箇所からどんどん氷に身体を支配されていく。炎でも溶ける事はない氷は相手の恐怖を誘うのに十分だった。
「こんなものだろう。和磨、このままゴールだ」
「はい!ゴリアテ!」
ゴリアテに送るエーテルの量を増やすと、更にゴリアテのスピードが上がった。
「ゴリアテは優秀だな。移動、攻撃、防御、耐久性全てに優れている。いいパートナーを持ったな」
「あはは、そうですかね。僕はただおもちゃが好きなだけでしたからね」
「別にそれでいいのだ。和磨の想いが通じてこのゴリアテがある。そして私たちは1位を掴みとるのだ」
『ゴール!!1位花梨選手、和磨選手です!』
「ふむ。無事にゴールすることが出来たな。次もよろしく頼むぞ」
「こちらこそよろしくお願いします。北栄に負けないように、頑張りましょう」
花梨は金正を鞘へ収めてVR空間を出て行く。和磨もそれに遅れないように出て行った。
「まぁ花梨が負けるとは思えなかったけどね」
「そうですね」
ネルタはすっきりライチジュースとソルトポップコーンを食べながら試合を見ていた。
当然のように1位を取った花梨と和磨に当たり前、と言った感じだ。
「次は北栄だけど、花梨と和磨は大丈夫かしら」
「北栄のエースと当たりますね。花梨さんと和磨なら大丈夫かと」
「心配するだけ損よね。次もだらだらと応援するとしますか~」
ネルタはちうーっとストローでジュースを飲む。智明もジュースだけ買って来ており、手に持って観戦していた。
私、この頃忙しく少し更新が遅れてしまいましたね………ということで、まず82部完結というところですね。
この頃剣ものが多い理由は、『なんだか拳ばっかだなァ……よし、剣増やすか』というごく単純な私の都合上です。彼女たちが本編にそこまでかかわってくるとは思いませんが、もしかしたら私の気分次第で出すかもしれません。
では、次らへん一度ショートコーナーを挟みたいと思います。




