ゲームセンター
「よし!ストライクよ!」
「ネルタさんお上手なんですね」
「あなたがそれを言うの…?」
ネルタとティアはもう俊介と紅哉の事を忘れており、ボーリングを楽しんでいた。
最初こそはネルタがリードしていたが、中盤からコツを覚えたティアが連続ストライクを取り、スコアは並んでいた。
「しかし、ボーリングは面白いものですね。テレビで見た時はつまらそうでしたが、実際にやるとここまで面白いとは」
「私も思った。ボーリングって楽しいのね」
スコーン!綺麗にピンを倒すティアは思わずガッツポーズをする。
ネルタとティアの関係はそこまで良いものではない。実際こうやって遊ぶのも初めてだし、話しかけたのは今日が初めてなのだ。
お互い知っているのは、ただ対戦相手なだけで本当は話す機会など訪れることはなかった。
しかし、この二人を結びつけたのは紅哉と俊介だった。
「はぁ……私は俊介さんに用あっただけなのに…」
「私も紅哉に用があっただけでしたが……」
『まさかこんな事になるなんて……』
二人は隣の隣でボーリングをしている男の子を見る。
二人は最初こそ投げていたが、中盤から1回も投げなくなった。その理由としてはニルが俊介の番を取り、ヴリトラが紅哉の番も取ったからだ。
すると、二人は1万円札を置いて立ち上がった。何やらヴリトラとニルに話して2階へ行ってしまった。
ちなみにこの時既に彰とオーディンはこの場にいない。
「あのティアさん、あの二人上に行ったけど」
「そうですね……上に何かありましたか?」
「ゲームセンター……とあるわね」
「私たちも行きましょう」
そう言うと二人はゲームを中断してシューズ代とゲーム代を払って紅哉と俊介が行った2階へ走る。
2階へ着くと、いきなり耳にゲームセンターならではのうるさいゲームの音がする。
UFOキャッチャー、格ゲー、麻雀、メダルゲーム、競馬、魔物賭け勝負などなどある。
二人はしばらく歩くと、紅哉と俊介の姿を見つけた。
彼らの手には黒いボトル。恐らくその中にはメダルが入っているのだろう。
学校から離れるとすぐ一般の世界が広がっている。
今更の説明だが、魔術というものは余り世間には馴染みがないものだ。
有能力者より無能力者の方が圧倒的に多いし、もちろん有能力者は無断で魔術を行使することは許されていない。
そしていまの一般学生の中で話題なのが、魔物賭け勝負だ。
ティアとネルタは偶然会ったかのように二人に話しかけた。
「あ、あら偶然ですね。紅哉」
「こんにちは、俊介さん」
「お、ネルタじゃないか。どうしたんだ?こんなところで」
「ティア、お前が俺達の後を付けていたことくらい知っているぞ」
「な!?わ、私の尾行がばれていた!?」
「お前なァ……俺は幼い頃から鍛えられているんだ。自分を負かしたティアのエーテルくらい感じ取れて普通だぞ」
「紅哉、俺の予想としてはケンタウロスらへん勝ちそうだが」
「おっと、そうだな。倍率は低いな……まぁ、このコロシアムではBランク程度が最強だしな」
俊介がメダルをジャラジャラ弄りながら賭けようとしている魔物を挙げる。紅哉はそれに乗るか、乗らないか頭の中でシュミレートする。
「ネルタ、立っているのも辛いだろ。俺の隣に座れよ」
「い、いいの?」
「おう。女の子立たせているような奴は男じゃねぇ」
ネルタはパァっと顔を輝かして俊介がずれて空いた椅子に座る。一人用ということで狭いが、二人は余り関係ないらしい。
「んじゃ、ティアも座れよ」
「んじゃってなんですか……」
紅哉は俊介の言葉を聞いてティアを隣に座らせた。肩が触れ合っているが、紅哉と俊介はそれよりも賭けに忙しい。
「俊介、もうちょっと冒険しようぜ」
「そうだな~勝っても倍率がいまいちだし。俺もそれでいいぜ」
「あなた達は何をしているんですか?」
「あぁ、これはモンスターコロシアムって言ってだな、一般学生の間で最も流行っているゲーセンのゲームなんだ」
「出ているのは大体CからBね。俊介さん、AとかSはないの?」
「あるっちゃあるが、たまに出る程度か?」
「お助けとして出てくるときがある。魔物が集中的に狙われたり、余りにも強いモンスターが出た時にそれをひっくり返す力としてSランクやAランクが出てくる」
「面白そうですね。紅哉は何に賭けるのですか?」
「俺の中でシュミったが、今この中で一番強いのがギガンテス。んで、一番低いのがスライムだが」
紅哉は自分の目の前にあるタッチパネル式の画面で賭けることが出来る魔物をティアに見せる。
レートが載っており、ギガンテスが勝った場合の倍率が1.1倍だ。安全だが、コインが目に見えて増える訳ではない。
「んで、最初俺と俊介で選んでいたのが倍率1.8倍のケンタロウスだ」
「スライムは………99倍なの!?」
「まぁ……Eランクだしな…」
ネルタも俊介に説明してもらいながら魔物を見ていた。
「だがまぁ、さっき言った通り稀に、本当に稀にだがSランク降臨がある。それを狙うプレイヤーもいるんだなァ…」
「出た時はアツいぜ?演出が凄いからな」
「えーと、それで時間も余りないからさっさと賭けたいんだが、どうするよ」
「私としてはこの倍率2.0倍の黒騎士がいいと思います」
「どうしてそう思うんだ?」
ティアは真面目な表情でC-の魔物黒騎士を選んだ。
兜から黒い霧を出して、血塗られた剣と黒い盾を持っている騎士はアンデットに属する魔物だ。
「耐久を見てください。この黒騎士は耐久がBとなかなかです。他はEとかDですが、生き残るだけなら問題ないかと」
「なるほどな。制限時間勝ちを狙うつもりか。面白い」
紅哉はティアの提案に乗った。
俊介はネルタと相談しており、やはり最初のケンタウロスにするようだ。
この時賭けられる魔物は全5体。
倍率の低い者から、ギガンテス、ケンタウロス、黒騎士、ガーゴイル、スライムとなっている。
ガーゴイルは倍率16倍となかなかだが、伊達にスライムの前に出来ているわけではない。
ちなみにAランクSランクお助け召喚は倍率が最も高い魔物にしか現れない。
「メダルは様子見の10枚でいいか」
「俺は20枚で行くぜ!」
タッチパネルを操作して二人は魔物にメダルを賭けていく。
他の椅子に座っているプレイヤーも各々の魔物へ賭けて行き、時間がゼロになるとVR空間による魔物の対決となった。
コロシアムステージは周りが円になっているコロッセオのような場所だ。
そして魔物が端に召喚され、バトル開始と同時に中央に魔物が駆けて行く。
「よく出来ているのね。本物の魔物ようだわ」
「まぁ、本物の魔物のデータを使っているそうだからな。CGではあるけど、本物っぽい動きをするだろ?」
やはり最初の脱落者はスライムだった。
ギガンテスの足に踏み潰されてHPバーが一瞬でなくなる。
今回はお助けが現れないようで、他の席に座っているプレイヤーの舌打ちが聞こえる。
「行け!ケンタウロス!」
ケンタウロスは空を飛んでいるガーゴイル目掛けて弓を射る。
見事ガーゴイルの胸に突き刺さり、ガーゴイルはクリティカルダメージを受けて一瞬で敗退となった。
あと残るは、この試合最強のギガンテスと無難なケンタウロス。そして耐久だけならそこそこの黒騎士。
「黒騎士はどんな能力なんだ……」
「これ、能力も見れるのですか?」
紅哉は自分の賭けた魔物の能力を見るためにステータスをタッチした。
すると、黒騎士の立ち絵と共に全体のパラメーターと能力が映し出される。
「呪いと騎士の誇りか」
「自分のパラメーターを一段階上昇と相手の能力を一つ使わせなくするようです。そして騎士の誇りは強敵と出会ったとき自身のパラメーターを1段階上げると……これ、結構耐久期待できそうですね」
「そうだな。ギガンテスとケンタウロスが強いから耐久はこれでAになっているはず。後は呪いを発動してくれるといいんだが……」
こうしている間にも3体の魔物によるバトルロイヤルは続く。
ギガンテスはHPが高いのか、黒騎士とケンタウロスの攻撃を受けても余りバーに変動はない。
ケンタウロスも安定した戦いを見せ、黒騎士だけが攻撃力に欠けているようだ。
「やば!ギガンテスの能力だ!」
俊介が叫んだ。
巨大モニターにはギガンテスが叫び、コロシアムの地面ごとひっくり返そうとしていた。
「馬鹿力ね…!俊介さん、ケンタウロスが喰らったら耐える?」
「無理だなぁ……ギガンテスは攻撃だけならAだ……耐久Dのケンタウロスじゃ辛い」
「紅哉、これは期待できるのでは?」
「そうだな。ここで呪いが発動すれば……!」
その時だった。
紅哉の画面に黒騎士のカットインが入った。
「お!?これは能力発動か!」
黒騎士は剣をケンタウロスとギガンテスに向けると、2体の魔物の身体は一瞬だけ黒く染まる。
これでパラメーターが全て1段階下がったはずだ。
下げた直後にギガンテスがコロシアムの床をひっくり返し、ケンタウロスと黒騎士は押し潰されてしまった。
HPバーが減る中で紅哉とティアは祈る。耐えてくれ!と。
「やっぱダメだったかぁ!」
「ちょっとギガンテス強すぎじゃない!?」
先に耐久の低いケンタウロスが敗退し、黒騎士のHPバーは赤一歩手前で止まった。
「よーし!!!呪い最高!!!」
「いいですね。騎士の誇り最高です」
黒騎士は身動きが取れないが、地面をひっくり返したギガンテスも自分の岩を破壊出来ず、そのままタイムアップとなった。
勝った紅哉とティアにはメダル排出口からジャラジャラと気持ちのいい音と共にメダルが出る。
「やったなティア!」
「はい!」
思わず二人はハイタッチをした。
「やっぱ見ただけのパラメーターじゃダメなんだな。もっと魔物の能力も知らないといけない」
「やられたぜ。ギガンテスはあのひっくり返しがあるから怖いんだよな~」
「普通に戦えば余裕で勝てるのに……」
「まぁまぁ、これがこのゲームの醍醐味ってやつだよ。魔物に任せるから試合がどうなるか分からない。これが楽しいんだ」
俊介がネルタへ熱心にこのゲームの良さを伝える。
ネルタはケセラルトの剣聖と呼ばれている。エースではないが、エースを任せられるほどの力を持っている。
しかし、なんというか、聖ケセラルトはシスターの教師が多いせいか、男子生徒と女子生徒の割合が酷くバランスが悪い。ケセラルトのエース。天津 花梨は口調が男らしいせいか、毎日女子生徒からラブレターが届くそうだ。
去年、エース同士で親睦を深め会おうという事で、大会終了日のパーティーで踊った事があった。
その時に花梨はかなり男子エースに愚痴を言っていた。
「私も人並み程度に恋はしたいと思う。だが、こうも毎日ラブレターが送られてくると私はもう男なのではないか?という錯覚に陥るのだ………」
相当悩んでいた。
花梨はネルタにも色々仕事を任せたりするそうで、ネルタ本人にも手紙は届くらしい。
学校の環境があれなので仕方ないと思うが、紅哉は同情したくなる愚痴だった事はよく覚えていた。
「ネルタ。今日は花梨が出るよな」
「出るわ。でも、私が行かなくても応援してくれるわよ……」
俊介も紅哉から話を聞いているので、花梨の周りがどんな事になっているのかよく知っている。
「ふむ……」
ティアは携帯端末のテレビを無言で起動する。
『きゃーーー!!花梨様あああああああ!!』
そして無言で消した。
「よし!次はどの魔物に賭けるかな!」
「紅哉、ちゃんと魔物の能力も見てくださいね」
「ネルタ。次はどれがいいと思うよ?お前は俺より魔術師として格上なわけだし、意見を聞きたい」
「そうね……私としてこいつか、こっちがいいと思う」
少なくとも、紅哉、ティア、ネルタは後で花梨の愚痴を聞くことになるだろう。
天津花梨。ケセラルトのエースですね。
ジャンヌダルクという英雄をパートナーとしている女性で、カリスマ性が高く、リーダーシップの資質がある2年生です。
中学までは海外で過ごしており、海外の学校の推薦でケセラルトに入った彼女は騎士みたいな物腰のせいか、一日で有名になったというエピソードもあります。
番外編でほかの学校のエースの話を作ってもいいかもしれませんね。




