2重尾行?
紅哉たち翡翠メンバーはホテルに設置されたジムで汗を流していた。
2日目だが、1日目で紅哉の東京チームは全て出たため、今日は観戦しながら身体を鍛える日となる。
「紅哉兄さん、僕と模擬戦をしてくれませんか?」
「いいぞ。お前とやるのは炎道家以来だな」
腕立て伏せをしていた紅哉は彰の誘いに乗った。
VR空間に入ると、周りはコンクリートで固められたような空間となっている。
シンプルステージというもので、一番何もなく戦いやすいステージだ。
「兄さん、武器は何を使うのかな?」
「俺はグローブしか使えない。麗華さんに刀の扱い方を教わったが、やっぱりセレナに教えて貰った徒手格闘だな」
「僕はオーディンの能力で全部の武器を使うけど、いいよね?」
「別に構わない。よし、来い!」
彰と紅哉の模擬戦が始まった。
そして別に分けられた空間では2体の龍が一人の神を見下ろしている。
「あなたが主神オーディンね。一度ニルに負けたそうじゃない」
「それは彰が使いこなせなかっただけだ。オーディンだけでも戦えるやつだぞ」
「そういうことだ。かかってこい、邪龍よ」
オーディンは私服のまま余裕の笑みを浮かべて、龍を挑発する。
「ほう、鎧を付けるまでもないか。随分と舐められたものだ」
「いや、貴様らの強さは我がよく分かっている。だが、気持ちの変化というものだ。我は余り鎧が好みではない」
「あら?あなた、あのマスターの事が気になるのかしら?うちのニルと同じねぇ…」
「おいヴリトラ!何を言っているのだ!」
「そんなムキになるところが既に肯定しているということよ」
「まぁそういう事だ。我と我が主の関係はそう浅くないのでな」
オーディンは一つの剣を召喚する。そして背には弓、槍。腰には鎚、鎖を生み出す。
「少し遊んでやろう。我にグングニルを出させたら貴様らの勝ちだ」
「やっぱり舐めてんじゃねェか!!!」
「舐めていると痛い目見るわよ!!」
ヴリトラの尾が4つに分かれ、オーディンの真上から槍のように降り注ぐ。
オーディンは走りながら一つだけ当たる事を予期し、頭の上に剣を置く。
それと同時に尾が襲い掛かり、剣にぶつかる。
「そんなの圧し折ってあげるわ!」
「ふむ、龍の力にこの剣が敵うはずもない。最初から力比べなどするつもりはないぞ」
オーディンはクンと剣を傾けると、尾は滑るように受け流された。
「行くぞオーディン!」
ニルのラッシュはVR空間の床を砕き、クレーターを作るほどだが、オーディンは慌てたりもせず全て見切る。
「甘いぞ!」
オーディンはニルの隙を見つけると、飛び上がる。そして空中で一回転する。そのはずみで背中の槍を落ち、槍を踵落としで投擲した。
「足癖が悪いわね!プリズンホールド!」
ニルに襲い掛かる槍をヴリトラの身体の炎から龍の腕が伸び、槍を掴んだ。
その隙にニルはオーディンの元へ飛びあがり、足を掴む。
「む!?」
「オラァアアアア!」
そのままニルは壁へ投げつける。
「来い!我が愛馬スレイプニル!」
飛ばされている間にオーディンは激突する壁にスレイプニルを呼び出し、スレイプニルはオーディンの足へ向けて後ろ蹴りをする。
すると、オーディンは弾丸のようにニルへ迫り、すれ違いざまに脇腹を斬りつける。
そして更に後ろへいたヴリトラにも神速の剣技をお見舞いし、地上へ足を付ける。
「グゥウ……」
「流石ね…!」
「どうした。龍の戦士はそこまでのものなのか?」
オーディンは挑発するように左手で髪を払う。キラキラと光に照らされて光る黄金の髪は美しい。
「まだまだ!」
「当たり前よ!」
「来い!」
オーディンは腰の鎖を振り回し始めると、腰に着いていた時よりもずっと長くなっていた。
「これはドワーフが作った魔法の鎖だ。貴様ら魔物を捉えるために作られたものだぞ。フェンリルは壊したが、貴様はどうだ?」
「ぬう!?なんだこれは!」
鎖は生きているが如くニルの身体を巻きつけ、ニルは足掻くがよほど強固なのか壊れない。
「ニル!いま行くわ!」
「ヴリトラ、貴様にはこれだ」
オーディンは足で鎖を踏みつけて背中の弓を取り出す。
そして光の矢を構えると、静かに放った。
矢は途中で2本にばらけ、それが更に2本、また2本と分裂し、ヴリトラに無数の矢が襲い掛かる。
ヴリトラはニルとは違い聖属性には弱いため、炎の壁を作ってなんとかこれを防ごうとする。
「オォォオオオ……!」
オーディンはヴリトラの行動を阻止すると同時にニルを縛っている鎖を振り回し始め、ヴリトラの炎の壁へ投げ入れた。
「ちょっと!?ニル!?」
「オオオオ!?」
ドガアアアアアアアン―――――!炎の壁はいとも簡単に壊れて邪龍2体仲良く壁へ激突した。
オーディンは圧倒的だった。
グングニルを出さずとも邪龍を凌ぐ強さはまさしく北欧の主神に相応しいものだった。
彼女は床に転がっている槍を拾い上げて背中へしまう。
ぱっぱと服の汚れを取ると踵を返してVR空間を出て行った。
「お前らぼろ負けじゃねェか……」
既に模擬戦を終えた紅哉と彰がニル、ヴリトラVSオーディンの試合を外から見ていた。
彰はオーディンと笑顔で会話しており、彼女も楽しそうだ。
それを見ていた紅哉は面目無さそうにしている2体の邪龍に困り果てている。
「オレはいくら聖属性耐性がついたと言ってもオーディンの聖は他のものとは違う」
「そ、そうよ!オーディンの一撃はとっても痛いのよ!」
「分かった……言い訳は分かった………でも、一発も入れられないとかどういう事だ…」
『…………』
「まぁオーディンが強いのは分かるよ……」
ちなみに紅哉と彰の模擬戦は紅哉の勝ちだった。
彰の武器を紅哉が拳で握り潰し、セレナの十八番である虎雷砲ならぬ、龍虎砲で彰に勝利した。
「兄さん、僕とオーディンは少し出かけてきますね」
「おう。いってらっしゃい」
制服に着替えた彰はオーディンと共にジムを出て行く。
そこで疑問が沸いた。一人でならともかく、オーディンと、というのはどういう事だろう。
「ん?紅哉はどうかしたの?」
「なァ、オーディンと彰って何をするんだ?」
「デートじゃないのかしら?」
「デ、デート!?パートナーとか!?」
「驚かれてもね……オーディンはそのつもりじゃないかしら?」
紅哉は椅子にかけていた制服を羽織ると立ち上がる。
「紅哉どこに行くつもり?」
「おい、マスター。まさか追うつもりか?」
「だって気になるじゃないか。大丈夫だ。隠密活動なら問題ない」
「面白そうじゃない。アタシも行くわ」
「うむ……オレもついて行こう」
「お?紅哉、どこか行くのか?俺も暇だし行くぜ」
「まぁそんな面白くないと思うが、行くか?」
「それは俺が見てから決めるぜ。今日は息抜きということで行こうぜ」
脱ぎ捨てた上着を着て紅哉と俊介はすぐ着替えを始める。
そして紅哉たちはそっとジムを抜け出して彰とオーディンの後を追った。
筈木ネルタは東京チームが泊まっているホテルに来ていた。
少しウェーブのかかったブロンドの髪を弄り、かれこれ30分くらい入り口で立ち止まっている。
どうやら、俊介に会いに来たようだが、入る勇気が踏み出せないらしい。
「う、うぅ……きょ、今日はせっかくの休みですし、祭りでもど、どうでしょうか?」
そう言ってネルタは顔を真っ赤にして髪を乱暴に掻く。
「こんなのいつもの私じゃない!!ど、どうしたというの!?」
「あなた、確かケセラルトの生徒ですよね。こんなの所で何をしているんですか?」
「あ、あなたは!?」
ファッション雑誌から抜け出したかのような服装にモデル体型。今日は一段と綺麗な金髪を春風になびかせながらジト目でティアはネルタを見ていた。
「あ、あなたこそ何をしに来たの?」
平静を装ってネルタはティアに問うと、ティアはあからさまに動揺した。
「白銀のエースであろう方が東京チームに何の用?」
「べ、別に翡翠に用があったわけじゃありません!」
「誰も翡翠などと言っていないのだけど……あなた、紅哉さんに用があるの?」
「こ、紅哉に用などありません!ただ昨日祭りに行ったのに消えてしまった彼に文句を言いに来たのです!」
「用があるのかないのかはっきりしなさいよ……」
テンパっているティアにネルタはため息をつく。すると、ジムの方から抜け出してくる2人の男子生徒を彼女らは発見した。
「あ、あれは……紅哉さんと俊介さん!?」
「こ、紅哉!あなた昨日私を置いてどこにい―――むぐ!?」
「ちょっと待ちなさい。あの人達は何をしているの…?」
紅哉を大声で呼ぼうとしたティアの口を手で塞ぐネルタは彼らの不審な行動に目を付けた。
こう、まるで誰かを尾行しているような、そんな動きに。
「プハァ―――!あ、あなた何てことするのですか!」
「ティアさん、追ってみるわよ」
「え?まぁ、私は紅哉に用があるのですから構いませんが。あなたは誰に用事があったのです?」
「わ、私の事はいいの!ほら、見失うわ!」
こうして2重尾行が始まった。
まだまだ続きますよこれは!
えーと、気付いたら80部近いですね。この龍者はどこまで行くのでしょうかね。私にもわかりませんが………紅哉編でここまで続くと真章朱音編でどこまで行くのかわかりませんね~。朱音編は新しい小説の話として出す予定なので、この部が直接引き継がれるわけではないのですが、話はちゃんと続いているのですごいことになりそうです。




