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龍の血を引く者  作者: また太び
8章 全国魔術師運動大会
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未来への影響

「なぁゲオルギウス。これで未来が変わるのか?」


「これで未来が変わるはずだ。、最低でも未来の危機を先延ばしにすることは出来ただろう」


「オレは未来を直接見たわけじゃないから分からねぇけどよ。旦那とかみんな死んでしまうような未来なのか?」


「そうだ。しかし、朱音はその未来自体変えるつもりではない。ただ、自分の父親と母親が生きていて欲しいだけなのだ」


「いつも笑ってっけど、影では笑ってねぇんだな。あの嬢ちゃんは」



リンは槍を担ぎながら街へ帰って行った。




黒河ティアは待ち合わせ時間1分を過ぎた事に怒りを覚えていた。



「遅い!あの人はいつもいつも私の琴線に触れるような…!で、でもあの凛々しい横顔が……はッ!?べ、別に好きなわけじゃなくて!ただの対戦相手として紅哉の力を探るために私は彼を祭りに誘った!よし!大丈夫!」



ティアは薄く化粧をしており、ファッション雑誌を見て自分を磨いたこの服装に少し自信があった。

ちゃんと話す話題も考えて来たし、どこを回るかも把握してきた。



「か、完璧よ!こ、紅哉は私を見てどんな反応するかな……」


「ねぇお母さん。あのお姉ちゃんさっきから一人で喋っているよ?」


「こら!見ちゃダメ!」


「うっ………へ、平常心平常心……はぁ…」



髪をしっかり手入れしてきたし、自分のスタイルに自信がないわけじゃない。むしろ学校ではちやほやされている自分がどうしてここまで紅哉に思いを寄せるのか分からない。



「すまん!遅れた!人が多くてまともに進めなかったんだ!」


「あ、あなたって人はいつまで人を待たせ……るん………ですか?」


「やっほー!ティアちゃん!久しぶりだね!」


「こ、こんばんは。ティアさん、私の事を覚えていますか?」



ティアは持っていたバックを落としそうになった。

確かに自分は一人で来いと言わなかった。しかし、まさか女の子を二人連れて来るとは思わなかったのだ。

これは完全に自分のミスだ。そう、この男はどこまでも鈍感なのだ。



「こ、こんばんは瑠璃先輩、豊姫さん……お久しぶりですね」


「いや~紅くんと祭り行くつもりだったんだけど、ティアちゃんの方が一足先に誘っていたんだね~」


「あ!私のこと覚えていてくれたんですか!?嬉しいです!」


「どうせなら人が多い方が楽しいだろ?それで誘ったんだが、ダメだったか…?」


「い、いや……そんな事はないのですけど、まさかこの二人が来るとは思わなくて」



ティアは引きつった笑みしか浮かべることが出来ない。

そして瑠璃は笑顔でティアの肩を掴むと、豊姫も連行されて道の端まで行く。



「残念だったねぇ……紅くんとデートなんて甘い考えは私と豊姫ちゃんが許さないよ~」


「……ッ!?な、なんでそんな事を言うのですか?わ、私はただ対戦相手の力量を探るために誘ったわけでして」


「ティアさん。嘘はよくないですよ」


「と、豊姫さんまで!?あ、あなたはそんな人ではなかったはず…!」


「いいティアちゃん?紅くんは、渡さない」


「………いいでしょう。あなた方の決意は分かりました。しかし、ここで引くようなら白銀のエースを任された私のプライドが許せません」


「え、私も勝手に…?あとティアさん、そのプライドってなに…」


「牽制するけど、私と豊姫ちゃんは紅くんの彼氏だからね?」



白銀のエースにボディーブローが入った。(注意・これは言葉の暴力である)

だが、これくらいで膝をつくようなエースではない。



「不潔、と罵ってあげます。彼には相応しい方がいるのです。それは誰か……もちろん私しかいません。それに社会が認めませんよ?妻は一人のみだ!」


「ふっふっふ……甘いね。紅くんは私と豊姫ちゃん二人を幸せにすると誓ってくれた。男に二言はないよ!」


「あ、あのお二人さん……お祭りに行かないの?」



豊姫は争いを好むような女ではない。それに、紅哉はああいってくれたものの、本当の所はいつでも身を引ける覚悟は出来ている。自分は紅哉には相応しくない。瑠璃こそふさわしいのだ、と。



「それにいいのですか?アイドルのあなたが二股をしている彼氏と付き合っているとばらされたらアイドル活動に支障が出るのでは?」



瑠璃の頬にジャブが入った。



「べ、別に紅くんだけのアイドルとして生きるもん!私の資産を舐めないで欲しいね。それに私の従姉に玲奈ちゃんがいるもん。アイドルをやめた所でお金には困らないし、今の生活を続ける程度なら何の問題もないよ!」



「くッ…!ああいえばこういう……!」


「ティアちゃんはまだ女の子だもんね。私みたく女になっていないもんね~?」


「………分かりました。あなたが一夫多妻制を認めるというのなら、私が増えた所で問題はありませんよね?2人でも3人でも同じだ」


「なッ!?ちょ、ちょっとそれはダメ!」


「何故ですか?例えばこんな風に」


「お?話は終わったのか?って何をしてるんだァァ!?」



ティアは金髪を揺らして紅哉に近づくと、紅哉の左腕に抱きつく。



「紅哉、遅れてきた罰です。今日一日こうしていなさい」


「ダメダメ!絶対私が許さないんだから!」



瑠璃は紅哉の右腕に抱きついて反対側にいるティアに猛反発する。



「あなたに拒否権はありませんよ、紅哉。女の子を待たせた罰です」


「紅くん!そんな女振り払っていいよ!この女狐は玲奈ちゃんより厄介!」


「め、女狐ですって!?一つ上の先輩だから敬意を払ってきましたが、流石に言葉が過ぎるのではないですか!?」


「ううん!ティアちゃんは私の紅くんを奪おうとしているから当然だよ!」



紅哉は自分の腕を掴む二人に力が丁度抜けたのを見計らってするりと抜けると、背後にいる豊姫の手を無言で引いて祭りへと向かった。



「よ、よかったの?瑠璃先輩とティアさん凄い怒りそうだけど…」


「ダメだありゃ……あの二人は去年から馬が合わない……」


「会うたびに喧嘩してるよね」


「埋め合わせはするから、今日は俺と豊姫だけで楽しもうぜ」


「あ………二人きりだね……そう言えば…」



手を繋いでいるのも急に恥ずかしくなりだした豊姫だが、紅哉は屋台を見ながら何を食べようか悩んでいる。

それを見た豊姫はなんだか一人だけ意識しているようで、いつも通りの自分で行く事にした。



「紅哉くん、あっちに全国のB級グルメが集まった屋台が出てるそうだよ」


「お!?マジで!?今年も凄いなァ!行ってみるか!」


「うん!」



紅哉は豊姫の手を取って走り出した。



『やっぱりこの距離が一番心地いいな……私は紅哉くんの右腕でクラスメイト。その方が瑠璃先輩に変な嫉妬もしないし、楽しい時間がいつまでも続く』



豊姫は夜の街が祭り一色に彩られているのを見て興奮している紅哉の横顔を見る。

彼の隣は瑠璃。私は3歩後ろを着いて行く。



『瑠璃先輩は私が紅哉くんの事が好きなことを肯定してくれた。でも、やっぱり紅哉くんの恋人になっても全然距離は変わらなかった。ただ、紅哉くんにいらない想いを押しつけて苦しめただけだった。だから、この祭りの後に言おう』


「豊姫!あの焼きそばうまそうだ!」


「うわ、凄い行列だね」


「でも、これが祭りの醍醐味だろ?並ぶのもまた一興だ」


「そうだね」


「ん?豊姫、気分が悪いのか?顔色が優れないが」


「ううん!こんなに人が多いからちょっとね」


「そうだな~。こんなに人が多いのは1年でこの時期だけだしな」


「あ、紅哉くん。東京湾で日本最大の打ち上げ花火が始まる時間だよ」


「マジで!?あ、もう20時か!焼きそば買ってベストポディション取りに行こうぜ!」


「良い場所知ってるから、焼きそば買ったら行こう?」


「おお!やっぱお前は頼りになるな!」



紅哉と豊姫は焼きそばを買って街外れの山に行く事にした。



「お~ここからだとよく見えるな~」


「うん。誰もいないでしょ?」



周りには誰もいなかった。そして坂になっている草むらに二人は腰を下ろす。

豊姫は携帯を取り出すと、時間を確認する。丁度20時になった所だった。



「お、始まったな」


「うん………綺麗だね」


「花火はホント綺麗だ。子供の頃はこの音で泣いたもんだったけどさ」


「私も子供の頃はお父さんの影に隠れてこっそり見てたよ」



赤、青、緑と様々な花火が打ち上げられ、夜空に花を咲かせる。

一瞬だけれども、花火は残像となって紅哉と豊姫の目に焼き付く。



「あのね、紅哉くん」


「ん?」



豊姫は話を切りだした。

いつもと違う雰囲気の豊姫に紅哉は少しだけ身構えた。



「紅哉くんは、瑠璃先輩の事が好き?」


「なんだよ突然…………まぁ、好きだな」


「私の事も好き?」


「好きだぞ」


「ありがとう。でもね、私分かったんだ」


「何がだ?」


「私は身を引こうと思う」



花火の音がやけにうるさかった。



「え…?どういう事だ…?」


「私は紅哉くんの事が好き。紅哉くんも私の事を好きって言ってくれた。とても嬉しかった。でも、私は前みたいな友達の関係の方が好きだった」



豊姫の言っている事が分からなかった。いや、理解したくなかった。

紅哉は二人を幸せにすると誓った。



「紅哉くんが私の事を幸せにするって言ってくれた時本当に嬉しかった」


「あぁ。嘘であんなこと言えるか」


「うん。嬉しかったよ」



豊姫は思い出すかのように『嬉しかった』と繰り返す。



「紅哉くんは強い人だからね。本当に私と瑠璃先輩を幸せにしてくれるんだと思う」


「あぁ、絶対に幸せにする。何があってもこれだけは決して曲げない」



豊姫は頭を紅哉の肩に預ける。



「だから………紅哉くん、私と別れてください」


「な、なんでだよ………俺、お前のこと幸せにするって…誓ったのに……」


「うん、うん……紅哉くんの決意はちゃんと私の心に響いたよ。でも、私の分の想いも瑠璃先輩に使ってあげて?」


「俺の何がいけなかったんだ……」


「どこも悪くないよ。いつもかっこよくてクールで、皆を引っ張っていく翡翠のエースだよ。そんな紅哉くんを私は好きになったんだから、あなたはどこも悪くない」


「尚更分からない。どうしていきなりそんな……」


「ホントどうしてなんだろうね。なんだかこのままじゃきっとダメな気がしたんだ。誰かを悲しませてしまうような、そんな気がして…」


「俺は瑠璃も豊姫も悲しませたりなんかしない!」


「ううん、私でも先輩でもない。違う子……私たちが知っているようで、知らない子……その子が泣いているの。この東京とよく似た場所が火の海になっていて、たくさんの魔物が溢れだしていたの。そこで赤い髪をした小さな女の子が泣いているの……」


「え………誰なんだ…?」



紅哉の問いに豊姫はゆっくりと首を左右に振る。



「さっき急に頭に浮かびあがってね……その場所で私は小さな女の子を二人連れて逃げている。それだけ頭に入って来て……」


「それが俺と別れる話にどんな関係が……」


「どうしてだろうね……分からないけど、別れた方がいいって私の頭にその言葉が浮かんでくるの」


「知るか!俺はお前を絶対に幸せにするって誓ったんだ!その決意をそんなわけの分からない理由で曲げられるわけないじゃないか!」



紅哉た立ち上がった。その目は怒りと悲しが混ざっており、豊姫はそれを見て酷く心が痛んだ。

もう、彼を苦しめる訳には行かない。そう思って切り出したことが返って彼を苦しめてしまった。



「豊姫!俺はお前を愛している!だから、黙って俺についてこい!」


「紅哉くん!ダメなの!別れないと何か大変な事が起きる気がするの!」



豊姫は痛みだした頭を抑えて立ち上がる。



「知らない!そんなの認めるか!お前は俺の彼女だ!恋人だ!妻だ!嫁だ!誰がなんと言おうとこれだけは譲れない!!」


「いっつぅ…!こ、紅哉くん……!」


「お前が見たその赤髪の女の子も俺が救う!絶対に悲しませてやるものか!この火神崎紅哉に全て任せろ!」


「だ、だめ……!こ、来ないで紅哉くん!」



紅哉は一歩ずつ頭を抑えながら後ずさる豊姫に近づく。

そして―――



「あ……」


「いいから、俺に任せろ。女の子一人や二人守れなくて何が翡翠のエースだ。大丈夫。俺が来る全ての悲しみを振り払ってやる。お前と瑠璃は安心して俺の後ろをついてこい」



紅哉は豊姫を抱きしめる。強く、強く、もう二度と別れるなどと言わせないように。



「本当に……信じてもいいの…?」


「あぁ……男に二言はないぜ?」


「紅哉くん……」



そうして紅哉と豊姫は唇を重ねる。

その二人を祝うように特大の花火が空へ長く長く花を咲かせた。


パキ―――パリン!!

その瞬間ガラスが砕けるような音がした。

紅哉と豊姫には聞こえなかったが、ただ一人音を聞いた者がいた。



「いたッ!」



朱音は右腕を抑えて部屋にうずくまった。

抑えた腕を離すと、また銀色の砂の落ちる速度が上がった。



「未来が……変わっていく………本来結ばれるはずがない二人が………結ばれる…」



脂汗を浮かべて朱音は服を脱いだ。

下着姿になると、その身体を鏡に映す。



「あぁ……まだ大丈夫だね…………あともうちょっとだけこの世界にいさせてください…」


「朱音!大丈夫か!」


「ギウス……あなたが焦るなんて珍しいね」


「その身体……壊れ始めて来たか…」


「うん……でも、まだ大丈夫みたい。そういえばギウス、あたしの鞄から宝石の指輪が1個消えているんだけど、知らない?」



朱音は余りこの話を続けたくないのか、わざとらしく話題を切り替える。

ゲオルギウスも分かっており、朱音の話題に乗る。



「私が使った。いずれ障害になるパワースポットを潰してきた」


「あなた一人じゃないよね」


「主神と光の御子の力を借りた」


「それで未来が変わったんだ……」


「未来を変える度にお前の身体は壊れて行く。本当にいいのか?」


「いいも何も……あたしはこのために未来から来たんだよ?これでいいの」


「お前がそう言うのであれば私は何も言うまい……」



ゲオルギウスはそう言って霊体化する。

騎士が消える同時に朱音はペタンと力が抜けるように床にへたり込んでしまった。



「はぁ………辛いなぁ…」



朱音はバッグを漁り、写真立てを取り出した。

そこには無愛想な男に抱っこされている幼い赤髪の女の子と男に抱きついている群青色の髪をした女性が幸せそうに写っている。



「お父さん……お母さん…」



未来の紅哉と未来の瑠璃だった。

朱音は未来のアイリから言われていた。未来に関する物はなに一つ持って行ってはいけないと。

それで過去の世界が変わってしまったら取り返しのつかない事になると厳重注意をされた。しかし、朱音はどうしても父親と母親の事が忘れられず、写真を持ってきてしまった。


朱音はベットに潜った。

もう動く気にはならなかった。そして目を閉じる。

何度寝て、何度目を覚ましても繰り返す悪夢が今日もある。だけど、今日はちょっと違う。

紅哉と瑠璃に抱きしめられて、背中をさすって貰った。



「えへへ……あったかかったなぁ……」



今日は少しだけ、ほんの少しだけ幸せな夢が見られそうだ。


ええっと、終わりに向かうシリアスな展開が続いておりますが、この龍者はまだまだ続きますよ。

もう一度言いますが、これは紅哉の物語です。朱音の物語はもう少し先の話でしょうかねェ………

この8章は未来に起こることについての話を展開していく章です。メインはそちらで運動大会はサブと言った8章タイトルにかかわらずこういう内容になっております。

朝はテンション高めに!夜はシリアスに……という区別ですかね。


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