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龍の血を引く者  作者: また太び
8章 全国魔術師運動大会
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ヴァルハラの門

「ふぅ、ティアに腹はセーブしておけって言われて何のことだか」



紅哉はバイキングでは抑え目にし、これからティアとの待ち合わせ場所に行く予定だ。



「紅くーん!」


「紅哉くん待った?」



しかし、一人も何なので瑠璃と豊姫を誘ってみた。



「いや、時間通りだな」


「紅くんからのお誘いは久しぶりだしね。ちょっと張り切っちゃった」


「あはは、私は瑠璃先輩みたくはいかないね」



ちなみに瑠璃と豊姫はティアが来ることを知らない。この二人は完全にダブルデートだと思っているのだ。

はい、そこでカミングアウトするとこうなる。



「なんだかティアが俺のこと誘っていてさ、これから一緒に行くんだが、一人もなんだから誘ってみたってことなんだ」


「あ……うん、紅くんはこういう男の子だよね…」


「ですね……紅哉くんは無自覚だから…」



呆れて二人は好きになった彼氏を少しだけ後悔する。



「まぁ豊姫ちゃん!気を取り直して行こうか!」


「はい!紅哉くんは元からこういう人ですもんね!」


「え?俺の評価はどうなっているんだ…?」



ニルはバイキングのアイスを独り占めしており、ヴリトラはホテルにある図書館で本を読んでいる。

ヴリトラは世界に伝わる龍の伝説が気になるようで、紅哉とニルがバイキングに行っている間もずっと図書館に籠っているのだ。



「あれ?あれは朱音さんじゃないのか?」


「あ、ホントだ。なんだかいつもの雰囲気と違う様子」


「変だね……」



アヴェンジャーズとの話を終えた朱音は何となく紅哉の泊まっているホテルを見ておきたかった。

それが紅哉と鉢合わせになるとは思わなかったのだ。



「お父さん!お母さん!」


「え……?」


「お母さん…?」



朱音は昔の事を思い出しており、父親と母親を重ねてしまった。

寂しさが溢れだした朱音は紅哉と瑠璃を抱きしめていた。



「あ、朱音さん!?」


「え?えええ!?どどど、どういうこと!?」


「ふええええええん!!」


「あの朱音さんが泣いている………」


「どうしたんだろ…」



紅哉と瑠璃を強く抱きしめている朱音の行動に紅哉と瑠璃は最初こそ戸惑ったが、なんとなく背中をさすってあげていた。



「朱音さん、辛い事があったら俺とか頼ってもいいんだぞ?朱音さんは昔から謎が多い人だけど、俺達に優しい事は近くいた俺がよく分かっているから」


「そうだよ、朱音さん。何があったのか分からないけど、私も朱音さんのこと大好きだから」



朱音はしばらくの間何も言わずただ泣き続けた。

その間紅哉と瑠璃はずっと朱音の背中を子供をあやすように撫でていた。



「なんだかみっともない所見せちゃったね……これからどこか行くんでしょ?あたしは大丈夫だから行っておいで」


「朱音さん。本当に辛い時は俺じゃなくても舞香とかに話せよ?訳があって話せないんだろうけど、舞香ならきっと力になってくれるはずだ」


「うん………でも、これはあたしのやることだから。紅哉君たちは今の時間を大事にしてね」



朱音はくるりと回って泣き顔を見られたくないのか、そのままホテルを後にした。

豊姫はいまの出来事をどこか遠い目で見ていた。あの朱音が年下の紅哉と瑠璃の事をお父さんとお母さんと呼んだことにどこか違和感を覚えていたのだ。


一つ思い浮かんだのだが、SFでもあるまいし未来人という可能性を豊姫は捨てる。

朱音の顔をよく見れば目元と口が直海とそっくりであり、眉毛と鼻の形は瑠璃と似ているのだ。紅哉のような強い瞳は赤く、火神崎家のリビングに飾ってある昔の写真の中の舞香は髪が燃えるように赤い。それも朱音と似ているのだが、豊姫はそんな暴いたところで意味がないと思い、思考を消し去った。



「さて、ティアも待っているし、行くとするか」


「朱音さんの事が気になるけど、ティアさんを待たせるのもよくない」


「私ティアさんと喋るの久しぶりで、どんな顔して会えばいいんだろう…」


「いやいや、もっと気楽に行こうぜ?豊姫とも仲が良かったじゃないか」


「それは理江さんだよ。ティアさんは……」



という会話をしながら紅哉達は待ち合わせの場所まで歩いて行った。

花火が上がるまであと1時間といったところだ。




「よう、久しぶりだな」


「クーフーリンか。久しいな」



ホテルの屋上に3人の騎士がいた。

今流行りのファッションを身に着けたクーフーリンと相変わらず背中に大剣を背負ったゲオルギウス。そして最後に白く長いつばの帽子を被った儚げな美少女を思わせるオーディン。

夜の風と民衆の楽しげな声、そして光り輝く街並みを3人の騎士は眺めていた。



「クーフーリン、オーディンは先ほどの朱音を見ていたか」


「我にはムニンとフギンがおる。全て耳に入っているのだ」


「俺は目がいいんでな、気になったからちょいと見させてもらってたわ」



オーディンの真上を飛ぶワタリガラスをゲオルギウスは見た。



「なら事情は知っているだろう。もう私の主、朱音は限界だ。壊れかかっている」


「そのようだな。肉体的にも精神的にもな」


「んで、俺達はどうすればいいんだよ?俺の出来る事はたかが知れているぜ?」


「我らのみでパワースポットを一つ潰す」


「本気か?聖ジョージよ」


「本気だ。私は未来を知っている。この近くに小さいパワースポッドがあるのだが、あそこはやがてこの東京を脅かす存在となる。今はまだ害のないものだ。しかし、もう既に魔界へのゲートが開いている」


「潰すのはいいとして、俺ら3人だぜ?英雄でもちーとばかしきついんじゃないかね」


「数なら我に任せよ」


「おいおい、まさかヴァルハラの門を開くのか?」


「この戦、我の力を振るうにふさわしい」


「恩に着る……北欧の主神、光の御子よ……」


「頭下げんなよ。お前さん、それでも龍を倒した英雄だろ?お前の頭をそんな安くねぇよ」


「では、参るとする」



オーディンはスレイプニルを召喚すると、更にグングニルも召喚した。



「私についてこい。荒事になる前に片を付ける」


「残業ですかいな。まぁたまには悪くねぇ」


「はいや!」



ゲオルギウスは跳躍して次のビルの屋上へ着地する。リンも戦闘服を纏い、何もない空間から魔槍を取り出してゲオルギウスに続く。最後にオーディンは鎧を召喚して空中をスレイプニルが駆けて行った。



「ここだ。この洞窟が後に最悪の危機をもたらす」


「こりゃ魔物がうじゃうじゃいそうだ」


「全て蹴散らすのみ」



街外れの山に来た3人の英雄は巨大な洞窟の入り口にいた。

そしてオーディンは槍を前に構える。その瞬間光り輝く黄金の門がオーディンの背後に現れる。



「来たれしヴァルハラの英雄よ!時代を超え!再び我に力を貸さん!!開門せよ!ヴァルハラの門!!」



オーディンの言葉に呼応して黄金の扉が開く。すると、中からとてつもなく強大な力を持った数々の戦士が現れる。

その先頭には白馬に乗った4人の戦乙女がいた。



「お呼びでしょうか、主神」


「来たかブリュンヒルデ。これから我らはこの洞窟へ突入する。覚悟はいいな?」


「了解しました。ヴァルハラの戦士よ!そなたらの魂は我ら主神のものなり!敵を蹂躙し!主神オーディンへ勝利をささげよ!!!」


『うおおおおおおおおおおおおお!!!』



大地が震える戦士の雄叫びにリンは圧倒されていた。リンの伝承は酷いものだ。人間に何度も裏切られた果てには死しかなかった。

だが、この主神はこんなにも信頼され、猛者を従えている。これが英雄の差なのだろう。



「我らヴァルキュリアに続けえええええ!!」



ヴァルキュリア最強のブリュンヒルデが真紅の槍を掲げて洞窟へ突入して行く。

その後ろを蒼銀の鎧を着たシグルーン。その右側を馬で駆る白銀の鎧を着たスワワ。

最後に左側を馬で駆る黄銀の鎧を着たエルルーン。名だたるヴァルキュリアの後を戦士が続いて行った。



「流石だな、オーディン」


「なに、まだ軍勢は出せる。我のエーテル保有量は主なくとも1年は持つ」


「アンタ本当に破格のパートナーだな。よく彰に従っているもんだ」


「我が主は優しいお方だ。それに人間の世界というものは毎日新しい発見がある」


「クーフーリン!オーディン!私たちも参るぞ!」



洞窟内で既に戦闘は始まっている。そこへオーディンたちも飛び込んだ。



「まとめて殺してやらァ!!ゲイボルグ!!」



軍勢の先頭を走るリンは槍を振り回しながら這い出てきた何百と超える魔物を一撃で葬って行く。



「ブリュンヒルデ!」


「はい!せいやぁあああ!」



ブリュンヒルデはオーディンの呼びかけに応え、馬の背を蹴って空中へ飛ぶ。

そして現れたおびただしい魔物の軍勢へ光の槍を生み出し、高速で投げつける。



「シグルーン!スワワ!エルルーン!ヒルデに続け!」


『はッ!』



シグルーン、スワワ、エルルーンは光の槍を降らせるブリュンヒルデに続いて同じく槍を投げ始める。

そこへオーディンがグングニルを投げつけた。

スパアアアアアン―――――!

聖なる槍は魔物を浄化しながら進み、一番後ろへいる魔物へ突き刺さると光となってオーディンの手に戻る。



「我が主神!我が軍勢が優勢でございます!このまま押し切りましょう!」


「シグルーン、下がるがよい」


「はッ!」


「英雄たちよ!洞窟内の魔物をこのまま殲滅せよ!!我に続けええええ!」


『おおおおおおおおおおおおお!!!!!!』



スレイプニルが前足を上げて己を鼓舞すると、オーディンを乗せて洞窟を疾走する。

そのあとすぐにクーフーリンとゲオルギウスが走り、ヴァルキュリアが続く。

出てくる魔物など出現するなり蹴散らされ、このヴァルハラの戦士たちを止めるすべなどない。



「せい!はァ!」



ゲオルギウスもヴァルハラの戦士に負けぬよう魔物を蹴散らし、道を切り拓く。

しかし、パートナーとして契約しているゲオルギウスとクーフーリンだからこそ分かることがある。

この軍勢の戦士たちはみなAランクより上という最強の軍団なのだ。

そしてこの二人の英雄の後に続くヴァルキュリアに至ってはSランクとなっており、この場にSランクが何百人といることになるのだ。これほど心強い味方はいない。


ゲオルギウスのいる未来は既に彰は亡くなっており、ゲオルギウスがこうしてオーディンと話すのは初めてでもある。

聖人として奉られた彼でもこの人について行きたいと思うカリスマ性には自分でも驚いている。



「ヴァン神族と死闘を繰り広げた我らに死角などない!あの時も思い出し、心を奮わせよ!」



そしてオーディンは更に軍勢の士気を高め、魔物を蹂躙する速度が上がる。



「なぁオーディン」


「なんだ?戦闘中という事を忘れてはいないか?貴様」


「いや、そういうわけじゃないんだが、トールとかどこ行ったよ?」


「トールは誰かが召喚しているのだろう。ヴァルハラにはおらぬ。この世界のどこかで彼もまた己の主を見つけたことなのだろうな」


「なるほど。だから、ジークフリートもトールもいないのか」


「同じ世界に同じ人物は呼び出せん。トールがいなくとも我らの軍勢は不滅だ」


「それは俺がよ~く分かっている」



リンは槍を振るいながらもう何十体目か忘れたほど魔物を倒していた。

強敵が現れようとも、ヴァルキュリアの光を浴びた戦士が瞬く間にこれを蹂躙する。



「お前、これ旦那との試合とかでつかわねぇの?」


「使わぬ。これは決闘などで使うようなものではあるまい。このような人類の危機のために使うべきものだ。ただの決闘であれば我が主が実力で下そう」


「それもそうだな」


「主神!そろそろでございます!」


「うむ、心得た。戦士よ!短い時であったが、これが最後の戦いだ!心してかかれ!」



シグルーンが奥に着く事を知らせる。オーディンはグングニルを掲げて奥へ進んだ。

最下層には緑色の泉があり、そこにはおびただしい数の魔物が住んでいた。



「主には悪いが、ここは我も本気で行かなくてはな」



オーディンは右手で左目を覆った。

すると、そこから蒼い炎が生まれ出し、オーディンを包む。



「エヴォルト」



静かに呟くとそこには美しい黄金の髪を腰まで流し、青いマントを身に着け、黄金に光る鎧を身に纏ったオーディンの姿あった。左目には眼帯があり、眼帯からは青い炎が漏れ出していた。



「我の名は嵐の神オーディン!神の怒りをその身で受けよ!」


「お前エヴォルトできたのかよ!?」


「秘密だぞ。これは主が使うにはまだ早い」



オーディンはグングニルを掲げると、泉を囲っていた魔物達の足元から紅蓮の炎が沸きあがる。

更にもう一度振るうと次は稲妻が襲い掛かる、最後に縦に振ると氷の刃が降り注いだ。



「これが魔術を会得したオーディンの力……!もはや魔法域じゃないか」


「戦士よ!攻めに転じよ!この好機を逃がすな!」



半神半人のクーフーリンとは比べ物にならない本物の神の力は想像を絶するものだった。

今のオーディンの魔術だけで大半の魔物が死に、後は魔界のゲートから湧き出る魔物を掃討しているだけである。



「主神!あの門をどうにかしない限り魔物が沸き続けます!」


「うむ……ゲオルギウスよ。あれはどうすればいいのだ?」


「私に任せよ。朱音の荷物から取った物がある」



ゲオルギウスは赤い宝石が埋め込まれた指輪を取り出すと、それを無造作に門へ投げつけた。すると、門は指輪に吸収されるように閉じて行き、そこには何もない空間が広がってた。



「それはなんだ?」


「私には分からぬ。四条アイリが発明したものだが、これを使って魔界の門を閉じるそうだ」


「それはいいが、ゲオルギウスよ。この泉はどうするのだ?」


「泉の真下にエーテルを無限に沸かせている龍脈がある。それを破壊すればこの泉は枯れるだろう」


「我に任せよ。グングニルで破壊してくれる」



オーディンはスレイプニルを蹴ってパワースポットの泉の中央まで跳躍すると、空中で槍を構えた。

聖槍グングニルは青い炎を纏い、洞窟の隅々まで照らすほどになる。



「行けぇ!」



炎の槍は泉の真下へ間違うことなく飛んで行く。

ガアアアアン――――!

泉の底に達した事を知らせた音がするなり、洞窟を満たしていたエーテルが急激になくなって行く事にリンは気付く。

空中で槍を放ったオーディンは迎えに来た愛馬に騎乗し、ゲオルギウスとリンの所まで戻ってくる。



「どうだ?成功したか?」


「これでこのパワースポットは枯れた。魔物はもう集まる事はあるまい」


「お、んじゃ任務達成だな」


「うむ。では、帰ろうぞ」



オーディンは背後に控えるヴァルキュリアたちに先頭を任せる。

最後まで気を抜かない頼もしい主神にリンたちは安心して洞窟を抜けた。



「ご苦労であった!ヴァルハラの戦士たちよ!しばしの休息を得るがいい!」


『はッ!!!』



戦士たちは黄金の光を散らして消えていく。幻想的な光景に目を奪われるリンはオーディンとヴァルキュリアを見た。

オーディンはスレイプニルから降り、4人の戦乙女の前に出た。



「此度の戦、大義であった。シグルーン、エルルーン、スワワ、ブリュンヒルデ。貴君らもゆっくり休め」


『ありがたきお言葉……!』



ヴァルキュリアは膝をついて右手を胸に置く。

そしてシグルーンは蒼い光、エルルーンは黄の光、スワワは白の光、ブリュンヒルデは赤い光を散らして消えていく。



「ブリュンヒルデよ。永久の時をシグルドと過ごすがいい」


「お変わりになられましたね、我が主オーディンよ。あなたにも我らヴァルキュリアの気持ちがご理解になられる日が来るとは、夢にも思いませんでした」


「人間の世界は悪くない。今となってお前達の気持ちが分かったのだ」


「では、主神のお気持ちが永久に変わらぬ事を我ら戦乙女は祈っております」



ヴァルキュリアたちはそう言って己のあるべき場所へ戻って行った。


オーディンこそチートですね。まぁ私が女にしたかっただけなので、伝承では男性の老人で描かれていることがほとんどです。

ここでは彼女と呼びます。彼女の伝承は流石北欧神話の主神であることから、チートな能力ばっかです。グングニルも狙ったら必ず当たる槍ですし、彼女はもっとすごい能力があるのですが、流石にこれ以上つけたら紅哉がカスミソウで………いえ、ヴァルハラの門だけで十分強力ですよね。

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