紅哉たちの特訓
季節は流れて6月。この月は全国魔術師運動大会が行われる月なのだ。
そしてそろそろ要塞崩しの選抜メンバーが発表される時期となった。
6月20日に数々の高校がここ東京に集まるのだ。
要塞崩しのチーム編成は特殊で、同じ県ならばどこの高校とも編成可能なのだ。
だから、教師たちの間ではいくら我が校の生徒がこの選抜メンバーに入れるかで国から支給される金額が増えるということだ。
翡翠は全国でもかなり有名な魔術育成学校として、毎年40人で編成されるメンバーの6割がこの翡翠が占める。
優勝候補の東京翡翠としては気の知れた仲が多い事に越したことはないのだが、毎年このメンバー編成でいざこざが起きる。それはもちろん贔屓しているのではないか?という至って子供らしい疑問であり、翡翠はこれに毎年巻き込まれる。
「え~、うちのクラスからは紅哉、豊姫、遊佐だな。まぁこんなもんだと思っていたわ」
佐鳥は険しい顔をしながらメンバー表を見ていた。
「俊介が入らなかっただと…」
「そこのマッチ男は火が無ければ何も出来ない男だからな、当然だわ」
後ろの席から『ガンッ!!』という机に何かをぶつけた音がした。気になって後ろを見ると、頭を机にこすり付けて泣いている俊介がいた。
「マッチ男マッチ男マッチ男マッチ男マッチ男………ブツブツ…――――」
相当辛いらしい。
「あとは個人種目か。師弟タッグペアレースでは、紅哉と弟子、俊介と弟子、豊姫と弟子だ」
「お、俺が入ってるうううう!!」
「うるせええ!マッチ男!」
「すみませんでした………」
何か声をかけようと思った豊姫は後ろに振り返ったが、紅哉はそれを止める。
「魔術制御システム解析は遊佐だ。電子専門のお前なら1位取れるだろ」
「はい。問題ありません」
「出た!家電女の遊佐!」
「うるさいですマッチ男」
「はい………」
「気持ちの浮き沈みが激しいな……」
「そうだね……でも、すぐ立ち直ると思うよ」
「あいつは良い馬鹿だからな」
そうして佐鳥の種目に参加するメンバーの発表は終わった。
ここから20日までは基本授業は午前授業で終了し、後は全国魔術師運動大会に備えての強化期間となる。
翡翠指定のジャージに着替えた紅哉と豊姫は校庭で準備運動をしていた。
そこへ俊介と凪咲、癒理、美波、遊佐、直人が現れる。
「師匠。私も要塞崩しの選抜メンバーになりました」
「あぁ、流石だ。お前なら入れると思っていた」
「紅哉先輩~凪咲も入りましたよ~」
「我が校の大切なSランク魔術師だ。当然だ」
「豊姫先輩、私なんか入ってもいいのでしょうか…?」
「いいんだよ。これも経験、頑張ろうね」
「舞香先輩は当然ながらいないっすね。俺もなんで入ったのかよく分からないっす」
「お前はユニゾン出来るからじゃないか?」
「そうっすかね。正直自覚がないんすよ」
直人も準備運動をしながら紅哉に話しかける。
「先輩は何に出るっすか?」
「俺は要塞崩しと師弟タッグペアレースだ」
「うお、2つっすか。大変っすねぇ……」
「まぁな。こうして今から俺と癒理はVR空間でレースの練習するわけだしな」
「要塞崩しはどうなるんすか?」
「それは週末らしい。週末に一度顔合わせとして東京の高校で選ばれた生徒が集まるそうだ」
「うっひゃぁ……なんだか緊張してきたっす」
「そんな固くなるなよ。翡翠としてしっかりしていこうぜ。今は体力つくりだ」
「そうっすね……うし!俺頑張るっす!」
「あぁ、頑張れよ。要塞崩しの時は俺達も一緒だ」
「心強いっす!」
準備運動を終えた紅哉たちは遊佐たちと別れてタッグペアレース専用のVR制御室へ入る。
そこには既に他の選抜メンバーの生徒がおり、紅哉達が入って来ると『やっぱりな』という顔をされた。
「えー2年生は既に知っていると思うが、1年生のために説明をするぞ。師弟タッグペアレースはその名の通り師匠と弟子でタッグを組んでするレースだ。師匠と弟子は離れた場所からスタートし、途中で合流してゴールしなくてはならない。飛行は高度4m以下なら許可されている。これを超えると、失格となるから気を付けるんだ」
「先生、これって妨害とかされるんですか?」
1年生の誰かが先生に質問をした。
「されるぞ。スタート同時に妨害するのも可能になっているため、相手がどんな攻撃をしてくるか分からない。選手を事前に調べておくのも重要になってくる種目だぞ?」
「なんだか穏やかじゃない競技ですね~」
「そうだぞ。でも、去年の紅哉と瑠璃先輩のコンビは圧倒的だったな」
「それ興味あります!」
俊介が思い出を語ると、美波がそれに食いついた。
「開始と同時に紅哉がユニゾンして行くだろ?それと同様に瑠璃先輩は相手選手全員に強力な幻術をかけて後は1位を独占したな」
「瑠璃の幻術は学生が破るには厳しい幻術だ。まさか瑠璃の幻術を解くのに1分もかかるとは思わなかったぞ」
「幻術をくらった相手校の選手はどこ行ってるのか分からない状態でさ、ゴールだと思ったらスタートに戻ったりと相当凄かったんだぞ~」
「テレビでも中継されていたんだけどね。えと、幻術を使う学生って少ないから、その不意を突いた作戦だったんだよ。あとはスピードで劣る瑠璃先輩を紅哉くんが抱っこしてそのままゴール」
「凄いですね……けが人は出ないのですか?」
「美波、VR空間ですよ」
「あ、そうだった……」
「では、説明は以上だ。あとは実戦練習あるのみだ!」
いつの間にか師弟タッグペアレースの説明は終わっており、少人数ながらも続々とVR空間へ入って行く。
「お前は誰と練習するんだ?」
「この後ろ全員と」
「分かった。よし、頑張れよ」
紅哉は教師にそう告げて入って行く。
今のは部屋割りだ。レース中に他の生徒と出くわしてレース妨害されても困るので、予め確認を取れるような仲の友達と練習するのがお決まりとなっている。
「今年のテーマは森か」
「え?テーマですか?」
紅哉達の目の前に広がる空間は森だった。草木が並んでいるが、その中央に雑草の一本も生えない道が続いている。
「毎年レースのコースのテーマがあるんだ。去年は氷だったが、今年は森のようだ」
「氷は大変だよ。なんて言っても滑るからね。紅哉くんは4m以下なら飛べるから、翼を使って滑る事を回避したけどね」
スタートする地点には大きなモニターがあり、その下にモニターを操作する端末がある。
「まずはコースを知る事が大事だ。師匠の俺達はこっち。お前らはあそこのテレポーターから弟子のスタート地点に行ってくれ」
紅哉の言葉に素直に頷いた弟子3人はテレポーターで消えていく。
「んじゃ、俺達も歩いてコースを覚えて行こう。ニル、ヴリトラも覚えておけよ」
『うむ。しかし、またこの競技か。去年はオレたちが圧倒的ではなかったか』
『そうなの?アタシは寝てたから分からないけれど、楽しそうじゃないかしら?』
『まぁ、競技期間中はお祭り騒ぎだぞ?車の交通機関は機能しなくなるし、何より全国の魔術師がここに集まるんだ。パレードもある、屋台もある、夜は花火を上がる。面白いぞ?』
紅哉はそんな話をしながらコースを覚えて行く。いくつか外れのルートがあり、紅哉、豊姫、俊介は端末を取り出して自作アプリの地図に×をつける。
「今年は道が複雑だね。これはなかなかコースが難しいかも」
「去年はもっとこう楽だったよな?」
「まぁ氷山が邪魔だったくらいか?それ以外は結構楽だった」
俊介がアプリを操作して地図を見ながら語る。紅哉もそれに同意し、『う~ん』と悩む。
何故ここまで悩むかと言うと、大会になるとこの地図が全くという訳ではないが、役に立たなくなる。
「大会でこのコースが変更になるから辛いんだよな」
「そうだなぁ……間違ったらそれだけ遅れるわけだし…」
「これ、後で美波さん達に説明しないとね」
紅哉たちはマッピングしながらゴールに着くと、既に癒理だけゴールしていた。
「お前早いな……」
「はい。師匠たちは歩いていたのですか?」
「あぁ。確実に道を覚えるためにマッピングしながら来た」
紅哉は師匠側のルートを更新させるために癒理の端末の地図を見た。
「ん?癒理、お前一直線でここまで来たのか?」
「はい。勘で来ました」
「すげェ勘だな……だが、間違った時のルートも記してくれ」
「分かりました。では、さっそく行ってきます」
癒理が去ってすぐ後ろから凪咲と美波が歩きながらゴールした。
彼女たちはちゃんとマッピングしながらきたらしい。
「癒理ちゃん早くて先に行ってしまいました…」
「凪咲も驚きましたよ~」
美波たちは己の師匠の元へ行き、データを交換する。
「うし、凪咲上出来だ。ちゃんとこれを頭に入れるんだ」
「凪咲は出来ることです~。熱血馬鹿師匠とは違います~」
「なんだとぉ!?俺だってやれば出来る子だぞ!」
「ちなみに俊介の学年テスト順位は後ろから8番目な」
「こ、紅哉!待てそれは!」
「ダメダメ師匠じゃないですか~」
崩れた俊介に凪咲はバシバシと頭を叩いてた。
「凪咲さんは学年テスト順位5位なんです」
「ガハァアアア!?ば、馬鹿な……!お前そんないつもアホみたいな口調で喋っているくせに…!」
「ちょっと聞き捨てなりませんね~」
踵に魔神の炎が纏わり、炎の踵落としが俊介の頭に落とされた。
ドオオオオオン―――!
地面にめり込んだ俊介にどんどん追い打ちをする凪咲に紅哉達はやや引き気味。
「と、とりあえず俊介はドMだったか…」
「師匠、終わりました」
「はや!?」
戻ってきた癒理とさっそくデータを交換する。
「お、ちゃんとやってきたか」
「はい、今度こそ大丈夫ですね?」
「あぁ、問題ない。んじゃ、これを頭に入れながら走ってみよう。豊姫、次は個人でやるからモニターをタイマーにセットしてくれ」
「うん、分かった」
紅哉たちの特訓が始まった。
まぁ俗にいう運動会ですね。それも全国規模ということです。
ふむ、あとがきって悩みますね。こう、毎回あとがきを書いているとネタが尽きてくるわけですよ。だからと言って2行程度で終わらせるのはなんだか寂しい気がしてこのようにダラダラと書いているわけですが、本編も始まったばかりということで下手なことかけないんですよ。




