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龍の血を引く者  作者: また太び
7章 第二の神の遺産
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狂乱の邪龍グリンデル

王の間についたのはゲートから2時間後の事だった。

神秘的な汚れも知らない白銀の扉の前に紅哉達は立つ。ここは例えどんなに偉い龍族でも龍神種とバハムートしか入る事は許されない場所だそうだ。


瑠璃を降ろした神龍は扉の前に立つと、3本しかない指先を扉に押し当てた。



「お、おお……開くぞ…」



ニルの驚いた声と共に重々しく扉は開いて行く。神の襲撃があった後にもこうして建物が無傷で残っている事に紅哉は改めて驚愕した。



「では、行こうぞ」



神龍が道を開けると、ニルに続いて龍たちが入って行く。



「なんだこれは…?」


「オレに聞かれても分からんぞ」



真っ白な空間の中央には七色に光る扉がポツンと一つだけあった。



「ここは王の間だが、私たちが行くべき所はこの先だ」



神龍は瑠璃を乗せて七色の扉の中へ入って行った。

紅哉達もこの真っ白な空間を見渡しながら扉の中へ入って行く。

すると、眩しい閃光と共に現れたのは七色に光る草原だった。



「む!?これは龍の秘薬に使われる野草ではないか!」


「え!?この見渡す限り全部か!?」


「そうだ。悪用されないようにここで栽培されている。だがまあ、私たちが管理しなくとも育っているようだ」


「わぁ!綺麗!」


「うん……葉っぱも七色…」


「むしろ不気味に見えるんだが…」


「これが王の間の秘密か……」


「確かにアタシたちが来る場所ではないわね」



ダハーカの言葉にヴリトラは野草を見ながら答える。

グリンデルは飽きたのか扉の前でどっかりと胡坐をかいている。

リアとニルはいつの間にか人間の姿になり、ニルは紅哉の傍にリアは舞香の傍にいた。



「なぁ、お前らって人間の姿になれるのか?」



興味深そうに野草を見ているニルを見ていた紅哉は扉の近くにいるダハーカへ問いかける。



「なれる。だが、面白いものではない」


「なれるぜぇ!ニルに出来てオレに出来ねぇ事はねぇぜ!」



ダハーカとグリンデルは光に包まれると、そこには人間の姿の龍がいた。

ダハーカは貫禄のあるおじさんのような感じだ。

白髪の混じった黒髪をオールバックにし、顔は老いを思わせぬ強い眼光と少し褐色気味の肌。黒い革の鎧を着こみ、長いマントはどこかのヤクザみたいだ。


そしてグリンデルはやはりというべきか、どうみてもガラの悪い不良にしか思えない。

耳にはピアスがあり、指には指輪がいくつもある。

髪は緑色でオシャレとして髪留めなんかを付けている。服はホステスのように着崩したスーツを着ており、ボタンを外したところからは胸板が見えている。



「うわ、お前らガラ悪いな…」


「だから言ったであろう。面白くないと」


「はっはっは!オレがこの姿になるのは初めてだぜ!だが、こっちも悪くねぇな!」


「ねぇねぇ、神龍はなれないの?」


「私か?なれない事はないが」



ダハーカ達を見ていた瑠璃は上を飛ぶ神龍にもなれと言う。

神龍はダハーカと同じく閃光に包まれると、人間の姿に変身した。


和服を着た長身の男性だった。

長い銀髪を紐でくくって垂れ流している。優しい目つきでありながらどこか悪戯っぽさを残す目は、女性ならコロッと行きそうだ。



「あ、やっぱり和服なんだね?」


「やっぱりとはなんだ。言っておくが、私たちが服を決めているわけではない」


「え?そうなの?」


「これは龍の性格が大きく左右される。ニルを見ろ」



瑠璃は野草を無邪気な笑顔で見ているニルを見た。



「どう思った?」


「子供っぽい?」


「そうだ。ニルは龍族の中でも比較的幼い方だ。まだ500年くらいしか生きてないだろう」


「えええ!?5、500年!?な、長いよ!」


「何を言っている。それは人間の基準であろう?私達からすれば人間で言う10歳そこらだ」


「う、うん……そうだね…あなたは?」


「私は伊達に龍神と言われているわけではない。もう数えるのはやめたが、既に7000万年くらい生きたのだろうか」


「…………………バハムートさんは…?」


「バハムートならば1億年くらい生きているだろう」


「それ宇宙出来ているの…?」


「出来ているわけがない。瑠璃、一つ言っておくが、ここは時間軸から外された空間だ。宇宙とか地球とか関係ないのだ。ここはもう一つの世界だと覚えておけ」


「ニルちゃんが若いのはよく分かった……」


「あの歳で我らと張り合うのだから驚異的な成長を持つ龍族だと言える。グリンデルはあれでも1000万年生きている猛者だが、ニルと互角だったのだ。長い目で見ればニルの方が上であろう」



瑠璃は野草を摘み取っているニルを眺める。舞香とどれだけとれるか勝負をしており、リアと紅哉はそれをどこか面白そうに見ていた。

扉の近くではヴリトラとダハーカがキョロキョロと周りを見渡している。



「なァ!神龍!これって持って帰って育てることも出来るのか!?」


「恐らく無理であろう。この野草は龍の里の土でしか育たぬ」


「なら、この土ごと持っていくか」



無理だと言われた紅哉だが、それでもあきらめない。



「紅くんどうして持って帰るの?」


「え、だって綺麗じゃん?舞香が持って帰りたいって言ってるし」


「そうなの?舞香ちゃん」



舞香はじーっと野草を見ながら『こくこく』と頷いていた。何度も。



「別にもうバハムートはいないし、いいんじゃないのかしら?誰も咎める者はいないわよ?」


「それにもうここには戻ってくることはないでしょうしね」



ヴリトラの言葉にリアも同意した。

そう、今は神の遺産によって奇跡的に戻れているだけであり、普通はどう足掻いても無理なのだ。



「よかろう。ただの観賞ならばいい。だが、それを悪用すれば私が黙っていないぞ」


「しないってば。それにお前がいないとこれはただの雑草だろ?観葉植物として我が家に迎えるだけさ」



念を押してきた神龍に紅哉は大事そうに袋へ土と野草を入れる。



「朱音さんが枯らさなければいいが…」


「龍一に任せればいいだろう。朱音はダメだ」


「それもそうだな」



根っこごと持ってきたニルから野草を受け取り、持って帰ったときの話をする。



「では、ここで調合をするぞ」



神龍は手の平に野草を乗せると、己の爪で手首を切る。

どくどくと血が流れ始め、手の平に集まりだす。手の平から血が零れ始めると、神龍は野草と血をぐっと握りつぶす。

すると、赤い光が手のひらから漏れ出して辺りを照らしだす。

光が収まる。そして神龍の手には燃えるように赤い小瓶が握られていた。



「調合は成功した。これをお前の母親に飲ませるといい。言っておくが、龍が人間の命を助けるのはご法度なのだ。ましてや龍の秘薬を使うなど禁忌を破るに等しい。だから、次はないぞ」


「分かった。ありがとう、神龍」



紅哉は神龍の忠告を素直に聞いて小瓶を受け取った。



「よし!みんな帰ろう!」



無事目的の物が手に入り、紅哉たちは王の間を後にした。

王の間を出て水龍エリアに戻ると、紅哉たちは思わず足を止めた。



「な、なんだ!?この強大な力は!?」


「ありえん!ここは龍以外入れんはずだ!何故奴がまたいるのだ!」


「紅哉……これは少し腹をくくった方がいいかもしれないわ…」



ニルの声は震えており、ヴリトラも警戒の色を高める度に炎が激しくなる。

ダハーカ達も緊張していた。この状況を分かっていないのは、紅哉、舞香、瑠璃の人間だけだった。



「な、何が来ているんだ!?」


「天使どもめェ……まだ我らの故郷を荒らすか!」


「天使……?あの神様に仕えている…?」


「これは厄介だな。撤退戦だ。瑠璃、何故か知らないが、この里に天使どもが来たようだ。今の我らでは追い払うので精一杯だ」


「え?神龍達って神様とか倒しているんでしょ?大丈夫じゃないの?」


「はん!それは全盛期のオレ達だよ!今のオレ達は魔術師に縛られているせいか本来の力を出せないんだボケェ!」


「あぁ……この世界に来た時に制限をかけられたんだったっけな…」



瑠璃の言葉にグリンデルは鼻で笑った。



「そうだな。下手に戦闘をして傷を負うのはごめんだ。さっさとゲートまで戻ろう」


「うまくいけばいいがな…」


「我が主舞香。ケルベロスは使えないのであなたは私の後ろに隠れていてください」


「うん……ケロちゃんなら神殺し出来るんだけど……」


「我とグリンデルが殿を務めよう。我ならば天使の攻撃など効かぬ」


「ダハーカは邪龍ながらも聖属性に圧倒的な耐性を持つわ。だからこそバハムートに嫌われていたのだけれど」


「それは過去の話しよ。では、行くぞ!」


「オッシャー!張り切って行くぜぇ!」



ダハーカとグリンデルは行きの時よりも数段速いスピードで道を進んでいく。

それにヴリトラ、神龍、ニル、リアが続く。



「人間よ!聞くがいい!貴様らは天使に見られてはならぬぞ!」


「なんでだ!?」



先頭を走るダハーカに聞こえる声で紅哉は尋ねた。



「目を付けられるからだ!我らは龍族だからこそいいが、貴様ら人間は龍を従えているだけで罪になる!」


「おいおい!理不尽すぎるだろ!」


「それだけオレ達は危険だってことだ。マスター、オレの肩から離れるなよ」


「お、おう」



今の所気付かれていないが、それも時間の問題だろう。



「私がお前達に幻術をかけてやろう」



神龍の後ろ脚にある黒い宝玉から黒い光が飛び出し、その光は紅哉、舞香、瑠璃の周りに集まると黒い霧へ変わる。

これは神龍が己の正体を隠すためによく使う能力だ。



「ナイスだよ!神龍!」


「うむ。肩に乗っているはずのマスターが見えないぞ。これは強力な幻術だな」


「ええ、これなら何とか騙せそうね」


「おい!来るぜぇ!」



前を飛ぶグリンデルが空中で止まると、みなも足を止めた。

すると、本当に天使が現れた。

天使の輪っかに翼。手には獲物らしきものは見えないが、恐らく何かを隠し持っているはず。



「貴様ら!?ファーヴニル!リヴァイアサン!神龍!ヴリトラ!アジダハーカ!グリンデルだと!?何故ここにいる!」


「おうおう、天使様に覚えて貰うなんて光栄だなぁおい!」


「待てグリンデル。貴様ら天使こそ我らの故郷に何の用だ?」


「答える必要などない。さぁ、こちらの質問に答えよ!返答次第では―――」


「なによ、随分と横暴ね。それにあなた、見たところ新入りっぽいけど、アタシたちの実力を知っているのかしら?」


「オレたちはお前達の主を何度も殺している龍だぞ?そんなちんけな羽しか持っていない下級天使にやられるほどオレ達は甘くないぞ?」


「き、貴様らああああ!な―――!?ガアアア!」



右手に光の槍を生み出した天使に幾重の雷が降り注ぐ。

それは神龍から生み出されたものだった。青い宝玉は光続け、天使が地上に倒れても降りやまない。

そこへ狂を冠するグリンデルが自慢の咢を大きく広げて天使を頭から食いついた。



「証拠隠滅だな。よし、行くか。よくやったグリンデル」


「けっ!お前のためじゃねぇよ神龍!だがまぁ、天使の力を取り入れるのも悪くない」



突然グリンデルの身体が異常をきたしたかのように光り出す。すると、緑色の立派な翼が天使のように変わったのだ。



「はっはっは!これで天使の力を取り込んでやったぞ!」


「これがグリンデルの能力よ。相手を捕食して自分の力に変えるの。だから、グリンデルは里きっての暴れん坊で毎日こいつに食われた龍は数えきれないわ」


「そこまでにしておけ。流石のお前でも天使は無理がある。余り捕食しすぎると身体を乗っ取られるぞ」


「あぁ、ここまででいいさ。聖属性に耐性がついただけでも良しとするぜ」



自分の翼の具合を確かめるグリンデルはご機嫌だ。ヴリトラは紅哉にも聞こえる声でぼそっと呟き、嫌悪感を露わにしている。



「だからオレは嫌いなのだ。こいつは同族を殺すことに何とも思っていない」


「行きましょう。次の天使が来る前に」



リアが声をかけると、グリンデルとダハーカは進みだした。


追い払うだけと言ったが、聖属性に耐性を得たグリンデルは強かった。

天使の光の矢を受けても傷一つつかない身体に天使は恐怖を感じ、撤退していく。



「ひゃっはー!そんな下っ端天使じゃオレ様を傷つけることはできねぇぞぉおお!」


「あいつ…もう狂乱状態に入ったな…」


「あの馬鹿の悪い癖ね。気持ちが昂るとすぐ辺り構わず喧嘩をふっかけるんだから」


「だが、こんな時は頼もしいだろう?敵にすれば厄介だが、味方になればこれほど頼もしい戦士はおらぬ」



ニルの呆れにヴリトラも同意するが、ダハーカだけはグリンデルの強さを買っていた。

目の前では天使が引き裂かれ、断末魔と共に死んでいく。

咢で食いちぎられ、鋭い爪で引き裂かれ、両腕で引きちぎる。

グリンデルはもはや嵐そのものだった。グリンデルの後には残骸しか残らない。

ダハーカの言う事も最もだ。こんな傷を顧みない戦い方をする敵とはもう2度と戦いたくないと紅哉は心からそう思った。



「ウオオオオオオオアアアアアアアア―――――!!!」



グリンデルの身体から緑色のオーラが滲み出る。



「む!?あいつここであれを使う気か!?」


「大丈夫だ。グリンデルはまだ理性はある。後方に被害が出ない程度には収めるはずだろう」



グリンデルは口いっぱい広げると、そこにエネルギーが集まりだす。

緑色の球体はグリンデルのオーラを吸収し、一際大きくなると――――



「ガアアアア―――!!」


「みんな耳を塞げ!!」



ニルに言われた紅哉達は耳を塞ぐと、ヴリトラとダハーカが目の前に立ち塞がって同時に炎の壁を作り出す。


それと同時に視界が真っ白に染まった。



「く……あ、ああぁ…………み、耳が……目が…」



ニルは直前に翼を展開して目を守ってくれたが、それでも視界がぼやけてうまく機能しない。



「今の……グリンデルの…?」


「はい。グリンデルが誇る必殺技。クレイジーダイナマイトです。狂った龍が使う爆弾だからこういう名前が付きました」



紅哉は何とかリアの言葉を聴き取る事が出来た。周りを見渡すと、建物は健在だが、地面はここだけ深く抉れてクレーターのようになっていた。

水龍エリアという事でここは相当広いが、それでも都市一つ分くらいなくなったのではないだろうか。



「あいつと喧嘩するときはいかにあの技を使わせないかで決まる。あいつはすぐ使いたがるからな。全く危険な技だ」



ニルが睨む先には今の技を使ってスッキリしたのか、すっかり理性を取り戻したグリンデルが高らかに笑っていた。


グリンデルの能力は捕食ですね。捕食して相手の能力の一部を取り込む力です。あまりやりすぎると自分を形成している人格が壊れるのですが、もうグリンデルは十分壊れていますね。

朱音が使った狂乱も今回で出てきましたね。まぁ一種のバーサーカーと言ったところでしょうか。この詳しいことも後程ニルとヴリトラのショートコーナーで語るといたしましょう。

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