過去の真実と新たな道筋
未だ酒を飲み続ける大人を尻目に紅哉と舞香はパーティー会場を後にする。玄関ホールでは外でセレナが二人を待っていた。
「終わりましたか」
「あぁ。とても面倒な催しだった」
「……でも、彰の方のパートナーが………リアより強い神クラスだったのは驚き…」
ぼそりと舞香が口にすると、それにはセレナも驚きを隠せないようだった。
「旦那様に言われて来たのですよね?なら、こちらです」
セレナに案内され紅哉と舞香はレッドカーペットが敷かれた階段を昇る。三階まで来るとパーティー会場の賑やかさは嘘のように廊下は静まり返っていた。
三階には多くのガードマンが控えていて、セレナは顔パスで通る。よく見るとこのガードマン達は昔から炎道家に仕える人たちだと紅哉は気付いた。皆二人の事情を分かっているからこそ、悲しそうな目で紅哉と舞香に頭を下げるのだろう。
一つ豪華な扉の前まで来るとセレナの歩みは止まる。ここが直海の寝室。
セレナはトントンと静かにノックすると扉を開いた。
「奥様、紅哉様と舞香様をお連れしました」
「ご苦労さまです、セレナさん」
「ご苦労様セレナ」
中に入るとそこは昔と変わらず舞香が好きなぬいぐるみが大量に置かれた部屋で、久しぶりに見た直海は随分と痩せていた。その隣には和服を着た美しい女性がこちらを穏やかな眼差しで見ている。この和服を着た人が四条麗華。刀の腕前は達人級で四条家の超人をまとめる人でありながら一人の母親である。
「お久しぶりですね、紅哉様、舞香様。私の事は覚えておいででしょうか?麗華でございます」
「もちろん覚えていますよ、麗華さん」
「良かった。それでは、セレナ行きますよ」
「はい。紅哉様、舞香様、後ほど」
紅哉と舞香を気遣って麗華とセレナは部屋を出て行った。紅哉と舞香はベットで横になっている直海へ近づいて近くの椅子に座る。
「見ない間に一段と大きくなったわね…」
「もうここには二度と来ないかと思っていたがな」
「お母さん……こんばんは」
「はい、こんばんは。舞香は今日も可愛いわね…」
舞香の頭を撫でる直海に紅哉は今日呼んだ事を尋ねた。
「あなたにはそろそろ真実を知らせてもいいかと思ったのよ」
「真実?何のことだ」
「それは、あの事件の事よ」
「それはお前たちがやったことだろ」
分かっていることを今更何を言うつもりなのだろう。
「お兄様…今はお母さんの話を聞こう…?」
「紅哉も知っている通り、私と雅文は人間の身体の神秘について研究をしていました。そして私と雅文はどうして魔術が使える者と使えない者とこうも差が出るのか?という疑問にとりつかれました。それで一つの仮説が出来たのです。それはエーテルを保有している量が枯渇しているからでは?というものです。しかし、研究を進める事に大変な事に気付いてしまった」
「なんだ?」
「私たちの実験は魔術を使えない者の身体に特殊なエーテル生成器を埋め込む事でエーテル枯渇という問題をなくすというものです。しかし、失敗するとその人間は感情がなくなってしまうのです。エーテルと感情は深く関わっている。そこに気付いた私と雅文はこの実験を凍結する方針に決まりました。ですが、研究者に密告者がおり、その計画は篝章仁に伝わってしまったのです」
「なんだって!?んじゃ―――それは…」
「ある日、舞香が頭痛で学校を休んだ日がありましたよね。あの日に篝章仁は炎道家に一本の電話をしてきたのです」
「あの日……なのか…?!ま、舞香が頭痛で朝早くから家中で大騒ぎした……」
「その日です。そして章仁は凍結した研究を今すぐ実行しろ、と。もちろん私と雅文は断固反対でした。ですが、なんと章仁は紅哉、あなたの学校に爆弾を仕掛けたと言ったのです」
「やっぱりあの日か……急に先生たちが焦った様子で俺達を途中下校させたんだ」
「流石の私と雅文も言葉が出ませんでした。もし爆弾が爆破すれば紅哉を含む生徒全ての命がなくなる。章仁は私たちに時間制限を設けました。それは10分。10分以内に結論を出さなかったら手元にあるスイッチで学校を吹き飛ばす、と。それから10分を限界まで使って出した結論が―――」
「舞香を使った人体実験ってか」
握った拳が痛い。でも、これはもう現在の話ではなく過去の話なのだ。今更後悔したところでもう遅い。
「私と雅文は実験体がない、と言ったのですが。自分の娘を使えばいい、そう言って来たのです」
「それが舞香の無限に近いエーテル保有量の秘密か……」
「断るならボタンを押す、再度章仁は私たちに脅しをかけてきました。泣きたい気持を抑えて雅文は舞香の寝室に入って寝ているあなたを連れてきて、途中で起きられて怖い思いをさせるよりはと思って私はあなたに麻酔を打ちました。それで実験はほぼ成功に近かったのです」
「え?なら、どうして!」
「私と雅文はこれは行ける、と確信したのですが、そこでアクシデントが起きたのです。ウイルスです。私と雅文が作ったプログラムに誰かがウイルスを入れたのです」
「それをやったのはその内通者じゃないのか…」
「恐らくそうでしょう。ですが、私と雅文は全ての感情が消えて廃人になってしまう舞香を見ているだけではありませんでした。必死に最後まで足掻き、少しだけ感情を残すことに成功しました。それは分かりますよね?あなたに対する思いです」
反射的に舞香を見ると、舞香は何とも思っていないような顔をしながら手はしっかりと俺の服を掴んでいた。
「あなたが怒り狂って研究所を壊しに来るのは分かっていました……私たちは強制的にやらされたと言っても実の娘を実験体にしてしまった。この事実は揺るがないのです…」
何故今更そんな事実を自分に告げたのか紅哉はわからなかった。
ただただ頭が混乱するだけで直海が喋っている内容が何一つとして頭に入ってこない。
確かに言われてみればそうだ。
この家を出ていく時も舞香は紅哉の声ひとつで自分についてくる事を決めた。それが直海と雅文が最後に残せた彼女の感情だと理解すれば納得がいく。
紅哉が与えたものがすぐに受け取り、それを好きになる。
なんでもっと早く気付かなかったのだろうか。そうすれば舞香に色々な事を教えられたはずなのに。
「あなたがいなければ舞香はきっと壊れていた。こんな母親で本当に申し訳が立たないわ……舞香……辛かったでしょう?」
「それは違う……お母さん。私は………とても幸せだよ?お兄様といれることが私にとっては幸せなの……そんなこと全然辛くない」
きっぱりと否定した舞香に直海は一瞬呆気にとられたが、次には「そうね、そうよね」と一人で納得した風になる。
「紅哉、ここに行きなさい。もしかすると舞香の感情が戻る手がかりがあるかもしれないわ」
今まで悲しみに暮れていた直海は急に病人とは思えぬ力強い眼差しで一枚の地図を渡してきた。
「なんだ?ってこれは浅見パークランドじゃないか!」
だが、紅哉の知っている地図ではない。どこなのかさっぱり分からないが、とりあえず紅哉は地図を受け取る。
「ここはなんだ?」
「そこにはレリックと呼ばれる神々の遺産に関する書籍が眠っているはず。神々の遺産には何でも願いを叶える物があるらしいけど……でも、気を付けて、その場所には魔物がたくさんいるはずだから」
「こんな機密情報どこで……」
「それは四条家の皆に感謝しなさい。あの人達がいなければ何も分からなかったのよ」
流石超人揃いの四条家だ。雅文や直海の案に乗るのは癪だが、舞香の感情を戻せる手がかりがあるのならば、それに掛けてみるのもいいかもしれない。
紅哉は立ちあがると舞香は不安そうな目でこちらを見てくる。
「大丈夫だ。お前の兄ちゃんはいつかお前を負かす最強の兄ちゃんだからな」
頭を乱暴に撫でると、紅哉は直海に向き合う。
「確かに真実を聞いてお前たちに非がない事は分かった。でもな、どうしてそんな研究をしようと思ったんだ。もし、そんな発想がなければ………いや、これを言ってどうこうなるわけでもないな。んじゃ、これは俺が独自に調べる。いつか、また会おう」
「もう来ない、じゃないのね」
「あぁ、もううるさい!」
笑顔で見送る直海に紅哉は気恥ずかしさを紛らわすように舞香の手を引いて彼女の部屋を出て行った。
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