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龍の血を引く者  作者: また太び
1章 炎道家と紅哉の関係
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リヴァイアサンとファーヴニル

バシャバシャバシャ――――私、火神崎舞香は水が満ちている浅い川を歩いていた。

お兄様はアイリの事を覚えていないようだけど、あの子は昔から物を作るのに長けているのを私は覚えていた。

でも、言うほど明確に覚えているわけじゃない。ただ明るく元気な子で、よくセレナに叱られていた覚えがある。



「あなた、随分と余裕なのですわね」



声は背後から聞こえてきた。私は後ろを向くとまず目線は奏の足元に注がれる。



「ネコさん……」



恐らくこのパートナーは神話系の幻獣に属さない魔物系だ。



「珍しい……」



この一言しか出ない。普通のネコより一回り大きくその身体は黒紫の炎で包まれて瞳だけが怪しく光っている。

魔物系は死ぬと塵になるのでパートナーにするためには生け捕りか手懐けるしかない。

私の予想としては後者だと思うが、よく懐いているものだと思う。



「ねぇ……あなたにダメージを負わせたらそのダメージはどうなるの…?」


「そういえばお父様は言っておられませんでしたわね。わたくしと彰が模擬戦をやる時はいつもダメージは精神ダメージへ変換されますわ」


「そう……ありがと」



その設定は一般的なVR空間と何ら変わらないようだ。試合開始の合図はなってはいないが、私はまず彼女の頭上に下級魔術に属す氷の塊を作り出す。

まだ奏は気付いてはいない。そこで私はそれを気付かれないように何気なく手を振るって落とす。



「そういえばあなたは日本でもトップクラスの実力をお持ちのそうで――――え!?ちょ、きゃあ!」



直前で気付かれた。何と勘の鋭い奴だ。



「惜しい…」


「ちょ、あなたね!不意打ちとは卑怯でありませんこと!?」



水の上を転がって何とか回避した奏はすぐに起き上がって私に食いついてくる。

何故私に非があるのだろうか。もう既に試合は始まって(私が勝手に始めた)るし、私は元より彼女と会話をする気はない。

ただ始まったのが遅いか早いかの違いだろう。

なので私は手を前に突きだし、手の平から凝縮された氷のレーザーを放った。

レーザーは水を抉ると同時に水を凍らせながら突き進んでいく。



「そうですか!あなたはわたくしとの会話に応じる気がないのですわね!」



奏は右手を地面に押し付けると、目の前に巨大な炎の壁を作り上げる。

それと同時に氷のレーザーが炎の壁と正面衝突し爆発音に似た衝撃が走りぬける。

でも、私の方が強い。



「な!?ヘルキャット!」



そう、私の攻撃は炎の壁を貫通して奏に届いた。しかし、奏は炎のネコを使って更に炎の壁を生み出して防いで見せた。



「ふぅん……面白いね…」


「ふぅ……お父様から聞いていましたが、やはり魔術師としての格が違うようですわね…」


「私……これでも抑えて撃ってるよ……だって、お兄様からあなたの力量を測れって言われてもん…」


「舐められたものですわ!」


「正直眠いから………さっさと終わらせたけど…お兄様の言う事は絶対だから…」




そして私は右手に氷の槍を構えるのであった。




「流石舞香姉さんですね…」



紅哉と彰は外のモニターで舞香と奏の戦いを見ていた。ほとんど舞香の独壇場となっているが、奏も大したものだと素直にそう思った。

ダメージは負っているものの直撃は貰ってはいない。舞香が手加減をしているのもあるが、パートナーのネコとうまく舞香の攻撃をいなしている。



「当たり前だ。俺でも勝てない最強の妹だからな。でも、舞香は手加減をしているぞ。まだリアすら出していない」


「冥龍王リヴァイアサンですか。奏のヘルキャットでは分が悪すぎますね」


「ヘルキャットじゃなくてもこれは負ける。まず奏と舞香では魔術師としての技能が違いすぎるんだ。舞香にとっては俺が言ったから戦っているもんで、ホントのところは早く帰って寝たいだろうな」



実際に舞香は試合の最中なのに両目が閉じかかっている。奏は防衛に必死で舞香の様子に気付いていないが、これに気付いたらきっと激怒するだろう。



「舞香のリアは大きさはパートナーの中でも随一の大きさを誇っている。初見であの大きさを見たら恐怖するしかない」


「確か25メートルでしたね」


「そうだ。でも、神話によると海より大きいと言われていたりもするから、これでも小さい方なんだろうな」



そう言って紅哉は端末で時間を確認した。

技量を知るにはそろそろ頃合いだと感じた紅哉は顔を上げると丁度舞香が準備しだしたところだった。



「………さぁ、蹂躙のお時間だよ…」


「はぁはぁ…!な、なんですの!?この溢れ出ているエーテル量は!?」



肩で息をしている奏を放って私は自分のパートナーリアを呼ぶ。



「おいで……リア…」


「はい、我が主」



美しい女性の声と共に私の肩に冥龍王リヴァイアサンが召喚される。



「守る事に徹した方が……いいよ…」


「はい?」



そしてリアは空高く飛び上がる。



「……んじゃ行くよ……おいで、リア…」



やがて空から降るは巨大な龍。巨大な身体はに10本もある首。鱗は光に照らされ美しく蒼銀に光る。

身体を支える足はしっかりと地を掴み、尻尾はどこまでも長く森の木々をなぎ倒す。



「グルルル………クキャアアアアアアアアアア!!」



その咆哮だけで地は割れて抉れる。日本でもトップクラスのこの力は本来このような場所で使うべき力ではない。

しかし、火神崎舞香はただ兄のためにこの力を躊躇することなく使う。それは過去にあった事件の悲しみを一人で背負っている兄のせめての恩返しだと思って。



「こ、これが冥龍王リヴァイアサンですの……なんて大きいのでしょう…」


「リア……やっちゃって…」



舞香は無慈悲にリアに指示を出した。

彼女の声に反応したリアは巨大な右足を地を思いっきり踏みつける。次の瞬間大きな地響きが巻き起こり辺り一帯全ての地から水柱が巻き起こる。

それはやがて生きた蛇のように奏を襲い始める。



「こんなの……遊びでしかないよ……リア、決めよう…ハドロンブレス…」



10の顔の口に青白い光が集まりだし、いつでも撃てる状態となったリアは奏に狙いを定めて全ての口から一斉攻撃を放った。

それは光の奔流だった。紅哉の画面から見れば青白い炎しか映っていないだろう。

殲滅級の威力のブレスを受けて奏が生きている保障などどこにもない。



『そこまで!勝者!火神崎舞香!だよ!』



アイリ……なのかな、どこかで聞いたことのある声だけど、あまり思い出せない。しかし、さっきまで試合開始のアナウンスをしなかったくせに勝敗が決まった瞬間に仕事を始めるのはどうだろうか。

そんな事を考えているうちに私は再び奇妙な浮遊感と共に現実へ引きずり戻された。



「おかえり、舞香」



帰って来た私にお兄様は笑顔で迎えてくれた。お兄様の隣にいる彰という男の子は私に拍手を送る。

奏はあからさまに不機嫌で、その奏にお父さんは穏やかになだめようとしている。



『次は火神崎紅哉――』



次はお兄様の番となり、お兄様と彰は静かに転移術式の魔法陣に乗る。

一瞬だけお互いを一瞥し、二人は光の中に消えて行った。



「ここは……?」



紅哉はVR空間に飛ばされて周りを見渡すと、なんと雲より高い場所だと知る。俗にいうここは天界という場所で、神秘的な像や石造りの宮殿はまさに神話に出てくるような場所だ。



「くっくっく。我が故郷を思い出すな」



ニルは既に最大顕現して5メートルの巨大なドラゴンとなっていた。漆黒の鱗は天からの日差しを浴びてギラギラと光る。



「これが、龍戦士ファーヴニルですか」



数メートル先に彰が現れ、その傍らには武器も何も持たない白騎士が控えている。

あの騎士はただ者ではない事は一瞬で想像がつく。



「凄いですね。あなたからは禍々しいオーラが滲み出てる」


「邪龍だからな。それで、お前のは英雄種と見るけど」


「そうです。僕のパートナーの名は主神オーディン」


「おい、マスター。あの英雄、並みならぬ英雄とは違い神クラスの英雄だぞ」



そんな事言われなくとも分かっている。何故なら主神オーディンと言えば有名な北欧神話の神々の黄昏ラグナロクに出てくる神様なのだから。



「これは本当に気を引き締めないと負けそうだ。最初からユニゾンを使って行くぞ」


「僕らも最初からユニゾンで行きましょう」



『んじゃ!試合開始!だよ!』


「「ユニゾン!」」



明るく元気な声と共に試合の火蓋は落とされた。

紅哉と彰は同時にユニゾンを唱える。するとニルは黒炎となって散り紅哉の身体はニルの炎に包まれる。対する彰のオーディンも白い光となって彰の身体にまとわりつく。

黒炎が消えると紅哉はニルの形取った鎧に身を包んでいた。龍の長い爪、鎧に生える無数の黒く鈍く光る鱗、そしてゾロリと棘が生え揃った長い尾。

彰は重さを感じさせない白い鎧はまさに貴公子だった。

しかし、彼の手には武器はない。


ユニゾンとはパートナーをその身に纏う魔術だ。習得するためにはパートナーと深い絆がなければ使用することも出来ない物だが、これを出来て初めて魔術師と言えるだろう。

もし未熟な魔術師がユニゾンを行った場合は、最悪死に至るかパートナーに身体を乗っ取られることもある。

だが、これを使えば人間を超越した力とパートナーの使う技が使えるためメリットは大きい。デメリットを挙げるのならばユニゾンは自分が戦うため特訓をしなければろくに力を発揮出来ない事くらいだろうか。



「ウオオオオオオオオオオオオ!」


「行きます!」


雄叫びを挙げると同時に彰が人体を超えた速度で突進を仕掛けてきた。紅哉は長い尾で近くの柱を掴んで彰へ投げつける。



「シェイプウェポン!ソード!」



声に呼応するように彰の両手には身の丈ほどある黄金に輝く光の大剣が握られていた。

そして、投げた柱はいとも簡単に両断され砂埃が舞う。

それに乗じて彰は一瞬で距離を詰めるが、紅哉はそれを予測しており口に黒い炎の中に紫が混じるカオスブレスを準備していた。



「おっと!これは!」


「ゴバアアアアア!」



咄嗟に彰は光の大剣で防ぎに入る。実はこのブレスには酸が混じっており相手を溶解される力があるのだ。

このまま撃ち続ければ間違いなく彰の大剣は壊れる。しかし、それは燃費が悪い。だから紅哉は―――………



「……?」



今まで照射し続けてきたブレスを止め、彰の動揺を誘った所へ本気の拳を腹部に叩き込む。

気流を纏ったコークスクリューは彰の腹部へ突き刺さる。



「ちっ!硬い!」


「舐めないでくださいよ!」



壊すつもりで行く入れた拳は鎧を僅かに欠けさせる程度で終わってしまった。そして紅哉は嫌な予感が走った瞬間に背中の大きな翼を広げて後ろに後退する。

ドスッ―――――紅哉の肩に光の矢が突き刺さった。


「くッ!矢か!」



紅哉は肩に走る痛みを堪えて光の矢を圧し折って肩から引き抜く。VR空間なので当たり前だが、血は出ない。



「流石ですね。いま僕は紅哉兄さんの肩を消し飛ばす威力で放ったつもりなのですが」



煙の奥で光の弓を構えている彰は至極真面目な様子だ。



「幻獣最強の龍を舐めるなよ。こいつは何人もの英雄を食って来てるんだ。そこからの龍よりよっぽど硬い」


「流石ですね。しかし、僕もまだ負けてはいませんよ」


「当たり前だ。こんなので驚いて貰っては困る」



紅哉は再びカオスブレスを吐きだす。



「シェイプチェンジ!シールドソード!」



彰の右手には西洋の剣のようなつるぎ、左手には大きな盾を光で生成する。そして彰はそのまま紅哉のブレスを防ぎながら速度を落とす事もなくそのまま突進してくる。


そして紅哉は彰との距離が僅か8メートルとなった時に両手を地面に叩きつけて地割れを起こす。しかし、彰は華麗に空中へ飛ぶとそのまま飛び蹴りを紅哉にお見舞いする。

だが、これはただの飛び蹴りではない。彰の蹴りは紅哉の胸部に当たり、その直後に光のレーザーが紅哉の身体を突き抜けた。



「が――――――ッ!?」



声にならぬ激痛が紅哉の口から発せられる。飛び蹴りを受ける際に僅かに身体を捻っていた事が幸をなして、なんとか急所を外したようだ。

身体は灼熱の炎に炙られるように熱い。そして嫌な汗が零れ落ちる。

倒れる事は簡単だが、まだ紅哉は倒れる訳には行かない。妹の前で無様な姿はさらしたくないのだ。

瞳の炎が灯った紅哉は蹴り飛ばされている状態で、自分を踏みつけている彰の右足を掴む。



「え!?まさかあれを喰らって!?」


「うおおおおおおおおおお!」



空中を仰け反りながら飛んでいる状態から紅哉は彰をある限りの力を使って地面に叩きつける。



「がはッ!う、くぅ……」


「潰れろおおおおおおおお!!」



紅哉は両手を胸の前で向い合せるようにして中央に黒い球体を作りだす。

そして声と共にその球体を両手で押し潰す。次の瞬間紅哉の視界に移る全てが重力によって押し潰される。

覇龍圧殺。地球の重力を捉えて実体として生み出し、それを潰す事によって集めていた重力球を拡散させて、周り全てに対して体重の約10倍の不可を掛ける恐ろしい能力だ。

しかしこれは時空に関する能力なので使うには莫大なスタミナとエーテルを使う。まず自分も押し潰されないようにするための保護結界。その次にこの重力場での活動を可能にするスタミナが必要なのだ。



「ニル!チャンスだ!決めるぞ!――――ユニゾン解除!」


「心得た。さて、オレはマスターのように相手の力量を測ったりもせず殺すと決めたら殺すからな。覚悟しろよ」



敬語などどこかに行ってしまって、素の状態のニルは光を受けて鈍く光る鱗が生え揃った剛腕を彰に向ける。

ぐッ!とニルが拳を握ると彰を覆うようにドーム状の透き通るバリアが出現する。



「ドラグシールド展開完了。さあ、こっからだ!」



ニルは天高く羽ばいてこちらか視認出来ない程の高度まで飛翔すると、顔の前に大きな黒い魔法陣が出来上がる。



「オーディン、貴様には色々世話になったからな。これはほんのお礼だ。礼はいらん」



チャージが始まるとその魔法陣に光が集まる。それが限界に達したとき―――



「シャインシャワーブレス」



キンッ!―――――――――流れ星のように一瞬だけ光り、光は一筋となって彰を覆うバリアに当たる。

すると光は生きてるが如くバリア内を踊り荒れ狂う。彰と紅哉の勝敗などもはや決まっていた。



『勝負あり!勝者、紅哉君だよー!』



試合終了の合図と共に紅哉は脱力する。そしてニルも空から舞い降りて地面に足を着く。



「どうにか勝ったな」


「そうだな。だが、オーディンの力はあんなものではない。あの小僧はまだオーディンの力を使えていないようだ」


「………確かに、神クラスというモノはもっと強いはずだ」


「マスター。神クラスという物はただのパートナーと考えない方がいい。半神半人の英雄ではない、あれは純粋な神なのだ。そもそもオーディンを主張する聖槍グングニルを持ってない。やはり神を従えるだけで精いっぱいなのだろう」



理解が余り出来ていない紅哉にニルは呆れながら答える。彰がまだ未熟なだけでオーディンとは本当は恐ろしい力を持っているのだろう。


紅哉が考えていると彰が倒れた方から鎧のこすれる音がする。その音は次第に大きくなり、歩みが止まるとそこにいたのは無傷のオーディンだった。

彰はオーディンに背負われて気絶している。


身構えた紅哉とニルにオーディンは首を振る。どうやら、話したいらしい。



「我が主が未熟ながらあの強さ、見事だった」



凛としてその声は威厳に満ちた女性の声だった。オーディンとは主に男性で描かれているものが多い。しかし、どうやら本物は女性らしい。



「宿敵ファーヴニルよ。貴様も随分と成長したな」


「お前に褒められるようでは、オレも終わったものだ」


「そう邪険にするでない。龍とは孤高に生きるものだと思っていたからな」


「この弱い主に呼ばれてからは色々考えた方が変わってな。オーディン、お前はそんなもやしみたいな主でいいのか?主神あろう方がこんな催しでいきなり惨敗するなんてな」



ニルは挑戦的な目で自分より小さな神を見下す。



「ふっ……それは貴様と同じだファーヴニルよ。私も色々と考え方が変わったのだ。神の座にいるよりな、この現世で第二の人生を強き者と歩むより弱き者と気楽に生きたいのだよ。貴様もそこに興味をそそられたのではないのか?」



そんなニルの挑発を涼しげに受け流し、オーディンは更にニルへ問いかける。



「お前と同じ考えなど反吐が出る。オーディン、そのうちロキでも現れたら面白くなりそうだな?」


「私には関係がない。ロキが現れようとも今回の私はこの主に尽くすのだ。主神の肩書なんぞ私には重い。そうだな、もし彼が我が主に手をかけようとした時はヴァルハラで出せなかった力をここで思う存分出そうぞ」



そう言ってオーディンは満足したのか、踵を返し自分の帰る術式の所まで歩いて行った。



「随分と考え方が変わったようだ、あの主神は」



ニルもそれだけ言うと虚空へ消えてしまった。

取り残された紅哉もオーディンと同じく術式で帰るのであった。



その後は色々と面倒だった。まず帰るなり奏に尊敬の眼差しと共に抱きつかれ、それを剥がすのに時間がかかり、そして雅文からは直海の部屋に寄るようにと言われる。そんな事分かっている。


手直し進行中ですが、これ直しているとき朝の7時ですね………そろそろ寝なくては…眠たいのです…スヤァ

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