母親を救うための旅立ち
病院から出ると、既に外は真っ暗だった。直海を置いて行く事が気がかりな紅哉たちは、いつまでも動けずにいた。
麗華はクロフィードの胸で泣いており、アイリもセレナも顔を背けている。
「みんな、今日は帰ろう。直海の事を心配してくれるのは大変嬉しい。でもね、君達が体調を崩してしまったら直海は悲しむ。だから、帰ろう」
一番最初に口を開き、動いたのは夫の雅文だった。雅文は駐車場に向かい、車を出しに行く。それに続いて麗華に肩を回しながらクロフィードも続く。
なら、次は火神崎家当主の紅哉の出番だ。
「俺達も帰ろう。大丈夫だ、直海はきっと大丈夫」
どこか落ち込んでいるように見える舞香の頭を撫で、龍一とセレナに車を出すよう命令する。
家に戻ると、みな無言で自室に戻ってしまった。癒理も「今日は遅いで、ここで帰ります」と言って帰った。
こんなに静かな火神崎家は久しぶりだった。家を建てて侍女を雇った最初の頃はみな会話もなく、ただ淡々と仕事をこなすだけだったが、いつからか笑いの絶えない家になっていた。
それが当たり前になっていたわけだし、こんな誰も住んでいないような雰囲気の我が家は久しぶりすぎて紅哉は少し戸惑った。
『お母さんが明日には死ぬのか』
『そうねぇ……アタシたちは人間の命を簡単に奪ってきたけれど、情が移った身内となるとホント別よね』
『そうだな。オレを我が子のように接してくれた直海が死ぬのは悲しいな』
紅哉は自室でニルとヴリトラの脳内での会話を他人事のように聞いていた。
『龍の里にならば龍の秘薬があったのだが…』
『もうあそこには帰れないわよ』
『分かっている。だからこそ、悔しいのだ』
『なァ…龍の秘薬ってなんだ?』
紅哉は興味本位で聞いていた。
『む?その名の通りだが?龍の血と里に伝わる野草を組み合わせて作る薬だ。龍の血で身体の細胞を活性化させて、野草の力で万病を消し去る。そうすれば病人になる前より元気になるだろう』
『よく里では喧嘩が絶えなかったから、よくアタシもお世話になったものだわ。一説ではその血の元は龍神種から採ったものだと言われているのよ』
『それがあれば治るんだな?直海の癌が』
『あぁ、確実に治る。だが、あれは龍の里にしかない』
『龍の里に行けばあるんだな?』
『あるわよ。あれの容器は決して壊れないオリハルコンで出来ている』
『オリハルコン…?ゲームでよく聞く名前だが』
『オレ達の知り合いの地龍にオリハルコンを生成する龍がいてだな、そいつの防御力は誰も突破する事は出来ない。だから、龍の里の建物は神の襲撃があっても壊れる事はなかった』
『分かった。行こう、龍の里に』
『どうやって行くのかしら?』
『これで行く』
紅哉はポケットから黄金の指輪を取り出した。
『ほう、それは舞香に使うのではなかったのか?』
『そうなんだけどな……』
そこで部屋の扉がノックされた。こんな時間に誰だ?と思いつつ紅哉は「どうぞ」と言う。
「お兄様……」
「舞香?どうしたんだ?」
「リアから話は聞いた……龍の里に秘薬があるって…」
「リアが?俺達も丁度秘薬について話していたんだが…」
「お兄様………神の遺産を使って…」
「………いいのか?」
「うん……お母さんが死んで私だけ感情が戻っても…悲しいだけ……どうせなら、戻った時にお兄様にありがとうって言いたい……笑ってね…」
「分かった。よし、舞香も行こう。ニル達の故郷に」
「うん……」
「龍の里には龍しか入れない。セレナ達は連れて行けないぞ」
「あぁ、元より俺達で片づけるつもりだったからな」
ニルとヴリトラも人間の姿で顕現し、紅哉はベットから立ち上がった。
「指輪よ!俺の願いに応えろ!」
人差し指にはめた指輪から黄金の光が生み出され、光はスクリーンのようにある情景を壁に映し出す。
「おお……これは我ら龍の里の門だ」
「懐かしいですね。それでは行きましょう」
「あれ…リア……もしかして喜んでいる…?」
紅哉たちは壁へ飛び込んだ。
では、神の遺産編はここで終わりで、次は龍の里編です。
7章はもう少し続きます。




