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龍の血を引く者  作者: また太び
7章 第二の神の遺産
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雅文と直海の出会い

紅哉は息が出来なかった。



「なんで……?嘘だろ…?」


「嘘ではありません……」



紅哉は病室で様々な機器に繋がれた母親を見て茫然と呟いた。



遡る事1時間前。

紅哉たちは無事神の遺産を手に入れて我が家に帰宅した。



「舞香!舞香はいるか!?」


「舞香ならこちらに」



セレナの笑顔を久しぶりに見た気がした。紅哉とセレナはすれ違いざまにハイタッチを交わしてリビングへ走る。

リビングにはいつも通りボケーっとしながらゲームをしている舞香の姿があった。



「舞香!兄ちゃんやったぞ!これでお前の感情が戻るぞ!」


「え……私の戻るの…?」


「あぁ!また一緒に笑えるんだ!」



ゲームのコントローラーを落とした舞香の声は少し震えていた。

そんな舞香を紅哉は強く抱きしめた。



「ふぅ……少し濡れちゃったよ。セレナちゃん、あたしお風呂入って来るね」


「朱音さんもご苦労様でした。心から感謝いたします」


「いいっていいって!あたしも舞香ちゃんの感情が戻すために協力したんだしね」



朱音は照れ臭そうにしながら浴室へ向かった。その後ろには癒理と彰がおり、兄妹の抱擁を微笑ましく見ていた。



「癒理さんも彰もありがとうございました。紅哉は今舞香のことで頭がいっぱいでしょうから、わたしからお礼の言葉を」


「いいんですよ。私も師匠の苦しみを早く取り除きたかったのですから」


「そうですよ。僕はただ義兄と義姉の幸せになって欲しくて頑張っただけです」



涙を流して喜ぶ兄に妹は背中をポンポンと優しく叩いていた。

その時だった。火神崎家に一本の電話が来た事を知らせる着信が鳴る。



「どうしてこんな時に…」



流石にセレナも苛立ちを隠さず誰が寄越したのか着信を見ると、そこに書かれていたのは炎道家だった。

セレナは意識を切り替えて電話に出た。



「もしもし、火神崎ですが」


「あ!セレナ!大変よ!」


「ん?母上?どうしたのですか?」



セレナは驚いた。あの尊敬する母が慌てているのだ。



「直海が!直海が癌で倒れたわ!いま病院に搬送されてクロフィードが付いて行ったのだけれど……直海…うぅ…」


「奥様が!?母上!まだ医師は大丈夫だと仰っていたではありませんか!?どうしてこんなすぐ!」


「私にも分からないのよ……ただ癌の成長が早かったとしか…」


「どこの病院ですか!?わたしたちも向かいます!」


「え、ええ……」



セレナは脂汗を浮かべながら麗華から病院を聞くと、電話をすぐ切った。

そして幸せな兄妹二人に告げるにはあまりにも酷すぎた。



「直海が!?それは本当なのか!?」


「はい……いま父上が付き添いで行ったのですが…」


「お母さん……セレナ…そこどこ…?」


「すぐ車を出します。龍一さん!車の用意を!」


「はい!すぐ出します!」



セレナと龍一は早歩きで車の鍵を持って外に出て行った。

紅哉は朱音を呼びに行く。



「朱音さん!直海が!って……あらら」


「へ…?こ、紅哉君…?ひ―――!」


「ちょっと待て!いまマジで緊急事態なんだ!」



そこには少し年上の女性の生まれたときの姿があった。上がったばかりで水滴が髪から滴り落ち、平均より大きめのバストはバスタオルを浮き上がらせて何とか隠すべき場所を隠す。

そしてスラリと伸びた足は水滴を弾き、光によって輝いていた。

バスタオル1枚の朱音が聖剣アスカロンを取り出したところで紅哉は鼻血を出しながら今の状況を説明する。



「え!?直海さんが!?おかしいな……直海さんの癌はもっと先の話だったはずなのに…」


「なんだか早まったらしい!だから!今すぐ来てくれ!」


「うん!すぐ着替えるね!」


「じゃ!俺はこれで!」


「あ、紅哉君待って!」



更衣室を出ようとした紅哉を呼び止めた朱音は、紅哉が「なんだ?」と振り返った瞬間に大剣の腹を頭に振り下ろした。




「あの、師匠。そのたんこぶは…?」


「そ、そんな事はどうでもいい!お前も来い!」


「あ、分かりました!」



どうすればいいか迷っている癒理を紅哉は連れて行くことにした。

弟子なので無関係というわけでもないし、何よりも彼女は炎道家の秘密を知っている。

今更のけ者に出来ないだろう。



紅哉と舞香とアイリはセレナの運転する車に乗った。

朱音、癒理、彰は龍一の運転する車に乗って各々麗華に言われた病院へ向かった。



「直海!?」



病室を開けると、そこには様々な機器に繋がれた直海の姿があった。病室には既にクロフィード、麗華、雅文、奏がいた。



「お兄様…!どうしてこんなことに…!」


「雅文、どうなっているんだ」



涙目の奏を受け止めて紅哉は出来るだけ冷静に雅文に問う。



「直海はもう……あと1日か2日が限界だそうだ………医者によればもっと先の話しだったはずなんだが、どうも癌の進行が早まったらしい…」


「あぁ…直海……あなた海が見たいと言ったわよね……今度皆と一緒に行きたいって言ったわよね…!」


「母上……」


「直海さん……アイリもっと研究の話し聞かせてよぉ…嫌だよぉ」


「こ、紅哉……紅哉はいますか…」


「直海!?」



直海は弱り切った瞳を紅哉に向けた。



「神の遺産を手に入れる事は出来まし…たか……?」


「あ、あぁ!ちゃんと手に入れたぞ!ほら!」



紅哉はポケットから黄金の指輪を取り出した。強力な力が込められている指輪に雅文、クロフィード、麗華、アイリは少しだけ目を見開いた。



「よかった………私が長年あるか分からない物を調べ続けてきたかいがありました…」


「あのね、紅哉くん。直海さんの研究テーマの本当はこの神の遺産の研究だったの。でも、研究者の間では直海さんの研究テーマは異質なものとされていて、認められていなかった。でもこうやって紅哉くんがある事を示してくれた。直海さんは嬉しがっているよ」


「そう、だったのか……だから、あのパーティーで俺にこの遺産の話をしたのも…」


「はい………やっと確信に至りましたから……それでも信じきれない自分がいて…いまこうして紅哉があることを証明してくれて、私にはもう悔いがありません…」


「おい、奥さん!そんなこと言っちゃいけねぇ!あんたはもっと生きるべきだ!これからもっと楽しくなるんだろう!?」


「直海……君の人生はそこで終わりでいいのかい…?もう本当に悔いはないのかい…?」


「いいのです……こうして紅哉と舞香が私を心配してくれる………もう涙が止まらない思いなのですよ……悔いなど、どこにもありません…」



そこで直海は咳き込んだ。それと同時にあわただしく医者と看護師が入って来て紅哉達は外で待機するように言われた。



「なんて親不孝者なんだろうな…俺は……勝手に勘違いしてもうここまで来てしまった」



紅哉は屋上のベンチでうなだれていた。



「親の大事さに今更気付くなんて……」


「紅哉、ここにいたのかい」


「雅文」



屋上に雅文がやってきた。

遠くから見ると、雅文はやつれた社会人と言った所だ。

ぼさぼさの黒髪にしおれたスーツ。足は長いが、どうも折れそうなくらい身体は細い。



「紅哉、少し話をしよう」


「なんだ突然?今はそんな状況じゃないだろ」


「まぁまぁ、こんな時だからこそ冷静にならなくてはいけない気がしてね」


「で、なんだ?話って」


「そうだね。僕と直海が出会ったころの話をしようか」


「思い出話か」


「僕と直海が出会ったのは教授の研究室かな。その学校で直海は男子生徒の憧れの存在でね、かという僕も密かに思いを寄せていたんだ。それである研究テーマを一緒にやることになって、意外と考え方が似ていてそれで意気投合した僕と直海は一緒に研究をすることが増えたんだ」


「雅文は他の生徒から嫉妬されなかったのか?」


「されたさ、凄いね。もう毎日のようにどこからか火炎瓶が飛んで来たり、あからさまな悪戯をされたりと大変だったよ」


「よく平気だったな」


「平気じゃないよ。怪我はいっぱいした。でも、そのたびに直海は心配してくれて、怪我の手当てをしてくれたんだ。まぁそのおかげでもあってか、よく直海と会う機会が増えたんだけどね」


「怪我の功名って奴だな。それでどうなったんだ?」


「僕と直海はお付き合いをすることになった。でも、僕も直海も研究一筋の人生を送ってきたせいで顔を合わせるだけで赤面したり、手を握る事なんて全然出来なかった」


「どんだけ純粋なんだよ……まぁ分からないわけでもないが…」


「まぁそんな騒がしくもある学園を卒業すると、僕は今ほど有名じゃない炎道家に婿として迎えられた。直海は元からお嬢様だったから、ホント家が大きくてびっくりしたよ。それで、直海のお父さんに直海をください!って言って頭を縦に振ってくれた時は人生で一番嬉しかったかな」


「俺、おじいさんに会ったことないな……」


「いや、紅哉と舞香はあるよ?でも、もう覚えてないだろうね。義父さんと義母さんは早く死んじゃったしね」


「死因は?」


「義父さんは事故死。義母さんは直海と同じ子宮ガンだ……」


「やっぱり遺伝子だったか……」


「でも、あの二人は人生に悔いはないって言っていた。直海と同じ事を言っていたね」


「なんて…?」


「孫の顔が見れてよかったと」



紅哉は手で顔を覆った。毎年こっそり墓参りに行くが、肝心の顔を覚えていない、遊んだ記憶もない。だが、何故かその言葉だけは心にしみた。



「だから僕は直海に悔いはないのか?と言ったんだ。でも、直海はもう悔いがないようだね……」



そこで雅文は立ち上がった。



「さ、寒くなって来たから戻ろう。これからもう夜だ」


「あぁ……」



紅哉は黄金の指輪を握りしめながら屋上を出て行く雅文に続いた。


ここで今回は終わりですね。雅文と直海の出会いについて書かれた今回、どうだったでしょうか?


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