面倒な仕掛け
紅哉たちは黄金の霧が舞う通路を歩く。
先ほどから30分くらい歩いている気がするが、一向に終わりが見えない。
「師匠、おかしいですね」
「だな。全然終わりが見えない」
「というか、僕たち振り出しに戻っていませんか」
「アイリ、ここってこんなに広いのか?」
『ううん。横に広いけど、縦には広くないよ。階段もあるような構造じゃないし、ここも何か細工があると思う』
というかそれしか考えられないのだ。
癒理は背負っていた槍を抜いて壁を斬る。×印に刻まれた壁を見て癒理は槍をしまう。
「これを目印にしましょう。次戻って来ても分かるはずです」
「おお、名案だな。ナイスだ癒理」
「いいですね。これなら戻って来ても分かる」
紅哉と彰は壁を。癒理は床を調べながら進む。
「兄さん!これを」
「ん……あ、やっぱりあったか。隠し扉とか悪質すぎる…」
「ええ…お約束ですね」
奥へ進むと明るい部屋へ出た。ただ正方形な空間だが、中央に黒い台座がある。
紅哉たちは黒い台座に近づくと、何かをはめるようなくぼみを発見した。
「何かはめるようですが」
「師匠の持っているクリスタルしかないでしょう」
「そうだな。色合い的にこの黒いクリスタルか?」
紅哉は袋から黒いクリスタルを取り出してくぼみにカチリとはめる。
すると、仕掛けが発動したのか、黒い台座はゆっくりと床に沈んでいく。やがて台座が床と同化するほどに沈んだとき、ガチャン!と何か音がした。
『もうこの部屋にようはないね。何もないようだし』
「これであの無限トンネルが解除されればいいんだが…」
紅哉たちはそれを願って再び通路に戻った。
「おお!?お、終わりが見えるぞ!」
「やりました!」
「長かったですね…」
紅哉たちは走り出して終わりの見える通路を駆け抜けた。そして――――
「あ?」
目の前に炎の壁が立ちふさがった。
苛立ちを隠さない紅哉の一言に彰も癒理も黙るしかない。
「今度はこれか……彰、癒理…その変にまた隠し通路あるだろ…」
「はい…ありました…」
今度は癒理が発見し、重い足取りで紅哉たちは隠し通路へ入って行く。
ゴオオオオオオオ――――!
その部屋は燃え盛っていた。
激しい炎が渦巻き、とても中央の赤い台座に近づけない。
「これどうすんの…」
「えっと……あそこに水色の台座がありますけど」
「なるほど。水で炎を消すのですか」
入った部屋の右端に水色の台座があり、紅哉はそこに水色のクリスタルをはめる。
そして炎の渦を呑み込むように水が吹き出し、炎を完全に消し去った。
「おお、ここを考えたやつはよっぽどの暇人なんだな」
「これ作ったのは神ですよね。これも侵入者対策の罠なんでしょうか」
「分かりやすい仕掛けが侵入者対策ですか……」
紅哉の乾いた笑い声と出来るだけ真面目に考えようとした癒理と最後に言ってしまった彰の3人は赤い台座に近づく。
「これか、これをはめればいいんだろ?んん?」
「師匠キャラが壊れています…」
「もう面倒なのでしょう」
紅哉は誰に話しかけているのか分からないが、赤い台座に赤いクリスタルをはめ込んだ。
先ほどの黒い台座と同じ現象が起き、やがてガチャリと何かがかみ合った音がした。
「これで消えているはずだ。行こうか」
通路に戻ると、やはり炎の壁は初めから何もなかったかのように消えていた。
しかし、安心は出来ない。まだ手元には黄色いクリスタルと白いクリスタルがあるのだ。
どうせまた何かが出てくるに決まっている。
だがしかし、あっさりと通路を抜けてしまった。
「え?抜けたのか?」
「そ、のようですね」
「怪しい…まだクリスタルは残っているのですが…」
紅哉の言葉に癒理が後ろを振り返って通路を抜けた事を確認する。彰は紅哉が持っている袋にあと二つクリスタルがある事を見てげんなりとする。
「というか、この部屋真っ暗じゃないか?」
「真っ暗ですね。このクリスタルの光がなかったら完全に見えません」
そう、通路から見るとこの部屋は明るいものに見えたが、入った瞬間辺り一面真っ暗なのだ。
「あ~……俺分かった。多分ここで灯りとして白を使うんだろ?」
「そうですよね。流石にこの中を進むのは危険かと」
「でも、兄さん。台座はどこだい?」
『あ…』
紅哉と癒理は同時に間抜けた声を出した。
そう、台座を見つける前にここは真っ暗だ。
魔術は使えない。奥に進めば進むほどエーテルの霧が濃くなる。だから紅哉たちはユニゾンを保てるのだが、逆に不便でもあった。
朱音は遺跡の罠に引っかかりアヌビス達を斬り伏せながら進んでいた。
「みぎゃー!もうやだこの遺跡ー!」
朱音の目指す先は紅哉たちの場所である。いま朱音は壁を壊しながら紅哉達のエーテルを頼りに進んでいるのだが、壊すたびにアヌビスが壁から出てくるのだ。
『正規のルートを通れ、と言っているのだろう』
「そんなのあたしの知った事じゃないー!」
朱音の髪と瞳の色が変わる。そして周りには宝玉が舞いだし、朱音は剣先を前に突きだす。
「Set.004!グリンデル!おいで!」
大剣に緑色の宝玉が入ると、刀身が緑色に染まり、朱音の身体からゆらゆらと闘志が溢れだす。
「うがー!もう全部壊したるー!」
グリンデルの破壊衝動に身を任せ、朱音の壁を壊す速度は約5倍に膨れた。
剣術など関係なしに、ただ我武者羅に壁を斬り崩していく。
ズバズバズバズバズバズバ―――!
「紅哉君どこじゃー!はよ出てこいやー!」
朱音の暴走はアヌビスなどに止められるはずがない。後ろから来るアヌビスも朱音の速度に追いつけず、どんどん取り残され、そして目の前に出て来る者は問答無用で切り伏せられる。
「みぎゃ!?」
朱音の剣が弾かれる壁に突き当たる。だが、それで止まるような朱音ではない。今の朱音はグリンデルの力を宿しているのだ。
「邪魔じゃボケー!Set.004!大地の咆哮!ウラウラウラウラウラウラァアアア!」
朱音は大剣を野球のように構えると、目にも止まらぬ速さで空間を斬りつけ始めた。
斬撃はまるで時が停止したかのようにその場に止まり、朱音が大剣を振る度に増えて行く。
「いっけえええ!」
大剣を逆さに持って切り上げた。
ズアバアアアアアアアアン――――!
狂龍のオーラを纏った斬撃は一斉に解き放たれ、朱音の大剣を弾いた壁はいともたやすく壊れた。
「あと後ろうるさいわボケエエエエエ!」
もう一度大地の咆哮を使って朱音を追って来たアヌビス達を肉片に帰す。
そこで朱音は紅哉のエーテルが近い事を知り、髪の色と瞳の色を戻した。
さっきのグリンデルの力を使って乱れた髪を直し、朱音は一人でうなずく。
「よし!これで大丈夫!」
いつもの朱音に戻った彼女は大剣を背負って壊した壁から通路に出る。
その奥から紅哉のエーテルを感じた。
「お、お~い…?大丈夫か~?」
「大丈夫です。でも、こちらには何もないですね」
「んじゃ、こっちもダメですね」
癒理はクリスタルの僅かな光を頼りにフロアを探索していた。
入り口では紅哉と彰が待機しており、彰は紙に書いた大体こんな感じだろうと思われるフロアの地図に赤いマーカーでバツをつける。
「んで、今は~………右端と左端はダメか。次は右端から上に行ってみるか」
「そうですね。まずフロアがどんな形になっているのか気になります」
「癒理!そのまま上に行ってくれ!」
「分かりました」
癒理が持つクリスタルが彼女の位置を教えてくれる。このフロアは柱があるのか、たまに癒理の姿が見えなくなる時がある。それが少し怖かったりする。
「紅哉君♪」
「うぎゃあああああああ!!!」
「兄さん!?お前誰だ!」
「師匠!?何事ですか!?」
「うわ、ちょっと待ってよ!あたし!朱音だよ!」
「な、なんだ朱音さんか……驚かなさないでくれ…」
いきなり首元に抱きついた人物に紅哉は普段あげないような声を出した。
それに驚いた彰と癒理は思わず固まる。
なんせ尊敬する人があんな情けない声を上げるのだ。誰だって驚く。
「あれ、ここ真っ暗なんだね?外からだとまるわかりなのに」
「ん……まるわかり?」
「うん、まるわかり」
紅哉はその言葉に何か引っ掛かりを覚えた。
「朱音さん、もう一度最初から言ってくれないか?」
「いいよ?あれ、ここ真っ暗なんだね?外からだとまるわかりなのに」
「それだー!彰!一度外からここをみてみるぞ!」
「はい!兄さん!そうだったんですね!」
「え?どこ行くの~?」
「癒理!お前も来い!」
「はい!師匠!」
走って癒理も戻ってくると、みんな揃って一度部屋を出る。
「うお!部屋が明るいな!そっか!最初から外に出てこの部屋を見るべきだったんだ!」
「そのようですね。あ、台座はないですけど、左奥の柱に埋め込む場所がありますね」
「ありがとう朱音さん!俺達は無駄な時間を過ごしていたようだ!」
「え?そう?なんだか褒められちゃった」
朱音は照れ臭そうに頭を掻く。
再びフロアに入ると、やっぱり光はない。だが、もう道は覚えた。紅哉たちは真っ直ぐ左奥の柱に向かうと、迷わず白いクリスタルを置いた。
そしてフロアを埋め尽くす白い光が紅哉達の視界に広がった。
光が収まると、奥へ続く扉が開いていた。もちろんフロアには光がある。
「よし、残るクリスタルはあと一つだな」
紅哉は袋から黄色いクリスタルを取り出し、袋は癒理のリュックへ入れる。
奥へ進むと、やたら豪華な扉の前に来た。
「ここで終わりのようですね」
癒理は周りを見渡してそう言った。紅哉達が出てきた道のすぐ横にまた違った道があるが、これはきっと朱音が本来通るべき道だったのだろう。
「そういえば朱音さん。確か俺達とは違うルート行ったよな?」
「あ~それね。なんだか紅哉君たちが恋しくなっちゃって壁壊してきちゃった♪」
『…………』
満面の笑顔で答えた朱音の言葉に全員が絶句した。普通は考えないだろう。そんな型破りなこと。
「とりあえず行くか」
巨大な扉は黒くなっており、まるで死んでいるかのようにも見えた。
その中央にはくぼみがある。やはりここで最後のクリスタルを使うようだ。
紅哉は迷わず扉にクリスタルをはめ込んだ。その瞬間扉に生気が戻ったように、紋様が浮かび上がり黄金に輝いた。
そして重々しい音と共に扉が開く。
紅哉たちは最後の扉の奥に進んだ。
最後のフロアに足を踏み入れると、そこは水が流れる黄金の間だった。
よく見れば黄金の財宝が水の中に落ちており、売ればもう億万長者だろう。
「アヌビスが出た時から思っていたけど、やっぱりここの守護者はスフィンクスかぁ…」
朱音は大剣を抜きながら決闘上のような黄金の広場に出る。周りは水で囲まれ、どこから水が沸いているのか分からないが、滝が流れている。
遺跡の通路の端を流れる水もここから溢れ出たものだろう。
「オオオオオオオン!」
ライオンの身体に女神の顔をした獣は侵入者を威嚇する雄叫びを上げる。
朱音がスフィンクスへ稲妻を纏った大剣を向ける。
紅哉は両手を床についていつでも飛びかかれるように臨戦態勢をとる。
癒理は槍を高速で回しながら静かに戦闘の合図を待つ。
彰は愛馬スレイプニルに跨り、光の剣と光の盾を構える。
「さぁ!行くよ!」
朱音の声と共に戦いの火蓋は落とされた。
今回はここまでとなっています。次からスフィンクス戦となりますね。
紅哉は神の遺産を手に入れて何を願うのか?楽しみですね。
エジプト系の神話はチートな魔物が多いので、余り出したくないのですよね。とても人間がかなうような世界ではありませんので。
でも、私が思うに、遺跡と言えばどうしてもエジプトとかそういう風景を思い描いてしまうのですよね。私だけでしょうかね?
でも、結構遺跡らしくかけたと思っているので、満足かなと。




