未来(あした)と過去(きのう)
「はぁ……」
朱音は一人遺跡を歩いていた。
そして寝るたびに蘇る悪夢。最近はよく眠れない。
朱音はこんな時に睡魔を襲われて目を閉じた。
壊れたビル、焼けたアスファルトの臭い、誰かの悲鳴、そして無数の魔物。
あたし、いや、私のお父さんは皆を守って死んだ。お母さんも一緒だったと聞いている。
当時、私は5歳の時に親を亡くした。いや、一応母親だけはいた。
『お父さん!お父さん!嫌だ!お父さんと一緒にいるの!』
『朱音ちゃん!ダメだよ!君のお父さんは朱音ちゃんを逃がすためにここを守っているんだよ!?だから私達も逃げないといけないの!』
皆が街から逃げて行くその中で私は街に入ってくる魔物を片っ端から倒しているお父さんとお母さんの所まで行きたかった。
お父さんは言った。もっと強くなれ、と。突然だけど、私には妹がいる。腹違いの妹だ。
妹は賢い子だった。私なんかと比べて聞き分けの良い子でお父さんの言葉をきっちり理解して、もう既にこの街から逃げている。
だけど、私はこうやって妹のお母さんを困らせている。
目を閉じれば聞こえる。お父さんのパートナーが最後の力を振り絞って魔物を食い止めている声が。お母さんのパートナーはここからでもよく見える。だけど、白くて優しくて、でもどこか意地悪なパートナーは既に血で真っ赤だ。
もうこんな世界嫌だった。
お父さんもいない。本当のお母さんもいない。
妹のお母さんはもちろん好きだ。でも、私のお母さんには敵わない。そう、私のお母さんは若くて可愛らしくて、いつもお父さんと一緒に笑っている大好きなお母さん。
何かの間違いだと思った。幸せな世の中が一瞬で崩壊したことが、何かの間違いだ。
私は妹のお母さんに抱きかかえられて街を出た。
そう、こんな世界は間違っている。ま、まちまままままま#&%!&“@:+*#
「ぷはぁ!?ハァハァ………もうなんでこんな時に思い出すかなぁ……」
完全に悪夢を見て目が覚めた私は通路の端を流れる綺麗な水を両手ですくって顔を洗った。
でも、しばらくはいつものテンションに戻れそうにない。
「全く……こんな姿紅哉君に見せられないね…」
「大丈夫か。朱音」
「うん……ちょっと思い出しただけ」
「そうか。しかし、先を急いでいるわけではあるまい。少し休んでいかれよ」
「ありがとう」
無愛想だけれど優しいパートナーの心に甘えて私は壁に背を預けて腰を下ろした。
遺跡の通路は薄暗いが、通路の端に流れる水のタイルが青く光って幻想的だった。
「ねぇ……ギウス。あの世界はどうなっちゃったんだろうね」
彼を懐かしい名で呼ぶと、騎士は兜を少しの間だけ向けてすぐ前を向く。
「どうもないだろう。ただ終わりを迎えただけだ」
「終わり………そっか…」
「貴君が悩む必要はない。あの世界はあれで物語が完結したのだ。ただ我らは終わりへ向かっていただけなのだ。そこに嘆きも、喜びも、何もあるまい」
「うん……あの世界の運命だったんだよね」
「朱音よ。今はその時まで生きるのみ」
「分かっているよ。私は今度こそ失敗はしない」
私……ううん、あたしは壁に掛けた大剣を握り、立ち上がった。
「必ず守ってみせる。大好きなお父さんとお母さんが愛した世界を」
あたしは大剣を背負って奥へ続く通路を歩き始めた。
未来は分からないから楽しい。だが、その未来が奪われたとしたら?
本当は来るべき未来が消滅したら?そんなこと分かるはずがない。何故なら人間は今を生きることで精一杯だからだ。
明日は何が起こるかな?そんなわくわく感で胸を震わせた時もあった。
明日はお父さんとお母さんと遊べるかな?そんなわくわく感で明日の休日を楽しみにした時もあった。
明日はお爺ちゃんとお婆ちゃんと遊べるかな?そんなわくわく感で明日お父さんの実家に行く日を楽しみにした時もあった。
それが全て失われた。
もうあの少女は泣かないだろう。未来になにより絶望した彼女は小さな幸せすらも奪われたその瞳に何が残っている?
もう既に流すべきものは全て流れた。もう何も残ってなどいない。未来も過去も、何も残ってなどいないのだ。
そんな彼女だが、『残したい』未来があるのだ。もう自分には未来も過去も残ってなどいないが、次につなげる事は出来る。
だから、彼女は歩く。その小さな幸せを守るために。
シリアスな展開ですね。少しだけ朱音の秘密が出た話でした。
彼女は何者なのか。それが少しだけわかってくれるとうれしいかな、と思います。
勝手に指が走ってこういう結果になりました。私はこういう話でいいかな?と思ったらあとは後先考えずひたすら指が走る続けるような感じです。
それがこういうシリアスな話を生むのですが……




