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龍の血を引く者  作者: また太び
6章 平和な日常?
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刀條美雪のパートナー

「よっと!こんな感じか?美雪ちゃん」


「はい。そんな感じです」



紅哉は薪割をしていた。斧を持って縦へ一閃する作業だが、これがなかなか肩に来るようだ。

美雪が監督として付いており、割った薪を回収してくれる。



「なんだか妙に疲れているんだよな。それに対して瑠璃は艶々してるし」


『面白かったわよ~。紅哉は寝ていて分からないだろうけれど』


『お前さっきからそればっかだな』



聞いても教えてくれないヴリトラに紅哉は既に諦めている。

今はこうして風呂を沸かすための薪を割っているわけだ。



「美雪ちゃん。今日の晩御飯は?」


「今日はイワナの塩焼きと冷奴。そしてシジミの味噌汁とお浸しです」


「お、うまそうだな。よし!もうちょい頑張るか!」


「はい…!」





場所は変わって台所。

ここでは瑠璃と玲奈が晩御飯を作っていた。



「ねぇ瑠璃ちゃん。あなたなんだか元気じゃない?」


「え?気のせいだよ~普通だって~」


「そう?紅哉さんなんだか疲れているようだし」


「ニルちゃん出しっぱなしだからエーテルが吸われて疲れているんだよきっと」


「倒れないといいけど」



そう、さっきから瑠璃は笑顔なのだ。それが玲奈の眼には不気味に映る。



「それにしてもやっぱこの家に来ると日本人に戻った気がするね」


「戻ったも何も、あなた日本人じゃない」


「私はほら、アイドル活動してるからどうもコンビニの弁当とかジャンクフードで済ませちゃうんだ。だから、やっぱこういう静かな場所で食べるのが懐かしくて」


「そうね。瑠璃ちゃんの活動はよくテレビで見るわ。うちの家族も皆応援しているよ」


「ありがとう玲奈ちゃん。今度私海外ツアー決まったんだ」


「ホント!?凄いわ!」


「私が学校を卒業したらね。だから、来年の4月以降なのかな~」


「瑠璃ちゃんは高校卒業したらアイドル一筋?」


「そうなるのかな~。紅くんとゆっくり生活するのもありかなって思い始めているんだけど、これ言ったら紅くんダメって言うと思う」


「どうして?それも悪くないじゃない」


「だって、紅くんって私のファンでもあるし、何より一番応援してくれている人なんだもん。そんなアイドルをやめるって言ったら紅くんは夢を諦めるなって言うと思う」



イワナの内臓を取って少々塩をまぶして、イワナを魚焼きのコンロへ入れる。



「まぁ多分なんだかんだ言って紅くんは納得してくれると思うよ。それも一つの選択肢だなって。でも、心の奥では残念がると思う」


「でもさ、瑠璃ちゃん。アイドル活動が忙しくなれば紅哉さんと会う暇がなくなるわよ?」


「その時はその時!紅くんと会う時は仕事なんて全部キャンセルしてやるんだから!」


「渡辺さんが嘆くわよ……ただでさえあなたは迷惑かけているのだから…」



グッ!と拳を握る瑠璃に玲奈はほうれん草を切りながら呆れた。



「玲奈~!薪割終わったぞー!」


「はーい!ご苦労様です!居間で休んでいてください!」


「玲奈ちゃんも紅くんの前だと人が変わるよね…」


「お互いさまよ」



もう主導権で争うのは面倒な二人はさっさと晩御飯を作る事にした。







「ハァハァハァ……!ぬぅ!」


「ほれほれ、来るぞ~」



どこから見ている天狐の声が響く。それと同時に瓦礫の山から飛び出した聖龍の攻撃を躱してすれ違いざまに両腕を頭に叩きつけた。



「さっきから埒があかんのう。どれ、わしからヒントを出そう。そいつはお主じゃ」


「だからどうした!」


「そしてそのエヴォルトもお主じゃ」


「ッ!」


「己の理性を無理やり従わせるんじゃ。わしは話し合いで解決したんじゃが、お前さんはどうも荒っぽい性格のようじゃ」


「オレに従いやがれえええええ!!」



ニルは真下にいる聖龍へ魂を込めた一撃を叩き込んだ。

すると、聖龍の身体が崩れ始めた。それに伴ってニルの身体が徐々にエヴォルトの姿へ変わる。



「ほう、魂が従いだしたようじゃ……ほれ、もう少し頑張れい」


「言われなくてもやってやらァ!」



ニルが修行を始めて6時間の時間が流れた。







「それじゃ、いただきま~す!」



政治家のご両親と山へ行っていた祖父と祖母が帰ってきて晩御飯となった。

紅哉の右には瑠璃、左には玲奈が座る。玲奈のその隣に美雪。

急遽襖をあけて長いテーブルを持ってきてみんな畳に座って晩御飯。



「さぁさぁ紅哉君も遠慮しないで」


「あ、ありがとうございます」



炭酸のジュースをお父さんからついで貰って紅哉は一口飲む。



「いや~こうしてお目にかかるのは初めてだね!」


「神社は娘にまかせっきりで申し訳ないと思っているのだけれどねぇ」



気さくなお父さんとお母さんのようで紅哉は安心した。どこかのお父さんなぞ、怖すぎて近寄れない。



「瑠璃ちゃんもよう来たな」


「はい、御無沙汰しています。伯父さん、伯母さん」


「よくテレビ見てるわよ!」



紅哉そこでおじいさんとおばあさんの方へ視線を向けた。



「それで紅哉さんや、龍はどうだ」


「分からないですね。こればっかりは彼女に任せるしかないです」



紅哉に視線を向けられたのが分かったのか、おじいさんはニルへの問いかけをうする。



「そうか。うん、今日もご飯がおいしい」



そう言えばご両親は政治家と聞いた。政府の移行とか少し話してくれたりするかもしれないと思った紅哉は、この機会に聞いてみることにする。



「あの、答えられる範囲いいのですが。いくつか質問していいでしょうか」


「なんだい?」


「まずパワースポットを調査するという話を聞いたのですが」


「君、それはどこで?」


「うちの者から聞きました」



本当は瑠璃だが、ここで彼女の名前を出すのは得策ではない。四条家の者なら話を合わせてくれるはず。



「そうだね。上のお偉いさんはどうやらパワースポットを手に入れて無限のエネルギーとやらを生み出す気でいる。パワースポットにはエーテルが溢れている。それを利用して原子力で生み出す電力や全てのエネルギーを補おうという試みらしい」


「無茶な話だと私も思っているわよ。でも、どうやらお偉いさんにはエネルギーの事しか見えていない」


「傭兵を募った話だが、これが想像以上に多かったらしい。この作戦がいつ決行されるのかは分からない。でも、相当の犠牲者が出る事は目に見えているね。それで、次はなんだい?僕はお偉いさんには賛成できない派だ。君の疑問に出来る限り答えよう」


「篝章仁に政府には気を付けろって言われました」


「彼が!?そうだね、玲奈から話は聞いたけど、君は既に浅見パークランドで彼と会っているそうだね。そうだ、彼の言うとおりこの頃上層部では怪しい動きを見せている。それが何を意味するのか分からないけど、気を付けた方が良いというのは本当だね」


「紅くんはアメリカで会ったそうなんだよね」


「紅哉君。実は僕と母さんは篝章仁の父親と知り合いなんだよ」



その言葉に紅哉、瑠璃、玲奈、美雪は驚いた。



「彼は優秀な政治家だった。そして何より無能力者を嫌っていた。よく自分の息子が無能力者な事を嘆いていたよ。でもある日自殺したとのニュースが流れてから何故か章仁君が世界から攻められるようになった」


「母さん。確か章仁君は無能力者を従えて世界に『悪夢』という事件を作ったそうなんだよね」


「ええ。でも、章仁君はそんな事をするような子じゃなかったわ」


「はい。章仁自身もそれは否定していました。理由は言えませんが」


「母さん、やっぱりそうだね」


「そうね……」


「お母さんどうしたですか?」


「私とお父さんはね、この悪夢について疑問を持っていたのよ」


「あれは仕組まれた事件だとね。そして逃げるように自殺した章仁君のご両親」


「ねぇ紅くん……確かあれって神の遺産によって引き起こされたモノなんだよね…?」


「そうだ……だが、父親の横やりによって起きたんだが。何故父親が神の遺産の存在を知っていたのかが気になる…」


「だよね……やっぱり政府の上層部が怪しい…」



瑠璃はそっと紅哉に耳打ちした。瑠璃も紅哉と同じ考えらしく、政府に対する不信感は増すばかりだった。

その時だった。庭へ通じるガラスの窓と襖が一斉に開く。

開いた瞬間に小さな女の子が紅哉の後ろへ投げ飛ばされた。



「うげッ!」


「ニルか!修行は終わったのか!?」


「腹減ったァ……」



庭には巨大なキツネが月光を浴びて輝いていた。



「天狐。終わり?」


「終了じゃ。こやつ、龍の精神を力で捻じ伏せよった」


「ファーヴニルらしいですね」



ニルは勝手に紅哉の膝に座るとイワナや隣にある炊飯を開けて茶碗山盛りにし、納豆を作って食べ始めた。



「あら?この子は?」


「あ、俺のパートナーのファーヴニルです。この頃人間の姿になる事が多いので、普段はこれで過ごしています」


「まぁ可愛らしい!紅哉さんのおかわり作りますね」


「ニルちゃんエヴォルトちゃんと自分の物に出来た?」


「うむ!龍の精神をよく分からんが、倒してやったわ!」


「お前食べるのか喋るのかどっちかにしろ!」


「あ、紅くん。私の魚あげるよ。はい、あ~ん」


「お、あ~ん」



ごく普通にあ~んをした二人に玲奈には氷河期が訪れた。それを見た美雪は姉の状態にやれやれとしている。



「おや、お二人は付き合っていらっしゃるのかな?」


「うん!私と紅くんは付き合っているの!内緒だけれどね」


「ほう!良い男を見つけたもんだな!瑠璃ぃ!」


「うん!紅くんは強いんだよ~!」


「なァ!くっつくな!食いずらいって!」


「お爺さん……なんだか賑やかな食事が懐かしいですね」


「そうだな。紅哉さんは面白い方だ」



お婆さんとお爺さんの眼に映る紅哉達は楽しそうだった。

紅哉とご飯を奪い合っているニルとあ~んを試みた玲奈が瑠璃に邪魔されて取っ組み合いになる。

美雪はそれを隙と見て、さりげなく紅哉に魚をわける。

だが、それすらもニルに奪われる。



「いや~今夜は楽しい日だ。こんな賑やかな日はいつぶりだろうか!なぁ!母さん!」


「そうね。はい、紅哉さん。ニルさんも喧嘩しないで」


「うむ。ご苦労だ」


「おい、礼ぐらい言えって。ってそれは俺のだあああああ!」



紅哉の飯にまで手を伸ばしたニルに紅哉は全力で阻止にかかる。

うるさい食事はそうして過ぎて行った。




「これくらいでどうですか?」


「おう、お湯加減はばっちりだ」


「うむ。マスターの家とはまた違ったものだな」


「そうねぇ。なんだか原始的ね」


「え!?」


「あ、気にしなくていいぞ。うちの邪龍共だがら」


「あ、そうですか…」



美雪は外で湯加減を調整していた。そして紅哉はニルと風呂に入り、ヴリトラは体を洗っている。



「ってええ!?龍が2体いるのですか!?」


「あ、やべ。美雪ちゃん黙っていてくれ!」


「こ、紅哉さんがそう仰られるのなら、私は黙っていますが……」


「まぁこのもう1体の邪龍は借り物なんだよ。妹のな」


「もう借り物じゃないけどね~」


「まぁ色々あって今は俺のパートナーの一人なんだが。ほら、美雪ちゃんも分かるだろ?世界で2体しかいないって言われている龍が実は3体いました~ってなったら面倒だろ」


「そうですね。まずテレビ関係の人でいっぱいになりそうです」


「だろう?それを避けるためにヴリトラを出したくないんだが、こいつ立場を分かっていない」


「いいじゃない。せっかく冥府から逃れてこうやってあなたのパートナーになったのよ?もっと人間界を楽しまないと」


「あの、私は少ししか見てないのですが。邪龍というはもっと怖いものと思っていました」


「なんだか美雪ちゃんは美波と似てるな……」


「はい?」


「いや何でもない!だってよ、ニルとヴリトラ」


「まぁお前の思う事も分かる。本来我らは人間に恐れられる存在だからな」


「でも、舞香や紅哉を見てて人間と共存するのも悪くないと思ったのよ」


「そういうこった。こいつらは比較的優しい邪龍だよ」


「あら、紅哉の口からそんな嬉しいわ」


「仲良しなんですね。はぁ……私も早くパートナーが開花すれば…」


「ほう、お前はまだパートナーに認められていないのか?」


「ニル、確かこの子のパートナー神クラスらしいわよ」



風呂場と外で会話するのはおかしい気がするが、この機会にもっと聞いてみることにした。



「狛犬だそうだ」


「なるほどな。おい、お前。少しそこで待っていろ。マスター、ヴリトラ。上がるぞ」


「え!?ちょ!引っ張るなって!」


「ア、アタシまだお風呂入ってないわよー!」



美雪には何の事なのかさっぱり分からない。しばらくすると、着替えた紅哉といつものニルとヴリトラがいた。

美雪は広場に連れて来られると、ニルが歩み寄る。



「手を出せ」


「は、はい」



恐る恐る手を差し出すと、ニルは手を重ねた。



「お前、一度出て来い。主の何が気に食わないのか話し合おうじゃないか」



ニルがそう言うと、突如辺りは光に包まれた。そして光が収まると、そこには大型犬サイズの茶色の犬が座っていた。尾は先端で二つに分かれており、赤い眼光は怪しく光っている



「狛ちゃん!」


「お前が狛犬か」


「いや、我の名は犬神。悪霊だ」


「悪霊だと!?まさか祀られている間に神へ昇格した悪霊か」


「いかにも。こやつは我の名は狛ちゃんと呼び、我の真の名を言わない」


『………………』


「あれ、美雪が悪いんじゃないのかしら?これ」


「え……?だって、神社で見つかったからてっきり狛犬だと…」


『……………』


「龍よ。どちらに非があるか分かっただろう」


「よく分かった。すまないな、呼び出して」


「うむ。不本意ながら我が主よ。今度呼ぶときは我の名を間違えるのではないぞ」


「は、はい!申し訳ございませんでした!」


「うむ。分かればよろしい」



そう言って犬神は霊体化した。あっという間に解決してしまった。



「なんだ、まぁこんな事もあるさ」


「おい、かけるならもっとマシな言葉をかけろ」


「でも、あの犬相当強そうね。伊達に神クラスではないのかしら」


「犬神は悪霊だ。使い方に気を付けろよ。犬神は呪術、妖術が得意だ。その他に鵺を呼ぶことが出来るが、呼べば妖怪どもが集まる。決して呼んではいけないよ?」


「はい……」


「よし、いい子だ」



紅哉の眼を見て頷いた美雪に紅哉は優しく頭を撫でた。



「さて、寝るか」


「そうだな。とんだ茶番だった」


「そうねぇ。アタシはもう一度お風呂に入りたいのだけれど」


「朝風呂にしておけ!もう瑠璃と玲奈が入っている」


「もうニルが悪いんじゃない!これアタシを呼ぶ必要なかったわよね!」


「もしものために呼んだのだ!もし、あいつのパートナーが暴走したら大変だろう」



がやがや騒ぎながら3人は家に入って行った。残された美雪は撫でられた事を思い出して顔が赤くなっていた。



「紅哉さん……」



相変わらず風呂場でも瑠璃と玲奈の喧嘩の声が聞こえていたのが気にならない美雪だった。


犬神はタチの悪い悪霊ですね。獰猛な犬を戦わせて、生き残った犬に餌を与えた所で首を切り落としてそれを贄としたりと、余り気持のよくない伝承が伝わっている日本の悪霊です。

ここで登場させた犬神は番犬とあまり変わらない心の良い犬としました。

そんな腹が真っ黒なパートナーと心が真っ白なマスターが組むのは少し気が引けました。

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