それぞれの日常
話しは2日前に戻る。
私、三原豊姫は暇を持て余していた。
周りの同級生はみな楽しそうに休み時間を過ごしているけど、私は何をすればいいのか分からない。
突然副担任の先生から紅哉くんは長期依頼に行ったと言われて、衝撃を受けた。
というか、私は紅哉くんがいないとここまで暇になるものなのか。
「はぁ…」
「どうしたの豊姫…」
「あ、舞香さん」
珍しくうちのクラスに遊びに来て、紅哉くんの席に座っている舞香さんが無表情でも心配そうに聞いてくる。
「なんだか紅哉くんいないと私ってここまで暇なんだな~って」
「豊姫は友達が少ないからね…」
「うっ……傷つくよう…」
「だって事実…」
「それだから余計に傷つくの」
ちうーっと紙カップに入ったリンゴジュースをストローで飲む舞香さんは、普段何をしているのだろう。
「舞香さんって休み時間何をしているの?うちのクラスに来るの久しぶりだよね」
「休み時間は……家に帰ってゲームしてる」
「え!?どうやって!?」
「空間転移…」
「それ、紅哉くんに禁止されてなかった?」
「私のゲームをしたい衝動は誰にも止められない…」
空間転移は上級魔術なのだけれど、舞香さんにとっては普通のことらしい。紅哉くんの愚痴で聞いたことあるけど、舞香さんっていつも遅刻ギリギリで来るそうだ。その登校する手段も空間転移とか。
「セレナさん達に怒られないの?」
「セレナと龍一以外は怒らない。朱音とかは黙認…」
「なるほどね……朱音さんって何者なんだろう」
「知りたい…?」
「え?」
舞香さんの表情は凄く真面目な気がした。無表情でよく分からないけど、そんな気がする。
「朱音はね……私とお兄様の親戚だと思っている…」
「え!?」
「あの赤髪に剣術。どこか麗華の剣術を思わせる……」
「私は朱音さんの剣術見たことないから分からないけど、そうなの?」
「推測でしかないけどね…」
舞香さんはそう言って携帯を取り出して、素早く操作する。電話をするみたいだ。
「もしもし」
『あれ?舞香?どうしたのかしら?』
「ねぇ麗華……弟子に朱音って人いる…?」
『朱音ねぇ…………そんな人いないわよ?』
「ボケているとかじゃなくて…?」
『し、失礼ね。弟子の名前は絶対覚えているわよ。それで知らないと言ってるのだから、いないわ』
「そう……分かった。じゃあね…」
「知らないんだ…」
「そうみたい……おかしいな………私の勘は結構当たるのに…」
少しだけ残念そうにする舞香さん。本当に謎が多い人だ。
そこで鐘が鳴り、舞香さんは席を立ちあが――――らない。
「え!?戻らないの!?」
「お兄様の授業はどうなってるのかな…」
「いやいや!私が怒られちゃうよ!」
「大丈夫……校長と私は仲良し…」
「そうことじゃなくってぇ!」
その光景を3組は微笑ましく見ていた。みんな気にしているのだ。豊姫の友達が少ないことを。
「なぁ遊佐さん。舞香さんってさ、紅哉の代わりを務めているように思えるんだが」
「そうでしょうね。私も薄々思っていましたが」
「いいとこあんのね。でさ、次の魔術科の課題なんだけどさ」
「見せませんよ」
「がーん!見せてくれ!頼む!」
「………」
「おおう、その冷たい眼差しが何とも言えぬ」
と、案外俊介と遊佐は仲が良かったりする。
美波と癒理は二人で課外依頼に来ていた。教師へ外出許可証と公認欠席を貰うための書類を提出して今に至る。
まだ午前中ともあり、都市から少し離れた町は静けさがあった。
依頼内容は1年生でも軽くこなせるもので、初めての依頼に相応しい?ペットの猫さがしだった。
正直何故私が誘われたのか分からない癒理は、地図を必死に見ながら歩いている美波の後を付いて行く。
「美波。どの辺りでいなくなったのですか」
「えっと、この辺りらしいんだけど…」
「猫探しねェ……最初の依頼がこれってすっげーモチベ下がんだけど」
「リン。なら、寝ていればいいでしょう」
「それも退屈なわけよ」
現代の服を見事に着こなす英雄に癒理は半眼でツッコむ。この英雄は口を開けば皮肉しか言わない。
「腹減ったなァ…」
「朝起きないのが悪い。あなたは何時まで起きていたのですか」
「ん~今日の午前3時」
「呆れました」
もちろんネットゲームをしていた事は知っている。だからこそ呆れたのだ。
「そういえば美波ちゃんよ。猫ってどんな猫だ?」
「あ、三毛猫らしいです。それも珍しいオスですから、見つければすぐ分かるかと」
「オスの三毛猫ですか。珍しいですね」
「お?そうなの?三毛猫ってメスばっかなんか?」
「ええ。そうらしいです。幸運の証だとか」
「幸運の証なら俺っちもあるんだが」
「あなたのは能力でしょう。ジンクスとは違います」
「癒理……今日のツッコミは容赦がないな…」
鋭いツッコミにリンも段々気が参ってくるようだった。
「しかし、のどかなものですね。夜になるとここも人で溢れかえるのですが」
「だなァ。旦那は夜の依頼こなしているみたいだし、癒理もやってみたらどうだ?」
「美波、夜の依頼は主に何をするのですか?」
「ほとんどが犯罪者取り締まりですね………ヤクザの本部を襲撃したり、追跡中の犯罪者を捕まえたりと危険なものが多いです」
「流石旦那だ。命知らずな人だぜ」
「師匠……流石です!私は師匠に一生追いつけないかもしれないです…」
「癒理さんのギャップが今日も凄い…」
3人で探しながら無言の時間が続くと、リンは沈黙に耐えられなかったのか、話題を投下した。
「そういえば、旦那いないよな」
「師匠は長期依頼らしいですよ」
「え?そうだったんですか?だから、豊姫先輩も元気がなく…」
「どこ行ったんだ?」
「私も知らないです。師匠は何も言わず行ってしまった」
「舞香先輩と瑠璃先輩は知っているそうですよ」
「あ~あの二人なら当然か……いや~豊姫ちゃんに言わないで出て行く旦那もどうかと思うがね~」
「師匠は気付いていないフリをしていますからね。罪な人です」
うんうん、と3人は頷いた。今日も良い天気だ。
放課後、凪咲は奇妙な人と出会った。これはコスプレなのだろうか。メイド服を着た長く美しい赤髪の女の人だ。
いや、出会ったというよりも、いた、との表現が正しい。
赤髪の人はゲームセンターに入ると、100円玉を入れてパンチングマシンをプレイするようだ。
「龍一さんのあほー!どんだけ掃除させんじゃー!!」
色々と溜まっている人らしい……
「というか紅哉君いないからつまんない!!」
ん?いま紅哉先輩の名前が出なかっただろうか。
「それにセレナちゃんの様子がおかしいし!理由聞いても教えてくれない!あ、壊れた。もう脆すぎ!ってやば!逃げないと!」
あ、パンチングマシン壊れちゃた……逃げた!?
赤髪のメイドさんは壊れるなりゲームセンターを脱兎のごとく逃げて行った。
気になって近づいてみると、見事に的を貫通して画面まで壊れていた。
「凄いですね~。あの人は何者なんでしょうか~」
「ちょっと君いいかな」
「え…?」
額に怒りマークを付けた店主が凪咲を見ていた。
ちなみに凪咲が店主を説得するのに2時間もの時間を用いたのだった。
「なんで俺はこんな事しないといけないんっすか」
直人は子供たちが駆け回る公園のベンチに座っていた。
何故直人がこんな場所にいるかと言うと、近所のお母さんから手が離せないから子供達を見ていて、と言われたからである。
そのご近所さんはうちの家族とは仲が良く、無下に断る事が出来なかったのだ。
ふと直人は駐車場でラジコンを操作している女の子が目に入った。
長い金髪をツインテールにして、小さいながらも白衣を着ている奇妙な女の子だ。
操作しているのは米軍のワイバーンだろうか。直径30cmくらいだが、随分と精巧に作られている。
「でも、あれっておもちゃで売られていないよな…………まさか自作っすか!?」
そう思って、いやいやと頭を振る。まさかあんな小さな子が作られるはずもない。
しかし、どこかセレナさんに似ているような気もする。
こうなったら行動あるのみ。直人はベンチから立ち上がって女の子に近寄った。
「それワイバーンっすよね。どこで買ったっすか?」
「ほえ?ううん。これはアイリの自作~」
「自分で作ったんすか!?凄いっすね!」
「ふっふーん!アイリは天才だからね!でもね、この部品どこのだろうかな~って今思ってたの」
「はぁ……」
直人はワイバーンを持ってみると、右翼側が緩いと感じた。
「なんか右の方おかしくないっすか?」
「え!?ホント!?どれどれ……………あ!ホントだ!ここの部品だったんだね~」
白衣の内側にあるボルトでネジを付けると、アイリの顔は太陽のように輝いた。
「これで完成だね!どれ、試運転」
リモコンを持ったアイリは、ワイバーンを起動させると生物と思わせるほど滑らかな動きでワイバーンは空へ飛んだ。
「おお!ちゃんと翼が動くんすね!」
「当然!アイリは一度ドラゴンの飛ぶ姿を見てるからね。それを参考にしたのだ!米軍のお飾りワイバーンとは違うのだ!」
「確かに米軍のはただ付いてるだけっすもんね」
「こんなのもあるよ!」
アイリはポチっと赤いボタンを押すと、ワイバーンの口から火が出る。
「おおおおおお!?かっけーっすね!!」
「もはや商品化を狙えるのだ!」
「これ絶対売れるっすよ!というか俺欲しいっす!」
「でしょでしょ!実験は成功のようだね!」
まぁ流石弾頭ミサイルとかは付いていないか。
「うわっすっげー!」
「お母さんあれ欲しい!」
「お姉ちゃん貸してよー!」
と、子供たちが大勢寄って来た。
「ふっふっふ。驚くのはまだ早いんだよ!」
その隣の青いボタンを押す。すると――――
『ギャアアアアア!』
「おお!?鳴いたっす!」
なんだかニルの声に似ているような気もするが、今の鳴き声に子供達が大歓喜。
しばらくアイリによるワイバーンお披露目会が開かれていた。
午後5時になると、流石に子供達も帰って行く。
お利口さんだ。
「アイリさん。では、俺も帰るっす」
「お、またねー!君、名前なんて言うの?」
「俺っすか?俺は氷室直人っす」
「あ~なるほどねぇ……アイリの名前は、四条アイリだよ!」
「四条アイリさんっすか…………ちょ!?四条!?」
「ん?四条は四条だよ?」
「ってあのセレナさんの四条ですか!?」
「あれ?お姉ちゃん知ってるの?」
「知ってるの何も……俺、舞香さんの弟子なんっすよ!」
「ほええ!遂に舞香ちゃんにも弟子が出来たんだね!いや~驚き驚き」
アイリはワイバーンの動力をチェックしながら驚嘆の声を上げる。
「ってことは俺より年上…?」
「そうなるね~。アイリは大学2年生だから、直人くんとそう変わらないよ~。よし!終わり!」
アイリはワイバーンを持って立ち上がる。
「なんだか世間は狭いね~。ほいじゃ!」
「あ、さようならっす!」
アイリはたったったとツインテールを揺らしながら公園を去って行った。
「ん~………とても年上に見えないっすね…」
直人の素直な感想を残して、近所の子供と一緒に公園を後にした。
なんだかんだで舞香と豊姫は二人とも一番の親友だと思っています。紅哉のいない豊姫が少し可哀想だと思ったからこういう展開に。
そして朱音さんは何をやってるんでしょうね。ちゃっかり防犯カメラに細工をしていますからね。




