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龍の血を引く者  作者: また太び
5章 紅哉の戦場アメリカ(続)
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白き神の龍

「ウオオオオオオラアアア!」


「ギャアアアア!」



ニルの拳とストームサウスルの角がぶつかる。砂塵の竜巻をものともしない2体の邪龍に恐竜は少し驚愕したが、やる事は変わらない。

己が強い事を見せつけるだけ。



「ガウウウウ!」


「うお!?」



なんと恐竜はニルの拳を押し返して突き上げた。

ニルは空高く打ち上げられ、地上に激しく打ち付けられるところでヴリトラが身を挺して受け止める。



「ニル!大丈夫かしら!?」


「ぬぅ…!問題ない」



ニルを押し返したことに歓喜しているのか、恐竜は追撃を行わずただ空へ吠えているだけだ。



「舐めやがって…」


「仕方ないわ。悔しいけれど、あの魔物はアタシ達と同等よ」


「ふん」



自分の翼がここまで重く感じたのはいつぶりだろうか。引きちぎりたくなったが、それは後悔しそうなのでやめておく。



「マスター……」


「どこまで逃げたかしらね」



思わず出てしまった呟きに、ヴリトラは特に何も思わず答えてくれる。

既にこの恐竜を足止めしてから10分は経った。

もう、頃合いだろうか。



「ヴリトラ、逃げる余力は?」


「ないわ」


「オレもだ。霊体化するのにマスターとの距離が離れすぎている」


「アタシたち万事休すのかしら」


「それは困るな。オレはまだアイスが食い足りない」


「あなたは歪みないわねぇ」



もうヴリトラを纏う炎も消えて紫色の体毛が露わになっている。ニルも翼がボロボロでもう飛べそうにない。



「ガウウウウウ!」



ストームサウルスが止めを刺すために角へ風を集め始めた。

もう2体に動く力は残っていない。



「そんな大技を出さんでもオレたちは死ぬのにな」


「辛気臭い事言わないの」


「しかし、これで2度目の死か。今回は人間じゃなくて魔物か…」


「あなたは確かドラゴンスレイヤーに殺されたのよね?」


「あれは痛かったぞ。身が焼けるし、何より治癒能力が発動しない」



死を前とする2体は、いつも通りの会話をしていた。

恐れなどない。大好きなマスターを生かすことが出来た。何も恐れなど―――



「くっそ……もっと生きたかった」


「そうねぇ……舞香と旅に出たかったわ」


「マスターと一緒にアイスを食べたかった!何故オレはこんな所で死なねばならん!」


「ニル……あなた本当に変わったわね」


「オレはこんな所で死ねないのだ!マスターの家に帰って!アイスを食いながらゲームをしたい!何故だ!何故だ!何故こんなに理不尽なのだァ!」


「ゴオオオオオオ!」



身体に鞭を打って立ち上がったニルにストームサウルスは豪風を纏った角で突進し始めた。



「マスタァァアアアアアア!」



ニルは力が尽きたのか、人間の姿になると涙を流して叫んだ。

そこへストームサウルスが容赦なく―――


ドオオオオオオオオオン――――――!


襲い掛かった。





「ニル!?」



車に乗る俺はニルの声が聞こえた気がした。



「どうした小春」


「い、いえ。何でもないです」



俺達はニルとヴリトラの足止めにより、無事衛生砲を使わずに危機から脱出した。

今はアメリカの市内を軍用車で走っている所だ。

佐鳥はストームサウルスが襲ってきた事を米軍に伝えて、市内に入る門をシャットアウトされた。

アメリカの市内は思ったよりも錆びていた。砂漠が近いせいもあるのか、砂埃がよく目立つ。



『お前ら!応答しろってば!』



先ほどからニルとヴリトラに話しかけても何も反応がない。



「どうなっているんだ……」


「大丈夫ですか?小春さん」


「小春お姉ちゃん大丈夫…?」


「あ、うん。私は元気」



心配された二人に俺は手振って返事をする。



「あいつら……まさかな…」






「お前も変わったものだな」


「なに…?」



ストームサウルスの衝撃はいつまでも襲ってくることはなかった。

それは目の前に強力な障壁が現れたからである。

ニルは声がした上へ顔を上げると、そこには白く神々しい白龍がいた。

東洋の龍を思わせる胴の長い龍は、右手にある宝玉に力を込める。

すると、宝玉は輝きだし、ストームサウルスに幾重もの稲妻が襲い掛かる。



「神龍…なのか…?」


「そうだ。主の命を受けてお前達を助けに来た」


「あなたもこの現代に生きていたの!?」


「ほう、ヴリトラもいたか。懐かしい限りだ」



白く流れるたてがみを風になびかせながら、神龍は左手の宝玉に力を込めた。

未だに稲妻が襲い掛かる恐竜の所へ炎が巻き起こる。



「グオオオオ!?」



ストームサウルスはたまらないのか、地中に潜って逃げて行った。



「去ったか」


「神龍。お前の主は誰だ?」


「教えると思うか?」


「教えるわけがないわね」


「正解だ。今は己の命が助かった事に感謝していろ」


「お前は昔から秘密主義の野郎でオレは嫌いだ」


「それは悲しいことだ。同じ近衛兵としてバハムートに仕えていただろう?あの頃の友情はどこに行った」


「もとよりお前と慣れ合うつもりはないと言っていたが?」


「そうだったな。どうも私は記憶力に自信がないのでな」



面白そうに神龍は笑う。ニルはそれを舌打ちして苛立ちを見せる。



「さて、私はそろそろ行かねばな。私からの選別だ。受け取ってさっさと己が主の場所へ帰るがいい」



神龍の身体から緑色の光が放たれると、ニルとヴリトラのエーテルが回復する。

これならここからの霊体化でも帰れそうだ。



「何が望みだ」


「そう勘ぐるな。私は旧友を助けたいと思っているだけなのだ」


「怪しいわね~。聖龍のくせに最も邪龍に近いあなたの言葉は信用できないわ」


「随分と信用がないようだな、私は。ふむ、困ったものだ。本当にそのつもりなのだが」



神龍は考える素振りを見せると、ニルとヴリトラの方へ向く。



「先ほども言っただろう?主の命に従った、と」


「主ねぇ。あなたの事だからロクな奴じゃなさそうだけど」


「面白い事を言う。見たらきっと驚くぞ?まぁ私がお前達の前に現れるのは当分先の事だろう。さぁ、帰るがいい」


「ちっ。これは貸しでもないからな」


「神龍。あなたの主の件は預けておくわ。今度あったら聴きだしてやるんだから」


「その時は私も全力で抵抗しなければな」



神龍は心底面白そうに笑いながら消えて行った。本当に掴めない奴だ。

ニルとヴリトラも傷ついた身体を癒すためにも霊体化した。





「神龍!どうだった!?」


「何も問題ない。ただ、馬鹿な邪龍2体が死にそうだっただけだ」


「大問題じゃない!!ちゃんと助けた!?」


「もちろん。ちゃんと助けたさ」


「ならいいんだけど……あなたの言葉はいまいち信用できないから」


「やれやれ、私はどうも嘘つきの称号を得ているらしい」



神龍はそう言って今度こそ霊体化した。





『ただいま戻ったぞ、マスター』


『つっかれたー!』


『お前ら!やっと戻って来たか………どんだけ人を心配させるんだよ…!この馬鹿野郎!』


『悪かったわよ。だから、そんな泣かないの』


『すまんな』


『この馬鹿が…!』



現実でも泣いている紅哉に茶化す気にならなくなったヴリトラと真面目に悪かったと思っているニルが素直に謝る。

この後ニルとヴリトラは紅哉を慰めるのに小1時間ほど用いた。

神龍の事は話さずに………―――――



さぁて、誰のパートナーなんでしょうね。勘のいい方はわかっちゃうと思いますが、まだ彼が登場するのは当分先の話です。

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