2体の邪龍の勇姿
「待っていましたああああ!」
「お!?やっとか!?」
「疲れたわよ、いい加減」
「行くぞお前らァ!!」
「もう女装の事を気にしていないな…」
「でも、小春。アタシはもう逃げるくらいの力しか残っていないわよ」
「大丈夫。ニルの力を使う」
「ほう。あれを使うか」
「エヴォルトね。なら、小春。逃げるとしましょうか」
「ちょっと待て。ヴリトラ、ニルが一度だけ攻撃するから、その瞬間を狙ってコックピッドを喰いちぎってくれ」
「分かったわ。あの子を助けるのね」
俺は胸に手を置く。すると黒炎が灯り、それはやがて白き炎へと変わる。
ニルも炎に包まれると、姿を変えた。
「さて、今までの分をきっちり返させてもらおう」
「さ、行くわよ!小春!」
「今だ!」
聖龍となったニルの攻撃は魔術障壁をいとも簡単に砕き、それを狙ったヴリトラはコックピッドごと喰いちぎると、俺は機械の中からやつれた男の子を救出する。
「よし救出した!ヴリトラ行くぞ!おっと、ニル、俺が出したと思われたくないから、セイントジャッチメントが終わり次第、そこで霊体化してくれ」
「うむ、心得た」
俺はヴリトラの背中に乗ると、ヴリトラは俺を乗せて地面へと潜って行く。
「小春さんは無事なのでしょうか…」
「馬鹿、心配しすぎだ」
キャンプ場で遠くに見える研究所を見つめるバードレイに佐鳥は軽く蹴りを入れる。
すると――――ドドドドドド――――!
「な、なんだ!?」
ドオオオオオオオン――――!
「ただいま戻りました!」
ヴリトラに乗った紅哉の帰還だった。ヴリトラは疲れたのかさっさと霊体化してしまい、俺は子供を抱えながら空中から華麗に着地する。
そして近くの傭兵に子供を預けて俺は佐鳥へ近寄る。
「小春。研究所は?」
「今からです」
俺は研究所を指差すと、研究所から蒼く澄み切った空へ白い龍が飛び出した。
『なんだあれは!?』
『ド、ドラゴンだぁああああ!?』
傭兵たちはコーヒーを吹きだしたり、資料を落としたりしていた。
ニルは翼を折り畳み、回転しながら天高く飛翔すると、太陽の光で満たされていた大地が夜へと変わる。そして光はどんどん収束して行き、そして遂にセイントジャッチメントを放った。
ただの爆発とは到底比べることも出来ない、完全なる消滅がそこにはあった。
光に包まれた研究所は、跡形もなくなり、チープマシンもなくなっていた。
ニルはそれを確認すると、そのまま厚い雲の世界に飛んでいった。
「ニルを使ったのか。まぁ、政府にもばれていないから大丈夫か。魔物だと思われてもいいしな」
佐鳥は岸部に報告するのか、踵を返して作戦室のテントへ入ろうとして立ち止まった。
「佐鳥、さん?」
「小春。逃げるぞ」
「え…?」
佐鳥の言っている事が理解出来なかった。その理由は『逃げる』という言葉ではなく、あの佐鳥が脂汗を浮かべていたのだ。
それを見た俺は数秒遅れて自体の深刻さを理解した。
それと同時に佐鳥は俺の服を強引に引っ張って近くの車に乗る。
「佐鳥さん!?な、何が起きているんですか!?それにバードレイは!?ラッセルは!?」
「ちっ!バードレイ!ラッセル!後ろに乗れ!」
子供達を見ていたバードレイとラッセルに佐鳥は呼びかけた。二人は何がどうなっているのか分からないながらも乗ってくれる。
佐鳥は乗った事を確認すると車を急発進させた。
そして―――――――
バアアアアアアアアアン――――――後ろの臨時キャンプ場が火の海に包まれた。
「なッ!?」
バードレイもラッセルも言葉を失っている。一体どうなっているんだ!?
「佐鳥さん!」
「魔物が現れた!それも最低最悪な奴だ!」
俺達は茫然としながら火の海を見ていると、そこからゆっくりと魔物が姿を現した。
「きょ、恐竜!?」
「あ、あれはストームサウルス!?」
「つ、強いの!?」
バードレイが身体を震わせながら答えた。
「はい…別名砂塵の切り裂き恐竜とも言われています。ここ砂漠一体を縄張りとしている凶悪な魔物です」
恐竜が吠えると、砂漠の砂が巻き上がり、恐竜を包むように竜巻となる。その竜巻には人も車もテントも巻き込まれている。
「あぁ……」
「ストームサウルスが通った後はこうなるんです…」
竜巻が消えると、重力に従って落ちる。人も車も落ちる。
「兄貴!ストームサウルスが!」
「ッ!?佐鳥さん!来ます!」
「くそッ!やっぱりか!お前ら援護して遅らせろ!」
忌々しげに吐き捨てると、佐鳥は左手を外に出すと、その手にはあのレールガンが握られていた。
電気が放電する音は徐々に高まって行く。
「レールガン!?俺初めて見ました!」
「感心してる場合かゴラァ!さっさと撃てや!」
「は、はい!」
興奮しているバードレイに俺はこんな時でも呆れるしかなく、竜巻を起こしながら突進してくる恐竜へ火球を何度も投げつける。
「オラァ!吹き飛べェ!」
ズドオオオオオオン――――!!レールガンが発射されると、車に凄まじい衝撃が走った。車体が揺れるが、佐鳥の見事なハンドル操作により転倒する事はない。
レールガンは恐竜の竜巻を貫通した。
「グオ!?」
恐竜は数歩後ろによろけるが、数秒後には何もなかったかのように走り出す。
「やっぱダメか…!これじゃ電力が足らねェ。豊姫の弟子の美波がいたのなら、あいつの肉体ごと貫通しただろうな」
「イクシオンですか。確かに雷馬の力を借りれば倒せたかもしれませんが…」
「おい小春。お前もうヴリトラもニルも使えないのか」
「残念ながら…チープマシンの足止めに2体とも疲れ切っています…」
「仕方ねェな……もう少し行けば何とかなるかもしれん」
佐鳥はバードレイにレールガンを預けると、アクセルを底まで踏む。軍用車ということもあり、並みのスポーツカー程度なら圧倒できそうなスピードで砂漠を駆けて行く。
隣ではバードレイがおっかなびっくりながらもレールガンを操作して恐竜へ撃ちこんでいく。
ラッセルも自分が出せる最大の魔術を使って足止めを試みるが、余り芳しくない。
「佐鳥さん!あとどれくらいですか!?」
「あと2kmだ!それまで持ちこたえろ!」
「あのバードレイ?あなたはこれから佐鳥さんがする事を分かっているの?」
「はい!あともう少し言った所に衛星と電波が取れる位置に入るんです!恐らくですが、佐鳥さんは衛生砲を使う気なんじゃ…」
「衛星砲!?それって核ミサイル級にやばいんじゃ!?」
「ですが、そうしないと俺達が死にます」
『やれやれ……大人しく休むことも出来ないのか…』
『一難去ってなんとやら…だわね』
『お前達!?動けるのか!?』
『足止め程度、問題ない』
『倒せというのは無理かもしれないけれど、足止めなら可能よ』
『分かった。ニル!後でアイスを買ってやる!ヴリトラ!お前には飴を買ってやる!』
「流石だマスター!それでこそ我のマスターに相応しい!」
「良くてよ良くてよ!今のアタシはいつもアタシと思わないことね!」
ヴリトラは空中で顕現する。それをニルが掴んで飛行する。
「さぁ喰らいなさい!」
ヴリトラの目が怪しく光ると、恐竜の竜巻ごと囲む黒い檻が出来る。
「拷問の時間よ!」
更に檻の周りには顔だけの黒い龍が出来上がる。
「プリズンフォートレス!」
ヴリトラの声と同時に龍が檻に喰らいつくように襲い掛かった。
「ガウウウアアア!」
恐竜は苦悶の声を上げるが、ヴリトラの攻撃は止まない。
「ニル!」
「あぁ、分かっている!」
動きを封じているうちに!という言葉を理解したニルは天へ黒炎を吐きだした。
「カオスメテオ!」
恐竜が檻を破るが、ヴリトラの龍が足、手、首に喰らいついてもう一度動きを封じる。
「ガウウ!?」
「アタシの攻撃はしつこい事で有名なのよ?」
そこへ黒い隕石が幾重にも降り注いだ。辺りにクレーターを生みながら恐竜にダメ押しの一撃を与えた。
「佐鳥さん!今のうちに!」
「最初から出し惜しみするなよ!それとバードレイ!ラッセル!この事は黙っておけよ!言ったらあたしがお前をしばくからな!」
『は、はい!』
あのストームサウルスを圧倒している邪龍に驚愕している二人に佐鳥は脅しをかける。
「小春!ダメだわ!アタシ達でも足止めは難しい!」
ニルの足に掴まれているヴリトラが切羽詰った様子で状況を伝えた。
それと同時に明らかに怒っているストームサウルスが今まで以上の速度で突進してくる。
「あなた達怒らせただけじゃない!」
「いや、オレも足止めを試みたのだが、相当強いなここの魔物は」
「そうね。アタシもここまでとは思わなかったわ。アタシとニルの合体技をほとんど無傷でやり過ごすなんて」
「まぁオレたちが消耗しているせいもあるが、呆れた耐久力だ」
クソゲーだ、とニルは吐き捨てた。そういうなり、なんとニルはヴリトラを離して地上へ降りたのである。
「あなた達何を!?」
「死亡フラグを立てるつもりはないが、もう少し粘ってみるとしよう」
「あなたは生きなくてはならない。この先の―――――」
すぐに軍用車がニルたちと距離を離し、最後までヴリトラの声が聞こえなかった。
そしてニルとヴリトラはストームサウルスを真正面から迎え撃つことにしたのである。
「あいつら…」
「無茶です!流石のドラゴンでも消耗したままでは厳しい!」
「小春お姉ちゃんパートナー消滅しちゃうよ!」
「分かっているよ!でも、あの2体は呼びかけに応じないの!」
そう、さっきから霊体化しろ、という命令を送っているのだが、あの2体は命令を拒んでいる。
「ニルゥウウウウウ!ヴリトラァアアアアアア!!」
俺の悲痛な声が砂漠に木霊した。
次回が気になる終わり方をしましたね~。なんで私はこんな客観的に見ているのだろう…………と、それは置いといて、今度ここまでのキャラクターの情報を書きましょうかな。そこには話では語られていないパートナーの特性も盛りだくさんにするつもりなので、それも是非読んで、この話をもっと深く知って貰えるとうれしいです。




