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龍の血を引く者  作者: また太び
5章 紅哉の戦場アメリカ
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ヴリトラとの一日

夜、紅哉はセレナに呼び出されていた。



「わたしが呼んだ理由は分かりますね」



いつも真面目な顔をしているセレナは、今日は違った。



「俺がアメリカに行く事だろ?」


「そうです。話は佐鳥から聞きました。佐鳥の言葉にはカチンと来ましたよ」


「なんて言われたんだ?」


「『お前の育て方が悪い。そのせいであたしは高級料理店をくそ職員どもに奢らなきゃなんねェ。だから、紅哉を少し借りるぞ』と。おかしいですよね?」


「確かに、いきなりダメだしされてから高級料理店はおかしい」


「………佐鳥はいつもこんな感じでしたから……」



額に手を当てるセレナは本当に困っているようだ。しかし、次には先ほど見せた真剣な表情へと戻る。



「それで、何があったのですか?佐鳥がここまで言うには理由があるのでしょう」


「俺は強くなりたい。いや、セレナに不満があるわけじゃない。むしろ感謝したりないくらいだ。でもな、このままじゃいけないんだ。これからアヴェンジャーズとの戦いがある。そして神の遺産が眠る場所には凶悪な守護獣がいる。これに立ち向かうには、今の力じゃきっと負ける」


「………続きを」


「俺だって武の道に通じている身だ。そんな短期に急成長を遂げるとは思ってはいない」


「なら、何故行くのですか?」


「本物の実戦の臭いを覚えてくる」


「佐鳥の受ける依頼はわたしが強引に聴きだしました。わたしが四条家の情報網を使って調べた所、あの研究施設は幼い子供が何人も死んでいる。毎日死体が捨てられては燃やされて異臭を放つ。研究内容も吐き気がしますよ」



セレナの顔は冷たかった。どこまでも冷酷に紅哉を見つめる。だが、紅哉には分かる、その表情の裏にはセレナの本当の気持ちが。



「舞香の実験と似てますね。海外では魔物の襲撃が多い国がたくさんあります。その魔物の襲撃に対しての有効打として最も適しているのが魔術師。ですが、海外の魔術師は日々減少の道をたどっています。理由は単純に、魔物の襲撃が絶えないからです。そこで誰が目を付けたのか知らないですが、無能力者を有能力者に改造する研究が始められました」


「許されるはずがないだろ…!そんなこと…」


「もちろんです。表では政府はこの事に反対していますが、裏では黙認しているのです。だから紅哉、一つ言いますが、あなたがこれから潰しに行く研究所も数多くある施設の中の一つでしかないのです。確かに、佐鳥とあなたが行けば子供たちは助けられるでしょう。ですが、その他の研究所では違う命が散る」



セレナはこう言いたいのだ。『行ってほしくない。思いとどまってくれ』と。

我が子のように育ててきた紅哉をこのような死地に行かせたくないのだ。



「それでも行くと言うのですか?ただ死体を見て、怒りで我を忘れませんか?」


「それでも行く。でもさ、舞香のような子が一人でも助けられたら、嬉しくないか?自己満足でしかないけどさ。不幸にならない子が増えるんだ。綺麗事を言っているけど、俺は一人でも助けられたらそれでいい」


「紅哉は舞香を見ていますからね。この実験に敏感になるのは分かります。それで紅哉、あなたが戦う相手を把握しているのでしょうね?」


「人間だろ」


「そうです。それも相手はきっとあなたを殺しに来るでしょう。アヴェンジャーズはあなたを拘束するでしょうけど、あちらはこれが公になれば我が身が危ないと思っています。死を恐れない相手ほど厄介な相手はいません」


「大丈夫。うまくやってみせる」



その言葉にセレナは大きくため息を吐いた。



「もう何を言っても行くつもりのようですね。わたしがあなたの信念を曲げる事は出来ないようです」


「分かっていたよ。本当は行ってほしくないんだろ?俺の事を本当の子供のように育ててくれたセレナのことだ」


「わたしは母上から頼まれた依頼を果たそうとしているだけです」


「親ばかだな~セレナは」


「紅哉、わたしもキレる時があるのですよ」


「はいはい。セレナがキレる前に俺は退散するとしますか」


「まぁ、気を付けて行ってきなさい。もしあなたが傷を負ってくるようでしたら、佐鳥と死闘を繰り広げることもやぶさかではありません」


「やめろよ。もし、佐鳥先生が生きていたら、俺に飛び火するだろ」


「それは考えていませんでした。では、確実に潰します」


「だからやめろってば。俺は死なないし、無傷で帰って来るよ」



紅哉はしつこいセレナに呆れながらも帰ってくることを宣言した。

自室に戻ると、舞香とニルが携帯ゲーム機で遊んでいた。



「あれ?舞香どうしたんだ?もう寝る時間じゃ」


「お兄様……命令権…」


「あ……そうだった、忘れていた」


「くっくっく、舞香よ。オレが1位のようだな」


「あ……ニル、卑怯…」


「お前がよそ見をするのが悪い。んじゃ、オレは眠いから先に寝るぞ」



ゲームを紅哉の机に置くなりニルは霊体化して消えてしまった。舞香は勝手に部屋のコンセントに充電器を刺してゲームを充電する。



「舞香、少しいいか?」


「うん……」



紅哉はベットに腰掛けると、舞香も自然と隣に座る。



「俺、アメリカに行く」


「うん……ニルから聞いた…」


「そうだったのか」


「お兄様は強くなるために行くんでしょ…?」


「あぁ。ちょっと兄ちゃん弱いからさ。アメリカに行って特訓してくるんだ」


「お兄様は弱くなんかない……いつも私を守ってくれている…」


「守られているのはどっちだろうな………まぁ、そんな感じでちょっと家を空けるな」


「うん……お兄様、これ…」



舞香は手の平に小さな紫色の鍵を生み出した。これはユニゾン時に見る鍵の一つだ。



「ヴリトラもお兄様に協力するって……」


「ありがとう」



紅哉はそっと舞香の手の平から鍵を受け取る。すると、鍵から紫色の炎が吹き出し、紅哉の中へ入って行く。



『紅哉、あなたアメリカに行くそうね。あそこの魔物どもは相当強いわよ、頑張る事ね』


『ありがとう。少しの間、お前の力を貸してくれ』


『ええ、喜んで。あなたに覇龍王の加護がありますように』


『なんだそれは?』


『それは聖龍戦士の誓いの言葉だ。我らの王バハムートに勝利を誓い、その強さの加護を受けるという意味でつかわれる。お前がそんな事を言うのは珍しいな』



脳内の会話にニルも交ざって来た。



『なんとなくね。邪龍になってもアタシたちの父はバハムートよ。何もあの誓いが聖龍だけのものじゃないわ』


『おまじないみたいなものか?』


『簡単に言えばそうだな。それでマスター、身体に異変などないか?』


『いや、特に問題ない。ヴリトラに受けた傷が身体に馴染んだせいか、ヴリトラが仮契約しても拒否反応を起こさない』


『あれは、アジダハーカの威圧に耐えるための加護よ。決してあなたに敵対したわけじゃないわ』


「お兄様……同時使役になったけど、大丈夫…?エーテル消費量が2倍になるのだから………気を付けてね…」



脳内でニルとヴリトラが会話をしている中で、紅哉は舞香の声で現実に引き戻される。

舞香は純粋に心配しており、その言葉に強く頷いた。



「それじゃ、寝るか」


「うん……」



紅哉はベットではなく、ソファに寝ようとして舞香に袖を掴まれた。



「お兄様もこっち……命令権…」


「うぐ………分かったよ」



舞香と同じベットに入ると、昔の事を思い出した。



「お兄様……懐かしいね…」


「あぁ、そうだな……お前、昔俺がいないと寝れなかったもんな」


「うん……お兄様大好きっ子…」


「それ自分で言うか?」



昔はこうやって寝たものだった。舞香は誰かが傍にいないと寝れないお子様だったが、随分と成長したものだった。

いや、ぬいぐるみがないと寝れないのはどうなのだろう。



「アメリカ行くの……火曜日だよね…」


「そうだが?」


「少し……寂しくなる…」



背中を向けている紅哉に対して舞香はギュッと服を掴んだ。



「長期依頼とかあっただろ?今回はただ海外ってだけだ」


「そうだけど……なんだか寂しい…」


「ちょっと行ってくるだけだ。だから、少し待っていろよ?」


「うん……」



背中に抱きついた舞香は、しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてきた。それを聴いた紅哉もゆっくりと眠りについた。




翌朝、紅哉は形として長期依頼の申請書を佐鳥に提出した。佐鳥は何も言わずに申請書へハンコを押し、受け取った。

その日は本当に何もなく、久々に平和な一日を過ごした。



「明日、あたしは長期依頼でここを少し留守にする。副担の先生に頼んでいくが、お前らうるさくするなよ。んじゃ、以上だ」



豊姫が帰りの挨拶をするなり、掃除をする者は残り、部活する者は急いで部室へと向かう。そのどちらでもない紅哉はさっさと教室を出て下校した。



『学校ってこうなってるのね~。面白いわ』


『おいヴリトラ。何故初めて見たように言っているんだ?お前はオレの目を介してみていただろ』


『いつも見ているわけじゃないわ。冥界って案外忙しいのよ?縄張り争いが絶えなくてねぇ、辛いわ』


『ヴリトラって冥界にいるのか。んじゃ、ケルベロスもヘルハウンドもグリンデル、アジダハーカもか?』


『そうよ。冥界って結構広くてね。その世界にアタシたちは封印されている。あぁ、封印って言っても身体を封じられているわけじゃなくて、その一定の範囲から出れないってことよ』



なんとなく紅哉も会話に加わった。ヴリトラは今日一日紅哉の授業や、体育を興味深そうに観察していた。

時折、気になったことはニルに聞いたりして、新鮮だったようだ。



『ニルっていつもこんなのを見ているのかしら?』


『まぁそうだな。と言っても、オレはほとんど寝ているぞ』


『勿体ないわねぇ。人間の世界ってアタシたちにすればとても興味深いのよ?もっと関心を持ちなさいな』


『面倒だ。オレはアイス食ってゲームしていればいい』


『あなた、舞香とゲームしかしてないわよね。もう龍族としてじゃなくて、人間として暮らした方がいいんじゃないの?あなた』


『それも面倒だ。オレはマスターのパートナーでいた方が何かと楽だ。人間のルールに縛られるのは御免だ』


『それはそれで面白そうだけどねぇ』



ヴリトラとニルの会話はそこで終わった。出発は火曜日と言ったが、飛行機の都合上今日の夜から行くらしい。

そのために紅哉はこうして一人で帰路についている。

家に帰ると、さっそく紅哉は最終準備を始めた。

セレナから口うるさく準備物を言われながらも、さっさと準備を済ませてしまう。佐鳥曰く、4日か5日はかかるそうだ。宿泊する施設は、佐鳥と紅哉のように匿名で集められた傭兵と同じの仮の施設らしい。

いつでも襲撃されてもおかしくないように、着替えは普段着しか持っていかない。

全ての準備が終わった後、紅哉は風呂に入る。

そこへニルはいつも通りとして、見慣れない女性がいた。



「紅哉、何を固まっているのかしら?」


「お前………誰だ!?」


「そんな大声あげなくてもいいじゃない。アタシよ、ヴリトラ」



リアとはまた違った大人の雰囲気を持った女性だ。長い深紫の髪は軽くウェーブがかかっており、身長は長身だ。どこかのモデルと見間違うほどの完璧なボディは道行く人全てが振り返る事だろう。



「アタシね、結構お風呂というものに興味があったのよ。それでこうやって紅哉と仮の契約を結んでいるのだから、精一杯遊ばないと損じゃない」


「あぁ、そうですか……」



ニルの髪を洗っているヴリトラは楽しそうだ。



「もう少しで出発だな、マスター」


「そうだな。ニル、ヴリトラ。俺に力を貸してくれよ」


「もちろんだ」


「ええ、もちろんよ。敵の戦力を削ぐのはアタシに任せなさい。呪いの力を見せてあげるわ」


「お前の呪いは一歩間違えると死ぬから手加減してくれよ」


「ええ、善処するわ」


「大丈夫だマスター。こいつが殺しそうになったらオレがコントロールする」


「あら、そんなに信用ない?アタシ」


「いや、そんな事はないが。体験した身としてはな」


「あれは初対面じゃない。今なら大丈夫よ」


「こいつ初対面の相手には厳しいからな」



しかしだ。それにしてもリアもヴリトラも胸がでかいと、今更のように思った。賢いパートナーは己の身体を人間に似せる事が出来るというが、それにしても、こう、男にとってぐっとくる所をピンポイントで狙ってくるこいつらは、どこで情報を得たのだろうか。



「あら紅哉、アタシの胸に興味があるのかしら?」


「ち、違う!俺は哲学的にパートナーが人間になることが出来る事について考えていたんだ!」


「そうだぞ、ヴリトラ。マスターはロリコンだからな。いや、幼女好きだったか」


「…………それも違うね」


「おい、今の間はなんだ」



ニルの言及を躱しつつ、紅哉はさっさと風呂を上がることにした。この場にいればまたあの胸に目が行ってしまうだろう。

そして軽く鼻血が出ている事がバレる前に。


6話目入りました~。私、最初の章管理をミスッたせいか、こういう風に分けないといけなくなったんですよね。いや~ホントどうしようもないです。でも、ちゃんと読めていると思うので大丈夫かな~と思っていたり。

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