直人の決意
「あ、ニルさん!俺の肉取らないでくださいっす!」
「弱肉強食だ」
「意味不明っすよ!?」
騒がしい晩御飯が始まった。紅哉達の他にもバーべキューをしている生徒は多く、教師たちに至ってはビールを飲んでいたりもする。
初めて見るニルの姿に驚く2年生と1年生は多く、一目惚れした男子生徒はニルに話しかけては蹴られて終わる。
それすらも喜ぶ者もいたりしてニルは少し困っていた。紅哉に救いの目を向けるが、紅哉はニヤニヤと笑うだけでそれを見ているだけ。
結果機嫌を悪くしたニルは、直人が食べようとした肉を奪う強奪に走ったりもする。
「紅哉くん、お肉焼けたよ」
「おう、遠慮なくいただく。うまいなこの肉」
「ここで飼育している豚から獲った肉らしいです!さっき見た豚さんたちもそのうちは……」
「そんな事言ったら食べられないだろ…」
肉を一生懸命焼いている美波が自分で答えては、がっくりと肩を落とす。
「リア……はい」
「……主、何故龍族の私に野菜を押し付けるのですか…」
「だって……リアとニルはお肉ばっか食べている…」
「私は龍族ですよ…」
完全に野菜を嫌っている舞香はその野菜をリアに押し付ける。リアも呆れながらも貰った野菜をきっちり食べる辺りはニルに見習わせたい。
「ご飯炊けました」
「おお!待っていたっす!」
癒理が出来たての白ご飯を茶碗によそって持ってくると、直人が一番最初に食いついた。
熱々のご飯に焼肉のタレがついた肉を乗せて食べるご飯はきっと美味だろう。
「んん!うまいっす!」
「この米は、私の家で作った米です。山から流れてくる湧水を使ってきますから、山のミネラルを豊富に吸った米。きっと気に入るかと思います」
『おおお!凄い本格的だ!』
「おいしい…」
舞香もお気に召したようで、おかわりの茶碗を癒理へ渡していた。
「でも、いいのか?こんなうまい米を貰っちまって」
「いいのです。私の親も師匠にはいつもお世話になっているからお礼に持っていきなさい、と言っていましたから」
紅哉は癒理の親とは数回しか会ったことがないが、優しそうな両親だったと記憶している。昔は相当名が知られた忍者の家の分家だったらしいが、今ではすっかり隠居しているらしい。
「うん、ご飯ととっても合うね。明日のカレーがとっても楽しみ」
「あ、豊姫先輩の所もカレーですか」
「うん。やっぱりこういう所はカレーかなぁって」
「舞香先輩、俺らもカレーにしますか」
「うん……直人、料理出来るの…?」
「ええ!もちろんっす!親二人とも共働きなので俺が度々料理するっす!」
「おお……お前は料理が出来るのか…」
「まぁ簡単なのしか作れないっすけどね……でも、カレーなら普通に作れるっすよ」
「んじゃ……料理は直人に任せる…」
「うっす!」
各々の班に料理担当がいて安心した。豊姫と美波は基本万能なので、もし直人も料理が出来なかったらヘルプに入る所だったそうだ。
バーベキューが終わると、片づけは男組がやる事になった。紅哉、直人、リンの3人で金網やら炭やらをキャンプ場の貸し出しエリアまで持っていく。
「そういえば旦那。まえ癒理にアンタらの学校について色々聞いたんだけどよ。女子の比率が多いのな」
と、両手にゴミ袋を持った長身の英雄が話しかけてきた。
「あ、それ俺も思ったっす。うちのクラス40人いるんすけど、25人が女でしたっすよ」
「よく分からないんだが、エーテルの保有量は全世界から見ても女性の方が多いらしい。俺だって平均から見れば保有量は少ない方だし、ニルがいなかったら俺だって一般人とそう変わらない」
「そうっすよね。俺もクラス内じゃ下から数えた方がいいっすし……何より保有量が学年トップが美波ちゃんなんすよね」
「3年生には俺と舞香に次ぐSランクの魔術師がいる。その人は男性でありながら保有量は学年トップだ。次に瑠璃が来る」
「え?確か瑠璃ってあの国民的アイドルの瑠璃っすか!?」
「あれ?お前この学校入学するときパンフレット見てなかったのか?彼女直筆のサインとかこの学校だけに作ってくれた校歌とかあるんだぞ?」
「マジっすか……会いたいもんっすね…」
「あははは!直人っち!もうすぐ会えるっすよ。なんつってもこのすっとこどっこい旦那は瑠璃の彼氏だからなァ!」
「おい!リン!」
「ええええええ!?ま、ままままマジっすか!?」
ゴミを落として急いで拾い始める。それでも直人は紅哉に驚きながらも気になるようだ。
「まぁな。この学校だと俺の師匠は瑠璃になっている。本当はセレナだが、学校の規則上そうなる。そんな関係からいつの間にか彼女に」
「ど、どっちが告白したんすか…」
「……………俺からだよ」
「うっひゃー!流石旦那!女から言わせるのは流石にないよなァ!」
「お前マジで黙ってろ」
「やばいっす。俺先輩のこと心から尊敬するっす……癒理ちゃんの気持ちが段々分かって来たっす」
「だああ!もうお前らうるさい!さっさと行くぞ!」
早歩きでキャンプ場の貸し出しエリアまで行く紅哉に、リンはニヤニヤ、直人は尊敬の眼差しで見ていた。
「いやぁ……頑張ればアイドルも彼女に出来るんすね…」
「頑張れよ直人っち。周りはほとんど旦那に思いを寄せているが、癒理と美波辺りは狙えるかもしれん」
「マジっすか……癒理ちゃんはきつくないっすか?あれ絶対紅哉先輩に惚れてるっすよ」
「いや……あれはお前と同じ尊敬の目だ。恋愛になれば違うはず…」
「俺……男を磨くっす」
「オレも応援してるぞ。顔は悪くない……後は直人っちがアイツらに良い所を見せれば状況は変わってくるはずだ…」
小声でリンから言われた直人はやる気に満ちていた。だが、直人の真の力が発揮されるのは当分先だろう。
テントまで戻ると、生徒達は寝る準備をしているようだった。中にはまだまだ夜はこれからだぜ!と言ってライトを持ってトランプをしている生徒もいる。
教師がそれを咎めないのは彼らも酒を今も飲んでいるからだろう。
「あ、ご苦労様。私達、シャワー浴びてくるから」
「あいよ。また男組で残るのか」
ニルも自然とついて行く辺り自分が女である自覚が出て来たらしい。
「ぶっちゃけ直人っち的に好みは誰よ?THE大和撫子の黒髪ロングの頼れる先輩豊姫。感情を表に出す事はないミステリアスでありながら全国屈指の力を持つ封印指定魔術師、師匠舞香。明るい笑顔と揺れる短い髪は誰もが癒される後輩属性美波。鉄仮面っぷりとそのギャップが激しく、まさにギャップ萌えと言うしかない我が主、長いポニーテールは男のロマン!癒理。さぁどれだ」
「お前よく語れるな……」
「めっちゃ悩むっす…!てか皆美少女っすよね。正直こんな俺がここに入れること自体おいしい場面である事は間違いないんすよね」
呆れながらジュースを飲む紅哉に対して、直人は真面目に悩んでいるようだった。
「身長の好みがあるか。よし、オレっちが独自に調べた背の順を言ってやろう。1位は何と言っても我が主癒理だな。身長は170cmと長身だ。だからこそオレの槍が振り回せるんだが……2番目は豊姫だ。身長は見た感じ165cmくらいかな?これくらいが平均的と言える。3番目は美波。ここからは好みがぐっと別れて来るが、身長は157cm。これくらいと言う奴もいれば、豊姫くらいがいいという奴もいる。さて最後にはやっぱりロリと言うべき舞香だ!なんと身長は驚異の148cm!もはや小学生!」
「リン……お前どうしてそんなにテンション高いんだ……あれか、この頃出番がなかったからここぞとばかりに張り切っているのか」
「く…!美波も癒理も悪くないっすね…!俺は身長に特に気にしないっすが……ぐああああ!凄い悩むっす!」
「旦那は瑠璃がいるしな。そういえば、今彼女どうしてるんだ?あいつ、めっちゃ駄々こねてそうだが」
頭を抱えて悩む直人を放っておいて、リンは紅哉に瑠璃について聞いてきた。
「あぁ、仕事はいつも通りやっているそうだ。ただ……移動中はかなり機嫌が悪いらしい」
「だろうな~、オレ達だけこうやってお泊りだもんな」
「まぁ2回行っているのは瑠璃も同じだが、やっぱりメンバーが違うからな。俺達とどうしても行きたかったそうだ」
「なぁ!リン!俺決められないっす!」
「おおう!?悩むがいいぞ直人っち!こういう方法もある!直人っちがカッコいい所を見せれば女たちはきっとこう思う、「やばい…直人くんかっこいい…」ってな!」
「ないわ」
「うおおお!こりゃ俺も腕を磨くしかないっすね!」
テーブルから立ち上がった直人は紅哉を見る。
「紅哉先輩!俺に稽古をつけてください!」
「は?お前マジでそんな理由でトレーニングするのか?」
開いた口が塞がらないとはこの事だろう。
「あのな……お前はまず落ち着け………よく冷静になって考えるんだ。俺達魔術師は任務中いつ死んでもおかしくないんだぞ?だから力を身に着けるのであって、決して恋愛のために力を着けるわけじゃないんだ」
死んでしまう、という言葉に直人は心を打たれた。冷静になった直人は椅子に座り直すとジュースをぐっと飲み干した。
「そうっすよね。中学時代はそんなこと一度も考えたことなかったっす」
「高校からが本番なんだ。この師弟制度も若い芽が死んでしまわないようにの措置だ。舞香がお前の師匠になったのは本当に幸運だと思った方がいい。お前が強くなれば……そのなんだ、女の子も自然とついてくるんじゃないのか?だから、今は生きるために強くなれ」
「…ッ!分かったっす!俺!強くなるっす!そしてモテモテになるっす!」
「おう!その意気だぜ直人っち!旦那も分かっているじゃないか!強くなる=モテモテになるってことがさ!」
「いや、俺はそんなつもりは…」
「だから今は恋愛の感情は捨てるっす!俺!先輩を超える魔術師になるっすよ!」
「お、おう。頑張れよ?」
「うおおおお!やってやるっすよおおお!」
まぁなんだかんだで強くなることを目標に直人は精進する事を宣言した。それはモテモテになるために……――――
シャアアアアアア―――――ここはシャワー室。こんな山の中にあるシャワー室だから汚いと思っていたが、高級ホテルさながらの清潔さだった。
「うわ!つ、冷たい!って舞香さんやめて!」
「ふっふっふ……これはお決まり…髪を洗う豊姫は逃げられない…」
「ニルさんの髪の毛艶々ですね。誰に洗って貰っているんですか?」
「む?マスターだが」
「ほええ!?い、いつも紅哉先輩とお風呂に入っているのですか!?」
「そうだが?まぁマスター以外には見られたくないから今日はお前らに交じっているわけだが」
「美波さん、龍族に人間の常識は通じませんよ。それに師匠はロリコンですから」
「そ、そうなんだ……」
鼻歌を歌っているニルの長い髪を洗う美波の顔は真っ赤だ。想像してしまったのだろう。
「あの、リアさんはいいのですか?」
「あいつが人間の姿になる事は余りない。それにあいつ自身人前に出てくることはほとんどないからな」
「んじゃどうしてニルさんは私たちの前に?」
「………人間が羨ましいと思ったからか。マスター達を見ていて思ったのだ。ふと自然とな」
隣では水のシャワーをお互いにかけあっている豊姫と舞香がシャワー室を駆けまわっている。
癒理は無言で身体を洗っている。
「勿体ないではないか。数奇な運命とは言え、現世にこうやって霊体だが、身体を得たのだ。ならば楽しんで暮らした方が何倍もいい」
「そうですよね。実際ニルさんとても楽しそうですし」
「うむ、楽しいぞ。舞香とゲームで争ったり、マスターとアイスを食べるのも好きだ。オレは龍の里では暴れ者でな、こうやって自然と暮らしている自分にも実は驚いているのだ」
髪を洗い終えると、ニルは立ち上がり身体の水を黒炎で一気に蒸発させた。
「昔は人間なんぞ我らに劣る下等種と見ていたが、これはこれで楽しいものだ。お前ら人類が作ったゲーム、遊園地とオレを楽しませるものは多い。だからオレは人間の社会を守るためこれからもマスターに力を貸す」
いつしなく饒舌なニルはさっさと上がって行ってしまった。
残された美波は自然と癒理を見ていた。
「ニルとこういう会話が出来たことは随分と珍しいと思いますね。彼女は昔人間に討たれた存在。そんな彼女が人間と共存できることが奇跡に近いんでしょうね」
「私、ニルさんって初めて会った時は怖いイメージしかなかったんですよね。でも、これを聞いて印象が変わりました」
「ニルのような存在が増えれば魔物と共存できる社会がいつか、出来るかもしれませんね」
「それ面白いですね。そんな社会……見てみたいなぁ…」
シャワー使用時間残り10分となったタイマーを見て、美波は急いで髪を洗い始めたのであった。
なんだかリンがただの変態にしか見えなくなってきましたね。やっぱり男同士の話と言えばこれですよね。しかし、ニルと美波を組みあわせて書いてみて思ったのですが、案外面白いですね。




