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龍の血を引く者  作者: また太び
4章 林間学校
21/162

釣り堀で…………

「師匠、大分時間が余りましたね」


「そうだな。先に帰ってテントを張るか」


「そうしましょう。師匠、そうと決まれば先に行きます」


「癒理、ここは久しぶりに競争と行こうじゃないか。どちらが早くキャンプ場まで帰るか勝負だ」


「…!ホントですか!私と勝負をしてくれるのですか!」


「あ、あぁ…?ダメだったか?」


「い、いえ!嬉しいです!で、では行きますよ!」


「お、おう。よし!よーいドン!」



二人同時に真上にある木を掴むと、そのまま森へと消えて行ってしまった。

その光景に誰もが唖然としていた。監督教師もやれやれとした顔をしており、舞香と豊姫以外は尊敬の目を向けていた。



「癒理さんも紅哉先輩も凄いです!」


「いや~俺もああいう風になりたいっすね…」


「凄い身体能力だね……流石うちのクラス一番の体育系…」


「そうなんですか?私のクラスでは癒理さんが一番です」


「私のクラスにはいない……皆頭が良い子…体育は苦手…」


「舞香先輩は運動ダメなんすか?」


「ううん……出来るよ?」



舞香はさっき紅哉と癒理がしたように木にぶら下がって見せた。



「ただ疲れるだけ……ふぅ…」



手をぱっぱと汚れを払うと、すたすたと歩き始めた。



「舞香先輩って案外何でも出来る人なんすか…」


「そのようだね……私もびっくり…」



伊達に舞香は紅哉と一緒に並んでいるわけではない。師匠の麗華にも魔術だけ身に着けてはならないと言われて身体を鍛えて来たし、小柄でも動ける事には変わりはない。むしろ小さくて小回りが利いていいと思っていたりもする。

ただ動くような戦闘は余り、というかしたことがない。その光景を人によく見られていたせいか舞香は動けない、というより動かないという認識が増えたのだ。



「まぁ……私のパートナーが生粋のウィザードタイプだし……仕方ないよね…」


『そうですね。紅哉とニルのようなコンバットタイプではありませんから、私は』


「だから龍一さんには毎日相手の魔術を読むトレーニングばかりさせちゃってるんだよね…」


『おかげで大分ウィザードとしての格は上がったと思いますが?』


「さぁ……どうだろうね…」



舞香は誰にも聞こえない声でリアと会話していた。後ろでは3人が楽しそうに今後の予定について話し合っている。

舞香はふと目を閉じて兄と癒理がどの辺りにいるか、エーテルで探った。



「お兄様と癒理早いね……もうすぐキャンプ場につきそう…」


『あの二人は野生児ですか……』



リアも呆れるほどだった。




「残念だったな。俺の方が早かった」


「ハァ…ハァハァ…!流石です…!もう少しだったのに…!」



先にキャンプに着くと、生徒一人もいなかった。



「お前らもう終わったのか!?そしていまどこから来た!?」


「あ、先生。どこってそこからですが」


「お前らなぁ…」



先生たちは打ち合わせをしていたそうで、突然現れた紅哉と癒理に驚いているようだった。

紅哉が指差したのはとても人が抜けて来れそうにない森。もちろん木を指差した。



「まぁ一着目はお前らだと思っていたが、ここまで早いとはな」


「だから先にテントを張ろうかと」


「ふむ。そうだな。少し待っていろ。いまキャンプセットを配る」



体格の良い男の教師はブルーシートに置かれた大量のキャンプセットを持ってきてくれた。

それを受け取ると軽い説明を受ける。



「ちなみに壊すなよ?それと食材は自分で集めろ。以上だ」


「ホント軽い説明ですね……分かりました」


「先生たちはまだ打ち合わせがあるから大人しくしていろよ」



キャンプセットを受け取り、決められた場所まで来ると、二人は早速テントを作り始めた。

カン―――カン!カン!と釘をハンマーで打ちつけて飛ばされないようにテントを固定する。



「師匠、今日のご飯はどうしましょうか」


「ん~、お前が作れる物なら何でもいいぞ」


「美波から提案がありまして、皆でバーベキューをしてみてはどうでしょうと言っていました」


「え?バーベキュー?まぁ出来ない事はないな。確かここのキャンプ場って炭とか貸出していたよな」


「していましたね。ですから、師匠が良ければ私もそれでいいかと思いまして」


「いいんじゃないか?舞香は料理が出来ないからな。皆で一緒に食べた方がいい」


「では、今日の晩御飯はバーベキューということで」


「分かった。なら、早く作り上げて材料を仕入れないとな!癒理!急ぐぞ!」


「はい!師匠!」



作業の速度が上がった二人はとても手慣れていた。元からアウトドアが好きな紅哉と忍術の関係から野宿など普通の癒理はとても相性が良かったのだ。



「リン。寝ていないで手伝いなさい」


「ニル。後でアイス買ってやるから手伝え」


「しゃ~ねぇな」


「いいだろう。もちろんバルムだからな?」


「バルムでもなんでも好きなの買ってやるから急ぐぞ」



すっかりこの世に馴染んで普段着を着こなしているクーフーリンと紅哉同様アウトドアが好きなニルがテント作りを手伝ったため、作業の速度は増してあっという間に出来てしまった。



「なぁ旦那。ここって魚釣りあんの?」



旦那というのは紅哉の事だ。



「あるな。今から材料のために釣り堀に行こうとしていた所だ」


「ほう……マスター、ここは釣り堀があるのか」


「よし、旦那。さっそく行こうぜ。オレ、魚釣り結構得意なんだぜ?」


「初耳だな。よし、行くか!」


「オレも忘れるなよ。オレも魚釣りは好きだ」


「師匠。お供します」



貰った番号が書かれたプラカードを地面に刺してテントの場所を分かりやすくしておき、4人は釣り堀へと出発した。



「ふぅ……やっと着いたー!」


「というか帰って来た……の方があってる」



直人がキャンプ場に帰って来るなりそう声を上げると素早く舞香がツッコミを入れる。

美波と豊姫は何も反応せずスタスタと横を通り過ぎて行き、教師からキャンプセットをさっさと貰ってしまった。



「なんだか俺…悲しいな」


「直人…行くよ……」


「うっす…」



キャンプセットを渡された直人は一人黙々テントを作っていく。隣では仲良くテントを張る二人に対してこちらは会話がない。



「舞香先輩、何見てるっすか?」


「ん…?ニュース……」



舞香は電子端末の音量を上げて直人にも聞こえるようにしてくれた。



『明日の天気は全国的に晴れるでしょう』


「天気予報っすか」


「うん。ここの山はね……活火山って言って今にも噴火してもおかしくないせいか、気温があったかいんだ……」


「か、活火山ってやばいじゃないっすか!?」


「あ、直人君。それは大丈夫だよ。もし噴火してもここには強力な魔術障壁が貼られているから、もしマグマが流れて来ても抑えてくれるんだ」



隣で作業をしている豊姫がそう言ってくれて直人は安心した。



「でね……ここの近くにお湯と水が良い感じに交ざり合っている川があって……明日の午後はそこで遊ぶ事になってるの…」


「マジッスか!?俺水着とか持ってきてないっす!」


「あ……大丈夫。ここには水着も売ってるから……」


「なら安心っす…皆が入ってる中で俺だけ見てるとか、それは悲しいっす」



しばらくカンカンという音だけが響くキャンプ場に舞香は横にある空きのテントを見た。



「お兄様たち早いね……」


「あ、それ俺も思っていたっす」


「紅哉くんと癒理さんはアウトドアが好きな人達だからね…」


「あ、お兄様…?いまどこにいるの…?」


『のわああ!?おっと、今は釣り堀で格闘中だ!うっひょー!おい!ニル!』



なんだかザバーン!とか魔術を放つ音が聴こえるのは気のせいだろうか。



『とんでもない化け物がいたんだ!いまそいつと戦っていてな!あ、ちなみに俺はバーベキュー賛成だ』



そこで電話が切れる。全部聞こえていた豊姫たちは何をしているのだろう、と気になりだし、早くその場に行きたがっていた。



「と、とりあえず早くテント立てるっす!」


「そ、そうだね。美波さん!頑張ろう」


「は、はい!」


「私も手伝う……」


「あ、ありがとうっす!」



兄のテントを作る姿を見ていた舞香は立てる事なら説明書もいらないので、さっさと組み上げてしまった。



「あれ……俺いらなくないっすか…」


「豊姫の所も手伝う……直人」


「う、うっす!」


「あ、手伝ってくれるの?ありがとう」


「ありがとうございます!」



紅哉の状況が知りたい4人は早くテントを作る事に一生懸命だった。




時間は遡ること15分前。

釣り堀に着いた4人はきっちり金を払ってニジマス釣りに励んでいた。



「はっはー!フィッシュ!」


「リン、お前意外とやるじゃないか!俺も!来たぞ!」



フィッシュとは釣れた!と同じ意味だ。紅哉達は釣り堀にいる魚を滅ぼすと感じるほど怒涛の勢いで魚を釣り上げていた。



「オレも負けていないぞ!おお…これは良いサイズじゃないか」


「皆さん流石ですね。ですが、私も…!」



自分の釣り上げた魚を見てうっとりするニルと黙々と釣り上げる癒理。



「旦那ァ!これよくない?」


「おお、いいサイズだ。いまニルが釣り上げたサイズと比べてみろって」


「おいニルっち!お前のどのくらいよ?」


「ふむ………よし、オレの勝ちだな」


「かーっ!くそ負けたぜ!あと2cm大きければ!」


「クックック。オレを負かしたければもっと大きいのを持ってくるんだな」


「今に見ておけよ!オレがいますんごいの釣ってやる!」


「リン、余りはしゃがないように」



二人とも良いサイズの魚を釣り上げるなか、紅哉はなんだか違和感を感じていた。



「師匠。少しいいですか」


「あぁ、お前も感じていたか」


「ええ。この地鳴りは一体…」



ドドドドドドドド――――――!バァァァァアアアアン―――――!

釣り堀に直結している川から突如巨大な魚が現れた。

4mはあるだろうか。大きく鋭利な角に噛みつかれたらひとたまりもない牙。

その光景に4人は驚くどころか良い物を見つけたような表情になる。



「な、なァ旦那。あれ捕まえたらオレ1位じゃね?」


「待て、俺が1位だからお前らは引っ込んでいろ」


「おい、それこそ待て。オレが1位なのだからここはそのままオレに任せておけ」


「私も負けっぱなしは嫌ですから、私がいただきます」



リンは槍を構え、紅哉は鋼鉄が埋め込まれた革のグローブをはめる。ニルは龍の角と尻尾を生やして臨戦態勢へ、癒理も制服に仕込んだ折り畳み式の槍を作り出し、そして――――



「オレのもんだァアアアアアア!」


「待てやゴラア!」


「オレのだ!」


「私がもらいます!」



一斉に魚へ襲い掛かった。

一番早くファーストアタックを得たのはニルだった。黒い炎を込めた拳を魚の横腹に叩き込む。



「カオス!ナッコォ!」



コークスクリューが突き刺さり、釣り堀から林へ吹き飛ばされた魚は威嚇の声を上げてニルへ標的を狙い定めた。

この魚、水陸と特に選ばないそうだ。



「ひゃっはー!どこ見てんだよ!」



そこへリンは飛び蹴りをかまして更に吹き飛ばす。



「もーらったァ!」



飛ばされた方角には紅哉が控えており、飛んできた魚へ強烈なアッパーをかます。

空中へ飛ばされた魚は何が起きたのか分からず混乱している。



「追撃です。落ちなさい」



空中でクルリと回った癒理は魚へ踵落としを決めた。

ズドオオオオオオオン―――――――!クレーターが出来た中央にはまだ戦意を失っていない魚の姿あり、ニルへ向けて強烈な水鉄砲を放つ。



「グゥゥウウウウ!ゴバアアアア!」



一瞬で龍化したニルは飛んできた水鉄砲に対してカオスブレスで相殺する。



「ナイスだニルっち!後はオレに任せておきな!」


「あ、コラ待てくそニート英雄!」


「見ておけよ!癒理!槍はこう使うんだよ!」


「見たくもありません。あなたの使い方は乱暴で嫌いです」


「なぁ!?くっそぉおおおおお!」


「哀れだな……真の持ち主たるクーフーリンが自分のマスターに良い所を見せようとして失敗した姿だ」



リンの攻撃は神速だった。槍の底を使った攻撃やたまに素手も使う。うむ、確かに乱暴に槍を使うようだ。



「退け!オレが貰うんだ!」


「お、おい!オレごと殺す気か!?」



そこで舞香から電話が来ると、仕方なく紅哉は電話に出た。これが先ほどの舞香と紅哉の会話である。

電話を切るとニルがちゃんと注意をひきつけないせいで紅哉の所まで水鉄砲が飛んできたのだ。



「だからそれは俺のもんだァアアアアア!」


「師匠、少しは私に勝たせてください。そしていい子いい子してください!」


「最後の意味が分からんぞ!?」



もはや敵味方関係なしに魚を取り合う3人は辺りの樹木を全てなぎ倒している。



「フォイヤ!」



紅哉は炎系統の魔術を使って己の拳に炎を纏わせると、それを魚へ連撃を繰り出していく。

ニルもその隣で人間の姿に戻って紅哉と同じく、黒い炎を纏わせてラッシュを仕掛ける。



「フィニッシュはもちろん!」



紅哉とニルは一つ大きな一撃を魚へ叩き込んでひるませると、それに合わせてニルと紅哉は一歩後ろへ下がる。紅哉は左手に大きな炎を纏わせ、ニルは右手に今よりも激しい黒炎をたぎらせ。



『アアアアアッパァァァアだァァアアア!』



ドオオオン――――!二人は同時に魚へアッパーを繰り出した。炎の軌跡は魚へ突き刺さり、上空へと飛ばした。



「師匠が力を合わせたので、私達も久しぶりに連携と行きますか。遅れないでくださいよ」


「だぁれに言ってるんだ?俺は槍使いの英雄だぜ?お前がついてこいよっと!」


「行きますよ」



癒理は微笑を浮かべるとリンと共に飛んだ。もはや瀕死の魚へ最後の追い打ちをかける。



「あらよっと!」


「せいッ!」



リンは頭へ癒理は顎に強烈な蹴りを入れる。更に落下しながら二人は槍を頭上で回しながらルーンを唱えた。ルーンとは魔術とは違う古代の魔術だ。



『稲妻よ…この槍に力を!』



ピシャアアアアン―――――どこからともなく稲妻が槍に降り注ぎ、青白い稲妻を纏った槍を魚へ構えた二人は同時に――――



『煌めけ!ライトニングスピアアアアアア!』



ザアアアアアアン―――――交差した稲妻は魚の脳天を貫通し、確実に息の根を仕留めた。

身だけは傷付けない辺り、この4人は本当に食べるつもりなのだ。

地上へ降りると、落ちてきた魚を人間の姿のニルが特に気にした様子もなく受け止めた。



「良いコンビネーションだったな、ニル」


「あれは子供の頃に考えた技だったか?」


「そうだ。戦隊ヒーロー物で、確か悪役とヒーローが手を組んで親玉を倒した時に使った技だったな。それを実現させようと頑張っていた記憶がある」


「うむ。あれはオレも気に入っていた。マスターが技を振って来た時はオレも心が躍った」


「リン、久しぶりに良い感じでしたね。いつも寝てゲームしてばかりのニートとは思えない動きでした」


「ば、馬鹿!オレだってな!英雄としてお前に稽古付けてやろうかと思ったらお前はセレナさんの所に行くじゃねェか。そしたらオレのすることないじゃん?なら、旦那の家にあるゲームするしかねェじゃん?」



と、いつの間にか魚の1位の事などどうでもよくなっていた4人の所へ舞香達が到着して、事の顛末を説明するのであった。

魚と言えば消えてしまった。やはりこれは魔物であり、ここの関係者に問うと来ては悪さをする困った魔物だったらしい。

何度も専門家に捜索をお願いしては見つからず雇うお金だけ擦り減っていくので、途方に暮れていたそうだ。

倒してくれたおかげか、釣り堀代は無料になってお金は返金された。



「どうだ、かっこいいだろ?」


「かっこいいっす!俺も見たかった…」



紅哉はニルと共に放った火炎と黒炎のダークフレイムアッパー(笑)を直人に話していた。

この手は豊姫に話しても苦笑いするだけなので男が増えて本当に良かったと思っている。



「あ、癒理さん!私見てたよ!リンさんとのコンビネーション技!稲妻がこうズドーン!ってかっこよかった!」


「あはは……見られていましたか」


「後あの稲妻は見た事ないですね。あれは何ですか?」


「あれはルーンと言って古代の魔術です。種類が少ないですが、強力な魔術で今の現代の魔術でも通用する力があります」


「ほえー!リンさんだから出来るのかな?」


「そうですね。リンがルーンを習得していたので私もその恩恵を得ているのです」



楽しそうに前を歩く4人を見ていた舞香に豊姫は話しかけた。



「ねぇ舞香さん。あの火炎と黒炎の拳って?」


「お兄様とニルが好きだった戦隊ヒーローの決め技……リーダーが悪役のヒーローと夢のコラボをした時に生み出した超絶必殺技……レッドの火炎の拳とブラックの黒炎の拳が同時に放たれた時に出来たの…」


「はぁ……やっぱ紅哉くんも男の子なんだね…」


「ニルも大好きだった……その戦隊が終わると庭に出て、一緒にポージングしていたのをよく覚えている。人間の姿になったニルと子供のお兄様が頑張ってた……」


「舞香さんはそういう事はなかったの?」


「私はリアをよく弄っていた……リアの鱗を見てたり、絵に描いたりしてた…」


「ええ、あの頃の舞香はホント困り者でした。絵に描くから動くな、とか色々やらされました」


「リアさんでも大変だったんだね……」


「ニルは随分と楽しそうでしたよ。紅哉と庭を駆けまわったり、魚取りをしたりと龍族とは思えない行動ばかりでした」


「ニルはもう……人間社会に溶け込んでいる……というか…最近人間の姿でいる方がこの世は楽だと思い始めている…」



リンと釣った魚について語り合っているニルを見ながら舞香はそう言った。紅哉の行動がニルに深い影響を与えている事を知っているのは舞香とリアだけだった。


私自身釣りが大好きなんですよ。釣り堀は釣り堀で楽しいです。釣り堀にいる魚は大きいですから、引きが違うんですよね。普通の川釣りや海釣りとはまた違った感覚が面白いんですよね~

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