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龍の血を引く者  作者: また太び
10章 龍族の侵略(続)
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グランベスの記憶

「お兄様!奏が帰ってきましたわよ!」


「おお!遅かったじゃないか」


「彰から聞いていた通りの到着時間ですね」



リビングでセレナと談笑していた紅哉の下に奏が現れた。



「あぁ!お兄様!過酷な修行でこの奏の身体はもうボロボロです……!どうか、その逞しいお体で奏を抱きしめて癒してくだ――――ごふぅ!」


「遅い到着じゃない。奏」



紅哉の姿を見るなり目を輝かせた奏は、荷物を放り出して彼に抱き付こうした。だがしかし、転移術式で紅哉と奏の間に現れた舞香のハイキックを顔面に受けて床に倒れる。



「ま、舞香ぁ…!彰から聞いたけれど、感情が戻ったそうね」


「ええ、おかげさまで」



ゆらりと立ち上がる奏と腕を組んで堂々と立つ舞香。



「もうわたくしは昔のわたくしじゃありませんのよ」


「なに?私と力比べしようっていうの?無駄よ、やめておきなさい。例えあなたが魔法使いになったところで私には勝てないわよ」


「あぁもう!紅哉お兄様!この妹気取りのメス豚女を叩きのめす許可をくださいまし!」



ブチン―――!

舞香の何かが切れた音がした。



「こぉんのくそお姫様が!誰が妹気取りですって!?本当の妹なんだよこっちは!義理じゃない!お兄様と血が繋がった妹なの!」


「あらぁ?怒っちゃってみっともないわ。もっとクールに行きましょうよ。あーっはっはっは!」


「お兄様!もうこんな義妹いらないでしょう!?お兄様には私以外の妹なんていらないの!そこのところ分かっているの!?」


「え……あれ、なんで俺巻き込まれているんだ…?」


「紅哉がいらないフラグを建設しまくるからですよ」



勝手に喧嘩を始めた妹二人に紅哉は手に負えないというのが本音だった。

談笑しながらしていた将棋も中断する羽目になり、紅哉はセレナも巻き込もうとしたが、彼女は『飲み物を取ってきます』と言ってそそくさと逃げて行ってしまった。



「な、何の騒ぎだ…?」


「紘一君……出て行っちゃダメだ…今の舞香さんに近づいたら一瞬で氷漬けにされてしまうぞ…」


「ま、マジっすか……あの銀髪の子綺麗だな…」



階段からこっそり覗いていたのは紘一とカケルだった。

紘一は銀髪の少女が気になっているが、カケルに至っては恐怖でガタガタと震えている。



「あぁ…あれは奏さんって言って紅哉君の義理の妹だよ。年齢は紘一君の一つ上だね」


「はぁ…なるほど。で、これからどうなんですかね。このまま行くとこの家吹っ飛んじゃいそうな気もしますが」


「その時は俺が―――――その時だよ」


「今自分が止めるって言いかけましたよね…!?何故っすか!?止めに行かなくていいんですか!?」


「だ、だって舞香さん怖いもん……今朝理沙ちゃんが負けたんだよ…!?朱音ちゃんと同等の理沙ちゃんがさ…!そしたら俺も負けるかもしれないじゃん!?無理だよ!あの人止められる人なんて紅哉君くらいだよ!」


「うわぁ…俺たちバハムートと戦う前にこの人達をどうにかしなきゃいけないような気もする…」



頼りにならない未来人を一度ジト目で見てから紘一は奏に目を移した。



「なになに?奏ちゃんが気になるの?」


「あ、朱音さん!?」



騒ぎを聞きつけた朱音がカケルの背中からにょきっと現れる。



「奏ちゃん髪伸びたね。前は肩にかかるくらいだったのに、よほど辛い特訓をしていたんだね」


「なにやってたんですか?」


「固有結界習得の特訓だよ」


「こ、固有――――モガモガ」


「しー!」



カケルに口を手で塞がれて紘一はこくこくと何度も頷いた。



「まぁあの様子だとちゃんと習得出来たみたいだね。うんうん、流石舞香ちゃんと張り合うだけの実力はあるな~」


「未来ではいつも喧嘩ばかりしていたからね。いつも奏さんが負けて終わるんだけど、たまに舞香さんが負ける時もあるから見ていて面白いんだ」


「野次馬根性じゃないですか……」


「くだらない理由ばかりで喧嘩するんだけど、なんだかんで一番の仲良しはあの二人だよ。いつも冷静な舞香さんが思いっきり感情を吐きだす相手と言ったら奏ちゃんしかいない」


「喧嘩するほど仲がいいっていう奴ですね」


「ふふふ、それで話し戻すけど、紘一君は奏ちゃんが気になるのかな?」


「えッ!?お、俺がっすか!?」


「あはは、可愛いね~。でも、奏ちゃんは紅哉君が大好きだから厳しいかなァ……」


「あれはloveなのか?俺にはlikeにしか見えないけどね。朱音ちゃんは奏さんの過去の話を聞いていないのか?」


「あぁ、知っているよ。お姫様だった頃の話しでしょ?」


「お姫様?」


「うん、お姫様。奏ちゃんはね、小さい頃本当にお姫様だったんだよ。お嬢様でもなくて、お国のお姫様」


「す、すげえ……」


「まぁ自分の身の回りはよくても民は王政に納得がいかなくてね。それで革命が起きたんだ」



カケルは未来で聞いた奏の過去の話を思い出すかのように語る。



「王様は処刑。家臣も同様に処刑されたんだよ。でも、何の罪もない奏さんは一人の執事によって逃げ延びることに成功したんだ。でも、その途中で山賊に捕まってしまってね。人身売買されたんだ」


「マジですか……それ…」


「大マジだよ。でもね、そこに雅文さんが丁度世界を旅していた時に奏さん―――ううん、アリスティール・レム・マリベルトと出会った」


「それで雅文さんは舞香ちゃんに似ていた奏ちゃんを引き取ったんだよね~」


「彰君とは同期だけど、どうも兄っていう感じがしなかったらしくてね。そこで義兄の紅哉君の話を聞いたらしく、過剰な想いを出会うまで募らせた結果、ああなってしまったわけだよ。だから俺はlikeの方の好きなんじゃないかなって思ったんだけど」


「やけに詳しいねって思ったら、カケル君は四条家の人間でもあるもんね。そりゃあ雅文さんやら麗華さんに話聞けるわけだよ」


「そういう事だ。まぁ俺の言っている事全てが当たりなわけじゃない。ただ自然にそう思っただけだし、気持ちなんて本人しか分からないことだ」


「つまりカケル君が言いたい事はね。紅哉君から奏ちゃんを奪っちゃえ!って事だよ。まぁ紅哉君は奏ちゃんの事何とも思ってないんだけど……」


「い、いや!俺は奪うとかそういう事じゃなくて!」


「ねえ、あなた達何をしているのかしら」



その時凍りつくような声を3人は聴いた。



「ひぃい!ま、舞香さん!?」


「舞香ちゃん待って!話を聞いて!」


「こ、これ俺もやられるパターンっすか!?」


「人の喧嘩を野次馬ね………カケル」


「ひいい!な、なんで聞こえているんですか!?そ、それに野次馬言ったのは俺じゃなくて紘一君の方ですよ!」


「カケル……冥界行きと冥界行きどっちがいい?」


「ど、どっちも一緒じゃないですか!なんで俺だけ!?朱音ちゃんとか紘一君はどうするんですか!?」


「朱音もよ?でもそうね、朱音は少し可哀想だから―――」


「あ、ありがとう!舞香ちゃ―――」


「まぁやっぱり冥界行きね」


「そんなあああああああ!!」



安心しきった顔からそれは絶望に変わる。



「あぁ…その表情いいわ。ねえ、今どんな気持ち?」


「舞香、カケルさんは分かりますけど、この男は誰ですの?」


「紘一よ。お兄様や私、瑠璃と一緒で龍人なの」


「あら、あなたも龍使いなの?」


「え、ええまぁ、なりいきで宝石岩龍グランベスの魔術師に…」



喧嘩をしていたはずの二人は階段で盗み聴きしていた3人を引きずり降ろして、リビングのカーペットに正座させていた。

カケルは口をパクパクと開き閉じさせ、朱音に至っては泣きそうになっている。



「確かグランベスって…………ちょっとお待ちなさいな」



奏は考える素振りを見せると自分のキャリーバッグを開けて中から一冊の古い本を取り出してきた。



「紘一さん、あなたの龍はいまどこに?」


「確かファーヴニル達と一緒にゲームをするって言ってたっけな」


「……まぁいいわ。それでわたくしのお城の書庫に面白い本がないかと思って、爺やに少し探させていましたの」


「奏、それは?」



今まで茫然となりいきを見守っていた紅哉も立ち上がって奏が持つ本を覗き込む。



「うわ……すまん、英語は苦手なんだ…」


「お兄様、これ英語じゃないわよ?スペイン語よ?」


「どっちにしろ読めないから一緒だ…」


「ふふ、そう言うと思って出来る義妹は日本語訳も爺やにさせていましたの」


「自分でやらないのがこのお姫様らしいわよね。その執事さんには感謝するわ。私もかじり程度しかスペイン語は分からないもの」


「読める方がおかしいと思うのは、わたくしだけかしら」


「大丈夫だ。俺も奏と一緒だ」


「俺も奏さんに同意だ」


「あたしも奏ちゃんと一緒の思いだよ」


「そもそもなんで読めるんですか」


「くッ!この…!お兄様のために完璧な妹を目指していたというのに、あなた達は…!」


「まぁまぁ落ち着いてください。わたしもその本が気になりますし、丁度お茶が入りましたよ」



セレナの介入によって舞香の怒りは鎮められ、奏が持ち帰った分厚い本をテーブルに置いて読書会が始まった。



「わたくしも一度読みましたけれど、主に龍の事が書いてありましたわ」


「龍!?過去に生きていたと言われている龍か!」


「いいえ、ファーヴニルとか伝説になっているような龍はこの本に一切載っていませんでしたわ」



奏が分厚い本をめくるとあるページを皆に見せた。



「これは……グランベスか…?」


「古代人が描いたと思われる壁画ね。確かにこの肩から突き出た宝石とか背中の剣は完全にグランベスのものね」


「奏さん、何て書いてあるんだ?」


「ええっと、その身に纏いし輝きの原石は、我らに明日の光をもたらさん。そう書いてあるわ」


「何のことだ?グランベスは最初から日本にいたわけじゃないのか?」


「紘一は知らないのか?昔世界は一つの大陸だったということを」



太陽に照らされながら飛ぶグランベスの姿を崇めている人々。その人々たちの手には宝石が握られており、神々しく輝いている。



「どうやらこの人達は移民族だったらしいわよ?グランベスがくれる宝石をその町で金に換えて、肉や野菜を供物としてグランベスに捧げていたらしいわ」


「へえ、この人達はグランベスと共存しながら世界を歩いていたんだね」


「邪を払いのけ、我らに明日をもたらす龍の名は宝石岩龍グランベス。どうやら結構この頃のグランベスは機嫌がよかったみたいね。移民族に襲い掛かる獣も、荒れ狂う嵐も全て鉄壁のオリハルコンで守っていたみたい」


「良い奴だな。ちょっと見直したぜ」


「まぁ聖龍だからな。人に害をなすことはしないんだよ」



猪のような大きな獣から、人々を守るように前に立つグランベスの絵が載っている。



「神様のように思われたのかもしれませんね」


「残りのページは世界で人々に害を及ぼした邪龍、または共存の道を歩んだ聖龍の話しが載っているわ。あと一つ面白い話があったのよ」



奏はまたページをめくる。



「ここ!」


「ん?これは…」



紅哉が驚いたのはそこに雪を降らせる龍が載っていたからだ。



「サクソン……なのか…?」



「ブリテンの白い龍サクソンのその後の話しみたいよ?たまたま姿が目撃されたみたいね」


「奏、和訳はどうなのかしら」


「碧き鱗を持つ氷帝は人々の声を聴く。人々の嘆き、悲しみを消し去り、彼女は代わりに大地を潤す悲しみの涙を流すであろう。そう書いてあるわ」


「この消し去るというのは記憶を消す、ということでしょうか」


「それから涙っていうのは雪のことかな」


「途中で字が途切れているみたいで、爺やでもわたくしでもこれ以上の和訳は無理でしたわ」


「サクソンの雪を見たものは記憶を失う。恐らく書いた旅人も途中で見てしまったんだろうな」



残念そうに言う奏に紅哉は仕方ないと言った。



「この本を読んでいて思ったのだけれど、昔の魔物は結構人々と共存していたみたいね。わたくし、パートナーと魔物は別だと思っていましたわ」


「今じゃありえない話だけどな」


「まぁね。時代が変わりすぎたっていうのもあるし、何よりちょっと魔物には住みにくい世界になったからね」


「原始的な世界なら話は別だったんだろうね」



紅哉が奏から本を借りて舞香と一緒に読む中、紘一はグランベスと話していた。



『っていう昔話があったのか?』


『あったぞ。あれはなかなかに面白い旅だった。人々が私を崇め、宝石を作るだけで食べ物が手に入る。途中何度も移民族を守ったりしたが、その日は私の前で踊り始めるから面白いったらありゃしない』



グランベスは昔の思い出に浸るように語る。



『大きなたき火の前で美しい女たちが踊り、屈強な男たちが楽器に魂を込めて演奏する。音楽など興味がなかったあの頃の私が初めて聴き惚れた曲だった。いつの間にか口ずさむようになってしまってな、初めて人間に笑われた時でもあったぞ』


『楽しかったんだな。グランベス』


『うむ、楽しかったさ。しかしまぁ、終わりというのはいつも突然やってくるものだな。昔は島国など何もない場所。今は日本だが、そこで大地変動が起きて、私を崇めていた人間は大地の裂け目に消えて行った。何とか2人の親子と一人の少年を助けたが、親の方はもうダメだった』


『それでどうなったんだ?』


『ふふ、なんだ?私の昔話に興味津々じゃないか』


『う、うるさい!い、いいから続き聞かせろよ』



グランベスはクスクスと少し笑うと、穏やかにまた語り始めた。



『母親は死んだ。亡骸を置いておくと魔物が集まってくる事を私は知っていたから、初めて聖龍として恥ずべき行為である人間を食べた』


『食べた……?』


『邪龍落ちを覚悟したが、落ちはしなかった。どこかの邪龍が言っていたが、人間の肉はうまいだと?干し肉の方がまだうまいと感じたな』



グランベスの口調に力が籠る。



『まぁあの母親が自分を食えと言ってから食べたから落ちなかったのかもしれないな………………あの母親、私に食われるというのに最後は感謝をして死んでいったのだぞ……………本当に人間は脆いものだ……』



最後の方は愚痴にようになっていた。

その時は本当にどうしようもなかったのだと。



『そこから私は紘一と出会った森に一人の少女と少年を抱いて降り立った。森の主だった魔物も打ち負かし、森を支配する権利を得た。私は二人に身を守るための戦い方と武器を与えたのだ』


『オリハルコンか?』


『そうだ。私はこの広い世界で生きていくために、二人に生きる術を叩き込むつもりだったのだ。せっかく私が拾ってやった命を粗末にされてしまったら泣くことも出来ないからな』


『何年一緒にいたんだ?』


『ふむ…………かれこれ15年くらい一緒にいただろうか……』


『長いんだな』


『あの二人がなかなか出て行かなくてな。結局最後は私が無理やり近くの町まで二人を運んださ。その後の話しは知らないが、私が鍛えたあの少年と少女は立派になったことだろう』


『名前は知らないのか?』


『名前は何と言ったか………何せ遥か昔の事だ。覚えている方が珍しいものというものだ。しかし、ここまで鮮明に思い出せるとは、相当あの頃の私は楽しかったのだろうな…』



グランベスはそこまで語ると自分から話を切ってしまった。


紘一はソファに深く腰掛ける。



『人間は脆い…か………』



グランベスは人の死と誕生を見て来たのだろう。

龍からすれば人間の寿命など恐ろしく短い。彼女が指を弾くだけで死んでしまう人間、自分よりもあっという間に寿命を迎える人間。


そんな自分よりも遥かに劣る種族をグランベスは長い間見守り続けてきた。

昔話を語る彼女は本当に楽しそうだった。鮮明に蘇るあの日の記憶。長い時を生きる中で垣間見た儚い命を持つ者たちとの交流。


人間と共存できた彼女ならまた他の人間と共に歩む事も出来ただろう。

しかし、彼女は一人になる事を選んだ。

母親が残した一人の少女と自分が救った一人の少年を旅立たせて。



『もう……お前は人が死ぬのを見たくないんだな……』



親しかった者たちが一瞬で消える。

それに彼女は耐えられなかったのだろう。



『俺もいつか……』



彼女に寂しい想いをさせてしまう。紘一はその言葉を飲み込んだ。

しばらく更新が空いてしまいました。

えっと、その理由としてはまず新しく書き始めたランゲージバトルというものを連載したせいもありますね。

なかなか両立というのは難しいです。しかしですね、あちらは少し話を作るのに手間取ってしまいますが、こちらはさらさらっと書き上げてしまうから不思議です。


さてさて今回は、クルーザーの運転を死ぬ気で覚えた後の話しです。

ホント書いていて思いますが、私って設定作るの大好きだなぁと一人でニヤニヤしながら書いています。

やっぱり設定を作りこめば作りこむほどそのキャラに愛着が持てるんですよね。

紘一君の設定はもう少し先になりそうですね。彼の学校生活編とか全然やってませんので、これからの展開にご期待!ってところです。


それと最後に!コメントをくださった方に感謝を!

面白いと言っていただけて本当に嬉しかったです!皆さんもここがよかった、逆にここはこうした方がいいんじゃないのか?とか悪かった点などもどしどし感想ください!

そのすべてが私の経験値、努力値となりますのでよろしくです!

あぁ、ポケモンとかそういう雑談も大好きですよ。

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