林間学校前日と彰、奏の学校での日常
紅哉たち2年生は今週の金曜日、土曜日を使った林間学校に備えて説明を聞かされていた。
この林間学校は1年生と合同なため癒理たちも同じく聞いている。
林間学校の目的はもちろん緑化活動だが、実の所1年生を鍛えるための合宿みたいなものだ。
そこで師匠となった2年生は1年生を鍛えるために監督役として狩りだされる。
先生の長い説明を聞き終わるとそれぞれ解散となった。解散となった直後に癒理と美波が現れ、色々聞きたい事があるようだ。
「なんだ?今の説明だけじゃ不満か?」
「いえ、これは個人的な質問です。紅哉先輩って師匠がいませんよね?その時どうしたんですか?」
「あぁ、それは気になるよな。確かに俺には師匠はいない。そこで余った上級生と組むことになったんだけど、その時丁度仕事が入ってなくて林間学校に参加してたある人物と組んだのさ」
「瑠璃先輩と組んだんだよ。紅哉くんと瑠璃先輩の出会いもそこから始まったの」
「豊姫……俺がクイズ形式で言おうとしたところを全部言ってしまうのか…」
「ほえ~、瑠璃先輩と組んだのですか。では、豊姫先輩のお師匠さんは?――――」
紅哉抜きで(癒理は元から数に入れていない)話がどんどん進められて行くのを見て、紅哉はがっくりと肩を降ろした。
「師匠。あの後雅文さんとアイリさんからは何か?」
「何もないぞ。雅文もアイリも全力で神の遺産を探してくれているが、やっぱりアヴェンジャーズでも時間がかかった物をたった二人だけで見つけるのは厳しいらしい」
先を歩く二人に続きながら紅哉と癒理は神の遺産について話し合う。
「それもそうですね。浅見パークランドでの1件からまだ4日しか経っていないのですから」
「無理を承知でお願いしてるんだ。俺達は見つかってからが本番だ。いつ見つかるか分からない。だから、いつでも行けるようにしておけよ」
「無論そのつもりです。私はあなたに今までの恩を返したい。その時がやっと来るのですから、鍛錬を怠るなどあり得ません」
「恩って……そこまでの事はしてないだろ?あの時だってただむかついただけだからな」
「あなたにはそれだけのつもりでも私にはそれ以上の事をもたらしてくれた。いいのです、私の勝手な恩返しなのですから、あなたはいつも通り前を向いて私達を引っ張って行ってくださいね」
「お前、いま笑ったか?」
「さぁ、どうでしょうか」
滅多に、というか出会ったころから一度も笑ったことのない癒理の表情に変化が起きた気がして紅哉は思わず立ち止まってしまった。
だが癒理はその言葉に素っ気なく答え、紅哉を置いて行ってしまった。
「笑った気がしたんだけどな…」
須野原瑠璃は今非常に機嫌が悪かった。
「むぅ……」
「あのさ瑠璃。私の前だからそんな顔していいけど、収録現場についたらいつもの瑠璃に戻りなさいよ?」
マネージャーの渡辺に言われても瑠璃の機嫌は戻らなかった。これには深い(きっと浅い)理由があった。
それはまず先週の日曜日、つまり4日前に遡る。
瑠璃は明日からまた仕事があるので紅哉の家にいつまでもいることが出来なく、仕方なく家を出るときのこと。
「ねぇ紅くん。来週の土曜日空いてる?私、その日休みで良かったら一緒にいたいな~って…」
モジモジしながら言う瑠璃に打って変わって紅哉は額に手を当てて苦虫を噛み殺したような顔をしていた。
「どうかしたの?」
「その日な……俺、いや俺達は林間学校なんだよ」
「あれ?もうそんな時期なの!?うっかりしてたなぁ…」
ぐすんぐすん、と瑠璃がむくれ始めていた。そこで更にいらない事に彼女は気付く。
「って事は豊姫ちゃんも舞香ちゃんも癒理ちゃんも美波ちゃんも一緒に行くの!?」
「あ、あぁ。そうなるな」
「どうして!?私だけ仲間はずれなの!?」
「いやえっと……だってお前は形として俺達の1個上だろ…」
「そんなの屁理屈!ずるいー!ずるいー!お泊りするんでしょ!?」
「そ、そうだな。1泊2日の林間学校になってる」
じりじりと距離を詰めてくる瑠璃に圧倒されて、紅哉は嫌な汗を掻きながら徐々に後退して行く。
「こら瑠璃!紅哉さんに迷惑かけないの!あなたはもう3年生でしょう?どう足掻いたって無理なものは無理です。ほら、仕事があるんですから行きますよ」
「ほえ?あ!や、やーだー!紅くんと林間学校行くのー!」
ずるずると引っ張られて行く瑠璃は駄々をこね始めるが、渡辺は意を返さず瑠璃を車まで引きずろうとする。しかし、途中で何かを思い出したのか、紅哉の所まで戻ってきた。
「瑠璃、あなたは子供ですか……紅哉さん、瑠璃の代わりに申し上げます。どうもお邪魔しました」
「はい。瑠璃、また今度来いよ。その時はもっと良いところに連れて行ってやるよ」
「うん!約束だよ!」
という事があったのだ。結果としては瑠璃が紅哉の言葉に納得して事は済んだと渡辺は思っていたのだが、やっぱり行きたいそうだ。
だが、無理なモノは無理なのだ。
「紅哉さんが今度良い所に連れて行ってあげると言ったでしょう?それで納得しなさいな」
「むぅ……」
「ほら、着いたからいつもの営業スマイルに戻って戻って」
「今回は紅くんの顔に免じて頑張ってあげる…」
瑠璃は顔を覆いながらバックを持って車から出る。
すると――――
「こんにちは!今日はよろしくお願いしますね!」
と、いつものテレビに映る笑顔で明るいアイドルの完成だった。
場所は変わりある高校。
「オーディン。お父さんたちは随分と苦労しているようだね。僕らに出来る事はあるのかな」
「お言葉だが、我々に出来ることなど無きに等しい」
「だよね……紅哉兄さんたちも気を揉んでいるだろうな~」
彰は誰も来ない校庭の端にある大樹に背を預けて心地よさそうに目を閉じる。
それをオーディンは静観しており、オーディンもまた風を受けて目を閉じる。
「オーディン。そう言えば君はもう兜を付けないのかい?」
「主が望むのなら付けよう。だが、この前そなたは兜を付けない方が美しいと言ってくれた。なら、それに答えるのが我が役目」
この世のものとは思えないほど美しく黄金色に輝く髪をなびかせて風を全身で受ける。
それを聞いて彰は「そうだったね」と短く答えた。
彰とオーディンは会話が短い。だが、紅哉とニルに劣らぬ主従関係を築いているのは間違いなかった。
「僕はね。兄さんのもたらす世界を見てみたいんだ」
「………」
「龍を持っているからじゃなくて、兄さんには世界を率いる力があると思う」
「それは力による独裁か?」
「ううん。うまく言葉に出来ないんだけどね。兄さんの周りにどんどん人が集まって行くというか」
「カリスマと言った所か。確かにあの龍人には人を惹きつける何かがあった」
「当たり前じゃないですの。お兄様はわたくしのお兄様ですのよ?」
オーディンと会話をしていたらヘルキャットを肩に乗せた奏が恍惚の表情を浮かべながら近づいてきた。
「あなた、どうしてこんな所にいるんですの?」
「何って、奏も気付いているくせに何を黙っているのだい?」
彰はズボンに着いた汚れを落としながら立ち上がると、急に校庭を視線を送った。
『彰くううううううん!!』
「ね?」
「なるほど。ご愁傷様ですわ。こんな優男、一度死んだ方がよくありませんこと?お兄様が見られになったら殺されていますわよ?」
「あははは…生まれてこの顔なんだけどね。さて一度僕は退散するとするよ」
オーディンは姿を消して彰は大樹の太い枝を器用に飛び乗って学校の屋上へと通じる通路へ降りた。
「彰くんあっちに行ったよ!」
『彰くん待って~!』
いつもこんな感じの高校生活に奏は飽きれしか出なかった。
会話をもっと増やしたいと思っていますが……難しいものです。




