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龍の血を引く者  作者: また太び
10章 龍族の侵略(続)
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焦りとアイリの研究

7月20日、エヴォルト組が玲奈の予想をはるかに超える速度でエヴォルトを取得して行くなか、瑠璃は焦っていた。



「違う!少しあなた落ち着いてやりなさい!…………はぁ…20分の休憩を取るわ。皆の様子でも見てきなさい」


「はい……」



解読がうまく行かない。

このままでは間に合わない事は確実だった。



『豊姫ちゃん達は皆無事にエヴォルトを取得する事が出来たのに私だけ……』



まず通りかかったのは遊佐とアイリの研究室だった。



『入っても大丈夫かな』



研究の邪魔にならないか心配で躊躇していると逆に中から遊佐が出てきた。



「瑠璃先輩?どうかなされましたか?」


「あ、えっと、ただ休憩で皆の様子はどうなのかな~って…」



言葉が少しまとまらなかったが、遊佐は『丁度私たちも休憩でしたよ』と言って飲み物を取りに階段を下りて行った。



「お、お邪魔します」


「あれ?瑠璃ちゃん、いらっしゃ~い。散らかっているのはごめんね~」



中に入るとそこは別世界だった。

機械だらけの部屋に床は失敗したのかくしゃくしゃに丸められた紙屑。

部屋の中央に置かれた大きなテーブルには瑠璃では理解出来ない図面が広げてあり、アイリはさっさとそのテーブルに広げられた図面を丸めると壁に立てかけた。



「はい、適当なとこに座ってね。今遊佐ちゃんがアイスコーヒーと麦茶のおかわり持ってくるからちょっと待ってて」


「あ、はい」


「ん~?どったの?元気ないね~?瑠璃ちゃんの取り柄は元気なところだとアイリはそう思っているけど」


「ええ、ちょっとメランコリアの解読がうまく行かなくて…」



回転式の椅子でぐるぐる回るアイリは椅子が止まると暗い雰囲気の瑠璃に気付いた。



「あ~それはアイリ達も同じだね」


「同じ?」


「うん、同じ。あんま見られたくないけど、床に散らばっている紙屑あるでしょ?これ全部失敗した奴でね~。遊佐ちゃんと毎日苦悩してんだよね~」



そう言えばアイリは晩御飯の時間になっても降りてこない時がほとんどである。

そういう時は決まって遊佐が早く食事を終えてアイリの分も持っていく。



「睡眠時間も3時間くらいだし、何度思考しても思い通りにいかない。意見の食い違いで遊佐ちゃんとぶつかる時もある。ホントアイリだって暗い雰囲気になって落ち込みたい気分だよ」


「はあ……」


「アイリさんと瑠璃先輩は何を飲みますか?今日はちょっと趣向を変えてみまして、朱音さん特製のアイスレモンティーといつものアイスコーヒーですが」


「お!朱音ちゃん特製か~!紅哉君いつも美味しい言ってたからアイリちょっと気になるかも」


「はい。では、アイリさんはレモンティーで。瑠璃先輩はどっちにしますか?」


「私はアイスコーヒーで」


「分かりました」


「早かったね~?」


「まぁ流石に毎日下で用意するのは効率が悪いと最近思っていましたから、昨日のうちに作って冷やしておいたんです」


「なるほどね~。おお、これは美味しい」



アイリは遊佐から氷の入ったマグカップを受け取るとぐっと一口飲むと至福の表情を浮かべる。



「アイスコーヒーもおいしいね」


「毎日アイリさんに出してますからね。出すのなら美味しいのにしたいと思いまして、龍一さんに少し教えて貰ったんです」


「遊佐ちゃんはマメだよね~」


「そんなことないですよ。それより瑠璃先輩はどうしてここに?」


「なんだか術式の解読がうまく行かないらしいよ。それ話しててアイリ達と一緒だね~ってとこ」


「あぁ、そうですね。毎日同じ内容の見直してからやり続けていていい加減嫌気が差してきますよね」


「うんうん。でも、それを抜けた時の快感があるから研究者をやめられないんだけどね。辛い時がほとんどだけど、その辛さを抜けた時の喜びがあるからやってこれている。瑠璃ちゃんもアイドル活動やってて辛いときばっかりでしょ?でも、やめないよね」


「それは……ファンの皆が私の歌を待っていてくれているから…」


「皆に歌良かったよー!とか言われて嬉しかったよね」


「うん。レコーディングやら歌の練習の方が何倍も辛いけど、ファンの笑顔があったから……あ…」


「紅哉君だってそうだよ。舞香ちゃんの感情が戻らなくて辛い日々をずっと過ごしてきた。でも、感情が戻った時紅哉君物凄く泣いてたよね。自分の苦労が報われた時が来たんだ~って」



アイリは事実を述べているだけだったが、瑠璃にはその言葉が強く共感する事が出来た。



「勝手に予想しちゃうけど、瑠璃ちゃんはエヴォルト組の皆がエヴォルト取得しちゃって焦っているんだよね。それは凄く分かる。アイリ達だって相殺装置があと11日以内にここに届くか怪しいし、何よりあともう一つ課題の方も組み立てが出来るか怪しい。だから結果を残している人たちが羨ましく見えるのは仕方ないよ。でも、それは自分らに余裕がないだけで、エヴォルトを取得した皆だって身を削って頑張っていたんだよ。ただそれが私たちより早かっただけであって、私たちは私達なりの速度でやっていけばいいんだよ」


「そうですよ。もし相殺装置が間に合わなかった場合、紅哉さん達はバハムートの影響下の中龍達と戦わなくちゃいけなくなるんですから責任重大なのです」


「皆心の中で誰しも焦りを持っているものなんだよ。瑠璃ちゃんだけじゃない。それを乗り越えて行くためアーデルトさんがいつも瑠璃ちゃんに付きっきりで教えているんだ。アーデルトさん、夜遅くまで舞香さんと幻術の解読しているの知らないよね。たまたまトイレに起きたら瑠璃ちゃんのために必死に教え方をどうすればいいか舞香ちゃんに相談なんかもしてた」


「アーデルトさんも舞香ちゃんも、皆」


「だから、アーデルトさんや皆の期待に応えるためにも頑張らなくちゃいけないと思うんだよね。もちろんその期待が重荷になる事があるけれど、皆が一緒に頑張っているって思えば軽くなると思わない?」



アイリはそこまで言い終えるとマグカップを置いて瑠璃に微笑みかけた。



「私たちも瑠璃先輩を応援していますよ。焦る必要はないんです。むしろその焦りをやる気に変えてしまいましょうよ」


「アイリさん…!遊佐ちゃん…!ありがとうね…!」



皆の様子を見に来たつもりが、いつの間にか自分が励まされる形になるとは思わず瑠璃は少し涙組んでしまった。



『瑠璃―!そろそろ始めるわよー!』


「あ!アーデルトさんが」


「いってらっしゃい。頑張ってね、瑠璃ちゃん」


「頑張ってください、瑠璃先輩」


「うん!!私!頑張るね!アイスコーヒーご馳走様!」



いつもの瑠璃に戻ったのを見た二人は一安心した。



「いつものアイドル三原瑠璃に戻りましたね」


「うんうん。やっぱり瑠璃ちゃんは笑っていなくちゃだよ」


「さて、もう少し休憩しましたら瑠璃先輩に頑張れと言った私たちも頑張りましょう」


「そうだね。なんだか自分で言っておいて自分の背中押した気がするよ」


「私も同じ事を思っていましたよ。頑張らくちゃなって自然にそう思いました」



アイリと遊佐は穏やかに笑うとテーブルの中央に置いてある小瓶を見た。

それは朱音から渡された物だった。

何が入っているのか朱音は分からないと言っていたが、アイリと遊佐は知っている。

その小瓶の中にはこの戦いで強力な戦力となるであろう者の血が入っている事が。



「呼び出せれば間違いなく…」


「紅哉さん達の助けになると思います。DNAは解析したんですか?」


「したよ。それが面白い結果になってね。何と紅哉君のDNAと一致したんだ」


「ホントですか!?まさか……そうなると…」


「いやいや、まだ続きがあってね。紅哉君の他にあと一人のDNAが混ざっていて、それが分からないんだ」


「………誰でしょうか…」


「炎道家、四条家、火神崎家の誰も一致しなかったし、もっと違う人のかもしれないね。まぁそれは呼び出してのお楽しみって事でアイリ達は装置をうまく起動させるためのプログラムを練る作業に専念しようか」


「そうですね。未来のメッセージでも強力な助っ人って言ってましたし、私たちはその人を呼び出すための装置作りに専念しましょう」


「うんうん。大分出来て来たから、あともうちょいだね。あ、遊佐ちゃんおかわり」


「はい。余り飲み過ぎるとお腹冷やしますよ」


「大丈夫大丈夫」



余程朱音のレモンティーが気に入ったのかアイリは2杯目をおかわりする。


その後アイリがトイレに駆け込んだのは言うまでもない。

もう少しでバハムート襲撃日の8月1日になろうとしています。

ここから物語が戦闘編へ変わっていきますので、私の腕が試される時ですね。

過度な期待は私の重荷になるというか、アイリの言葉をそっくりそのままここにコピペしたいくらいです、はい。

ですが、皆さんの期待に応えられるような戦闘シーンにしていきたいと思いますので、どうか温かい目で見守っていてください。

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