激情
「雷走!」
「あ――――――ぎゃあああああ!」
スン!―――――バチィ!――――朱音は稲妻を纏わせた大剣を肩に背負って、20mはあろうという距離を一瞬で詰めて、武装したアヴェンジャースに稲妻をお見舞いする。
「な、なんで当たらねえだ!」
「敵の戦闘能力を見余りましたね。そして魔術には肉体強化術くらいある事を覚えてきなさい」
疾走してセレナは銃弾を躱す。そこから右足で地面を砕いて砂埃を起こし、それに乗じてセレナは動揺しているアヴェンジャースの懐に飛び込んで正拳突きをかました。
「ガハッ…!」
「手加減はしましたよ」
セレナは長い髪についた砂埃を頭を揺らして落とす。
「白虎。どうですか」
「中央に人が集められている。アヴェンジャーズの数は20人と言った所だ」
「ご苦労様です。それならわたし達で十分突破出来ますね」
セレナが呼ぶと白虎は風のように現れ、偵察結果を知らせてくれた。セレナはそこで今の情報を知らせるために朱音を呼ぶ。
「なるほどなるほど。20人程度なら楽勝だね~」
朱音は大剣を背中に刺して余裕の笑みを浮かべる。
「いま気付いたのですが、朱音さんのパートナーは英雄種と見ましたが」
「うん。アタシのパートナーは英雄種だよ。ゲオルギウスっていうんだけど、そしてこの剣は聖剣アスカロン。聖属性を扱うのが得意らしいよ。らしいってのはあたしって雷系が得意だからソリが合わないのだ」
「武装召喚だけ行うとは、相当できるようですね。是非彰にも見習わせたいものです」
「彰君か~。彰君のは難しいな。アタシの英雄はAランク程度だけど、あっちはS中のSだし、それよりもオーディンが規格外すぎるから武装召喚だけ行うのはあと2年か3年は出来ないと思うな」
「朱音さん、彰のこと知っていたんですか?わたしがこの事を話すのは初めてな気がしますが」
「え!?それは紅哉君から聞いたんだよ!紅哉君結構おしゃべりだからね~」
急に焦りだした朱音を見てセレナは疑い深い目になってきた。
「待って紅くん」
ある扉を通り過ぎようとして紅哉は瑠璃に呼び止められた。
「ここ、図書館みたいだよ」
「おっと、通り過ぎてしまっていたか」
古代文字で書かれているため、紅哉には解読は不可能であり、今は唯一古代文字を読めるという瑠璃のパートナーに和訳してもらっている。
「んじゃ、行くぞ」
中にアヴェンジャーズがいることを考慮して紅哉と瑠璃は警戒を高めて、ゆっくりと扉を開けた。
「これは…ッ!」
「凄い……全部これ古代魔法みたいだよ」
中に入ると魔法図書館のようだった。それは数多くの本が宙を浮いて元あるべき場所へと飛んで行く。
現代の魔術では浮遊系統の魔術などなく、もし出来るとあればもはやそれは魔法の域と言っても過言ではない。
魔術と魔法の違いは簡単に言うと、誰でも出来るか出来ないかである。
魔術は修練を積めば誰でも会得することが出来るのに対し、魔法は限られた者、または不可能の領域である。
そんな魔法の域にある浮遊の魔術がここに存在している事実に紅哉と瑠璃は驚いているのだ。
「おや、誰か来たのかい?」
『―――ッ!』
二人は同時に臨戦態勢を取り、声がした方へいつでも攻撃が出来るようにしておく。
「穏やかじゃないなぁ」
青年は『よいしょっと!』と言ってテーブルから立ち上がった。
「お前は、篝章仁!」
「おや、火神崎紅哉君と須野原瑠璃さんじゃないか。やっぱりあの噂は本当だったんだね」
「あの噂…?」
「紅哉君と瑠璃さんが付き合ってるっていう噂。ファンの方が見たっていう報告があってね。僕も半信半疑だったんだけど、これを見て確信に至ったよ」
『なッ!?ど、どうしてバレた(の)!?』
「あ、あれ?私の幻術は完璧なはずだよね?それをあなたは何故一発で私を見破ったの?」
「君の幻術は一級品だよ。でも、僕の付けているサングラスにはそういう幻術系を看破する能力があってね、まだ試作品で大量生産は出来ないんだけど、効果てきめんのようだ」
トントンと自分のサングラスを指で叩いて見せる章仁に紅哉と瑠璃は余計に警戒を強めた。
「では、僕から質問だ。君達は何をしにここに来たのかな?見学、なわけないよね。ここは僕たちでも数年かかってようやく居所を掴んだ場所なんだ。一介の学生に過ぎない君達が見つけるはずがない」
「言う必要がどこにある」
「あ、それもそうだね。君達には答える義理がないからね。んじゃ、僕が思い浮かんだ事を言ってあげよう。ずばり君達はここに眠っている神の遺産について調べに来たんだね?」
「どうしてそう思った?」
「どうしてもないよ。ここに来る以上前知識がある事は当然だ。なら、神の遺産が眠っているここに来るという事はそれに用があるってことじゃない?でも、紅哉君。残念ながら神の遺産はもう既に僕たちが見つけてしまった」
「え?それじゃ…」
「そそ。もう僕たちの手の中にあるってこと。でもね、ここにあったのはほとんど力が失われている欠陥品。というより、使い捨てられたと言った所かな。どうやら僕たちよりも誰かがここに侵入して願い事を叶えてしまったようだ」
章仁は本当に困ったように「やれやれ」とため息をつく。
「さて、無駄足を踏ませてしまった紅哉君と瑠璃さんにご褒美をあげよう」
「ご褒美だと…?お前から貰うものなどいらない」
「まぁまぁそう言わずにね?君達、神の遺産とはどんなものか知ってるかい?」
章仁はテーブルから降りて近くの椅子に腰かける。そして手を挙げると、どこからともなく一冊の分厚い本が飛んできた。
「神の力を封じた物。何でも願い事を叶える願望杯って所か」
「大雑把だけど、ある程度は知っているようだね。紅哉君の言うとおり、神の遺産とは神の力を封じたモノ。それは形ある物だったり、形のない物だったりと酷く曖昧だ。僕は過去に2回ほどだけど、神の遺産を見たことがある。それはそれは眩しい程の輝きを放った花だったよ。君達、ゼウスの花ってのは知ってるかい?」
「知ってるよ。確かギリシャのどこかに一か所だけ咲いている花なんだよね」
「瑠璃、知ってるのか?」
「うん。決まった季節に咲く花じゃなくて、気候と湿度、温度などが最高の具合の時に3時間だけ咲く花なんだって。神々の王ゼウス神のような輝きからそう名付けられたらしいの」
「正解だ。昔親にギリシャに連れて行ってもらったときにたまたま見れてね。バスガイドさんもびっくりするほど一つだけ黄金色に輝いていたんだ。誰かが願ったのか知らないけど、ゼウスの花は更に輝きを増してね、一際輝くと次には辺り一面ゼウスの花で満開だったんだ」
「それが神の遺産の力だと?」
「うん。誰かの願いに反応したと思っている。そうじゃないと逆に納得できないけどね。さて、話を戻して神の遺産についてだ。何故神の遺産が作られたかと言うと、簡単だ。もしものためだ」
「もしも?のため?」
瑠璃の言葉に章仁はこくりと頷く。
「神が力を使い果たしたときのための予備バッテリーとでも言おうか。創造神だからこそできた荒業でもある。自分の力をストックしておき、己の力がなくなりそうな時にそれを使う事によって力を取り戻したり、逆にそのまま己の力を消費しないで使ったりすることも出来た。しかしまぁ、神様の時代は平和だったんだろうね。実際神の遺産は使われることもなく眠りについた。必要のなくなった創造神は誰かに悪用されないためにも敢えて人間界に送る事で、他の神に使われないようにした」
「お前、どうしてそんな事を知っているんだ」
「世界中を歩き回ったからかな。ここと同じような場所がいくつもあってね、それで知識が深まって行ったということ」
そこで章仁は紅哉に視線を投げた。
「紅哉君は僕に聞きたい事があるんじゃないのかな?」
章仁から言われて紅哉は直海から言われた事を思い出した。
〟全てはこの男のせいだと〝
「お前の……お前のせいで舞香の未来が奪われた!」
今紅哉を支配しているのは圧倒的な激情。
「紅くん……」
「お前は雅文と直海を操り、舞香を使って実験を行った!それも絶対に拒否する事の出来ない状況でだ!」
「あ~あれか。あの実験ね。あの実験は成功に近かったけど成功ではなかった。僕自身もあんな方法でエーテル保有量を上げようと考えはしたけど、あれは何分リスクが大きすぎる。あの実験はね、舞香さんだから出来たとも言える。実験の前提条件はエーテルを保有する器が大きいこと。もうその時点で僕は無理だよね」
章仁は特に詫びれもせずにその時の状況をごく平然と語る。それを見て紅哉の怒りのボルテージは勢いを増す。
「舞香に謝れ!」
紅哉の声に反応して強制的に召喚されたニルが出現すると同時に漆黒のブレスを放つ。
しかし、章仁は慌てることもなくテーブルから飛び降りてブレスを避ける。
「酷いじゃないか。いきなりパートナーをけしかけるなんて」
「黙れ!お前が舞香にした事の方が残虐だ!アイツは昔笑っていたんだぞ!」
ニルも紅哉に反応してブレスの威力が今までより比べ物にならない程の威力で放つ。
「グオオオオオオオオオオオオオオ!」
「流石に紅哉君相手はきついな……紅哉君!また会おう!」
「逃がすか!」
「紅くん待って!」
ニルに乗って追おうとした紅哉を瑠璃は涙を浮かべながら止めた。
「瑠璃!離せ!俺はアイツを追わないといけないんだ!」
「ダメ!今は堪えて!天上が崩れて来て危ないよ!悔しいけどここは一端引こうよ…ね…?」
「なら俺一人で行く!」
パァン――――――――――乾いた音が崩れる図書館に響く。
「あ……え…?」
自分がぶたれたと気付くのに時間がかかった。
そして出た言葉は自分でも驚くほど気が抜けていて、間抜けだった。
「る……り…?」
「舞香ちゃんを苦しめた犯人を見つけて逃がしたくない気持ちは私も凄く分かる!だって私自身も今もまだ追いつけるんじゃないかな、って不覚にも思っているもん。でも追ってしまったら私たちは帰って来れなくなっちゃう。それだけは避けないといけないんだよ?紅哉がいなくなったら舞香ちゃんはきっと悲しむ。だってあの子に残された最後の感情が兄弟愛なんだから!」
紅哉の事をいつもの調子で呼ばずに下の名で呼ぶ瑠璃の足は震えていた。
紅哉を止める方法がこれしかなく殴ってしまった自分に対して罪悪感に捕われてしまっているのだろう。
「ごめん……瑠璃…」
「うん……普段の紅くんに戻ったから許してあげる」
そのやり取りをニルは黙って見守っていた。
彼女にも言いたい事が一つや二つはあったが、強いて言うならば…
『お前たち。早く脱出しないのか?』
ただそれだけ言いたかった。
あと一話でようやく1巻完結と言ったところでしょうか。
仕事の合間に思いついたネタを紙からPCに打ち直す作業が面倒で面倒で仕方がないのです。




