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龍の血を引く者  作者: また太び
10.5章 新たな龍人
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宝石龍

紅哉達が楽しい宴を楽しんでいる頃から更に時間を遡ること、6月上旬の話しである。



朱音から未来の結末を聞いたアヴェンジャーズ達は、セレナと佐鳥が世界に散らばった神の遺産を回収する前に行動を開始していた。



「綾香は最近一段と頑張っているようだ」


「そうね。葉隠と今日も頑張っているわ」



江ノ島とお菊は岡山にある森に来ていた。

アヴェンジャーズの技術班によれば、『反応はある』とだけ。何とも信憑性にかけることである。



「今回もハズレじゃないでしょうね」


「否定は出来んな。ここ最近そればかりじゃからのう」


「江ノ島さん!」


「ん?どうした」



江ノ島の部下の一人が焦った様子で走って来た。



「た、大変です!この近くで巨大な魔物が暴れていると!」


「あら、それは近いの?」


「い、いえ!そこまで近いわけではありませんが…しかし…」


「なんじゃ?しかし、とは」



言葉を濁す部下に江ノ島は尋ねた。

部下は一瞬言うか躊躇ったが、意を決して口にした。



「その魔物から龍の反応があります……それも、一般人を襲っているようでして…」





「くっそ!なんでこんな奴がここにいるんだよ!」



襲われている少年の名は辰己たつみ紘一こういちという至極平凡な高校に通う1年生だった。

いつか自分もこの世で悪さをする犯罪者を取り締まる魔術警察になる事を夢見て、日々森に来ては弱い魔物を狩る修行をしていたのだ。


パートナーはもうこの世にはいない。

最近急に魔物の強さが増し、その帰り道でバッタリB級クラスの魔物と相対してしまい、その戦闘で自分を庇って散ってしまったのだ。

身体に刻まれた刻印も白くなってしまっている。今日ここに来たのも、そのパートナーのエーテルの残りカスを集めて再び呼び出そうとしたのである。



「それにこいつ龍なんじゃないのか!?」



紘一の足元に鋭い剣が突き刺さった。

およそ5mはあるであろう体躯に、身体を覆う鱗は黄土色と言ったところ。手にはまるで宝石の原石を無理やり剣に加工したような、荒削りの剣が握られていた。

紘一がよく目を凝らして見てみれば、鱗の隙間から宝石のような棘が突きだしているのが見える。

自分が持っている剣じゃ歯が立たないことなどやる前から分かり切っていた。



「なんでだ!?世界に龍は2体しか存在していないんじゃないのかよ!」


「お前、なぜこのような場所に来たのだ。ここは私が眠る神秘の森。最近騒がしいと思い出てきてみればお前がこの森を荒らしていた原因か」


「喋った!?」



攻撃の手が止まった事を確認した紘一はとりあえず立ち止まって相手の出方を窺う。



「最近は大地が騒がしい。何やら悪しき者がこの地を荒らそうとしている」


「えっと……俺の事殺さない?」


「それはお前次第だ。お前に質問する答えで生かすか、殺すかを決める」



この時紘一の身体中に嫌な汗が噴き出した。

目の前の龍は仁王立ちしてこちらを見ている。どう見ても逃げ出せる雰囲気ではないし、何よりこっちはパートナーもいない丸腰状態だ。無理に決まっている。



「まず、先ほどの問いだが、何故お前はこの地に足を踏み入れた」


「それは……俺のパートナーがここで魔物に襲われて死んでしまったから…その……痕跡というか、部位を集めてもう一度召喚しようと思って…」


「ふむ。嘘を言っているようには見えないな。それはどこだ?連れて行ってやろう」


「え?マジで?」


「お前がそれでこの地を離れるというのであれば、それに越したことはない」


「おお、それはありがたい!方角はあっちなんだが――――うおお!?」



宝石龍は紘一を掴むと指差した方角へ翼を広げて空へ飛び立った。




「遅かったか!」


「いいえ!まだ生きていると思うわ!あっちの方向にエーテルの波動を感じる!」


「うむ!まだ間に合うかもしれん!助け出すぞ!」


「もちろんよ!」



紘一と龍が去った後すぐに江ノ島とお菊はその現場に到着した。

その場に残されているのは激しい戦闘の跡。一般人が生きている可能性は絶望に等しいが、江ノ島とお菊は部下を引き連れて紘一の後を追った。



「ここか?」


「あぁ、ここだ」



紘一は龍が降り立つなり、自分のパートナーが死んだ場所に走った。

昨日の事だった。

自分のパートナーはグリフォンというBランクの魔物。それが昨日いなくなった。

子供の頃に両親がお金を溜めてやっと買ってくれたグリフォンの触媒を元に紘一は生涯のパートナーとなる魔物を召喚した。

嬉しかった。初めの頃は全然言う事を聞かず、自分の部屋を荒らすわ、勝手に顕現してどこかに飛んで行くわ、やりたい放題だった。

しかし、月日を追うごとに自分が魔術師としての才能が芽生え始めるにつれて、グリフォンも次第に心を開くようになっていった。それが溜まらなく嬉しく、グリフォンに抱きついて頭を地面にめり込むくらい叩き落とされた事が今でも記憶残っている。


魔物の飛行ライセンス学校も中学と両立しながら通い、苦手な勉強をして本免試験に合格してライセンスを取得した時は大声で叫んだ事があった。

本当にこれから、これからという時に相棒はいなくなってしまった。



紘一はグリフォンが消えて行った地面が黒ずんでいる事に気付いた。

しかし、黒ずんでいるだけで相棒のエーテルは感じない。



「くそッ…!馬鹿だった…!なんで腕試しのつもりでこんな森に入ってしまったんだッ!」


「その自分のパートナーとやらは戻らんのか?」


「あぁ……昨日すぐアイツが死んだ時に触媒を持ちかえればまだ間に合ったかもしれなかった……でも、あの時は本当に怖くて逃げだしてしまったんだ…」



その時宝石龍は森の異変に気付いた。



「む、何事だ」


「何が――――って何の音だよ!?」



ドドドドドド――――と大地が揺れていた。

まるで大量の魔物が集団で行動しているような地震にも聞こえる足音。

それはすぐ近くだった。



「キシャアアッ!」


「なにッ!?」



茂みから飛び出した虫型の魔物は紘一ではなく龍に襲い掛かった。

龍は驚きながらも背中の剣を抜くと、虫を真っ二つにしてみせた。



「お、おい!どうなってんだよ!?俺はともかく、なんでアンタまで襲われるんだ!?」


「知らん!」



まるでアリの大群のように襲い掛かる魔物に紘一は物質強化を行って剣を振るった。



「くそッ!きりがないな!こんな時グリフォンがいれば逃げられるのにッ!」


「何故私を狙う!貴様ら!この森の主を忘れたか!」



自分の森を破壊する事を嫌っていた龍だが、余りの多さにイラついたのか炎でもないブレスを放った。

それは鋭く尖った水晶だった。

散弾のように撃ちだされた水晶は虫や地に当たると、瞬く間にその周辺を巻き込んで巨大な水晶へと変化する。



「す、すげぇ…これが龍の力…」


「呆けている場合か!まだまだ来るぞ!」


「ちッ!くそ!」



江ノ島達も突然の魔物の襲撃に足止めを喰らっていた。



「何なのよ!この魔物は!」


「全くどこから沸いたのだ!」



魔術を駆使するお菊と刀を振るう江ノ島は部下に指示を出しながら孤立しないよう努めていた。

孤立すれば真っ先に狙われて死んでしまうだろう。

いくら幹部の二人とは言え、この大群では個々の強さなど関係がない。



「江ノ島!本部に連絡を取った方がいいわ!」


「そうするのが最善策じゃのう。この数は少々手が余るわい」


「余るところじゃないわよ!むしろジリ貧なの!こっちは!」


「そんな怒ることないじゃろう……おいおい、そこのもん。今すぐ本部に連絡を取ってくれ」


「はい!」


「さて、それまで耐えるとしますかのう」



江ノ島は刀を強く握り、次の襲撃に備えた。





「あッ!」



魔物の攻撃を受けて後ろに下がった瞬間、紘一は石に躓いてしまった。

やばいと思った時には既に遅い。赤い目をした虫の魔物達が一斉に紘一へ群がった。



「うわあああああ!!」


「しっかりしろ!人間!」



紘一の髪すれすれで龍の宝剣が通った。

虫の体液をモロに浴びた紘一は服で顔を拭きとりながら立ち上がり、残っていた魔物に止めを刺す。



「あ、ありがとう。危なかった……あれ、アンタ…」


「ふん」



紘一が服で顔の汚れを取りながら助けてくれた龍に礼を言うと、彼女の身体はボロボロだった。

あの何も通さぬような鉄壁の鱗も溶けており、翼も穴だらけだった。

剣も刃こぼれしていた。紘一は今やっと気付く。

龍は紘一に魔物が出来るだけ行かないように我が身を削りながら戦っていた事に。



「アンタどうして……」


「私の森で起きた事は私の責任だ。例えお前が腕試しで自分のパートナーを失ったとしても殺したのは私の森の魔物だ。森の主として責任は取ろう」


「すまん……」


「謝る必要などない。この森の騒ぎも私自身の手で鎮めねばなるまい。どの道お前が関わらずとも私が動いていた事には変わりはないのだ」



また地響きが聞こえてくる。



「おや、今度は大きいようだ。女王か…?」


「また来んのかよ…」


「喜べ人間。恐らくこれで最後だ。どうやら私たちの他にもこの森で戦っている者がいるらしい」


「俺達の他にもか?」


「うむ。手駒がいなくなったのだろう。女王自らの出勤だ。だが、数が先ほどの比ではないぞ」


「マジかよ……俺、生きられるかな…」



紘一の不安げな言葉に龍は振り返ってこう言った。



「安心しろ。お前は私の命に代えてでも守って見せよう。誇り高き龍族の力を見よ!」



龍は翼を展開すると紘一を覆うように鉄壁の宝石の壁が生み出された。



「な、なんだこれ!?お、おい!」


「ドラグシールドよりも強固な壁。ほぼ全てに対し耐性があるが、酸に弱いのは今後の課題だな……」


「アンタ一人で戦うつもりかよ!?そんなの無茶だ!アンタもうボロボロじゃないか!」


「舐めるな!我が名は龍族最強の守りを誇るグランベスなり!」



紘一は後に知ることになる。

この龍はかつて自分の里に襲来した神の攻撃を受けても傷一つ付くことがない建造物を生み出した龍族だと言う事を。




「キシャアアアアアッ!!!」


「行くぞ!!」



そこからは1体の龍と虫たちの壮絶な戦いだった。

だが、いくら最強の幻獣と言われている龍族でも限界はあった。



「もうやめてくれ!俺を置いて逃げてくれよ!!アンタなら飛んで逃げられるだろ!?」



戦うグランベスは答えない。

もう身体から突き出た宝石も溶けてなくなっている。



「むッ!?」



グランベスが持つ剣が遂に酸に耐えられなくなって折れた。



「ならば!」



グランベスは足を地に叩きつけた。

すると、眼前に迫る虫たちが地面から突きだした水晶で串刺しになる。



「ガアアアッ!」



だが、敵の侵攻は止む事はない。

水晶の隙間から飛び出した1体の虫がグランベスに噛みついたのである。

噛みつくなり虫は歯が立たない事を知ったのか、体液を吐きだし始めたのだ。



「ええい!離れよ!」


「キシャアッ!?」



鱗から突きだした水晶によって串刺しになった虫は短い断末魔と共に砕け散る。

だが、グランベスの意識が今の虫に逸れた事によって今がチャンスと言わんばかりに虫が殺到する。



「グアアアアアッ!」


「グランベスウウウウ!もうやめてくれよ!俺なんか助ける価値ないだろ!?アンタとって俺はどこにでもいる人間と変わらないはずだ!」



その時虫が殺到して塊になった肉団子は水晶の刃によって粉々に砕け散る。


結構日にちあいちゃいましたね。もう少しで忙しい日々とおさらばなので、遅い更新には目を瞑ってください……

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