最終戦争ラグナロク
「オーディン…」
「来たか、我が主」
彰は遠くで玉座に座る神々の王の名を呼んだ。
「彰よ、少し話をしようではないか」
「なんだい?」
「最初に言っておくが、我は彰にエヴォルトを授ける気はない」
「……説明してくれるかな」
オーディンは悲しそうにする事もなく、ただ淡々と彰に告げた。
「ふむ、その冷静さ、我は好きだ」
口元を吊り上げて笑うと、オーディンはまたいつもの真面目くさった表情になる。
「授ける気はないというのは少し語弊があるな。少し言い直そう。使わせる気はない、と言った方がいいか」
「使わせる気はない?なら、僕は既に力を…?」
「勘が鋭いな、我が主よ。そうだ、お前は既に我の力を持っている。だが、我が彰に力を使わせないように自ら封印しているというわけだ」
「それは僕が未熟だからかな?」
「ふむ、それもあるが、何より龍族如きに使うほどのものではあるまい」
オーディンは慢心しているわけでもないようだ。
本当に事実を述べているように見えたのが彰を余計に混乱させる。
「バハムートには使う必要がないって?弱いというわけじゃないでしょ?」
「我の力を使えば間違いなく勝てるだろう。しかし、それでは意味がない。あれはお前の試練ではなく、龍人の試練だ。我らが片を付けてしまっては意味がない戦いなのだ」
「兄さんの戦い?」
「我の眷属が告げていた。あの龍王を龍人に任せねば未来はないと」
「止めは兄さんがって事か……なら、この夏休み僕らはどうするんだい?」
オーディンは玉座から立ち上がり彰を見下ろす。
「彰、今お前が使える我の能力を挙げてみよ」
「スレイプニル召喚、ヴァルハラへ繋がる門、主神の継承かな」
「そうだな。己の鍛錬で英雄の武器は使えるようになったが、あと二つ使えないものがあるだろう?」
「うん……最終戦争ラグナロクとグングニルだね…」
「グングニルは使わせん。よって、夏季休み中はラグナロクを取得に励むがよい」
「………どうすれば取得できるんだい」
「なぁに、簡単な事だ。英雄に自分の力を魅せ、そして認めさせろ」
「英雄か……骨が折れそうだね」
「我が主ならきっと出来るはずだ。では、もう始めるぞ」
オーディンはグングニルを召喚すると、聖槍を空高く掲げた。
「来たれしヴァルハラの英雄よ!時代超え!再び我に力を貸さん!開門せよ!ヴァルハラの門!」
そしてオーディンはグングニルを地面に突き刺す。すると何もない虚空から巨大な城門が現れてそこから大勢の兵士が雄叫びを上げながら彰に突っ込んでくる。
「英雄の力を借りる!来い!!」
以前は光だけだったが、今の彰ならば実体化など容易い。
黒と赤の禍々しい剣を強く握り、盾を構えながら突っ込んできた歴戦の勇者相手に彰は剣を横へ一閃する。
バキィイ―――!!
盾が紙のように斬れて勇者は消滅する。
「まずはひと―――くッ!」
息を吸う暇もないこの連戦は自分がどこまで動けるかにかかっているようだ。
「主神、わざわざこのような事をする必要があるのでしょうか」
「ブリュンヒルデか」
玉座に座り、自分の主を見つめるオーディンの隣に赤い甲冑を着た戦乙女が現れた。
「我々は彼を既に認めています。何故このような事を」
「我の気まぐれだ」
「気まぐれ?ですか」
気まぐれ、という言葉にブリュンヒルデは戦場で戦う彰から視線を思わず主神に移してしまった。
神々の王は悪戯っぽい笑みを浮かべており、ブリュンヒルデには何故主神が笑うのか理解出来なかった。
「なに、そこまで深い理由はない。ただ純粋に今の主がどこまでの力を持っているのか試したくなっただけの事だ」
「はぁ…?」
「お前も現世に呼ばれれば分かるだろう。人間が創り上げた世界は楽しいぞ。我は最近オシャレというものを奏に教えて貰った。色々な服を着て我は大変満足したものでな。奏と共に選んだ服を彰に見せたら顔を赤くしてそれは面白かったぞ」
「主神、お遊びがすぎます…」
「お前はいつまでも固い女だ」
「そうよ、ヒルデはいっつまでも固い女なんだから」
オーディンがワインを飲みながらブリュンヒルデを軽く罵倒すると、更にもう一人の戦乙女が現れた。
蒼銀の甲冑を着たシグルーンはやれやれと肩をすくめながらオーディンに同意する。
「そういうシグルーンは軽い女ではないのですか?」
「な!?何を根拠に!」
「ふん、戦終わりの宴で露出全開の服で兵の前を踊るのは誰でしょうかね」
「あ、あれは皆を楽しませようとして!」
「もう二人とも喧嘩はやめなさいよ」
そして黄色の甲冑を着た3人目の戦乙女であるエルルーンが二人の間に割って入る。
「エルルーンに止める権利はないと思うけど?」
「エルルーンは酒癖が悪いと有名ですからね。いつもお姉さんぶって私達の上にいるつもりでしょうけど、あなたを1回でも目上だと思ったことはありませんからね」
「なんですってッ!?わ、私がいつ酒癖が悪いと!?」
「記憶がなくなるまで酒を飲んでいるのは無自覚って事なのね……ホントタチが悪いわ」
白い光と共に最後の戦乙女であるスワワが現れ、オーディンを守護するヴァルキリーが揃う。
揃い方は最悪だが。
「私は何も汚点はないわ、みたいな顔しているけど、スワワだって軽い引きこもりじゃん!」
「引きこもり?私が?」
「だって自室に籠ってずっと本を読んでいるじゃない!宴にも出席しないし、兵からは何手呼ばれているか知ってる?希少種って言われているんだよ!」
「………言わせておけばこの尻軽ヴァルキリーが…」
遂に喧嘩を始めてしまったヴァルキリー達は主神の前でも構わずグーやら髪を引っ張るやらやりたい放題に喧嘩をしまくる。
「クックック……」
「主神……?」
グスルーンから髪を引っ張られているブリュンヒルデが笑いを堪えているオーディンの姿が視界に入る。
「あっはっはっはっは!!」
そしてとても愉快そうに笑い始めたオーディンを4人は喧嘩を止めて見つめる。
「いや、よいよい。お前らが喧嘩をする姿など見たこともなかったからな、つい笑ってしまった。我の前で喧嘩とは、お前らも随分と身分が軽くなったものだ」
『し、失礼しました主神!』
お叱りを受けたと感じた4人は、すぐさま立ち上がるとオーディンに頭を下げた。
「叱ったわけではない。ただ、我らの役目は終わったのだなと改めて思っただけだ」
「私たちの役目………」
「もう、戦争は終わったのですよね」
スワワの考えている事を感じ取ったグスルーンはにっこりと笑ってオーディンに答えた。
「完全に終わったわけではないがな。此度の戦いは我らの戦いに非ず、人類にあり。我らはあのような愛しい者のために力を振るおうぞ」
遠くで剣を振るう彰をオーディンは微笑ましく見つめる。
「ふふ、主神も変わられましたね」
「そうだな……恋というものはいいものだ。一人の人間にここまで力を貸してやりたいと思ったことはかつてあっただろうか……いや、あるまい」
「はぁ……主神も遂に恋というものを知ったのですね。グスルーンは感激でございます」
頬に手を当てて銀髪を揺らしながら『いやいや』と顔を振るグスルーンは嬉しそうだ。
「この前彰と遊園地という所に行ったのだが、面白かったぞ。ジェットコースターなるものに乗った。速い物には慣れているつもりだと思っていたが、まさかこの我が臆するとは……」
「しゅ、主神が恐れるほどの乗り物ですか……」
オーディンの言葉に戦乙女達に戦慄が走る。
そして彼女たちはジェットコースターというものに漠然とした。
『ジェットコースターというものは一体……』
そんな戦乙女達の様子も知らずにオーディンは彰を見ていた。
一度でも触れられれば負けるという極度の緊張によって体中から汗が吹き出し、剣を振るう度に汗が散る。
形式的には1対1の勝ち抜き戦だが、彰は勝ち続けねばならない。
「なかなかやるようですね」
「当たり前だ。いつも我が直々に鍛えているからな。強くなって貰わねば逆に困るというものだ」
「順調だけど、終わるかな~?私としてはぎりぎりで間に合わないと思うんだけど」
「私たちもいますからね~。来てもらわないと困るわよ」
「戦うの面倒。来るなら早く来てほしい」
ブリュンヒルデ、グスルーン、エルルーン、スワワがコロシアム場で必死に剣を振るう彰を見てそれぞれの意見を口にする。
「あと3時間したら一旦休憩を入れるぞ。彰も辛かろう」
「了解しました。その時は我々が間に入ります」
「頼んだぞ」
『はッ!』
彰の修行は始まったばかりだ。
精神世界ではエーテルの上限が無限なためオーディンはいつまでも最終戦争ラグナロクを使用する事が出来る。
しかし、彰は常に神経を研ぎ澄ましながら英雄との戦いに臨んでいる。その集中がいつ切れるかオーディンには分かっていた。だからこそ、一旦そこで休憩を入れる事により集中をリセットさせる。
それ以上続ければ確実に彰は倒れてしまうからだ。
「では、しばらく頼んだぞ。我は一度現実世界に戻る」
「はッ!このブリュンヒルデにお任せを」
「うむ。シグルーン、エルルーン、スワワも任せたぞ」
「はい!お任せあれ♪」
「任せてくださいな」
「行ってらっしゃい、主神」
オーディンはマントを翻すと光になって消えて行った。
「ラグナロクは私たちだけでも維持出来ますね?」
「大丈夫だよー!」
「問題ないですよ」
「大丈夫。ここは精神世界だから主神がいなくても私たちだけで維持できる」
「では、今しばらく彰様を見守るといたしましょう」
4人の戦乙女達は彰の健闘を祈った。
ふええええリアルが忙しいよおおおお!という事でどうもまた太びです。
ここ最近急に忙しくなりまして、書くにもかけない状況でした。更新が遅れてしまったことには深くお詫び申し上げます。
出来るだけ時間を見つけては書き溜めているのですけどね…




