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龍の血を引く者  作者: また太び
2章 師弟制度
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3組の命運と要塞崩し

「んじゃ、行ってくる」


「みんな行ってくるねー!」



メイド達に見送られて俺達は学校へ出発した。舞香はいつも朝は弱いので遅刻ギリギリに来るのが日課となってしまっている。そのため今はいない。



「なんだか紅くんと一緒に学校行くの久しぶりだね」


「そうだな。なかなかスケジュールが合わなくて一緒にいられる時間は少ないもんな」


「私、いま売り時だから仕事は休めないんだよね」


「売り時と言っても、もう2年経っているじゃないか。今度海外ツアーも決まってるんだろ?凄いじゃないか」


「海外か~。私の歌、ちゃんと伝わるかな」


「伝わるさ。お前の歌は凄い、これは俺が保障する」


「ありがとう、紅くん」



朝からイチャイチャしている二人はこれで隠しているつもりなのだから困る。

ニルも思わず歯が浮いてしまっているが、紅哉はそれには気付かない。



『次のニュースです。東南アジア付近で最近魔物が活発に行動している―――』


「ねぇ紅くん、最近このニュースばっかりだよね」


「………そうだな。これ、この前も同じようなこと豊姫と話していたんだ」



都市内にある巨大ディスプレイのニュースに足を止めた二人は険しい顔でそれを見る。



『佐藤さん、この状況をどう見ますか?』


『そうですねー。政府の方もこれは予期してない状況であり、至急調査を急いでいる所ですが、今のところは何とも言えないですね』


『そうですか。市民の方々からは不安な声が上がっているようで、早めの解決が望まれている所です』



「その後豊姫に調べさせたが、魔物の発生源は全てパワースポット周辺だったそうだ」


「だよね。マネージャーの渡辺さんも同じこと言っててね、近いうちにパワースポットに突入するらしいよ」


「正気か?それは自殺行為だぞ。あの場所はまだ人間の手には余る魔物がごろごろいるんだ。たかが銃器2つ3つ持って行った所で人が死ぬだけだ」


「うん。無謀としか思えない作戦なんだけど、報酬金が凄くて命を顧みない傭兵さんがたくさん参加するそうだよ」


「なるほどね、そうやって政府は傭兵を食い物にするわけだな。とても人間のやる事とは思えない。その傭兵を使って情報を収集するつもりなんだろう」



紅哉はディスプレイから目を離し、学校へ向けて歩き出す。瑠璃も通行人とぶつからないように小走りになりながら紅哉を追う。



「やっぱり政府は何かを隠している。オーバーテクノロジーのパワースポットにも手を出すとは何を考えている?」


「紅くん、名古屋も凄い事になっているようだよ」



瑠璃が見せてくれた画面には魔物が街を闊歩する姿が撮られていた。



「魔物って普通人間の世界には干渉しない主義なんじゃなかったっけ」


「そのはずなんだけどな……これはいよいよ豊姫との会話が真実染みて来たな…」






「みんな……そろそろ勝たないと首が危ない。主に俺の首がな」


『………』



今は昼休み前最後の授業である。それはこの学校で最も力を入れている競技の要塞崩しだ。

俺達3組は力の関係から万年2組との対戦ばかりだ。そう、2組には舞香がいるクラス。

1年生の頃から戦い続けて早1年が経つわけだが、まだ一度も勝利を掴んだことがない。

そして今日は遂に佐鳥に脅されたのだ。

それは朝のホームルームでのこと――――……



「んで、今日は要塞崩しがあるわけだが、お前ら2組との勝負で一度も勝ってないだろ。いい加減勝てや」


『…………』


「黙っていちゃ分かんねェだろがおい!」


「え!?」



ドスッ―――――紅哉の首筋ぎりぎりのところをサバイバルナイフが通り過ぎて行った。首からはジワリと血が滲み、驚きながらも豊姫がすぐに治療してくれる。



「なぁお前ら、そろそろ勝てよ。じゃねェとそこの赤黒髪したガキが死ぬぞ」



後ろの掲示板に刺さったナイフを抜くと佐鳥は教室を出て行った。そして4時限目までお通夜のような空気のまま授業が続けられて今に至る。



「だ、だけどよ紅哉。何か打開策はあるのか…?」



クラス内でムードメーカーとなっている朽木俊介くぎしゅんすけが朝の出来事を引きずりながらも俺に尋ねてくる。



「あぁ、今日の佐鳥はマジだったぜ…」


「このままじゃ火神崎が…」


「紅哉さんが死ぬなんて御免だわ…」



クラス内で動揺が走り始める。この状況に豊姫はオロオロとするだけで委員長の威厳などどこにもない。



「まずは皆落ち着こう。もし、俺が死ぬときは佐鳥先生を道ずれにするさ」



聖人君子のような顔をした紅哉にクラスは決意を固めた。


『なんてカッコいいお人なんだ』と。



「紅哉!お前は舞香さんの兄なんだろ!?なんだ、こう八百長とかそういうのは出来ないのか?」



誰かの発言に紅哉は首を横に振ってそれを否定する。



「みんな何も考えるな。いつも通りの力を出して全力で戦おう」



その言葉に誰もが頷き、お通夜みたいな空気は消え去った。そして一斉に制服を脱ぐとジャージ姿になり、教室を後にする。

ザッザッザッザ―――――と道行く生徒達は自然と道を開けて紅哉達を異様な物を見るような目でそれを見送る。



「あ、あの紅哉くん……私、恥ずかしいんだけど…」


「何も言うな」



最後の決戦、と言うべき志を持った戦友はVR空間を完備している施設に足を踏み入れる。



「うおお!?ど、どうしたんだお前ら!?」



クラス全員真剣な顔で入って来たため先生は驚いているようだ。



「人の命が関わっているんです。今回は負けられません」


「な、なんだか分からないが頑張れ……2組は既に中にいる。後はお前達を送るだけだ」


「行くぞみんな」


円柱状の転送装置に乗ると、酷い乗り物酔いに似た感覚と共に視界がシャットアウトする。

目を開けるとそこは戦場だった。



「古城ステージか」



地面は焼けた跡を思わせる焦げや残り火、そして抉れた地面に突き刺さった矢。空は赤黒く雲は重いくらいに黒い。

相手の要塞まで5kmと言った所でそこまでの距離に隠れる場所など存在しない平地。



「どうやらここでオレとマスターの命運は決まるようだな」



最大顕現したニルはいつも通り腕を組んでここから敵の要塞にいるリアを睨めつけている。

他のクラスメイトも各々のパートナーを召喚し、お互いに体調をチェックし合っている。



「何も言うまい。オレはただいつも通り来る敵を潰すだけだ」


「あぁ、頼りにしている。ユニゾン」



黒炎が紅哉の身体を包み、次の瞬間には龍と化した紅哉の姿があった。



「紅哉くん、防御壁の準備は整ったよ」


「分かった。遊佐さん、一度皆を集めてくれ」


「了解です」



豊姫が率いる防壁隊の報告も終わり、通信役である遊佐明美ゆさあけみに皆を集めて貰う事にする。

程なくして集まった皆の表情は硬い者はなく、誰もがやる気に満ちていた。

俺は大きく息を吸い込むと―――



「俺達がここまでやってこれたのはなんだァアアア!!」


『打倒2組のために!!』


「俺達が戦い続ける理由はなんだァアアア!!」


『打倒2組のために!!』


「今日こそ!」


『2組を倒すために!』


「今こそ!」


『勝ちどきの旗を掲げるとき!』


「俺達は!」


『ソルジャーなりぃぃいいいい!』



「よし!行くぞォオオオ!」


『おおおおおおお!!』


「頑張ってね、紅哉くん」



攻撃隊の士気上げを見ていた豊姫は真っ先に飛んで行った紅哉の勝利を祈った。



ガアアアアアン――――――紅哉は戦場を疾走している2組の部隊を見つけるなり、上空から隕石のように地面に降りる。それだけ数名はリタイヤしてしまう。



「火神崎紅哉だ!各員!全力で攻撃に当たれ!!」


「おせエエエエ!」



胸の前に重力球を生み出すと、紅哉はそれをすぐさま潰す。

ドオオオオオオオン―――――辺り一帯強烈な重力に見舞われ紅哉を囲んでいた攻撃隊は一瞬でリタイヤの光に包まれて退場した。



「次だ!」



紅哉の役割は後に来る自分の部隊の疲労を軽減させるために敵の戦力を出来る限り削る事にある。



『いきなり覇龍圧殺を使うとは、今日のマスターは随分とやる気なのだな』


「お前、俺の命がかかっているんだぞ。流石にこれはシャレにならんからな」



空を飛ぶ紅哉はチラリと自軍の要塞を見る。敵の要塞から絶え間なく届くリアのハドロンブレスを見事受け流している豊姫は相棒のペガサスと共に空中を舞うように飛んでいるのが、ここから見てもよく分かる。



「なるほど。受け切るんじゃなくて受け流す事を覚えたのか」



以前は受けているうちに次の攻撃が来て終わってしまうパターンだったのだが、これならばいくら来ようとも軽い力で対処できる。



『やるじゃないか、あの羽馬。加護で防御陣を強化しているな』


「天馬の加護か。神の乗り物としてペガサス自身に神聖防御が備わっているんだっけな」


『そうだ。神の加護とも言う。神の加護により一度受けた攻撃に対して耐性を持つようになる』


「相手に回したくない奴だな。2度目は通じないってことか」


『通じるは通じるが、多分守られて終わりだろう』


「それもそうだな。よし、豊姫の仕事を少し減らしてやろう。ニル、頼む」


「うむ、いいだろう」



ユニゾンを解除すると同時にニルは天に向かって巨大な黒炎弾を放つ。そしてそれに向かって更に小さな黒炎を吐く。



「ブラックメテオだ」



花火の音を数倍大きくしたような音と共に舞香のリアがいる場所へ黒炎の球が降り注ぐ。

これにはリアは防御に回るしかなく、一時的に豊姫の方への攻撃を止め、メテオの退去に移る。



『紅哉さん、聞こえますか』


「問題ない。次の作戦に移る」


『了解です。攻撃隊は間もなく予定の位置に着くそうです。紅哉さんが着き次第いつでも攻撃に移れる状況になります』


「分かった、俺もすぐ行く。それで豊姫はどうだ?まだ戦えそうか?」


『はい、あの受け流しは消費が少なく燃費がいいそうです。今はこれからの攻撃に備えて休んでいますが、まだまだ行けるそうです』


「了解した。豊姫にはありがとう、と言っておいてくれ」


『はい。それでは御武運を』


遊佐との通信を切ると、再びユニゾンして俺は走り出す。



『紅哉さん、その角を右に曲がってください!』


「了解した!」



遊佐さんとは違う通信役の女子に言われ、俺は翼を操作して右にグンッ!と曲がる。

その奥には既に待機していた攻撃隊の皆がいた。



「来たか」


「悪い、遅れた」


「いや、大丈夫だ。今回は異様に皆安定している。これならもしかすると押し切れるかもしれない」


「どういう事だ?」


「いま、2組の藤井がうちの陣営に付いたとの報告があったんだけど、豊姫さんが守るどころか押し返しているそうだ」


「マジか。豊姫やれば出来るじゃないか。それなら、もう少し攻撃に人数が回せそうだな」


「そういう事だ。防護隊をこちらに回せばリヴァイアサンの攻撃をある程度凌げるかもしれない。豊姫さんが来てくれるのが一番理想的なんだけど、それだと要塞の拠点が手薄になる」


「いや、十分すぎる。俺達攻撃隊の短所はリアの攻撃を受けきれない事だ。そこに防御も加わればリアを倒せるかもしれない」



2組の藤井とは2組の中で唯一ユニゾン出来る男子だ。ティラノサウルスをパートナーにしていて2組の攻撃隊エースになっている。

いつもは舞香のハドロンブレスを防ぎつつ藤井を相手していたのだが、今回は俺がリアに一撃加えたため豊姫に余裕が出来ているようだ。



「舞香は?」


「遊佐さんによればこの奥にいるそうだ。庭になっているそうで隠れる物はない」


「いつも通りリアが周りの壁とか全部壊したな」



話しているうちにどんどん攻撃隊に人数が増えて行く。本当に豊姫は頑張っているようだ。



『ジジジッ―――――紅哉さん、聞こえますか』


「聞こえるよ」


『豊姫さんが2組のエースを落としました。損害は大きいですが、豊姫さんは無事です。自分に回復を掛けたらそちらに向かうとのことです』



遊佐の通信を聞いていた皆は奥の部屋に響かない程度に『よしッ!』とガッツポーズをする。



「分かった。うちに要塞はどのくらいの損傷を受けている?」


『損傷は防護壁が10層中8層まで破られました。いま豊姫さん抜きで修復に当たっていますが、こちらもそこまで問題ありません。藤井さんを落とした事により2組の攻撃速度は格段に落ちています。これならば豊姫さん抜きでも守れます』



遊佐は嘘を付かない性格なのでこれも真実なのだろう。もしかするとこれは勝てるかもしれない。



「了解。豊姫には急がなくていいと言ってくれ。お前は十分頑張ったと」


『分かりました。それでは』


「よし。みんな総力戦だ。2組の数はかなり減っている。多分この奥にいるのも舞香一人だけだろう。いいか、一人で戦うのではなくみんなでカバーしながら徐々に首を落として行くんだ。首を一つ落とすだけで攻撃ペースは格段に落ちる。一つ一つ確実に行こう」



うん、と皆は頷くと手筈通りの陣形になる。



「俺が、3つ数えたら突っ込むぞ。覇龍圧殺を使うからくれぐれも俺の前に出ないでくれ。俺の技が消えたら、そこから勝負だ」



3本指を立てる。次に2本、そして最後に人差し指だけになると壁に控えていた二人がほぼ同時に扉を開ける。



「舞香ァ!」



ベコン―――――――入ると同時に奇襲を仕掛けた俺は覇龍圧殺でリアの10本の首を封じにかかる。



「お兄様……それは読めている…」



既にハドロンブレスを撃つ準備が出来ていたリアは床に潰されながらもしっかり顔だけはこちらを向いている。



「まずい!」


『貸せ!マスター!』



身体の主導権を譲るとニルは口元に更に球体を作り出し、それを噛み砕く。



「リア!こいつは痛いだろ!龍王圧殺だァ!」



2倍の重力がかかると、流石のリアも顔を上げている事は出来ず、ハドロンブレスを暴発させないためにブレスを中断を余儀なくさせられる。



「ありがとうニル!皆!行くぞ!」



あと数秒で俺達の命運が尽きる所でニルは思わぬ反撃を繰り出し、見事リアのブレスを防いだ。

そこからリアが立ち直る前に総力でリアの首を狙って行く。



「させない…ッ!」



舞香も黙ってはいない。突如地面から氷山が出現し、巻き込まれた者は一瞬で凍りつく。



「ニル!出力を上げるぞ!」


『おう!持って行け!』



拳に黒炎を纏わせて、氷山に正拳突きを放つ。

バキイイイイイイン―――――――それは幻想のように砕け散り、それを舞香は少し驚いたように見ている。



「リア……!ソニックブレス…!」



いつもよりピンチな状況に陥った舞香に余裕はない。



「ニル!お前も対抗しろ!」


『いいのか?お前は嫌いなんじゃないのか?もう泣かないのか?』


「いいからやれ!てか、もう泣くような歳じゃねェ!」



ユニゾンを解除するとニルは俺達の目の前に立つと胸部を膨らませて――――



「グオオアアアアガアアアアアア!!!」


「クキャアアアアアアアアアアアア!!」


「ペガサス!神の加護をフルパワー!」



超音波がぶつかりあった瞬間豊姫は現れ、巨大な防御壁を展開して音響を遮ってくれた。

周りの壁や天井は吹き飛び、空が見えた。



「マスター、リアの首を一つ落とした」


「よくやったニル。もう少し俺に力を貸してくれ」



ユニゾンを再びすると、隣にペガサスに乗った傷だらけの豊姫が近寄ってくる。



「お前、傷だらけじゃないか。ちゃんと回復してこいって言ったはずだぞ」


「あははは……でも、こんな勝てそうなのに私だけ休んでいられないよ。それに、舞香さんの攻撃は私くらいじゃないと防げないしね。紅哉くんは一人でも大丈夫だけど、他の皆は私が守らないと」



後ろでは豊姫の加護によって何とかリアのソニックブレスを凌いだ皆が安堵の息を漏らす。だが、さっきの舞香の氷山でかなりの人数が減ってしまったようだ。



「守るのはいいが、自分の身を一番に考えておけよ」


「うん、分かってる」



俺は豊姫の返事に満足して、リアの攻撃が整う前に舞香へと駆け出す。



『マスター、残りの首は6本だ。ここまで来ると流石のリアも焦りを感じているはずだ、そこを一気に叩くぞ』


「あぁ!一気に行こう!」


「お兄様……流石…ッ!」



リアの首が左右から俺を挟撃するように飛んでくるが、それを俺は躱しはせず、右から飛んでくる首を絶妙な力加減で受け流して互いにぶつけさせる。



「凍てついて…!」



リアのブリザードが常に吹き付ける中、舞香の氷に属する魔術のキレは更に増す。

床から突如出現する氷の槍を俺は覇龍圧殺で出てくる前に潰す。



『良い使い方だ。この頃潰せない相手ばかりでこの技がサポート用になってしまっているのは気のせいか?』


「気のせいだと思いたいね!」



リアのハドロンブレスを身体を捻って避ける。すると頭上から更に追い打ちをかけるが如くリアの首が降り注ぐ。



「カオスブレス!」



避けきれないと判断した俺は自分に当たりそうな首に向けてブレスを吐く。だが、力が思った以上出ず、リアの首は軌道が逸れただけだった。



「あぶな!?」


『マスターが死んだら俺達は負けだぞ。自分の立場を考えるんだな』



他人事のように言うニルを無視して俺はリアとの距離が6mになると、背中の翼を展開して一気に距離を詰める。



「リア!」


当たるだけで肉片になりそうなくらいの速度で噛み砕きに来るリアの首を空中で何とか避ける。



『ここに来て速度を上げるか…!やはりアイツは龍族の中でも化け物だな』



舞香は豊姫と残りの皆を相手しており、俺はリアとの1対1となっている。



ブゥン―――――前方だけ気にしていたせいか、背中がいつの間にかお留守になっていたようだ。



「がァ!?」


『おい!しっかりしろマスター!』



リアは自分の首をしなるハンマーのように振るうため尋常じゃないくらい痛い。というか、痛いで済んでいるので本当にニルがいなかったら即死の攻撃だった。

ごろごろと転がると壁に軽くぶつかって止まる。ダメ―ジはあるが、まだ動けるようだ。



「まさかここまでやられるとは思いも寄らなかったですよ。紅哉、いつの間にか成長していたのですね」


「げほッ!げほげほ!くッ……俺だって負けっぱなしは嫌なんだよ。いつまでも妹に負け続けていちゃ兄貴面出来ないからな!」



ドオオオ――――地を蹴るとさっきの数倍の速さでリアに肉薄する。



「ッ!」


「オラァ!」



リアもまさかあのダメージを受けてからここまでの速さを出すとは思わなかったのか、驚いたまま動かない。

俺はリアの巨体にアッパーをかます。だが、体格差と体重からして全然浮き上がらない。



『マスター!リアの身体は鋼より硬いぞ!首を狙え!』



ニルの忠告を受けると同時に俺は真上を向いて首目掛けてカオスブレスを放つ。これをリアは同じくブレスで相殺する。

俺は爆発して生じた煙に飛び込み、リアに奇襲を仕掛ける。



「ドラゴンテール!」



空中で綺麗に回転し、一番近くにある首へと長く棘の付いた尻尾を振り下ろす。

ダゴオオオオオン――――脳に直接響いた攻撃にリアの首はたまらずうめき声を上げる。



「オラ!もういっちょ!」



右拳に黒炎を纏わせてそれを未だに怯んでいるリアの首に叩きつける。これにはリアの首も耐えれず、また一つ首が地面へ力なく倒れる。



「グオオオオオオン!」


『くっくっく。本体に響いているぞ。良い感じだ、このまま攻めていけ!』



「くぅ!やりますね。トレーニングの時には見せた事のない威力で少々驚いています」


『はっはっは!当たり前の事を言うな!お前に見せたらそれを上回る耐久を備えて来るに決まっているだろ!確かにオレもマスターの一撃には驚いているが、これぐらいは当然の事だ』


「なんだか余裕のようですね。私もそろそろ引退と言った所でしょうか。ですがまぁ、舞香がまだ私の力を必要としているので、そう簡単には落ちてやりませんよ」



風が少し吹いたと思えば次の瞬間にそれは吹雪へと変化する。



「ニヴルヘイムか!ニル!耐寒を上げるぞ!」


『了解だ!』



ゴウウウ――――俺はその身に炎を纏いリアが放つブリザードのまたその上の氷結世界に対抗するべく耐寒を上げる。

龍にはその鱗自体に強い炎、氷、雷、酸耐性があるが、リアのは別格だ。こちらも出力を上げなくてはたちまちに身体は凍ってしまう。



『リアのニヴルヘイムが完成する前に終わらせろよ。でないと流石のオレでもこの寒さには耐えれん』


「龍を凍てつかせるとか、ますますチートだな」



俺は残り4本となった首に向かって飛翔するとリアが動き出す。



「紅哉。私の力を発揮する場は氷ではありません。そこを十分に理解していましたか?」


「え?」


『そういう事か!マスター!離れろ!』



何かに気付いたニルは俺の身体を勝手に動かして全速力でその場から離れると、舞香が地に手を触れる。

ゴオオオオオオオオオオオ――――――なんと舞香は滅多に使わない炎属に入る魔術を発動させた。

その炎は並みの術式では傷をつける事すら不可能なリアの氷を溶かし、辺りは水蒸気に包まれる。



「そっか!水を作り出すつもりなのか!」


『ここからが本番だぞ。久しぶりだな、水を使うリアと戦うのは』


「クキャアアアアアアア!」


「く!ペガサス!」



豊姫が舞香の異変に気付いてリアがソニックブレスを発動すると同時に、豊姫も防御へ移る。

ソニックブレスによって水蒸気が消し飛ばされるとさっきの氷結世界はどこかへ行ってしまい、今は水が満ちる泉となっていた。

バシャバシャと動く足には水が当たり、水は膝の下程度の深さとなっていた。



『マスター。これからは水が全て敵だ。飛んで行動しろ』


「分かっている」



突然リアの目が赤く光ると俺の足元から水の槍が突き出る。

それが来ることを分かっていた俺は特に慌てることもなく翼を器用に動かして避ける。

次々と来る水の槍は当たれば身体を貫通して即死なのだろう。

俺が避けた先にある壁は綺麗に貫通している。



「ニル、ユニゾン解除だ。俺はお前をサポートする」


「了解!」



ニルとユニゾンを解除すると同時に俺はニルの背中へ乗る。



「飛ばすぞ!」



水を裂きながら一瞬でリアに近づくとニルは首目掛けて剛腕を振るう。



「座標固定!」



俺はニルの腕を強化する。しかし、ニルの攻撃は豊姫たちを相手しながらリアのサポートに回った、舞香の拘束系魔術チェーンバインドによってニルの腕はグルグル巻きにされる。



「鬱陶しい!」



数秒足らずでバインドを壊すとその時にはリアのブレスが整っていた。



「ニル!」


「ぐうううううう!」



避ける事は無理だと判断したニルはその場でハドロンブレスを受け止めに入る。



「アークブラスト!」



俺は雷の術式を一気に作り上げ、リアに向かって発射する。

ダァァンダァァンダァァン―――雷はリアに当たると、そこへ天から雷が幾度も降り注ぐ。



「くぅ!」


「ニル!反撃だ!」



雷が苦手なリアはアークブラストを喰らって思わず後ろ脚から数歩後退する。それを逃さないニルは隙だらけな首へカオスブレスを放つ。



「ガアアア!」


「よし!首を落としたぞ!」



「リア…!」


「舞香さん!よそ見していいのかな!」



リアが気になった舞香へ豊姫がペガサスと共に突進を仕掛ける。舞香は忌々しげに豊姫の攻撃を防ぐ。



「豊姫……邪魔…」


「邪魔って言われてもね……」



高速詠唱された魔術が飛んでくると、豊姫はペガサスを操り空中で1回転を決めて避ける。



「本当に驚き……ここまで私とリアが追い詰められるなんて…」


「フィールドが良かったからかな。いつもはどこかに水脈だったり湖があるんだけど、今日は本当に何もないステージだから、リヴァイアサンのタイダルウェーブが出せない。これが私たちの勝利へとつながる」


「でも…それはどうだろう……」



またリアが壁すらも破壊しそうな声を出すと水が凍る。そして舞香が氷を溶かす。

すると先ほどより水嵩は増えて腰まで浸かるほどになってしまった。



「これは本格的にまずいな。オレでもタイダルウェーブは防げないぞ」


「だよね……」



苦笑いしていると舞香は手をゆっくりと上げる。

それに比例して急に水がリアの元へと退いて行く。



「やばい、これはタイダルウェーブだ」


「マスター!上空へ逃げるぞ!」


「逃がさない…!さっきは簡単に壊されたから今度は強めに行くよ…」



バキン――――空中に逃げようとしたニルの胴体に何重もの鎖が巻きつき、ニルはぐるぐる巻きにされて地上へ派手に落ちる。



「いて!」


「うが!」


「紅哉くん!」


「豊姫も…!」


「え?きゃああああ!」



豊姫もペガサスごと拘束されて地上へ落ちる。リアはうねる水をまとめ始めて頭上に水の塊が出来始める。



「やばいやばいやばい!ここに来て負けるのかよ!」


「うぬううう!拘束が外せん!舞香めェ!」


「あわわわ!」


「リア……タイダルウェーブ」


「タイダルウェーブ!」



水の塊が一際小さくなり、数秒後それは爆発する。

あの塊の中に凝縮されていた水はやっと解放された事を喜ぶが如く轟津波となって俺達を呑み込もうとする。

リアのタイダルウェーブはただの津波ではない。水の中は真空が入り混じりひとたび呑み込まれればその身はズタズタに引き裂かれる。



「ぬおおおおおお!」


「うおおおおおお!」


「きゃああああああ!」



そうしてニルは最後まで拘束を壊そうともがき、俺は悔しさを込めた声を上げ、豊姫は純粋に恐怖した声を出すのであった。


誤字脱字があれば気軽に言ってください。できるだけ早めに対応したいと思います。

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