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龍の血を引く者  作者: また太び
外伝シリーズ
106/162

外伝 氷山の奇跡8

「うわ!雨が酷いよ!」


「恐らくリアが天候を変えたのだろう」


「山の主は強い……力の供給源である雪を封じたのは良い手…」



朱音、ニル、サクソンは山を登っていた。

山頂に近づくにつれて雨脚は酷くなり、今は雷雨と化していた。


朱音はリアの力を使って山を登っているが、足の雪が滑りやすくなっていて転ばないように気を付けていた。



「あと山頂までどれくらい?」


「このスピードならあと5分…」


「よし、ならば更に速度を上げるぞ。手遅れになる前にな」


「うん……まだ山の主は本気を出していない……」



この時朱音はニルとサクソンの会話を聞きながらある事を考えていた。

それは未来の事だ。



『こんな話、お父さんから聞いたこともない………それにこの山の存在だって私の世界にはなかったはず…』



この場所の存在自体が謎に包まれていた。

隣にいるサクソンに目をやると、見たところ普通の女の子だ。

龍の気配をしないし、その背中についている氷の翼も魔術で生み出したものだとすれば納得が行くものがある。



『まぁ…それは流石に現実逃避だよね…』



そんな考えを一瞬で放棄した朱音はスピードを上げたニルとサクソンに合わせて自分も上げて行く。



やがて山の主と戦うリアの姿が見えてきた。

朱音は目を細めると力を解放する。


ドオオオン――――!!!



「む?」



ニルとサクソンを置き去りにした突進で朱音はリアに拳を振るおうとしている山の主を肩ごと切り裂いた。



「ぎゃああああ!!何者だ!!」


「リアちゃんを傷つけるのはあたしが許さないよ。ここからはあたし達も混ざらせてもらう」


「朱音、まさか私を追って来たのですか?ですが、あそこの結界は…」


「なんてざまだ。冥王龍あろう者が押されているじゃないか」


「ニル、顕現できるようになったのですね」


「大丈夫?冥王龍」



リアの前に立ち塞がるように朱音が大剣を山の主に向ける。

朱音に遅れるように降り立ったニルは傷ついているリアを見て鼻で笑い、サクソンはチョコンと朱音の隣に立つ。



「人間風情がわしを斬るだと…?」



天候の力で回復力が弱まった山の主は、少しずつ山の雪を集めて斬られた腕を修復していく。

そして視界にサクソンの姿が目に入ると憤怒の籠った目つきで彼女を見る。



「貴様!命の恩人であるわしを裏切るか!!」


「命を助けて貰ったことは感謝している。だけど、もうあなたに恩は十分返した」



サクソンは朱音の大剣を氷で真似て作り出す。



「だから、そろそろ私の身体返してもらうよ」


「どいつもこいつもわしに歯向かいおって!!皆殺しにしてくれるわ!!」



山の主は雄叫びを上げて自分を鼓舞する。



「皆、私はあの龍の身体に触れる事は出来ないの」


「どうして?」


「私の肩にあるこの刻印が龍の身体に触れると拒絶反応を示すようになっているの」


「では、どうすればいいのだ?」


「山の主を倒せば刻印の呪縛が消えるはず……」


「結局倒す事には変わらないようですね」


「そういうこと…」


「貴様ら許さんぞおおおおお!!!」


「来るよ!!」



山の主は頬を膨らませて氷の礫を吐き出した。

朱音は龍の遺伝子を更に少しだけ解放する。すると、彼女の瞳が赤から青に変わり、力が増していく。



「しッ!」



朱音は大剣を背負って駆け出した。



「炎剣焔…!」



疾走する彼女の手に二振りの炎剣が生まれる。

そして無数に襲い掛かる礫を目にも止まらぬ速さで振り抜いて無効化していく。


後ろではサクソンとリアが氷の防壁を張って防いでいるが、朱音には関係はない。



「むう!?」


「今更遅いよッ!」



朱音はシャーベット状になった雪を蹴って飛び上がった。



「はぁあああ!!」


「なんて跳躍だ…!」



礫から解放されたニルが目を見開いて驚く。そして朱音は炎剣を山の主の腹に投げつけ突き刺さるのを確認すると聖剣アスカロンを抜いた。



「炎剣大車輪切り!!」



山の主の頭部から下まで一直線に駆け抜ける。下に降りた朱音はニルの炎である黒炎を大剣に纏い、剣を忍刀のように持つとボクシング選手のアッパーのように剣を振り抜いた。



「ぐぎゃああああああッ!!!」



まるで溝に流れたガソリンが一瞬で燃え広がるように朱音が切りつけた線が燃え上がり、腹部の炎剣に黒炎が到達すると凄まじい爆音が辺りに響き渡った。


火が苦手な山の主がヨロヨロと立て続けに受けたダメージを庇うように腹部を抑えながら後ろへ後退していく。



「ニルちゃん!リアちゃん!ブレスを!」


「心得た!」


「了解です!」



呆気に取られていたニルとリアに朱音は今がチャンスだと呼びかける。

2体の龍は山の主に追い打ちをかけるように苦手な炎で追い詰めにかかった。



「ぬぅうう!!」


「まだやられ足りないようだね」


「人間如きがぁあああ!」



何も出来ずブレスを受ける事しか出来ない山の主は憎しみが籠った目を朱音に向ける。

朱音は効く耳持たずと言った所で最後の一撃を放つべく、大剣を勢いよく前へ突きだす。



「じゃあね!」



朱音の持つ大剣が変化する。

まるでニルのような黒龍の装飾が大剣に施され、その大剣から凄まじいエネルギーが集まる。

大剣につく黒龍の眼が青く光る。そして――――……



「カオスブレス!!」



ニルよりも強力な黒炎が大剣から解き放たれた。



「くそおおおおおおお!!!!」



崖を突き抜けて空中で爆発するのを確認した朱音は癒理のような槍回し―――ではなく剣回しを見せて大剣を背中のホルターに刺した。



「ふぅ、一件落着」


「凄い……あの山の主をいとも簡単に…」


「朱音、お前は一体…」


「まぁまぁ!それはおいおい説明するから今は、ね?」


「うむ…まぁいいだろう。ところでサクソン。刻印はどうだ?」


「あ…」



サクソンは右肩を見た。

すると刻印は消えており、サクソンの顔に笑顔が浮かぶ。



「あの……あの」


「さぁ、自分の身体を取り戻しなさい」



天候は晴れ、人間の姿に戻ったリアは滅多に見せない笑顔でサクソンを龍像に急がせた。



「うん…!」



サクソンは軽い足取りで自分の身体まで走って行った。



「やっと……取り戻せる…」



そして龍像に触れた瞬間優しい光が辺りを包んだ。



「朱音、見ろ。あれが龍族の中で最も美しい龍と言われた氷帝龍サクソンだ」


「ええ、見ることが出来れば100年幸せが訪れると言われた神秘の龍…」


「感謝をします。冥王龍、龍戦士、朱音」



光が収まり、そこには太陽の光を浴びて身体の氷鱗が輝く1体の龍が翼を広げていた。



「わぁ……これが…氷帝龍………」


「やっと…私の身体を取り戻せました……本当に感謝します」



その時だった。



「なんだ?」



ゴゴゴゴゴゴゴゴ――――!!



「許さん…!許さん許さん…許さんぞおおおおお!!!」


「えええ!?まだ生きてたの!?」


「わしの力を舐めるではないわ!!」


「何をするつもりです。もうあなたに戦う力はないはず」


「ふん!確かにもうわしに力はないが……だが!一矢報いることは出来るのじゃ!」



山の主は両手を天へ掲げるように上げると、山が揺れ始めた。



「うおお!?な、何が始まるんだ!?」


「わ、分かりません!」


「まさか…………山の主!いけません!そんな事すれば人間の街が!」


「知らぬわ!わしを愚弄した人間どもと飼い犬が許せんのじゃ!!」


「サクソン!どういうことだ!」


「山の主はこの山を人間の街に落とす気でいます!」


「なんだと!?」



もしそんな事になれば間違いなく東京は消滅してしまう。



「八つ当たりではないか!何故オレ達じゃないんだ!」


「うるさい!貴様らが悲しむ物を壊してやるんじゃ!貴様らが来たせいでわしの平穏は一瞬で砕けた!」


「それは悪いと思っている!だが、わざわざ街を壊す必要はないはずだ!」


「黙れえええええ!!」


「ダメだ…全く聞いていないぞ」



サクソンは美しい翼を広げて飛び立とうとしていた。



「どこに行くんだ?」


「止めなくちゃ!」


「どうやってだ!サクソン!お前はオレ達よりも戦闘が苦手な龍族だろう!?」


「でも、やらなくちゃ…!」


「だが……どうすればいいのだ…オレのマスターは寝てしまっている。エヴォルトさえ使えれば…」


「朱音、どこに行くのです」


「………せない…!許せない…!お父さんとお母さんの街を……!」



朱音はそう言うとリアの声にも反応せず雪山を猛スピードで降りて行った。



「お父さん?お母さん…?」



リアは困惑した表情で朱音の姿が消えるまで目で追っていた。

朱音の瞳には復讐に似た何かが宿っていた。冥王龍でもぞっとするような深い闇のようなどろりとした瞳。



『朱音、どうするつもりだ』


「許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない――――!!!」


『………朱音、お前の気持ちは分かるが、我らの力を公に見せるわけには行かないぞ』


「そんなこと分かってる!!だから紅哉君呼びに行っているんじゃない!!分かりきっている事聞かないで!!」


『落ち着け。感情でどうにかなる話ではないぞ』


「また破壊されるかもしれないんだよ!?お父さんとお母さんが守りたかった街が!」


『それは痛いほど分かる。だが、今は落ち着くべきだ』



「………いいよ、今は仕方なく落ち着いてあげる」


『それでいい。それで紅哉を呼んでエヴォルトを使わせる気か?』


「それしかないじゃない。バハムートのスーパーノヴァを使うわけには行かない」


『良い判断だ。ここでもしバハムートを使うと言ったらユニゾンを強制解除するところだったぞ』


「ふん、解除してもあたしの遺伝子を覚醒させれば無理やり使えるけどね」


『全くお前という奴は……』



ゲオルギウスを呆れさせると朱音はむすっとした顔で山小屋に着いた。

扉を開けると中は温かく、そこには布団から身体を起こして額を抑える紅哉の姿があった。



「紅哉君…ッ!」


「あ、朱音さん……俺は…」


「良かった!目が覚めたんだね!」


「朱音さん…」



先ほどの機嫌はどこに行ったのか、朱音は起きた紅哉に抱きついて涙を浮かべた。



「何が起きているんだ……ニルもどこかに行っているようだし、それにこの地響きは…」



朱音は今まであった出来事を簡単に紅哉に説明した。



「山の主が東京を……やばいな。そんな事すれば東京は壊滅してしまう」


「だから紅哉君にはエヴォルトを使って山の主を止めてほしいの」


「分かった。今の俺にどこまで力が残されているか分からないが、やってみる」


「あぁ、待って待って!」



壁に掛けてあった制服に腕を通して山小屋を出て行こうとする紅哉を朱音は呼び止める。



「時間がないんじゃないの―――――」



か、と言おうとして振り返った紅哉の口を朱音は奪った。



「んッ!?」



10秒がとてつもなく感じられた紅哉は、朱音から解放されるとフラフラと入り口の壁に手を着いた。



「な、なな、なんで―――」


「えと……もう紅哉君エーテル全然ないでしょ?だから、私からちょっとだけ分けてあげたの」


「え、でもそれは…血が繋がっていなければ拒絶反応が―――あれ……起きない…?」


「えへへ、内緒だよ。おとーさん」


「お父さん…?朱音さんそれは一体どういう―――」


「いいから!もう行くよ!時間はもう余りないんだから!」



後ろに手を組んでどこか瑠璃に似た笑顔を浮かべた朱音は紅哉を押して山小屋を後にした。



もう少しでこの外伝も完結になります~!

長々とお待ちさせていた形となって申し訳ないです!

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