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龍の血を引く者  作者: また太び
外伝シリーズ
107/162

外伝 氷山の奇跡9

「ニル!リア!」


「マスター!目を覚ましたのだな!」


「起きましたか。事情はもう朱音から?」


「あぁ、大体の事情は聴いた。それで、そっちがサクソンか………綺麗だな」


「ありがとう。紅哉たちのおかげで身体を取り戻せた」



紅哉は朱音に抱きかかえられてニル達がいる山頂までやってくると、空中を飛んでいるサクソンに目を奪われた。



「さて、再会を喜ぶのも後だ。ニル、早速だがやるぞ」


「OKだマスター!」


「エヴォルト!!」



紅哉は虹の翼を持つ龍へと変化すると朱音を見た。



「朱音さん、今の俺じゃエヴォルトを余り使いこなせない」


「分かった。方角と軌道修正はあたしに任せて」


「紅哉、どこで迎撃するのですか?この山にいては私達もろとも東京に叩きつけられてしまいます」


「迎撃なら大丈夫だ。ここに来るときに迎撃する場所は決めてある。とりあえずそこに行こう。サクソン、リアと朱音さんを乗せてくれ」


「分かった。二人とも」



サクソンに朱音とリアが乗った事を確認した紅哉はサクソンを連れて雪山を飛び去った。



「朱音さん、舞香とは?」


「あ、呼べたよ!すぐに座標割りだしたら行くって言ってた」


「了解。皆!急ぐぞ!」



紅哉は更に速度を上げるとサクソンもそれに合わせて速度を上げて雲一つない空を飛んで行く。



「紅哉、まさかここで?」


「あぁ、ここでだ。ここなら山を迎撃できる一番の場所だし、何より人が来ることはない」



紅哉達がいる場所は東京タワーだった。

既に山は空中に浮かび始めており、ここにいても山の響きが聞こえてきた。

恐らく下では人々がざわついているだろう。



「お兄様……」


「来たか」


「話はリアから聞いたよ……へぇ…これが…」



転移術式で紅哉の隣に魔法陣を描いて空中に着地した舞香はサクソンを興味深そうに見ていた。



「いいか、今から俺達はあの山に向けて全力の一撃をかます!舞香、そのためにはお前の龍が必要になる!制御頼むぞ!」


「分かった………後で政府に怒られるけど、まぁいいや………皆おいで…」


「サクソン、足場をお願いします」


「うん、わかった」



サクソンが羽ばたくと空中に巨大な氷の床が出来上がる。

それと同時に舞香が解放できる全ての龍が召喚された。



「うははは!すげぇ祭りだな!!」


「ん~!全員集合ってわけね!」


「久しいな、紅哉よ」


「全力で行きます」



グリンデル、ヴリトラ、アジダハーカ、リヴァイアサンが顕現し、浮き上がる山を睨めつける。



『相当たる顔ぶれだな。昔は敵だったが、今は味方。これほど心強い味方はいないな』


『だな。やるぞニル!』


『おう!』


「私も……微力ながらやる…」



舞香は杖をくるくると回して杖にエーテルを込めはじめた。



「皆!準備はいいか!!」


「はッ!こっちはいつでもいけるぜ!」


「いいわよ紅哉!」


「いつでも来い。我の力見せてやろう」


「紅哉、指示を」


「お兄様……私はもう行けるよ…」


「紅哉、準備出来てる」


「紅哉君!」



皆の視線が紅哉に集まっていた。

そして紅哉は声を張り上げる。



「皆行くぞオオオオオオオオオオ!!!」


「クレイジーブレス!!」


「プリズンブレス!!」


「カーズブレス!!」


「ハドロンブレス!!」


「エンシェントブレス!!」


「1……2……アイス…オブ…ヘイム…!」


「スーパーノヴァアアアア!!」



グリンデル、ヴリトラ、アジダハーカ、リヴァイアサン、サクソン、舞香の最上級氷結魔術、紅哉の全ての技が同時に山へと放たれた。



「軌道修正は任せてね!カオスブレス!!」



制御しきれなかったスーパーノヴァが中心点からずれた瞬間朱音の大剣から黒炎のブレスが放たれてスーパーノヴァと拮抗させることで軌道を修正させた。


そして全員の攻撃が山に命中すると―――――………


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオン―――――!!!


熱風やら色々な余波がこちらまで届いてくる。

キノコのような爆発が起きた山は木端微塵に―――――――なるはずだった。



「嘘だろ!?」


「山一つ吹き飛ばせないとは……山の主め…」



紅哉の驚愕にアジダハーカが忌々しげに呟く。



「紅哉!このままじゃ止められないわよ!」


「分かっている!でも、今ので力を使い果たしてしまった!」


「お兄様が遭難したのがここで響いたね……どうしよう………あと一歩なんだけど…」


「我が主、私たちだけでもやるべきでは」


「そうだね……皆もう1回お願いね…」



そして舞香の指示でリア達がもう一度ブレスを放つ。

そこで紅哉は気付いた。何故山が壊れないのか。



「まさかあいつ障壁を張っているのか!?」


「むむ……それは厄介…でも、もう少しで壊れる…」



舞香達も最後の力を振り絞ってブレスを照射し続けていた。

しかし、あと一歩。あと一歩届かない。



「くそ!このままじゃ東京が!」



自分のエーテル不足に嘆く。

誰か、あと一人自分に匹敵する力を持つ者が代わりにあの山に向けて最後の一撃を加えればそれで終わる。



『誰か!頼む…ッ!頼むッ!』



祈る気持ちで紅哉が目を閉じたその時だった。



「あれ……あの影は誰…?」



紅哉が目を開けた瞬間、視界の端で黒い霧を纏った物体が舞香達に加勢するようにブレスを放ったのである。



「まさかあれはお母さんの……?」


「お母さん?」


「あ!いや何でもない!」


「おい舞香!壊れるぜ!!」


「うん…!皆最後の一押し行くよ…!」



紅哉の問いに朱音は何でもないと言って手を忙しなく振り、舞香はグリンデルの声で術式に最後の力を込めた。


そして遂に――――――――山は崩れた。

地上に破片が落下する事がないよう舞香達は塵すらも蒸発させるつもりで抜け目なく、最後まで力がある限り魔術とブレスを照射しつづけた。


山の主の生など、確認するまでもない。



「やった…のか……?終わったんだよな…?」


「やった!やったよ紅哉君!やったー!」



子供のようにはしゃいで紅哉に抱きつく朱音に対し彼は放心状態で現実をまだ受け入れる事が出来なかった。



「ふぅ………疲れた…皆お疲れ様…」


「はっはっは!なかなか楽しかったぜ!」


「まったねー!紅哉、舞香!」


「では、我らは去るとしよう」



グリンデルは高らかに腕を組みながら。ヴリトラはご機嫌なのか長い尻尾を振って。アジダハーカはいつも通りそれぞれ冥界に帰って行った。



「やりましたね、我が主舞香」


「うん……リアもお疲れ様…」


「終わったんだ……本当に私はこれから自由なんだ……」


「サクソン?」



やっと現実を受け入れる事が出来た紅哉達が盛り上がっているその端でサクソンは困惑した表情で跡形もなく消えた山を見ていた。



「あのね、私がなんで幻の龍って言われているか知っている?」


「それは誰も見たことがないからだ」



ユニゾンを解いたニルが腕を組みながら紅哉の隣で答えた。



「正解。おかしいと思わない?永遠に等しい月日を生きる龍が誰も私の姿を見たことがないって」


「確かにそうですね。アジダハーカ達も初めて見るようでしたし」


「私は幻の龍サクソン。伝承のみに残る龍でいなくちゃいけない。それに邪龍王たちの姿が人々の目に晒されてしまった」


「あ……私のユニゾンは秘密なんだった…」



サクソンはリアの勘ぐる視線を避けて自分の話しを続ける。



「世界に2体しかいない龍がこんなに多くいたらまずいでしょ?」


「そう…だな……」


「なるほどな」



そこでニルが納得した表情で言った。



「オレ達の記憶を消すつもりか」


「え…?それ本当…?」


「消せる…のか……?」


「うん。私はこれからも幻の龍でいなくちゃいけない」



この時朱音は自分の謎にやっと回答を得ることが出来た。


何故自分はこの龍を知らなかったのか、何故自分はあの山の存在を知らなかったのか。

答えは実に簡単だった。

つまり、紅哉達はサクソンに記憶を消されたままで、あの山は龍たちのブレスで消し飛んでしまって山ではなくなったという事だったのだ。

確かに出来事はあった。

しかし、未来永劫サクソンに出会う事もなく紅哉の人生は終わって真実は闇の奥深くと言った所だったのだろう。



「それじゃ、余り長くいると未練が残っちゃうから皆の記憶を消すね……」


「あ、会えるよな!?またお前に会える日が来るよな!?」


「うん。あなたが私を必要とした時、きっとまた会える」


「バイバイ……」


「達者でな、サクソン。マスターとオレを助けてくれてありがとう」


「私からも礼を言います。あなたがいなかったら紅哉は死んでいた」


「バイバーイ!また会おうね!」


「はい。では、皆さんさようなら」


『こうして話が続いて行くんだ……でも、未来は変わってきている。もし、もしサクソンがまたお父さんの前に姿を現す時が来るとしたらそれは……いや、憶測だけで述べちゃダメだよね…』



朱音はサクソンが去って行った空を見ていた。


そしてその日、季節外れの綺麗な雪が東京に降り注いだ。


天気予報では大袈裟な事を言っていたが、別にそこまで気にする事ではないだろうと紅哉は軽い気持ちでテレビを見ていた。


何故か昨日東京タワーの中の通路で倒れており、駆け付けた警備員によって保護された紅哉達は何があったのか分からず病院で軽い検査を受けて、迎えに来たセレナの車で家に帰った。

どうやらここ2日か3日の記憶が曖昧になっているようで、それは舞香も朱音もリアもニル達も同様だった。


なんだかモヤモヤした気持ちで過ごしていると、ふとポケットに違和感を覚えてズボンのポケットに手を伸ばす。



「あれ、洗濯物出したときに取り忘れたか…?ティッシュじゃないと思いたいが」



取り出した物は紅哉の手の平に収まる程度の青く輝く綺麗な鱗だった。



「なんだこれ……?どこかで見覚えがあるような…懐かしい感じがする。ニル、なんだかこれ分かるか?」


「いや、分からんな。ふむ……龍のような鱗だな。だが、オレの知り合いにそんな鱗を持つ龍はいないぞ」



紅哉の膝の上でゲームをするニルに聞いても分からないと言った。

龍族のニルがそう言うのであればもはや探す手がかかりなしだ。


紅哉はしばらく鱗を眺めていると龍一を呼んだ。



「どうしたんですか?」


「龍一さん、これどこかに飾れないかな」


「おお…綺麗な鱗ですね。では、すぐに手配しましょう」


「頼む」



紅哉は鱗を龍一に預けると何かがいた気がして庭に視線を移した。



「なッ!?」


「ん?どうかしたか?」



目をこすって再び庭を見ると、そこにはいつも通りの庭が広がっていた。



「何もいないじゃないか。何に驚いていたんだ?」


「い、いや、今そこに青い龍が…」


「はぁ?何を言っているんだ。誰もいないじゃないか。それに龍がもしいたとしたら反応するのはオレの方が早い」


「だ、だよな……気のせいか」



彼が見た光景は、庭に氷のような美しい龍が穏やかな表情でこちらを見ていたのだ。

だが、次の瞬間にはいなくなっており、紅哉はここ最近記憶が曖昧な事から自分は疲れていると判断した。



「お、おいニル!」


「またなんだ……む?」



嫌そうな目をして再び庭を見たニルは目を見開いた。



「雪…か?」


「雪だ!」


「おいおい、6月に雪は降るものなのか?」


「いや、それはないと思うが、綺麗だな。こんないい天気に雪が降るってのも悪くない」


「それは同意だな。珍しいものが見れたじゃないか」


「そうだな。今度冬になったら皆で雪合戦でもしようか。ここは山だし、結構雪は積もるはずだ」


「いいなそれ。チーム戦でやったらなかなかに面白そうだ」


「だろだろ!でな、罰ゲームもつけて―――――」



楽しそうに会話をする紅哉とニルの会話を聞いていたサクソンは、青空に紛れるようにゆっくりと飛んで行った。


今日もサクソンは東京の街を飛ぶ。

ここは人知れず3人の龍人と5体の同胞が集った奇跡の街。


彼女がいた時間は幻となって消えた。

しかし、彼女だけは忘れない。彼らが守ろうとした英雄の勇姿を――――………。

外伝シリーズの一つ目!氷山の奇跡無事完結です!

いや~長かったような短かったような。あ、長いってのは更新が長く待たせてしまったという意味で、短いのは話的な長さですね、はい。

いかがだったでしょうか。結構強引な部分もあったと思いますが、やり遂げた感はそれなりにあります…w

私自身世界に伝承として残っている龍は結構な数いると思うんですよね。まだまだ知られていないだけでマイナーな龍だったり、名無しの龍だったりと多いと思います。

まぁ創作なので、こんな龍がいたら面白いだろうな、という人がいれば無限に伝承は広まっていくわけです。

私が結局言いたいことは、こんな龍いたっけか?という名前が出てきてもツッコミを入れてはいけない!という事ですよ!(迫真

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