外伝 氷山の奇跡7
「クキャアッ!」
「むッ!?」
リアが吠えると山の主の身体が凍てつき、動きを完全に封じ込める。
そこへ巨体を生かした高速スピンで尻尾を振り回して氷漬けになった山の主ごと吹き飛ばす。
「なかなかやるようじゃの。だが、ここはわしの縄張り。力などいくらでも取り込めるわ!」
すると、地面の雪が山の主に集まりだし、その力はみるみる膨れ上がって行く。
『我の汚染を使いたいとこだが、使えばこの山は生き物が棲めぬ地になってしまうな…』
『ここは私に任せてください。あなた達に毎回頼っているようではニルに笑われてしまう』
「キャアアアアアアッ!!!」
リアは天へ雄叫びを上げる。
それは天候の変化を告げる雄叫び。雪を降らしていた雲は段々色が濃くなり、辺りは夜に近づいていくようなに薄暗くなる。
そして――――――――――ピシャアアアンッ―――!
突然轟雷と豪雨が山に降り注ぎ始めたのだ。
取り込んでいた雪が吸収されなくなり、山の主は天を仰いでからリアを睨んだ。
「おぬし、天候も操るのか」
「一介の魔物如きに私の伝承を理解出来るとは思いありませんが、これでも私は神に創られた龍です。天候支配など容易い」
地に落ちた雨は厚い雪に染み込んでいき、それはシャーベット状へと変わる。
「いつもは舞香に力を止められていますが、ここならば存分に力を発揮することが出来る」
地面の雪が幾重にも持ち上がり、それは一瞬で水へ変わる。
水はリアの頭上に集まる。これは轟津波ではない。全く別のリアが普段使わない技である。
「ゴウウウウウウウッ!!!」
リアは低く唸ると、青い閃光が視界を染めた。
「ゴボッ!?な、なんじゃこれはッ!?」
山の主が目を開けると、そこは水の中だった。
荒れ狂う水の中に放り出され、何がなんだか分からない。
「ガアアッ!」
水中で何か青く煌めく光が一瞬見えたと思うと、次の瞬間とてつもない威力のブレスがその身に届いた。
それは立て続けに四方八方から襲い掛かり、山の主は対処法が分からず食らいつづけた。
「ゴボゴバァッ!?」
「固有結界と似ていますが、そこまで強力なものではありません。ただ一時的にあなたを水の結界に押しとどめているだけ。ですが、水龍は水があってこそ真価を発揮する!」
巨体に似合わず高速で動くリアを捉える事が出来なかった。
雪を取り込んで力は上がったものの、こうも立て続けにくらい続ければこちらが確実にダウンする事は目に見えていた。
「おおおおお!」
山の主は拳に大きな氷の塊を作り出すと、それを誰に当てる訳でもなく投げる。
「コオオオオオ―――――………!」
口に水ごと飲みこんで、体内の氷のエネルギーに即座に変化させる。
そして口いっぱいに蓄えると、山の主は水中を浮遊している氷塊へ氷のブレスを吐き出した。
「こいつでどうじゃあああ!」
氷塊にブレスが当たると、それは花が咲いたように水を一瞬で氷漬けにしていった。
バキバキバキッ――――!
まるで夢から覚めるかのように目を開けると、そこは先ほどまでいた雪山だった。
「まさか私の結界を破るとは」
「そんな結界でわしを封じることなど出来んわ」
「まぁそれで倒せたら苦労はしません」
リアは再び雄叫びを上げると、10本の首の額にそれぞれ水で出来た角が出来上がる。
まるでユニコーンのような角を作り出したリアは山の主目掛けて突進した。
「ぬお!」
五月雨のように繰り出される角の突きは山の主をどんどん後方へおいやる。
だが、ただおいやられるだけで済まない。
「せい!」
時々突きを見切っては頭に拳が振り下ろされるのだ。
第三者から見ればリアが押しているように見えるが、押されているのはリアの方だった。
あちらも巨体だが、こちらは10本の首持ち。どちらが遅いかと言えば圧倒的にリアの方であり、相手の攻撃を避けるという選択肢を彼女は持ち得ていない。
「く……ッ!」
「ぬあっはっはっは!冥王龍とはそんなものなのか!拍子抜けじゃのう」
拳で殴り飛ばされ、後方へ下がったリアは悔しげに山の主を睨む。
轟津波で蹴りを付けたいとこだが、それは無理だろう。
まずあの巨体を呑み込んだとしても倒すまでには行かない。
今のリアは決定打に欠けていたのだ。
久しぶりの更新である外伝ですね。そろそろメインにもかかわってくる時期になってきましたので、急いでアップです。




