ー13ー
一狩りどころか、文字通り山程のモンスターを狩ってテーベリスのギルドに戻った深月たち。
ギルドで待っていたのは、ちょっとしたお祭り騒ぎだった。
「よぉーし、それじゃあ、納品といこうか!」
買い取り窓口の前で、ハキムが腕まくりをして張り切っている。
持ち帰った素材の量が尋常ではなかった。
運搬用にネルの背を借り、それでも載りきらなかった分を皆で抱えて、ようやく運び込んだほどだ。
その仰々しい様子ににギルドにいた他の冒険者たちが、何事かと集まってくる。
「まずはこれだ! ムシュフシュの革と角と鉤爪、しめて十七体分!」
ハキムが袋から取り出した素材を、一つ一つ、これ見よがしに高々と掲げてみせる。
「十七体だと!? あの素早くて厄介なムシュフシュをか!?」
「十七はかなり多い群れだな、それだけ統率力のあるリーダーが率いていただろうに」
どよめく冒険者たち。ハキムはその反応に気を良くしたのか、ますます芝居がかってくる。
「まだまだ! お次は、サンドデスワームの牙と、外皮ぁ!」
「うおおっ、あの砂漠の暗殺者を!?」
「ロック鳥の風切羽まであるぞ!?」
一枚、また一枚と素材が積まれるたびに、歓声が上がる。まるで大道芸の口上のようだった。
「……なあ、あのおっさんめちゃくちゃ楽しんでね?」
少し離れた場所から、深月たちはその様子を眺めていた。
「ですね、よくやりますよ。すっかり主役を奪われてしまいました」
アレンが深月の隣で微笑ましそうに。
ハキムの当のパーティメンバーであるサティとシェドは、慣れているのかやれやれといった顔で見守っていた。
「狩ったのはほとんどうちの連中だろーに」
深月は苦笑する。実際に汗をかいたのはレーベやネルであって、ハキムは解体を担当しただけである。だがまあ、こうして景気よく捌いてくれるなら、それはそれで気分がいい。
「そして……ご覧あれ! 本日の目玉! サンドドラゴンの、鱗と爪だぁーっ!」
ハキムが一際大きな素材を、頭上に掲げた。
「「「サンドドラゴンだとぉーっ!?」」」
ギルド中が、爆発したように沸き返る。
「あのサンドドラゴンか!? 嘘だろ!?」
「あれを狩れる冒険者なんて、この国に何人いると思ってやがる!」
「おいおい、あそこにいるモンスター娘の嬢ちゃんたちは化け物か!?」
「『優者』ぱねぇー!!」
「ギルタブリルぱねぇー!」
もはやお祭り騒ぎである。アレンと深月一行に向けられる視線が、畏怖と、興奮と、羨望でぎらぎらと輝いていた。
「……ちょっと、いい気分だな、これ」
「はい? 何かおっしゃいましたか深月様?」
「いや、なんでもねぇ」
深月はこほんと咳払いをして、澄ました顔を作った。
――――ボクの僕たち、つえー!
内心では、そりゃあもう、鼻高々である。
自分が戦ったわけでもないのに、なんだか誇らしい。
このじわじわ湧いてくる優越感を、深月はこっそり噛み締めていた。できるだけ表情には絶対に出さないけれども。
「まぁまぁ、みんな落ち着け! ……まだだ、まだ騒ぐ時間じゃない」
ひとしきり場を盛り上げたハキムが、にやりと笑って、勿体ぶるように声を潜めた。
「実はまだ、とっておきがあるのさ」
これ以上何が出てくるというのか。固唾を呑む一同。
ハキムはたっぷりと間を取ってから、深月の後ろのレーベを振り返った。
「あねさん! 出しちまってくだせぇ!」
「……私か?」
あねさん呼ばわりに一瞬眉を上げつつも、レーベはおもむろに着ている学ランのポケットへと手を入れた。
そして取り出したのは、拳ほどの大きさの、透き通った青い結晶。
その内部で光がゆらめき、脈打っている。
「…………」
一瞬、ギルドが静まり返った。
誰もが言葉を失い、その結晶に釘付けになる。
そして次の瞬間。
「「「うおおおおおおおっ!!!」」」
悲鳴のような歓声が爆発した。
「宝玉だ! サンドドラゴンのっ、宝玉だぞ!!」
「見ろよあの大きさ! あの澄み具合を!」
「濁りがまるでねぇ……! こんな上物、見たことねぇぜ!?」
宝玉。
上級モンスターがその体内で魔力を凝縮し、精製する、魔力の結晶。
特にこのように澄んだ状態のものは、途方もなく貴重である。宝玉は戦いで魔力を消耗すればするほど、濁り、輝きを失っていく。つまりこの一片の曇りもない宝玉は、サンドドラゴンが魔力を消費する暇すら与えられず、ほぼ一瞬で仕留められたことの動かぬ証だった。
「あんな上物の宝玉っ、いったいいくらの値がつくんだ……!」
「下手すりゃ三、四回は人生遊んで暮らせるぞ!」
興奮した冒険者たちの視線がいよいよ熱を帯びる。
そんな中深月は。
「……ふへっ」
もう澄まし顔を保つのも限界だった。
自分を慕ってくれるみんなが褒めそやされている。自分の仲間がこれだけの人間を熱狂させている。その事実がたまらなく心地いい。
そうなのだ、本当はレーベもアイリスもネルも蘭もみんなボクにはもったいない程すごいのだ。
込み上げる笑みを深月は必死に噛み殺した。
「まぁ、みんな、落ち着きな」
ハキムが宝玉を大事そうに受け取り、掲げながら、周りの冒険者たちを宥めた。
「言っとくが、こんな上物、ギルドの買い取り窓口なんかじゃ捌ききれんだろうよ。……こいつは貴族や王族を相手にするような、大商人にでも査定してもらおうと思ってる。後日、いくらで売れたかちゃーんと発表会をやってやるからよ! 結果を楽しみにしときな!」
「えー!」「もったいぶるなよ!」
冒険者たちから、軽いブーイングが飛ぶ。ハキムは、それすらも楽しむように、はっはっはと笑っていた。
「――いや。それは、ダメだね」
と、その時。
人混みを掻き分けるように、けだるげな声とともに、キセルの紫煙が漂ってきた。
ここテーベリスのギルド支部長、アーザードだった。
「支部長!」
「その宝玉は、うちで買い取らせてもらうよ」
「貴女が望むなら喜んで、支部長!」
ハキムが条件反射で即答してしまう。
「「ハキム!?」」
パーティーメンバーであるサティとシェドが、揃って声を上げた。
「それ、私たちの宝玉じゃないですよね、勝手に決めないでください」
「……あまりに短慮」
「い、いや、そのぉ……つい、支部長の頼みだと、体がぁ……」
仲間の二人に詰め寄られ、ハキムがしどろもどろになっている。よほどこの支部長にお熱らしい。
確かにアーザードは美人だが、果たしてリザードマンから見てもそうなのだろうか。などと詮無きことを考えてしまう。
「なあ支部長さん」
深月が割って入った。
「なんでわざわざ、ギルドが出張ってくるんだ? ボクたちとしたら、そりゃあ大商人に売った方が高く売れるんじゃねーの?」
「それなんだけどね」
アーザードは、キセルを一つふかした。
「実はね、最近、この国の上からお達しが出てるのさ。……『竜種の宝玉が手に入ったら、必ず、神殿に奉納すること』ってね」
「神殿に?」
「そうさ。理由は教えちゃくれないよ。ただ神殿の意向だから、逆らうわけにもいかなくてね」
彼女は肩をすくめた。
――神殿。竜種の宝玉。
深月は以前、リーカーシャの王城に別のドラゴンの宝玉を持っていったことを思い出した。
その時は結局会えずに終わったが、ウェルター魔導将軍という国の重鎮に、アポ無しで会える程の代物だった。
……もしかしたらこれ。調査の、とっかかりになるかもしんねぇな。
深月はちらりとアレンを見た。
アレンも同じことを考えていたのだろう。小さく頷いてみせた。
「……わかった。じゃあその宝玉はギルド経由で神殿に奉納してくれ」
「おや、いいのかい? 言っておくが商人に売るよりだいぶ安くなるよ」
「しゃーねーよ。金より優先しないといけないもんがあるからな。ただし不快感を与えないようにめちゃくちゃ恩着せがましく、できるだけこっちに感謝して、貸し1ぐらいの負い目を持つ様に、言っといてくれたら」
「そりゃあ無理難題だね」
この宝玉を神殿に納めれば、間違いなく神殿の覚えもよくなる。もしかしたら今後の調査への足がかりになるかもしれない。今は目先の金よりも、そっちの方がよっぽど価値がある。
「任せときな、相手の貸しに付け込むのは得意さ」
アーザードは楽しそうに笑っている。
こうしてサンドドラゴンの宝玉は、相場よりずっと格安で、ギルドを経由し神殿へと奉納されることになった。
せっかく貴重なな宝玉も使ったのだ、少しでも調査が進むといい。
そう願いながら深月たちはその日は解散したのだった。




