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ー10ー

 


「そうだ、忘れるところでした」


 串焼きを食べ終えたアレンが、思い出したように背負っていた大量の荷物を、どっこいしょと地面に下ろした。

 その中からひときわ大きな木箱を取り出した。


「深月さんにお届け物です」

「お届け物? ボクに?」


 深月は首を傾げながら、その箱を受け取った。

 ずしりと重い。何が入っているのやら。


「わざわざ運んでくれたのか。悪いな、サンキュー」


 礼を言いつつ深月が箱の蓋を、ぱかりと開けた。


「んにゃあああーっ!!!」

「うおっ!?」


 開けると同時に中から、金色の毛玉が勢いよく飛び出してきた。

 それはまっすぐ深月の顔面めがけて跳躍し、ぺたりと、張りついて離れない。


「ノエル!? お前、なんでここに!」


 顔にしがみついた子猫は、よくも置いていったな!と言わんばかりにぐりぐりと頬をこすりつけてくる。

 留守番を寂しがっていたのか、その甘え方はいつにも増して必死だった。


「うにゃ〜んっ!」

「わっ、わかった、わかったから! なんもわからんがわかったから、顔から離れろって!」


 嬉しいのは嬉しいが、いかんせん前が見えない。

 深月がノエルと格闘していると。

 箱の中から、さらに、ぞろぞろと。


「はこんでくれて、さんがつやで」

「われわれを、おいていくのは、おかしい」

「こんなことは、ゆるされない」

「これは、きょういくやろなぁ」

「けつなあな、かくていや」


 頭に葉っぱの生えた、薄紫色の3頭身の連中が次々と這い出してきた。

 マンドラゴラーズである。


「お前らまで来たのかよ!?」

「あー……。それがですね」


 アレンが疲れた顔で事の経緯を説明する。


「子猫はともかく、こちらのマンドラゴラの皆さんが……その、宿で、色々とやらかしたようで。宿の主人が『こんな謎生物を一方的に押し付けるとか、宿屋なめてんのか』と、それはもう大変な剣幕でギルドに苦情が来まして」

「あー……。うん、ごめん、ボクが悪いな」


 こんな自由奔放な謎生物ども、他のお客さんの迷惑にしかならない。


「それで仕方なく、オレが引き取って一緒に連れてきた次第でして……」

「ホント、うちの連中がすまん……」


 深月はアレンに頭を下げた。この苦労人にまた余計な手間をかけさせてしまった。


「まあ、来ちまったもんは仕方ねぇか。おら、お前らも一緒連れていってやるから大人しくしてろよ」

「「「よろしくにきー!」」」


 マンドラゴラーズは、悪びれもせず、嬉しそうに頭上の葉っぱをうねうねさせている。


「ネル、悪ぃんだけどこいつら箱ごと背中に乗せてってくれるか? ネルの背中なら安定するだろ」

「イイヨー。ニギヤカニナルナー」


 こうしてマンドラゴラーズを乗せた箱は、ネルの広い背に括りつけられた。

余計な荷物が増えたが、置いていってもそれはそれで心配になるし。

なんなかんや大所帯になってきたな。

 頭上に乗ったままのノエルの温かい体温を感じながら、深月は苦笑した。

 不思議とこの子猫を置いていかずにすんで、妙にほっとしている自分がいる。



 ◇



 オアシスを発ち、さらに砂漠を進むことしばし。

 ついに一行は目的地へと辿り着いた。


「すっげぇ……!」


 砂漠の彼方に忽然と現れたその都市を見て、深月は、感嘆の声を漏らした。

 ラシュダールの首都、テーベリス。

 灼熱の砂漠のただ中とは思えぬ、活気に満ちた大都市だった。

 黄土色の日干し煉瓦で組まれた家々が、幾重にも折り重なるように立ち並ぶ。その合間を縫うように、涼を取るための背の高い風の塔がそびえ、街のあちこちで水路が陽光をきらめかせている。乾いた土地でありながら、人々は水を巧みに引き、緑を育て、逞しく暮らしていた。

 通りには色とりどりの天幕を張った市場が広がり、香辛料や織物、見たこともない果実が所狭しと並べられている。呼び込みの声、値切る声、笑い声。むせ返るような熱気と活気。

 そして、何より深月の目を引いたのは、その光景に当たり前のように、モンスターが溶け込んでいることだった。

 荷を積んだダブダブがのっそりと通りを行く。翼の生えた小さな竜のような生き物が、子供たちと戯れている。鱗を持つ亜人が、露店で果物を売っている。人とモンスターが、何ら隔てなく同じ街で同じ時間を生きている。


「……これがモンスターと共に生きる国か」


 しみじみと呟いく。

 リーカーシャでは決して見られなかった光景。レーベやネルたちを連れて歩けば、遠巻きに恐れられ避けられた、あの空気がここにはない。

 物珍しそうにこちらを見る視線はあれど、そこに畏怖や敵意はない。ただ「見慣れない旅の一行だ」という、素朴な好奇心があるだけ。

 

「感動しているところ申し訳ないんですが、深月さん」


 深月がしばらく、人とモンスターが交差する街の光景に見入ってしまっていると、アレンが微笑ましそうに声をかけてくる。


「まずはここ、テーベリスのギルドへ向かいましょう。昇級に関するクエストの詳細を聞かないといけませんから」

「あ、そうだったな。よし行くか」



 街の中心近くにあるギルドは、これまた砂漠の国らしい佇まいだった。

 白い石壁に、涼しげな青い装飾。入り口には日差しを遮る大きな布が張られている。中に入るとひんやりとした空気が火照った体に心地よかった。


「いらっしゃいませ。ようこそ冒険者ギルド、テーベリス支部へ」


 受付にいた褐色の肌の美しい受付嬢が、にこやかに出迎えてくれる。


「すみません。少しお伺いしたいのですが」


 アレンが慣れた様子で用件を告げると、受付嬢の表情がぱっと明るくなった。


「もしやあなたが、『優者』アレン・ルクランシェ様ですか! お噂はかねがね。本部より話は伺っております。あなたほどの御方が、この国のクエストにお力添えくださるとはなんと心強い!」

「いえ、そんな。オレはあくまで付き添いですよ」

「ご謙遜を! ただいま支部長にお繋ぎいたしますね。どうぞ、こちらへ!」


 受付嬢は興奮した様子で深月たちを奥へと案内した。

アレンの名声はこの国にまで轟いているらしい。

流石最高のAランク冒険者。


「アレン、有名人じゃん」

「……こういうの、あまり得意じゃないんですけどね」


 照れくさそうに頭をかくアレンに、深月はくすりと笑った。



 通されたのは一番奥の支部長室。

 その扉を開けた瞬間、深月は思わず面食らった。

 部屋の主は女だった。それも匂い立つような色香を纏った、妖艶な美女。

 褐色の肌に、際どいところまで開いた露出の多い衣装。長い脚をゆったりと組み、片手に持った長いキセルをけだるげにふかしている。

紫煙の向こうで、切れ長の瞳がこちらを値踏みするように細められた。


「久しぶりだねぇ、『優者』。あのつまらない会議の席以来かい」

「お久しぶりです、アーザード支部長。お変わりないようで」


 どうやらアレンとは旧知の間柄らしい。


「相変わらず優等生ぶった喋り方だねぇ、あんたは」


 彼女は、ふう、と紫煙を吐き出すと、その視線を深月へと移した。


「で。そっちのが――例のガキかい」

「はい。こちらが、これからXランク昇格を目指す、 深月さんです」


 紹介され、深月は「どうも」と、軽く頭を下げた。

 アーザードと呼ばれたテーベリスの支部長は、キセルを咥えたまま深月を上から下までじろじろと無遠慮に眺め回す。品定めするような鋭い視線。


「……ふぅん」


 そして深月の後ろに控える使い魔たちへと、品定めの目を向けた。


「ベヒーモスに、ノーライフキング……ねぇ。にわかには信じがたい話だが」


 その瞳がネルの姿を捉えて、止まる。


「砂漠の覇者、ギルタブリルまで従えてるとなると。あながち与太話と切り捨てるわけにもいかないかねぇ」


砂漠のAランクモンスターである、『ギルタブリル』のネルには姿は、やはり見過ごせないようだ。

 と、アーザードの視線が、ネルの背に括りつけられた箱の中の、紫色の集団を捉える。


「……ん? あっはっは! なんだい、そのちんちくりんどもは」

「んごーーっ!?」「なにわろ、てんねん」「だれが、ちんちくりんやー」「つらいです」「つらげ」


 ちんちくりん呼ばわりされたマンドラゴラーズが、葉っぱを逆立てて一斉に憤慨する。


「こりゃー、面白い連中じゃないか!」


 そんなマンドラゴラたち様子がさらにつぼにはいり、アーザードは腹を抱えてしばらく豪快に笑い。


「神獣に、不死王、獣人、砂漠の覇者。かと思えば、こんな珍妙なおもしろ生き物どもまで。……はっ、本当に愉快な仲間を連れてるじゃないか、ガキ」

「うっさい。悪かったな、統一感がなくて」

「いやいや、実に気に入ったよ」


 にやりと笑ってキセルの灰を落とした。


「あたしは、アーザード・メリト。この街のギルドを預かる支部長さ。……さて、と。挨拶はこのくらいにして、本題といこうか」


 彼女の目つきが真剣なものに変わり、深月たちに向かってぐっと身を乗り出す。


「あんたたちに頼みたいクエスト。それはね――ここ最近、このラシュダールの周辺で起きている、『モンスターの凶暴化』。その原因の調査と解決さ」



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― 新着の感想 ―
マンドラゴラーズ、確かに放っておいたら迷惑だ。 砂漠だし、萎れないか心配ではあるが。 誤字を発見しました。 3章プロローグ 闘い方が上手い下手以前に闘争というもの事態がほぼ初めてだったという印象です…
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