第8話 レイモンド、篝の両親に気に入られる
篝が村の様子を確認しに走っていったあと、
レイモンドはぽつんと取り残された。
辺境の風は冷たく、
遠くで魔獣の咆哮が響く。
空気そのものが王都とは違う。
(……なんなんだ、この村は)
目の前には、
巨大魔獣の死骸の山。
その上で魔石を取り出す母・玲花。
死骸を片手で引きずる父・剛志。
王都の騎士団でも、こんな光景は見ない。
「おーい、そこの兄ちゃん」
剛志が声をかけてきた。
腕にはまだ血のついた大剣をぶら下げている。
「篝の連れか?」
「……はい。レイモンド・フォン・グランツと申します」
「ほう、公爵家の坊ちゃんか。
まあ座れや。話はそれからだ」
有無を言わせぬ迫力で、
レイモンドは丸太の椅子に座らされた。
剛志はレイモンドをじっと見つめ、ふっと笑った。
「……お前、グランツ家の坊主か。
親父さん、元気にしてるか?」
「え? 父を……ご存じで?」
「知ってるどころか、騎士団訓練生時代の親友だよ。
あいつ、昔はよく俺に泣かされてたな!」
「泣かされてたんですか!?」
「おう。弱かったからな!」
(……父上……)
レイモンドの心に、知られざる父の黒歴史が刻まれた。
そこへ、母・玲花がにこにこしながら近づいてきた。
「あなたがレイモンドくんね~?
篝から聞いてるわよ。
“よく分からないけど、いつも見てくる人”って」
「……っ」
レイモンドの心にクリティカルヒット。
(篝……そんな認識だったのか……)
玲花はさらに続ける。
「それにね、あなたのお母様からも手紙が来てたのよ~。
“玲花様の大ファンです! 一度お会いしたいです!”って」
「……母が?」
「そうよ~。
私、昔は王宮魔法士筆頭だったからね。
あなたのお母さん、私の魔法講義を全部聞きに来てたのよ」
(……母上……そんな過去が……)
レイモンドは今日だけで家族の昔の秘密を知りすぎた。
「で、レイモンドくん」
玲花がにこやかに言う。
だが、その目は笑っていない。
「篝のこと、どう思ってるの?」
「……っ!」
レイモンドは固まった。
(いきなり核心……!)
剛志も腕を組み、真剣な目で見つめてくる。
「うちの篝はな、ちょっと鈍いところがある。
強いくせに自覚がねぇ。
だから……守ってくれる男じゃねぇと困るんだ」
「そうそう。
篝は優しい子だから、
自分より他人を優先しちゃうのよね~」
レイモンドは息を呑んだ。
(……分かってる。
俺が一番分かってる)
篝は強い。
だが、心は驚くほど繊細だ。
そして──自分の価値をまるで理解していない。
「……俺は」
レイモンドは拳を握った。
「篝を……誰よりも大切に思っています」
父と母が顔を見合わせる。
「ほう?」
「まあまあ、いい返事じゃない?」
玲花が微笑む。
「じゃあ、篝を泣かせたら──」
剛志が大剣を肩に担ぎ、にやりと笑った。
「**王都ごと叩き斬るからな**」
「ちょっとあなた、脅しすぎよ~。
でもまあ、私も森くらいなら焼くわ」
「…………」
レイモンドは悟った。
(……この家族、敵に回してはいけない)
「レイモンドくん」
玲花が優しく声をかける。
「篝のこと、よろしくね」
「……はい」
「結婚式は王都でやるの?
それとも村でやるの?」
「まだ決まっていません!!」
レイモンドは真っ赤になって叫んだ。
だが、両親はもう確信している顔だった。
「まあ、篝が戻ってきたら話し合いましょうね~」
「お前、覚悟しとけよ」
剛志の言葉に、レイモンドは天を仰いだ。
(いい意味で……外堀が……完全に埋まった……)
そのとき、遠くから篝の声が聞こえた。
「お父さん、お母さん! 無事でよかった!」
レイモンドは振り返る。
篝が笑顔で走ってくる。
その姿を見た瞬間──
レイモンドは静かに決意した。
(……もう逃がさないよ、篝)




