第7話後半 篝、実家の“異常な日常”を思い出す
王都を出てしばらく走ると、
空気が変わった。
冷たく澄んだ風。
遠くから聞こえる魔獣の咆哮。
木々のざわめきが、どこか荒々しい。
──辺境の匂いだ。
馬は全力で駆け、
やがて村の入り口が見えてきた。
だが。
「……え?」
私は思わず馬上で固まった。
村は──
**無傷だった。**
家は壊れていない。
人々は普通に歩いている。
子どもたちは走り回っている。
そして村の外れでは──
「お父さん!? お母さん!?」
私の叫びに、二人が振り向いた。
父は巨大な魔獣の死骸を片手で引きずり、
母はその上に腰掛けて魔石を取り出していた。
「おー、篝。帰ってきたのか」
「ちょうど片付いたところよ~」
母は手を振り、父は笑っている。
レイモンドは絶句した。
「……これが……“片付いた”……?」
父の足元には、
**大型魔獣の山。**
母の周囲には、
**焼け焦げた魔獣の残骸。**
村人たちは慣れた様子で後処理をしている。
(……あ、そうだ。
うちの村って、こういうところだった)
私はようやく思い出した。
「……篝」
「はい?」
「お前の両親……何者だ?」
「え? 普通の村人ですけど?」
レイモンドは頭を抱えた。
「普通の村人が……スタンピードを……
**夫婦二人で沈静化するか?**」
「え? しますよ?」
「しねぇよ!!」
レイモンドの叫びが辺境に響いた。
村人たちは「ああ、またか」という顔で見ている。
「篝、王都から来たのか? 大変だったな」
「ごめんね、心配かけて。怪我は?」
「怪我?するわけないだろう」
「そうよ~。むしろ魔獣の方が可哀想だったわ」
母は笑いながら、魔石を袋に詰めている。
「お前の母さん、ちょっと魔力が暴走してね。
森の半分が更地になった」
「ちょっとじゃないでしょあなた。
あれはあなたが煽ったからでしょ?」
「お前が先に火球を撃ったんだろうが!」
夫婦喧嘩が始まった。
レイモンドは震えていた。
「……篝」
「はい?」
「お前の家族……
**王都の軍より強いぞ……?**」
「え? そうですか?」
「そうだよ!!」
そこへ村人が駆け寄ってきた。
「篝ちゃん、おかえり!
いやぁ、今回のスタンピードもすごかったよ!」
「すごかったって……大丈夫だったんですか?」
「大丈夫大丈夫!
剛志さん(父)が魔獣の群れを真っ二つにして、
玲花さん(母)が森ごと焼き払ってくれたから!」
「森ごと!?」
レイモンドが叫ぶ。
「いやぁ、さすが篝ちゃんのご両親だねぇ。
王都の騎士団より頼りになるよ!」
「やめてくださいよ、恥ずかしいです……」
私は頬を赤くした。
(……あれ?
もしかして、うちの村って……普通じゃなかった?)
ようやく、そんな疑問が浮かんだ。
レイモンドは深く息を吐き、私を見た。
「篝。
お前の“普通”は……普通じゃない」
「え?」
「だから……俺がそばにいる。
お前がどれだけ無自覚でも、
政治に巻き込まれても、
村が更地になりそうでも……」
「更地にはしませんよ?」
「信用できねぇ!!」
レイモンドは叫びながらも、
その瞳はどこか優しかった。
(……心配してくれてるんだ)
胸が少しだけ温かくなった。




