第7話前半 篝、実家の危機に走る
その日の昼下がり。
王宮の控室でシア様と共に書類整理をしていたときだった。
重い扉が勢いよく開き、伯爵家の使いが駆け込んできた。
顔は真っ青で、息は荒く、ただならぬ気配をまとっている。
「篝様! ご実家の村で……スタンピードが発生しました!」
「……え?」
視界が一瞬、白く染まった。
辺境の村は魔獣が多い。
だが、スタンピードは別だ。
**村が消える規模の災害。**
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
「すぐ帰ります!」
椅子を倒しそうな勢いで立ち上がり、
私は駆け出そうとした──その腕を、誰かが掴んだ。
「待て、篝」
レイモンドだった。
その瞳は鋭く、しかし焦りを隠しきれていない。
「俺も行く。殿下、先発隊を任せてください」
控室の奥にいたアレクシス殿下が、すぐに頷いた。
「レイモンドに任せる。篝を頼む」
シア様も心配そうに私を見つめる。
「篝……気をつけて。絶対に無茶しないでね」
(篝、あなたが無茶したら……辺境の村が逆に全滅する気がするから)
シア様は心の中で震えるように呟いた。
「守る必要なんて……」
言いかけた言葉を、レイモンドが遮る。
「行くぞ」
彼は私の腕を離し、すぐに指示を飛ばした。
王宮騎士たちが動き、馬の準備が整えられていく。
レイモンドはなにか言いたそうな篝を無視して、準備のため走り出した。
(篝、お前は放っておくと村ごと更地になる気がする)
レイモンドは辺境村が違う意味で心配だった。
王宮の正門前。
馬が嘶き、鎧の音が鋭く響く。
空気は緊張で張りつめていた。
レイモンドはすでに馬に跨り、私に手を差し伸べる。
「篝、乗れ。急ぐぞ」
「……はい!」
私はその手を掴み、馬に飛び乗った。
王都の空気はまだ穏やかだったが、
胸の奥は嵐のようにざわついている。
(お父さん……お母さん……村のみんな……どうか無事で)
馬が石畳を蹴り、勢いよく駆け出す。
風が頬を切り、視界が揺れる。
王都の門が開き、
私たちは辺境へ向けて走り出した。




