第6話 第一王子派の動きが本格化する
夜明けの王都は、薄い霧に包まれていた。
石畳は冷たく、街灯の魔石はまだ淡く光を残している。
篝が刺客を“瞬殺”した直後──
その報告は、王城の奥深くへと静かに伝わっていった。
そこは、 王城・政務棟 第一王子派の会議室だ。
重厚な扉の向こうでは、
第一王子派の重鎮たちが顔を揃えていた。
「……刺客が失敗したと?」
「はい。第二王子殿下の婚約者シア様を狙った刺客は、
**侍女ひとりに一撃で倒されました**」
「侍女……?」
ざわめきが広がる。
「その侍女、名は──佐伯篝。
侯爵家の侍女で、第二王子殿下の婚約者に仕えている者です」
「侍女が刺客を倒す? 馬鹿な」
「いえ……報告によれば、光が走った瞬間に刺客が沈黙したと」
「魔術師か?」
「魔術師登録はありません。
剣士としての登録もありません」
「では何者だ」
「……“辺境出身”だそうです」
室内が静まり返った。
辺境──
魔獣が多く、戦闘能力が高い者が多い土地。
だが、侍女が刺客を一撃で倒すなど聞いたことがない。
「第二王子派に……そんな切り札がいたとはな」
「いや、切り札というより…… なんといいまですでしょうか」
「どういうことだ」
「侍女本人が“自覚していない”との報告が」
「……化け物か?」
「化け物でしょうな」
重鎮たちは顔を見合わせた。
「第二王子殿下は侯爵家に婿入りする予定だ。
継承権を放棄するとはいえ……
あの侍女が侯爵家に残るとなれば、力関係が変わる可能性が残りますな」
「第一王子殿下にとっては脅威だな」
「……次の手を打つ必要がある」
静かに、しかし確実に、
王都の政治戦は動き始めていた。
その頃、レイモンドは団長室にいた。
「……団長。
第一王子派が動きます」
「だろうな」
ガルド団長は腕を組み、深く息を吐いた。
「篝殿の存在が、政治の天秤を傾けるとはな」
「本人は何も気づいていませんが」
「そこが一番厄介だ」
団長は机を指で叩いた。
「第二王子殿下が侯爵家に婿入りすれば、
篝殿は侯爵家の“戦力”として扱われるだろう」
「……戦力、ですか」
「侍女として扱われる方が不自然だ」
レイモンドは黙り込んだ。
(篝は……戦力じゃない。
俺にとっては、ただの篝だ)
だが、政治はそんな感情を待ってはくれない。
「レイモンド。
篝殿を守れ。
政治に巻き込まれれば、あの侍女は利用される」
「……分かっています」
「お前が一番、彼女を守りたいのだろう?」
「……はい」
レイモンドは拳を握りしめた。
(篝は俺が守る。
誰にも渡さない)
一方その頃、篝は──
侯爵家にある自分の部屋で紅茶を入れていた。
「……ふぅ。
なんか、今日は疲れたなぁ」
紅茶を淹れ、のんびりしていた。
(刺客? あれは……なんだったんだろう)
本人は、政治戦の中心にいる自覚ゼロ。
その無自覚さが、
王都の均衡を大きく揺らし始めていた。




