第3話 お泊りの理由は“刺客”
王都の離宮に到着すると、
白い石造りの建物の前で、第二王子アレクシス殿下が待っていた。
朝の光を受けて、銀髪が柔らかく輝いている。
「シア、よく来てくれた。……篝も」
「お久しぶりです、殿下」
殿下は穏やかに微笑んだ。
だが、その背後に立つ近衛騎士たちの表情は硬い。
空気が張りつめているのが分かる。
「第一王子派が動いた。刺客が放たれたらしい。
今夜はここで泊まっていけ」
シア様が息を呑む。
「そんな……!」
「安心しろ。俺と──」
殿下は横に立つ男へ視線を向けた。
**レイモンド・フォン・グランツ。**
公爵家次男にして、王城騎士団の実力者。
第二王子の幼馴染であり、篝の縁談を潰し続けてきた張本人。
黒い騎士服に身を包み、鋭い眼差しで周囲を警戒している。
その存在だけで、場の空気が一段引き締まった。
「俺とレイモンドが守る。
篝、お前はシアのそばにいてくれ」
「承知しました」
私は静かに頭を下げた。
侯爵家から派遣された侍女二人──
リュミエルとカトレアも控えていた。
彼女たちは表向きは侍女だが、実は王家直属の暗部。
私の実力を知って以来、なぜか**私の命令に絶対服従**になっている。
(……いいのかな、これで)
正直、私は少し困っている。
他にも王宮騎士が二人。
総勢六名で、シア様と殿下が泊まる部屋を警護することになった。
殿下とシア様が籠る部屋は防音魔法が施されており、
私たちは隣室でただ黙って夜を明かす。
離宮の廊下は静かで、
外の庭園からは夜風がそよぎ、木々が揺れる音がかすかに聞こえる。
だが、その静けさが逆に不気味だった。
(……刺客が本当に来るのかな)
胸の奥がざわつく。
けれど、私はシア様のそばにいるだけでいい。
それが私の役目だ。
そう思っていた──その時。
隣室に入る直前、
レイモンドがふとこちらを見た。
鋭い視線。
けれど、どこか心配そうでもある。
「……篝。何かあったのか?」
「え?」
思わず振り返ると、
レイモンドは眉をひそめていた。
「今日、お前……妙に元気がないな」
「そ、そんなことは……」
「隠すな。顔に出ている」
ぐさり。
図星だった。
(……この人、なんでこういうところだけ鋭いのよ)
シア様が横から口を挟む。
「レイモンド。篝のことは後で話すわ。今は任務に集中して」
「……分かった」
レイモンドは短く答え、視線をそらした。
その横顔は、どこか不機嫌そうだった。
(……なんで怒ってるの?)
私は首をかしげながら、
静かに控室の扉を閉めた。




