第11話 篝の両親、王都の政治を物理で終わらせる
侯爵家の庭園は、白い花と魔石灯で飾られ、
婚約式にふさわしい華やかさに包まれていた。
だが、空気はどこか張りつめている。
(……絶対に何か起きる)
レイモンドは篝の手を握りながら、
周囲の気配を探っていた。
篝は緊張で顔が強張っている。
(婚約式なのに……なぜか胃が痛い……)
そんな篝の横で、
父・剛志と母・玲花は完全に“戦闘モード”だった。
「あなた、今日は暴れちゃダメよ?」
「分かってる。
でも強硬派が来たら斬る」
「私は焼くわ」
(やめてくれ……!)
レイモンドは心の中で土下座した。
式が始まって間もなく──
庭園の外から黒衣の影が滑り込んだ。
アレクシス殿下が小さく呟く。
「来たな」
第一王子派の強硬派が放った刺客。
狙いは篝とレイモンド。
黒衣の男たちは、
魔力を抑えたまま篝へと近づく。
(篝、危ない──!)
レイモンドが動こうとした瞬間。
「おっと、そこまでだ」
剛志が黒衣の腕を掴み、
**そのまま地面に叩きつけた。**
地面が揺れた。
「なっ……!?」
刺客たちが驚く間もなく、
玲花が指を鳴らす。
「はい、燃えろ」
**黒衣の足元から炎が噴き上がった。**
「ぎゃあああああああああああ!!」
「大丈夫よ、死なない程度に調整してるから」
(調整してるのにこの威力……!?)
レイモンドは震えた。
刺客たちは一瞬で無力化され、
庭園の隅に山積みにされた。
その様子を見ていた第一王子派の強硬派は、
慌てて逃げようとした。
だが──
「逃がすかよ」
剛志が一歩踏み出すと、
**地面が割れた。**
強硬派の貴族たちは尻もちをつき、
そのまま動けなくなる。
「ひっ……!」
玲花が優雅に微笑む。
「あなたたち、王都を混乱させて楽しかった?」
「ひ、ひぃ……!」
そこへ、アレクシス殿下と第一王子が現れた。
「……わたしの派閥が、ここまでとは」
「兄上、あなたの派閥の管理不足だ」
兄弟が言い合いを始めた瞬間──
「はい、そこまで」
玲花が二人の頭を同時に叩いた。
「いっ……!」
「痛っ……!」
王族二人が同時に頭を押さえる。
玲花は腕を組み、
完全に“母親の顔”になっていた。
「あなたたちねぇ……
王族がこんなことで喧嘩してどうするの。
国民の前で恥ずかしいと思わないの?」
「……はい」
「……すみません」
アレクシスも第一王子も、
完全に子ども扱いされている。
(……なんで王族が怒られてるの?)
篝は呆然とした。
そこへ、優雅な足取りで王妃が現れた。
「玲花。久しぶりね」
「王妃様!」
玲花は嬉しそうに駆け寄る。
「あなたの娘さん、立派に育ったわね。
……でも、あなたに似て強すぎるわ」
「まぁ、お互い様よ?」
二人は親友らしく笑い合う。
王妃は王子たちを見てため息をついた。
「あなたたち、玲花に叱られたのね」
「……はい」
「……すみません」
(王妃まで味方……!)
レイモンドは悟った。
(篝の家族……王都最強じゃないか……)
刺客は全員捕縛。
強硬派は全員拘束。
王族は説教済み。
庭園は再び穏やかさを取り戻した。
レイモンドは篝の手を握り、
小さく呟いた。
「……篝。
お前の家族、強すぎる」
「え? 普通ですよ?」
「普通じゃねぇよ!!」
篝は首をかしげた。
だが、レイモンドは確信した。
(……この家族となら、どんな政治戦でも勝てる)
そして婚約式は、
無事に──いや、物理的に強制的に──
幕を閉じたのだった。




