敵幹部は基本的にローテーション制だよねって話。
「へー、ユピテルサマも結局あの銀の魔導士にボッコボコにされて帰ってきたんだ、なっさけなーい」
「貴方はユノどころか他の4人にすら惨敗したと聞きましたが」
「げっ……ほ、本気出してなかっただけよ!油断さえしてなきゃあんな奴ら……!」
今日も会議室は2人きり、他の5人はオリンピアに回っているから当然ではあるが相変わらずアポロの相手は面倒くさい、常に癇癪を起こしているようなもので対応がとにかく雑になる。
「なら次から手は抜かない事です……まあしばらく貴方はオリンピアの方に回されると思いますが」
「はあ!?なんですぐリベンジさせてくれないのさ!?」
「2回も無策で負けた以上対抗手段を用意しなければ失敗すると分かりきっている任務には行かせません、少なくとも私ならそうします」
「それならあんたもそうじゃないの!?」
「貴方はディーデバイスだから代替が効きますがユノ相手には同じカオスデバイスを持つ私が居なければ話になりません。それと先日のあれは戦力評価でしかなく、得られた結果から対策を練っている所です。これで説明は充分でしょうか?」
「チッ……さっすが1つしかないカオスデバイスの適合者サマな事で。特別な人間は違うなぁ」
……何故上層部はこんな性格に問題しかない者を適合者にしたのだろうか、疑問しか湧かない。最適化した上で適合率が高い人間が限られるのはわかるが……
「それじゃあ私は大人しくオリンピアに行ってますよーっと。ユピテルサマも次は失敗しないようにね」
「……はあぁ」
結局最後まで悪態を吐きながらアポロは会議室を出て行った。後に残るのは私のみ。ようやく彼女……ユノの対策を考える事ができる。
ひとまず時間結界の解除は論外、先に時空加速を使用して圧倒的な優位を得る事ができたのは確かだがほんの一瞬隙を晒しただけで巻き返された。あれの使い方はあちらの方が数倍慣れている……彼女の対策のためだけにあれを用いた理由がよく分かった。
「となると……」
理想は3人の魔導士で数的有利をとって制圧すること。だがあの4人と合流されるのを防ぐために此方も1人足止めに回す必要がある、そしてオリンピアに割く人員も減らせないため……連れて行けて2人が限界。
「……問題は、誰を連れて行くか」
アポロは2度失敗した上で反省、改善の素振りもないため論外。バッカスはオリンピア侵攻の総指揮を取っているため戦力を借りる時に連絡する事くらいしかできない。よって残り4人に絞られる。
「……あの4人相手にはウルカヌスを当てましょう。少なくとも閃熱連打しか脳のないアポロと違って彼女は武器のエキスパート。油断して負けるような事はない」
ついでに言えば兵器開発の同僚でもある。女好きと集中しすぎると周りが見えなくなるのがたまに傷だがアポロの何百倍も信用できる事は確か、正直適任という他ないだろう。
「そして此方は……メルクリウスがいいか」
彼女は隠密戦のエキスパート、奇襲に限って言えば右に出る者は居ない。ユノ相手に不意打ちは限りなく有効な手段である筈だ。確認した限りでは戦闘記録もない事だし……上手くいけば。
「……などと思ってしまうのは願望なのでしょうね」
何せユノは今の彼女より遥かに強かった先代のアポロ、そしてディアナの2人を相手にして勝ったのだ。これだけ考えて戦力を配置した所で上手く行くかどうかは分からず……また敗北を喫する可能性は充分ある。
「それでも、やらなければならないのです」
オリンピアの侵攻が完了しなければこの世界、ケイオスは確実な滅びを迎える。奪われたディーデバイスを回収するため、そしてこの世界のために。
私の全てを使ってでも貴方を倒します、ユノ。
「……此処までゲートが開かないと何か勘繰ってしまいそうね、いつぞやの時みたいな大規模侵攻でもしてきそうな」
『以前襲来したバッカスのような事が起きなければいいが』
「あれはただひたすら面倒だったわ……」
ついにゲートが開かない日が連続1週間を迎えた、めでたいと言いたい所だが……何かとんでもない事が控えているような気がして素直に喜べない。
逆にいつゲートが開くか分からない以上気楽に遊びに行くこともできず結局こうしていつもの店でコーヒーを飲んでいるのが現状である。最近来すぎていつも頼んでるブレンドが何も言わずとも出てくるようになってしまった。
『ただ確実に言える事はこれからの戦いは確実にタルタロス側の魔導士が参戦してくるという事。君と彼女達の両方にな』
「そうね、こっちはなんとかなると思うけど……問題はあの子達」
『少なくともアポロは撃破したようだが?』
「あんな馬鹿の一つ覚えしか使わない相手三葉ちゃん1人でも倒せるでしょ……他がそう上手く行くとは思えないわ」
特にマルス。あれは適合者が変わっていないのであれば今の彼女達には荷が重すぎる相手だ、私だってあの狂戦士2度と相手したくないし。
『ひとまず当面の問題は対ユピテルだ。通用しなかった以上次からはまた時間結界を展開してくるだろう、時空加速は使えない前提でプランを組む』
「ええ、まあそれだけなら問題ないでしょうけど……」
『1人で敗北を喫した以上前のように2人同時で仕掛けてくる可能性が高い、実に3人もの魔導士が此方に来てしまう計算だ』
「面倒ね……ほんっと」
数の暴力というのはシンプルであるが故に厄介だ、搦手なら対策は容易だが人数を増やされるというのはそれだけで使うリソースを尋常じゃないまでに増やされる。アポロとディアナを相手にした時は1度普通に負けかけたし今度の相手は同世代のユピテル、過去1番に苦戦する事が予想される。
『バッカスの時のような大量の機獣であればまだマシなのだがな』
「それはそれとして面倒だからあれも勘弁願うわ。連鎖爆発で街が焦土になりかけたじゃない」
『二重の意味で面倒だったな。あれは』
あれは……なんだろう、負ける気配は微塵もなかったけど本当にただただ面倒だった、機獣を「時間稼ぎ用の爆弾」なんて使い方してくるのはあいつくらいだろう。戦闘よりも事後処理に手を焼かれたし案外ああいう戦法の方が消耗させられるのかもしれない、あっちにもそんなリソースは早々ないと思うけど……
「……後、2人がかりで来られるとユピテルを確保するのも難しいわね」
『先にもう1人を対処しておかなければユピテルを連れて帰られてしまう、考える事が非常に多くなるな』
「誰のせいだと思ってるのよ……まあやるけども」
テルスがお願いなんてしてきたのはこの5年間で初めてだ。今まで頼ってばかりだし応えてやらなければ不義理だろう。
『面倒、とは言わないのだな』
「確かに面倒ではあるわ、けど……」
……もしかして三葉ちゃんのあれ私由来だったりするか?いや流石にないでしょ。
「諦めた方が余計面倒じゃない、だったらより楽な面倒を選ぶまでよ」
『君は相変わらず素直じゃないな』
「だまらっしゃい、あんたは大人しくプランを考えておけばいいのよ……すみません、お勘定」
世の中面倒事なんてありふれてる、人生楽に生きるコツはその中から如何にして楽な面倒を選び続けるか。
だから私は「ニチアサ展開に巻き込まれる」面倒ではなく「やることやってとっとと引退する」面倒を選んだのだ。テルスには申し訳ないけどユピテルを助けたら本当に引退するからね私?
「……ん」
『感じたか』
「久しぶりね、私を巻き込まずにゲートが開きそうなの」
勘定を済ませ退店してすぐ頭に走る些細な違和感。何処かでゲートが開きかけているそれだ。
『休暇は1週間で終了のようだ、休めたか?』
「2週間は欲しかった所ね」
『それだけ軽口が叩けるなら休めたようだな……行こう、弍乃』
「ええ、誘いに乗ってあげましょうか」
私を巻き込んでゲートを開かないのは間違いなくわざとだ。このまま放置すれば三葉ちゃんたちが魔導士3人に襲撃される事は自明の理、それは確実な負けイベだ。止めたければさっさとこい、随分と挑発されたものである。
「呪文詠唱、転移」
念のため人の気配がない裏路地に移動してから転移を詠唱、結界が展開されきる前に内部へ突入する。展開されてしまえば外部から侵入する頃には全部終わってしまう、私をガンメタするだけに飽き足らず色々と急かされる実に面倒な兵器だ、本当に。
「……機獣はいない、と」
『それに展開された結界は2つ……狙い撃ちだな、準備はいいか?』
「でしょうね…… 当然、変身詠唱、ユノ」
この前みたいにつらつらと能書きを垂れてくる相手とは思えない、奇襲を警戒して到着と同時に着身を行う。
「呪文詠唱、錬成」
今回の戦場はビル街、やっぱり鎌では戦いにくいため錬成で手にするのはリーチとコンパクトさを両立した蛇腹剣……そこまで私をメタってくるか普通?
「……仕掛けてこない?」
『機を伺っているのだろう、逆に此方から仕掛ける事も』
「いえ、その必要はないわ。私の予想が正しければ……」
「強化詠唱」
「やっぱりね、二重詠唱っ!」
「歪曲」
「浮遊、跳躍!」
急に捻じ曲がり崩壊するビルが私目掛けて降り注ぐ。まあこうなるよなと予想して正解、跳躍で倒れゆくビルの合間を縫って空へと跳び、そのまま浮遊で滞空……これ修復クッソ面倒なんだけど、許すまじユピテル。
「やはり避けますか」
「無駄だと分かってるのならやめてくれないかしら、修復がひたすら面倒なのよこれ」
「勝った後の想定ですか、大した自信家ですね貴方は」
わざわざあれだけのビルを倒壊させた以上自分も巻き込まれかねない地上には居ないと予想して正解だった。私と同じように浮遊で浮いている彼女は前と同じく槍を構え此方を見据えている。
「自信家?冗談は程々にしてちょうだい、私はただ面倒が嫌いなだけよ」
「そうですか、ならその面倒から解放してあげましょう」
「余計なお世話よ…… 強化詠唱!」
そして周囲にユピテル以外の魔導士は居ない……となれば。
「大人しくカオスデバイスを返してもらえれば此方も「無駄話に付き合う気はないのよ、放電!」っ……!」
自身を中心とした大規模電撃、放電。勿論ユピテルには当たる筈もない、だが私の予想が正しければ……
「っ……驚いた。まさか気づかれてたとは」
「別に気配を感じた訳でもないわ……だっておかしいもの。時空加速を使った上で負けた彼女が何の勝算もなく1人で来るとは思えない」
「……やはり貴方は侮れない」
ビンゴ、潜伏で姿を隠していたであろうもう1人の魔導士が放電から慌てて退避していく……あれはテルスに見せてもらった資料にあったな、メルクリウスか。
「卑怯狡猾大いに結構、けれども負ける気なんて一切ないわ……かかってきなさい」
「ご冗談を……挑戦者はそちらです、行きますよメルクリウス!」
「分かってるって……ユピテルばっかに気を取られてると痛い目見るよ!」
「痛い目見るのはどちらかしら、ねぇ!」
蛇腹剣を鞭モードに変形。すぐさま刺突を繰り出してくるユピテルの槍に絡め、思いっきり引っ張る。
「っ!」
「良い判断ね、けど命取りよ!」
「んなっ、そうくるっ!?」
そうして彼女が手放した槍を回収し、そのままメルクリウスの予測進路に投擲。2vs1には慣れている、そう上手く行くと思うなよ……!
『ユノ、もう一つの結界でもディーデバイス反応を確認した』
「ならタイムリミットはあの子達がこっちに来るまでね……それまでにカタを付ける!」
人数不利になれば彼女達は逃げ出すだろう……その前にメルクリウスだけでも、デバイスを破壊する!
「ふはははは!良い、良いぞ!これ程までに武器使いとしての才を持つ魔導士は初めて見た!」
「こいつ……アポロとはっ、全然違う……!」
アポロを倒してから少しして、また新しい魔導士が現れた。よりにもよって私1人の時に。
時間結界は既に展開されてしまってるから皆の助けは望めない……なんとか、持ち堪えなきゃいけない。
「あんな小娘と一緒にされては困るな!それは貴様も同じだろうミネルヴァ!」
「人の世界を滅茶苦茶にしてる人達と一緒になんか……されたくないっ!」
私の大剣と目の前の少し大人びた魔導士……ウルカヌスの槌による鍔迫り合いはそろそろ1分にもなりそうで、それだけでアポロとは強さが全然違う事を理解してしまった。皆が居ない私に……どうにかできるのかな?
「それは道理だな、しかし我々とて好きでやっているのではない!」
「えっ……」
「隙ありだ、ミネルヴァ!」
「あっ、ぐうぅ……!?」
……いけない、ウルカヌスの言葉を聞いて少し力が抜けてしまった。思いっきり吹き飛ばされた身体を地面に突き刺した大剣でどうにか支える。
「迷ったな、私の言葉の真意が気になるかミネルヴァ?」
「……別にっ、話すことなんかないっ!」
……嘘だ、本当は気になってしまっている。何故、タルタロスがこんな事をするのか。
「……嘘だなその目は。まあ教えてやらん事もないが」
「どうせタダで教える気なんかないでしょ……!」
口車に乗るつもりなんかない、私が折れたら、皆を裏切ってしまう。
「そうとも、提示する条件はただ一つ……」
ほらやっぱり、一体どんな……
「私の妻になれ、ミネルヴァ!」
「……は?」
……なんて?




