ミステリアスキャラの本音は案外大した事ないよねって話。
「……はあぁ」
『ため息を吐くと幸せが逃げると言われている、現実を直視するんだな弍乃』
「したくないわ……どうしてこうなった……」
ユピテルを撤退させてから数日。送り出した魔導士が両方ボロカスで帰った事もあるのかまた少しの間ゲートは開いていない。
故にこうしていつもの店でコーヒーを飲む時間的余裕もあるのだが……残念な事に今の私は味わう事に没頭できる程心の余裕という物がなかった。それは一重に……
『此処まで来てしまったのだから諦めろ、彼女達が君の性根を知っている以上態度と行動で突き放すのは無理だ』
「どうして……どうしてこうなるのよ……」
『こればかりは仕方のない事だ。1人ならともかく2人も君に助けられた少女があちら側に居るのだからな、幾ら冷たい態度を取っても善性は理解されている』
「偶然にしては酷すぎる……」
これまでの「中盤くらいで退場しそうなイキリムーブして好感度下げつつ安全に引退しよう」ルートが完全に崩壊してしまったからである、ざけんな。
『そもそもタルタロスがディーデバイスの回収を目的としているのなら1番の障害は君だぞ?関わらないというのは無理がある』
「分かってはいるけども……」
……まあその理由というのはテルスと話した通りである。この事実を知ったのはユピテル戦直後の事だ。
「……呆れた、あれだけ言ったのにまだ魔導士やめてなかったの貴方達?またあいつに叩きのめされて泣きべそかきたいのかしら?」
爆発の感覚は直撃した物ではなかった、残念な事に転移が間に合ってしまったのだろう。此処でカオスデバイスを破壊できていれば今後が一気に楽になったのだが……できなかった物は仕方がない。とりあえず時空加速を解除してあの子達に皮肉を吐きに行った、使ったのは3年くらいぶりだが身体は使い方をちゃんと覚えているものである。
「ボク達の手助けがなかったら勝てなかった癖にカッコつけられたくないね」
「それにあの子ならちゃんと倒してきたし」
「随分と吠えたわね、タルタロスの魔導士が彼女1人な訳ないのに。あと隙を作ってくれたのは感謝してるけど手助けなしでも負けはしなかった、カッコつけられたくないのはこっちの方」
ちゃんとこの数日で彼女達はアポロを倒せるようにはなってくれたらしい、この調子なら主人公らしくどんどん成長していってくれるだろう。それこそユピテルもこの子達だけで倒せるくらいには。
「ディアナ達が善意で手助けしてくれたってのになんて態度だ!?やっぱり助けるべきじゃなかったんじゃないかなぁこの魔導士!?」
「どうどうファウヌス……大丈夫です、分かってますから」
「何をよ」
「貴方はその……私達をこれ以上戦わせたくないって思ってるんですよね」
「はあ?」
いや寧ろその逆なんだけど、バリッバリ戦わせようとしてるんだけど。一体何がどうしてそうな
「思い出しましたから、貴方に助けられた時の記憶。確かにこんな事、全部忘れて生きていく方が全然気楽ですもん」
……えっ。
「……心当たりがないわね、別の誰かか夢と間違えてるんじゃないかしら」
「ミネルヴァの記憶違いではありませんよ?私だってつい先日貴方に危ない所を助けていただきましたから」
「それも心当たりがないのだけど。本当に間違えてないかしら?」
「あはは……そりゃあ着身してますし分かりませんよね、ウェヌス」
「はいっ!」
ちょっと待ってなにそれ聞いてない。心の中でだいぶ動揺している私を尻目に目の前の2人が変身解除した、まずい、この流れは、非常に。
「私、狐梟三葉って言います。助けてもらったのは4年くらい前の事なので……多分五葵ちゃんの方が頭に残ってるとは思いますけど」
やだこの子、主人公枠なのに元気いっぱい系じゃなくてめちゃくちゃ礼儀正しい。
「泡瀬五葵です……つい先日、猿型の機獣から助けてもらったことはよく覚えておりますよ、貴方も覚えているとは思うのですが……」
……えーっと、えー……あっ、ちょうど三葉ちゃんが魔導士として覚醒したあの日の?え、そんな偶然あるの?ちょっと待って!?
「……記憶にないわね、此処最近機獣の数が多すぎて一々結界の中に誰が居たかとか覚えてないわ」
「まあ……そうですよね……ずっと戦われてますものね……」
なるだけ動揺は顔に出さず平常心、ちょっとしょぼくれた顔をさせてしまったのは申し訳ないがこれもこれ以上関わりたくないためである。いやほんとなんでこうもニチアサ展開に引き摺り込もうとしてくるんだこの世界は。
「……本当にずっと、戦い続けてきてたんですね。私も最初思い出した時は夢かと思ってましたもん、怖い所をヒーローに助けてもらったなんて一生の思い出ですから忘れるほどの事だったのなら夢だったんじゃないかなぁって」
「そのまま夢だと思っていればよかったのよ、ヒーローごっこだけしてたかったのならね」
「貴方にまた出会って夢じゃないのは確信しましたし……今まではそうだったかもしれませんけどごっこ遊びをしているつもりもありません。ファウヌスがどうして逃げる事しかできなかったのか、何故貴方が助けた人達の記憶を消しているのか……その理由もしっかり理解しました」
「理解しているのならまた忘れてもらった方が助かるのだけど?」
「理解したからこそ逃げるつもりはないです、1人で戦うことの孤独は分かりませんけど……こんな事、忘れたままで気楽になんか生きていけません!」
やばいこの子普通にレスバもメンタルも強い。こういう系の主人公ってメンタルにちょこちょこ脆い所あるのが普通じゃないの?中盤くらいで乗り越えるレベルのやつがさぁ……
「……何を言っても無駄みたい、それならせめて私には関わろうとしないで頂戴。面倒なのよ、未熟な魔導士ってハンデを抱えて戦うの」
方針変更、戦うのやめろから邪魔だから関わってくれるな。様子を見るにアポロはギリギリのギリギリで辛うじて撃破したのだろう、それならこれは結構効くはずだ。
「そうですね……確かに今は無理です。4人がかりで1人に苦戦しちゃうし、貴方と違ってゲートも1つしか対処できてません」
「分かっているのなら結構。そもそも「でも!」……何よ」
「命の恩人をこれ以上1人で戦わせるなんてできません!もっと強くなって……皆で貴方の隣に立って見せます!きっと!」
いや隣に立たなくて結構です君達が強くなったらそのまま引退させてください頼むから本当に。
「あーあー、三葉のいつもの始まっちゃった」
「「でも!」って言い出したら最後。諦めなよセンパイ?ボクもそれで折れたんだから」
「こうなった三葉さんは梃子でも動きませんからね、ふふふ」
主人公特有の光メンタルちょっと強すぎない?此処まで言ったら普通少しは妥協するよ?私もしかしてニチアサ主人公舐めてた?
「……無理な話よ。貴方達とはデバイスのスペックも経験も違う、背伸びしたって届かない。だから諦めなさい」
「いいえ諦めません!諦めなかった勇気を認めてくれたのは貴方ですから!」
おい何やってんだ過去の私。
「……そう、なら何があっても後悔しないことね。タルタロスと戦う道を選ぶというのはそういうこと」
「後悔はするかもしれませんけど……歩みを止める事だけはしません、絶対に!」
レスバ敗北の負け惜しみフェイズも完敗しかけてるんだけど!?光メンタルが過ぎるよこの子!おのれクソ妖精こんな逸材を発掘しやがって!
「その言葉に後悔しない事ね…… 呪文詠唱「あ、待ってください!」……今度は何?」
嫌な予感しか、しない。
「……貴方の名前、教えてくれませんか。命の恩人の名を知らないのは……ちょっと、困ります」
「……」
数秒、思案。まあ別に魔導士としての名前くらいならいいかという結論に至る。此処まで啖呵切られた以上関わりたくないとはいえそれくらいはしないと不義理だろう。
「ユノ」
「へ?」
「魔導士ユノ、別に覚えなくていいわ」
「はい、忘れませんよ!」
「……はぁ、転移」
今現在のプランが完全に崩壊したのを確信。思わず溜息を吐きながら私は彼女達と別れたのであった。
「これからどうしようかしらねぇ……何事もなく引退するには」
『諦めろ、現状タルタロスの侵攻を完全に食い止めるか君がカオスデバイスを失うしか引退する手段はない』
「どうっしてよぉ……」
『慣れない悪役態度を取るからだ、最初から間違っていたという訳だな』
「そうバッサリ言い切る所大嫌いよ。ユピテルを取り逃した以上彼女をどうにかするまで貴方を手放す訳にもいかないし」
『……ユピテル、か』
回想終わり、やけ飲みのコーヒーをお代わりしながらテルスと今後について話し合う。無論そのままだと非常に怪しまれるのでイヤホンを付けて電話中を装っている、こういう所気を付けておかないと生身もバレるからな、ニチアサ世界っていうのはそういう所だ。
「……何か思う所があるようね」
『当然だ、彼女は私を君と引き合わせてくれた。お陰で我々はこうして魔導士としてタルタロスの侵攻を食い止める事ができている』
「でもその彼女は敵の手に落ちてしまった……ああ、助け出したいのね、貴方は」
『当然だ、人に奉仕し、恩に報いるのは人工知能の本懐。どうにかして記憶改竄を解き、本来の彼女を取り戻したいというのはおかしいか?』
「いいえ?恩を返したいなんて普通の事じゃない、それに悪い事でもない。私が否定する道理も協力しない道理もないわ」
『そういう所だぞ君は……』
「何がかしら」
『はあぁ……まあいい、となれば必要になるのは救出プランだ』
話題は一旦私の引退からユピテル……シルウィアの救出へ。記憶改竄をどうにか……前にやったような……
『まずはカオスデバイスを破壊する事が先決だ。魔導士は容易に精神干渉できないようデバイスからプロテクトが掛けられている、それは君も同様だ』
「そうだったの?」
『ああ、故に助けるためならまずデバイスを破壊しなければならない。運が良ければ自力で記憶改竄をどうにかできるかもしれないがそれはあまりにも望み薄だ』
「でしょうね、奇跡は縋る物じゃなくて引き寄せるものよ」
『そしてデバイスの破壊は第一段階に過ぎない。次に必要なのは精神への干渉、これは共鳴と潜航の二重詠唱を使う。直接精神に干渉し本来の記憶を引き摺り出す』
「それ危なくはないの?」
『場合によっては悪影響が使用者に降りかかるが……私という制御AIが居る以上その万が一は起こらない』
「頼もしい事ね」
珍しい、あのテルスが皮肉もなく真剣に彼女を救う方法を考えている。やっぱり恩人に対する態度はそういうものなんだろうか。
『うまくいけば此処で正常に戻るが……ダメだった場合は修復などを試してみるのも手だ。少なくとも死ぬという事は無いはずだ』
「まあテルスのプランはいつも間違いないし信頼してるけども」
『けども、なんだ?』
「貴方は私が彼女に負けるわけが無いって信じてるのね、前提条件それじゃないの」
『当然だ、私の適合者だぞ?無理矢理戦わされているだけの魔導士に遅れを取るはずがない、それは先日の戦闘で実証された』
「そうね……」
やっぱこいつ私を過信しすぎてない?いつか取り返しの付かない事になりそうで怖いんだけど。
「ま、そういう事ならもうちょっとプランを詰めていきましょう。この前みたいに油断してたら逃げられるわ」
『そうしよう、まず……』
よし決めた。ユピテルを助けたら敵にカオスデバイス使いは多分居なくなる。そうなったら私が必要になる相手は不在、つまり安心して引退できるって訳。
見てろよニチアサ世界……これ以上巻き込まれるつもりは、ない!




