初登場補正は案外すぐなくなるものって話。
「呪文詠唱、錬成」
「二重詠唱、双刃、変形」
スペックが同じなら求められるのは手数。大鎌をショートソードに変形させ複製、それが完了するのを待たずに大きく足を踏み込む。どうせ攻撃に移る頃には完成しているのだから無駄な隙を晒す必要もない。
「シイッ!」
「戦力評価を開始します」
「っ……!」
対するシルウィア……ユピテルが生成したのは黄金の槍、不意打ちの刃はさも当然の如く受け止められた。
「反応速度、想定内」
「三重詠唱、変形、追尾、分裂」
反応速度は同等、なら手数と不意打ちで制する。槍を蹴って距離を取りながら剣をブーメラン状に再変形し即座に投擲、分裂で飛びながら数を増やしていくそれは軌道こそ皆違えど追尾で確実にユピテルへと向かう。
「では、こちらからです」
「呪文詠唱、錬成」
槍と鎌ではリーチが被ると判断し次に生成するのは籠手。インファイトに持ち込めばこちらの物、不規則に飛んでくるブーメランへの対処を強いてこっちのペースに「強化二重詠唱」っ!?
「雷霆、拡散」
「二重詠唱、障壁、水流」
どうもあちらは全部撃ち落として強引に制圧する気のようだ、けど私本体にはこれがある以上直撃はない。
「こっちへの対処が疎かになっていないかしら!」
「っ……なるほど、勝つためならあらゆる策を……」
次々とブーメランを撃ち落としていく豪雷に構わず再接近、今度の一撃も槍で受け止められたが反応速度が一瞬鈍ったのを見逃さない……間違いない、彼女はある程度の戦闘経験はあるけど近接戦と呪文の同時行使に慣れていない。
「ええ、綺麗事幾ら並べたって勝たなきゃ意味ないし面倒なのよ!二重詠唱、磁場、溶解っ!」
「何を……っ!?」
溶解で装着している籠手を分解し地面へ投下。磁場で強力な磁力を得たそれはユピテルの持つ槍を勢いよく引きつける、わざわざ普通に殴ればいいのに籠手なんて生成したのはこういう事だ。
「シイッ!」
「面倒な……!」
こうなれば待っているのは武器など使い物にならないインファイト、ユピテルに呪文を使わせる暇も与えずこのまま……崩す!
「何が、想定内だったのかしらねぇ!」
「……評価を訂正。やはり貴方は最も警戒すべき敵……!」
とはいえ肉弾戦の反応速度は互角、《《あれ》》が使えれば圧倒できるが生憎時間結界によって封じられている以上己の反射神経に全てを託すしかない……いや、同じカオスデバイスなら《《あれ》》はユピテルも使えるか。
「呪文詠唱、残像!」
お互いにお互いの拳と蹴りを受け止めながら残像を詠唱、視覚情報を増やす事で防御の択を強制的に広げさせる。近接戦で最も大事なのは如何にして相手の行動を制限するか、それが理解できていない限りそっちに勝ち目はないぞユピテル!
「っ、呪文詠」
「遅い!」
「ルっ……!」
コンプラ違反上等で顔面に殴りかかり呪文詠唱をキャンセル、自分の間合いに持ち込めば案外こんなものである。負ける道理がない?馬鹿を言え、結局最終的に物を言うのはスペックではなく経験差だ。
「最初の威勢は何処に行ったのかしらぁ!」
「ガッ……」
とはいえ蹴り飛ばして距離を作ってしまえばすぐに立て直される。離さないよう踵落としで地面とキスさせそのままフィニッシュムーブ。
『……!?ユノ!』
「今は後にして!呪文詠唱、引力!」
「ぐ……」
引力でさっき封じた槍を引き寄せ手に。このまま彼女のデバイスを……
『時間結界が解除されている!』
「はぁ!?」
『つまりは……』
破壊しようとして振り下ろした槍は。
『あれが来る!早く詠唱を!』
「時空加速……」
間一髪で避けられて。
「っ、時空加「八倍速!」セルっ……!」
次の瞬間目に映り、感じたのは。
「前提を崩すのは、流石に気付かなかったようですね……!」
文字通り|一瞬》《・・》で吹き飛ばされる身体と、残像しか残らないユピテルの姿だった。
……あの日あの人が残してくれたヒント。それを元に必死であの子……アポロの対策を練った。
「やあやあ先日ぶりー、んじゃ今日こそ返してもらうよ、ディーデバイス」
「この前ボッコボコにされてた癖によく言うよ」
「黙れ、あの時と違って今日はあいつは来ない、絶対に……少なくともお前らに負ける要素は何もない!」
「あら、私達が何の対策もせず怠惰に過ごしてたとでも思います?」
「どう対策を練ったとしても所詮はただの人間、最適化もしてないのに勝てる訳ないでしょうが!」
「いいや、勝つよ」
数日ぶりに現れたあの子は相変わらず余裕綽々な様子だったけど……
「あれだけ後押しされて結局何もできないままとか、あの人に笑われちゃうからね……行くよ皆!」
「オッケー!」
「打ち合わせ通りに行きましょう!」
「私達の連携、見せよう!」
「「「「変身詠唱」」」」
対策は全部あの人が教えてくれた。
「呪文詠唱111、閃熱!」
「来た!」
「合わせてケレス!付与詠唱026、水流っ!」
「分かってる! 呪文詠唱009、障壁!」
「……は?」
私たちはあの人と違って1人じゃ呪文を合わせることが出来ない、だからこうやって協力する。
「行って2人とも!」
「うん!ウェヌス先お願い!」
「分かりました!」
「っ、閃熱を防いだくらいで……粋がるなよぉ!」
真似事なんてできやしないのはわかってる、あの人は強い、物凄く。すぐにあんな強さを持てるわけじゃないってのも当然理解してる。
「此処まで近づけば矢は撃てないよねぇ!」
「馬鹿の一つ覚えだろうがぁ!」
「その馬鹿の一つ覚えに翻弄されてるのはどちらでしょうか!」
でも、私達は4人で1つのチーム。1人で全部やろうとするんじゃない、できない事はできる誰かに任せればいい。気づかせてくれたのはあの人だ。
「ふざけるな……話が違う……!」
「決めちゃってミネルヴァ!」
「仰せのままに!必殺詠唱っ!」
バラバラじゃ通らなかった刃も、束ねれば何でも穿てる。
「アテナイアー!」
「こんな所で、終われるかぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ブレイジングっ!」
皆が作ってくれた道を。
「ぐ……うぅ……!」
「やっ……た……!」
こうして、駆け抜ければいい。
「やったね皆!後は彼女のディーデバイスを……」
「次は、次はこうは、行かない……」
「あっ待て!?逃げる気だ!」
「じゃあねぇ……!」
「っ、間に合わない……!」
……アポロには逃げられちゃったけど、確実に成長してる筈だ、私たち。
「つ、疲れたぁ……」
「残りのゲートは……あの人が担当してくれているのでしょうか?」
「多分そうでしょ……って言っても結界内部は時間経過しないしボク達感覚だと一瞬で終わるけどさ」
「皆お疲れ……」
とはいえやっぱり強かった。文字通り全部出し切って掴んだ勝利だ、これが後何回……
「!?」
「ファウヌスさん?」
「な、なんだこれ……凄まじい規模の呪文反応だ!」
「えっ」
「場所はっ!?」
「郊外の平原!ごめん皆、もう一働きお願いできる!?」
……多分あの人なんだろう、何と戦っているのかは分からないけど。
「相変わらず人使い荒いなぁファウヌスは……いいよ」
「ミネルヴァがそう言うなら私も付き合わない訳にはいかないね」
「時間外労働はんたぁい……でもまぁ友達に付き合うからいいやぁ……」
「お荷物になるかもしれませんが……」
「……ありがとう、皆!」
最悪指を咥えて見ているだけになるかもしれない。それでも……この前よりは力になれる筈。
「行くよ、転移!」
そう考えて、私たちはあの人がいるであろう場所に飛んだ。
「着いた!って……」
「あれは……」
そこに居たのは……
「嘘、でしょ?」
「あの人が……」
防戦一方の、あの人だった。
『行動パターン更新!』
「っ……!」
時空加速、空間内の時間流を歪ませ自らの行動速度を爆発的に上昇させるカオスデバイスの奥の手。
そもそもこの世界で時間結界が用いられるようになったのは過去に時空加速で私が大暴れしたせいだ。停止した時間の中ではあれは使用できない。別に逃げ場を封じるとかそういう意味はなく完全に私を封殺するための機構だった訳である、そういうレベルの代物だ。
「今は六……いや、五倍速っ!」
それを敵に回すとどうなるか。
「まだ耐えますかっ!」
「っ……!」
結果がこの受けに回るしかない状況だ、此方も時空加速は使えるが隙間のない攻めがそれを許さない。2秒でも時間があれば詠唱できるがそれを理解しているからこそこの怒涛の連撃は止まない。テルスに全リソースを集中した行動予測を送ってもらいそれでどうにか耐えているが……
「ジリ貧っ……!」
それでもいつか限界は来る。あちらも同じことではあるがこのままでは先に根を上げるのは此方だ、何か手は……
「ディアナお願いっ!」
「ええ!」
……え?
「ボクもやるよ!」
この声は……
「強化詠唱071、凍結!」
「 強化詠唱057、砕刃!」
「っ……!?」
私の周囲が凍結し、地面から刃が飛ぶ。加速中とはいえそれを避けない訳にもいかないユピテルは一瞬、ほんの一瞬だが私から離れる……
……はあぁ、突き放したのになんで来るんだか。でも今だけはありがとう。
「時空加速!」
君達が作った一瞬が、状況を逆転させる。
「十倍速!」
ふわりと浮くような、奇妙な感覚。世界から自分だけ切り離されたような違和感、それを飲み込み、一気に駆け出す。
「しまっ……」
「同じ土俵に立てば……」
周囲が遅くなる、というよりは合成された背景を歩いているよう。襲いくる違和感に慣れながらユピテルとの距離を詰め、槍を構える。
「負ける道理がないのは、こっちよ!」
「っ……!」
初撃は同じ十倍速に合わせてきたユピテルに弾かれる、これは想定内。
「シイッ!」
「避けっ……!?」
続いて二撃目、今度は途中で十二倍速に変更し確実に突き上げる。
「つ、か、ま、え、たぁ!」
「ま、だ……!」
そのまま攻守逆転、速度をまた合わせてきたユピテルは私の槍捌きを間一髪で避け続ける。まあ悪くない判断だ、同じ速度に合わせれば実質使っていない状況と同じだし。
けれど……
「そう単純な事、しないのよっ!」
「わざとっ……!?」
途中で十倍速に戻し、十二倍速に合わせて身体を動かしていたユピテルの不意を付き一閃。思いっきり吹き飛ばす。
そう、ただの加速なら時空加速をわざわざタルタロスがガンメタするはずがない。これが真に恐ろしいのは一瞬で速度の切り替えができる事、即ち相手の読みを全て無意味にできる暴挙。
その分負担も大きいが……ユピテルを倒す程度なら持つ!
「終わりよ! 必殺詠唱っ!」
全身から紫色の稲妻が迸り、槍へと収束していく。
「っ…… 呪文詠唱!」
「偽神奥義……」
高速回転させて勢いを付けた槍は凄まじい光を放ち。
「転……」
「閃光終撃っ!」
投擲したそれは文字通り光速でユピテルの元へ向かい。
「……外さないわよ」
閃光と共に、大爆発を起こした。




